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覚醒編

4話 古き記憶

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 ある車の後を付けるように浮遊している少女がいる。


 それは、15cm程の人の形
裸であるがため、女性を模した生き物?だとわかるが
いや、それすらも定かではない。

 それは、その本人すら
自分の存在が何かなのさえ分からずにいる
そして、その答えを教えてくれる人物はいない
当たり前である、その存在は
この世界に来てから約10年間、誰にも認識されていない
それもその筈
人間のいるこの世界にあって
別の次元から、この親子を見ているのだから。

 誰とも会話することなく
誰とも意思疎通する事なく
10年間ただ見守っていたのだ
生きる為に、何も必要としない
肉体の有無すら分からない、その身体では
食べ物も、空気すら必要としない、その精神体の名は

【リトル・L・アンシャン】

 前の世界では、リルと呼ばれていた、ハーフエルフである。

 そして、リルは人間の認識できない
別の次元から、常に見守っていた
彼女の目視していた、赤いスポーツカーに乗る、この親子を
いやそうではない、紫音と呼ばれている
もうすぐ10歳を迎える男の子をである

 そうその男の子【三千風紫音】その前世は
リルの魂の恩人であり、リルの家族であり、リルの最愛の人物であった

【シオン】他ならない

だが、三千風紫音は前世での記憶は失われていた。


 神のイタズラか
世界の気まぐれか
前世のシオンの技の成す所か分からないが
シオンの魂に引きずられ、この世界に付いて来た、リルではあるが
今はこの世界の次元の狭間に、ハマっている状態であった
次元間の知識など、有りはしないリルにとって
すでに、自分は死に幽霊に近い存在だと認識していた。


「あぁ~~楽しそうなシオン様、笑い顔のなんと、可愛いことか
 あの笑顔を、いつか私に向けてほしい、いや、あってはならない事です
 シオン様に何があっても、私はただ、見守るだけと決めたはず・・・・」

 誰も聞いてない、ただの独り言である

 10年という長い月日
誰にも相手にされず、その存在すら認識されない
そう、最愛の相手が目の前に居るのに
自分の存在すら気づいてもらえないのだ
触れる事も温もりを感じることも出来ない
そんな状況、普通の人間(知的生命体)の精神では耐えられないであろう
どんな人間でも、精神が壊れるか、死を選ぶかであろう。

 大昔、ある戦争で逃げ出した兵隊が
10年に渡って無人島で1人で暮らしたという話がある
それは、助け出されるまで、戦争が続いていたと思っていたらしいが
これは、周りに誰もいない状態で孤独ではあるが
生きるために日々何かをしていたのだ
することさえあれば、人間耐えられるものである
事実、今も昔も、数年なら
誰にも遭わず、何も気にせず1人で生きている人間は実在する
だが、周りに人がいて、自分が認識されないと成ると話はちがってくるだろう。

 生きる為、何かをする事はなく
何をしても世界と愛する者に無視され続け
自分の瞳で見える手足では
何も掴める事はなく、何も感じない。

 それでも
リルは10年間変わらず、シオンを見守り続けている
そう、この世界に干渉できない
リルにとって、シオンが死ぬような事があっても
手助けが出来ない
そして、見守るしかできないのだから。

「シオン様も、もう10歳ですか・・・・・・
 生まれて10年ですか、シオン様にとって節目の時
 この世界では大丈夫でしょうか・・・・・・」

 またも独り言である
いや、リルにとって、聞く相手がいなくても
言葉が話せる事が
嬉しく楽しくで、ついつい独り言を口ずさんでしまうのである

「10年節目、そしてシオン様の死
 今シオン様が別の世界、並行世界にいってしまわれると
 私は、この世界に取り残されたまま・・・・・・・
 死ぬこともなく・・・・・・
 消滅することもなく・・・・・・
 シオン様のいない世界に・・・・・」

 何かが頬を伝い流れ落ちてゆく感覚だけが、リルの脳裏に焼きつけられる
だが・・・・・そこには物体は存在しない
それは脳に刻まれた涙の記憶である。

 それは、いつか来るであろう事柄
それを考えると、さすがのリルでさえ
心が壊れそうなるが
今はシオンの可愛らしい笑顔を見つめ心を引き締める。



そう・・・・・10年の節目の時


この世界に来る前


あの世界での最後の出来事を思い出す・・・・・・・。





 そこは、科学文明が、発達しなかった世界の1つ
科学より魔法が発達した魔法文明世界である
その膨大な魔力によって生み出される生物は魔物と呼ばれていた
そう、科学文明が発達した現代から見れば
そこは小説にあるファンタジーの世界である。


それは、シオンが、この世界(前世)で勇者と戦い敗れ、消滅した日の前日の夜

私(リル)と、マリアが、シオン様の部屋に呼ばれ時の事。


 窓際の1人がけのソファーに座るのは
自称もうすぐ20歳、身長は180cmほど
体格はやせてはいるが服の下には密度の濃い筋肉があり
男性にしては少し長めのサラサラの髪
その髪は見た目は黒色だが日光に当たれば深い紫色に反射する
そんな、切れ長の瞳をもつ美青年の人間、シオンである

そして、机を囲むように、ソファーに座るのは

 見た目は人間、自称20歳、身長は170cmほど、
ミニスカート、大きな胸を強調したメイド服を着込み
金髪より銀髪に近い長い髪、少しタレ目な美女、マリアである

そして机をはさんで、マリアの正面に座るのが

ハーフエルフにして年齢500歳以上、身長150cmほど
足元まであるロングスカート、長袖、肌の露出を極限まで抑えたメイド服を着込み
右目部分だけ穴があいた白い仮面を被る
薄紫の長い髪を携える、女性、リル


 3人がソファーに座ったところで、シオンが話し出す

シオン「わるいな、忙しいところ呼びだして」
リル『シオン様、おきずかいなく』
マリア「ほんとっす、シオンさん反省してくださいっすよ」
シ『マリア!』

リルは、仮面の奥から、マリアを睨みつける

マ「お嬢、冗談っすよ、冗談っす」
リ『・・・・最後まで、それで通しますか・・・』
マ「フッフッフ それでこそ、あたいってもんです」

ドヤ顔で、言い放つマリアであった

 リルは、喉が潰れており声が出ないが
その代わり範囲念話で会話をする
声が届く範囲に念話を送っているのだ
これにより、念話ができる人物であるなら、普通に会話ができるのだ

シ「ああ、そのほうが、マリアっぽい」

笑いながら、話すシオン

シ「でだ、まぁ、ちょこっと真面目な話をしようかと2人を呼んだんだ
 俺のキャラじゃないから、本当は嫌なんだけどな」

マ「そうっすよ、シオンさんは、適当でこそ、シオンさんなんすから」

シ「良い事いうな~さすがマリア」

マ「いやぁ~~~てれるっす」

リ『2人共・・・・・・』

シ「悪い悪い、マリアと話すと話が進まん」

マ「あたいっすか?あたいが悪いんすか!」

シ「全部マリアが悪いんだろ?」

マ「何をおっしゃいます、シオンさん、あたいが悪いのは頭だけっすよ」

シ「知ってる!」

そして、無駄に、シオンとマリアは大笑いする

パコーーーーーーーーン パコーーーーーーーーン

どこから出したのか、リルは2人の頭を、丸めた紙で叩いた

そして何事も無かったのように
真剣な表情でシオンが話し出す

シ「それでだ、勇者が明日此処に来る
 そして計画どうり、俺は勇者に殺されるわけだが
 この世の未練と言うかな、ちと照れるが・・・
 俺の生きてきた中で、本当の家族だと思ったのは、お前たち2人だけだ」

リ『・・・・・・』

マ「シオンさん、まだ20歳さいっしょ?
 あたいと逢って9年ほどっすよ」

シ「あぁ、だからこそな・・・・話しとこうと思ってな・・・・・・」

リルとマリアは、シオンの言おうとする事が、分からずにいた

シ「2人は、俺の知識や
 無限とも思える魔力を変だと思ったことはないか?」

リ『人間にしては、異常ですね』

マ「そうっすね
 才能だけでは説明つかないっすね
 生まれながらの魔王とかっすか?」

シ「その事を話そうかと思って、2人を呼んだわけだ
 これは、信じる信じないは、まぁどっちでも良いが
 今回の計画で2人は俺が勇者に負けて死なないと思っているだろう?
 そして、俺が死んだふりをして、2人の前から姿を消すとも思っているだろう?」

リ『はい、どこへ行こうと探し出します』

マ「あたいも、お嬢と一緒すね、すでに包囲網は敷いてるっすよ」

シ「だろうな、だからこそ、本当の事を言うつもりになったんだ」

二人の答えに、すこし笑い

シ「俺はな、だいたい10歳から20歳までの、10年間を、何十回と繰り返してるんだ」

シオンは2人を見て

シ「分からないって感じか、そうだな俺の一番古い記憶はな
 その時の俺は子供だった、たぶん10歳位だろう
 ある草原で目覚めたんだ、自分の名前も分からなかった
 たぶんその時記憶喪失になったんだと思う
 だがな、そこが繰り返しの起点となるんだ
 その時から約10年立つ度に、俺は死ぬ
 それは事故であったり、病気であったり、何者かに殺されたりとだ
 自殺したこともあったが、それでも関係なしに
 10歳の子供の姿で、あの草原で目覚めるわけだ
 まぁ、何十回と繰り返してると、もう生きる事がめんどくさくてな
 まぁ、それでも最初以降は記憶は全て残ってるわけだ 
 だから魔法の勉強をしたこともあるし、知識も蓄えたんだ
 っとここまで、大体わかったか?」

リ『・・・・・・』

マ「それは、ずっと同じ世界っすか?」

シ「あぁこの世界だ、この世界の無限とある平行世界をずっと繰り返してるんだ
 さっき何十回と言ったが、覚えて無いだけで百回を超えているかもしれない
 だけど、これは言っとく、お前たち2人と出会ったのは今回が初めてだ
 だからこそ、リル、マリア、2人はここにいるんだ
 そして今は掛け替えのない家族だと信じてる・・・・・・・・
 次の世界でも、お前達が、この世界と同じ様な目にあっていれば
 確実に、また助けるだろう、いや、助けに行く
 だが、きっと今の様な家族にはなれない、それは2人と同じ人物かもしれないが
 お前たちではないからな」

リ『・・・・・・』

マ「・・・・・・」

シ「おっと、ちょこっと、話がしみったれてきたか・・・
 そんな訳で俺は明日確実に死ぬ
 俺的には、また10歳に戻って、また1人で生きていくだけだが
 残ったお前達は、好きにするといい、計画どうり、ここに残ってもいいし
 ここを出て国を世界を見て回るものいい
 色々な出逢いの中、好きな奴ができたなら結婚してもいい
 ただな、自由に生きて幸せになって欲しいんだ
 その事が言いたかったんだ」

何も言わないマリア

リルは・・・思い悩む
シオン様の言ったことが本当なら、明日確実に・・・・
シオン様の居ない世界に私の生きる意味はあるのだろうか
そして、シオン様もマリアも、分かっているはずなのだ
私の寿命もそう長く無いことを
すでに回復魔法や、自身の治癒能力を持ってしても
ボロボロになった身体が保|(も)たない事を
いや、よく今まで保ったと感謝するべきか・・・
できれば死す時もシオン様と共に有りたい・・・・・・・



部屋の空気が重たくなり、聞こえるは、外で吹く風のおとだけであった


 
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