上 下
54 / 180
中等部・合宿編

46話 友との語らい・・・ほぼ蓮の悪口

しおりを挟む
 


 高峰は神経を張り巡らし腰の刀に右手をかけるが
それまでである、侵入者の男2人は警戒していた
女に関しては、そこまで警戒しては無かったが
警戒していた男に膝枕をしていたのだ
目の前に居たはずだったのに
居なくなった事すら、気づかなかった!

 何を見落とした? と・・・
この広い倉庫で、人が消えた?
この、ひょっとこ男の空間魔法?手品?
不審な気配はない、嫌な予感も無かったはずだ
この2人に、そんな素振りはない、そもそも、自分が気がつかない訳が無い
何かを見落としている、なんだ?何を見落とした?

「くく、そんなに警戒してどうしたんだ?
 てか?俺と戦った時より神経尖らしてなくね?
 うわ~~ショック!!」

「・・・・・・・・・・・・・」

シオンは言葉を投げかけるが
無視である、いや反応を読み取れない
基本、高峰は無口なのである、そして表情の変化もほぼ無いと言ってもいい
それは未だ剣を極めようとする者である高峰の生き方でもあった。

「無視かよ!
 まともに声きいてないぞ!
 会話する気、ゼロかよ!
 そんなんだから人間1人消えても気づかないんだよ」

「すまん」

「すまん!って一言かよ
 俺と会話する気ないから、スマン?
 いや、すまんから、黙ってろってか!
 どうせ、うるさいですよ~~  
 ケッ!、チョット達人クラスだからって
 威張ってんじゃないよ!
 オイ! お前!
 こんど剣術おしえやがれ!」

「わかった」

「わかった!って、いいかのよ!くそ
 俺の弱さを知ってビビるなよ!って
 今さっき完膚なきまでに負けたばっかりじゃないか!」

そんなシオンの1人つっこみに、レンが割って入る

蓮「おい侍!俺にも教えてくれ」

高「・・・・・・・・・わかった」

紫「って、いいんかい!
 そして、脳筋赤頭、嬉しそうに拳を握るな!」

蓮「・・・・・・・・・・」

紫「お前も無視かよ!」

蓮「さて、ユーリ毎回待ってもらって済まないな」

ユ「いえ・・・・もう慣れました・・・・」

蓮「なら、行くぞ」

 そう言って、左右に出現させた爪に魔力をこめ、前に踏み出すレン
それを見てユーリは、意思加速させ、2体の魔物を操る
そして2匹の魔物は、蓮を挟むように位置を移動する

 すでに、蓮は読み切っていた
魔物の動きではない、それを操るユーリの思考をだ

ユーリは、左右の10本の指を動かしながら
2匹の魔物を操って戦わせる
ユーリのやっている事は
蓮に言わせれば、戦闘ではない、戦術なのだ
そして、前衛職でない、ユーリは、2匹による戦術の引き出しが少ない
ユーリの戦術は、数十匹による
集団戦でこそ能力を発揮する。

 昔から、それを知っている、レンにとって
初めから、ユーリに操られている魔物は敵ではなかった
いや、そもそも
腕試しなど気取らず
多少でも本気を出し異世界の魔法を使えば
蓮に負けなど在りはしない。

 そして1匹の魔物が、レンに襲いかかる
2メートルもある腕を振り回し、魔力を込めた拳で力任せに殴りつけた
だが、レンは、魔物の懐に潜るように躱し右の3本の爪で、魔物の心臓を貫く
そして、その心臓を引きずり出し、ユーリに見えるように握り潰した。

ユーリは、額にシワを寄せ、怒ったように吐き捨てる

「だが、それでは止まりませんよ!」

そして、心臓を失くした魔物の腕が、レンを襲う
それを後ろに飛び距離を開けた

「おい、心臓ないのに、動くぞ!」

「言ったでしょ、人形だと、取り込んだ魔力がある限り動きますよ!」

 蓮を見下ろすように吐き捨てる
すでに何かを忘れているユーリ。

 蓮に襲いかかる魔物、その動きは、ユーリの苛立ちにより短調になる
蓮は、そんな攻撃を躱すたび、その腕を・その足を・頭までも
その左右にある、大きな爪で、握りつぶし、引きちぎり、粉砕する
先ほどまで、命を燃やし、禍々しいオーラを放っていた、それは
10秒ほどの時間が経った頃には
心臓と両手、右脚を失くした肉片と
頭と両手を失くした肉片となり、あたりをその血でそめた

「今度こそ終わりだ」

「ま・・・まだです・・・まだ・・」

 さすがに蓮も、ユーリのその言葉に呆れ
足元に転がっていた魔物の腕を掴み
ユーリに投げつけたのだ

 禁呪、カーズ・マリオネット
これほどの、上位操作魔法ともなると
発動中は高速移動や転移はできないのである
本来、操作魔法の術者は、敵の前に姿を晒して使う魔法ではない
魔法発動中の術者は無防備で
攻撃をされれば、魔法が解除される事もある。

 そう、蓮は呆れ
これ以上何を言っても、キリがないと最後の手段にでたのだった。

 だが、それはユーリに届く事もなく
空中で2つに切断され
その切断された切り口から
炎が吹き出し、その2つの肉塊を炎で包んだのだった。




 蓮が、魔物の腕を、投げた瞬間には
すでに高峰が動き出していたのだ
それに、蓮が気づいた時には
20メートル近くあった、ユーリとの距離を詰め
ユーリの正面に飛び上がっていた

高峰は、小さな声で

「居合・焔」

 飛んでくる、魔物の腕を居合で一刀両断すと
その切り口に炎が灯り肉塊を炎がつつみこんだ
高峰は、そのまま空中で、炎となった2つの塊を
地面に散乱した先ほどまで魔物だった肉片にむけて蹴り飛ばした
そして、その炎は、ぶつかった肉片も優しく炎につつみこんでいく

地面に着地した高峰が、ユーリに向き直り

「終わり」

「なんで、邪魔するんですか!もうすこしで、もうす・・・」

「終わりだ」

「・・・・・・・・・・・・・」

 ユーリは、魔法を停止させ
拗ねた用に頬を膨らまし、瞳に涙を浮かべた

「大体、なんで高峰が命令するんですか!
 そもそも、そもそもですね!・・・・・・・・」

 そして、周りを見渡し
だんだんと冷静さを取り戻し
そして、右手で、大きなテンガロハットを、深くかぶり直しながら

「・・・・・・・・まぁいいです・・・・」

 下を向き、右手でテンガロハットを抑え
顔を隠したまま、蓮に向かって話し出す

「雷帝・レイ
 邪魔が入りましたので、ここまでにしときましょう
 100歩譲って・・・
 い・ち・ま・ん・ぽ、譲って!
 今日は、そちらの勝ちとしときます
 そして、私達は、この場をしりぞきましょう
 レイ様、次会うときは、本気で相手してさしあげましょう
 せいぜい其れまでに腕を磨くことをおすすめします。」

「あぁ、今日は、ありがたく勝ちをもらっておくよ」

 それを聞くと、ユーリは空中で振り向き
言葉を失っている、高津に声をかける

「私達は、これで失礼します、契約分は働いたでしょうし
 先ほど、私が、旗色悪くなれば、手を引くと言ったにもかかわらず
 逃げようともしないなんて・・・・
 せっかく、貴方達が逃げる分の時間稼ぎも、いたしましたのに」

高津は、青い顔で答える

「なぜだ、なぜ負ける、それだけの力がありながら!」

「力の差は、そんなに関係ないのですよ
 1つには戦闘の相性もありますが
 最大の違いは、モチベーションの違いですね
 先程も言ったでしょう!
 子供を拉致するような組織をよく思ってないと
 知らなかったとは言え、それに手を貸した私は
 絶対勝たなけれならないと言う
 モチベーションはありません
 それに比べ、あちらの2人の男には
 死んででも成すという確固たる意思があります
 初めから勝てる訳がありません」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 その言葉に、高津も島崎も、返す言葉がない。

「そろそろ、十士族の関係者がここに来る頃でしょう
 素直に降伏することを、おすすめします
 歯向かわなければ殺される事もないでしょうから
 それでは失礼いたします」

 のこった組織の全員に聞こえるように言うと
地面に降りてきて、高峰と並び、ユーリは
右手で、頭の上のテンガロハットを押さえたまま、お辞儀をし
高峰は、腰を少し曲げ礼をする
そして、2人は、姿をけした

 紫音は、血だらけの身体を起こし
「ってか、マジで死ぬわ!」と・・・
愚痴をこぼし、ゆっくり立ち上がる

蓮は、紫音に振り向きもせず、2階へ続く階段へむかう


決着の時である



******



余談ではあるが

ユーリと高峰は姿を消し、空間転移で、ミカのいる砂浜へ移動した。

 ミカの様態が気になっていたユーリである
元気そうなミカを見て、やっと肩の荷がおりる
ベンチに座るミカの隣へ座り、波の音を聞きながら
久々に出逢った友と友は楽しく語らいを始める
そうして、時間は過ぎ空は明るくなってゆく
それを少し離れた所から静かに見守る、高峰であった。


そう、静かに見守る

ユーリが・・・・

シオンと言う男が、私を馬鹿にした、おちょくられた・・・とか
レンが、私の人形壊した・・・・・だとか
壊した、人形の腕を、私に投げつけたとか

事実であって、事実でない事を

ユーリは蓮の悪口を言い

ミカは、ユーリの話に乗る様に連の悪口を言う

そんな友の会話が続き

無口の高峰は、ただ見守るのだった


 
しおりを挟む

処理中です...