北畠の鬼神

小狐丸

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62 三河の問題点

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 永禄四年(1561年)二月

 黒影に跨り三河の各地を視察する。

『台地が多く、水の手が少ないな』
(ああ、米を作るのに向かぬ土地が多いな。三河が貧しい理由の一つだな)

 俺が黒影と念話で話していると、バサバサと羽音が聞こえ、肩に鴉が止まる。

(今日は鴉なのか翡翠)
『何時も大鷹じゃ芸がないだろう。それより、北に野盗の群れが居るぞ』
(人間を群れって言うなよ)
『主人よ、野盗なら群れと呼んで十分だろうよ』
『饕餮もそう思うだろう?』
『饕餮と呼ぶな。儂の名は黒影、それ以上でもそれ以下でもないわ』

 肩に止まった鴉は、元鵺で名を翡翠。

 その身を様々な姿に変化する事が出来る。

(じゃあ野盗退治に行くか)
『主人自ら態々相手する輩ではないのだがな』
『じゃあ、先導するね』

 そう翡翠が言うと、俺の肩から飛び立つ。

「六郎、虎、野盗退治だ。行くぞ!」
「はっ!」
「承知!」

 黒影が駆け出すと、六郎と虎慶が俺の後を追う。

 黒影の速さについて来れるのは、黒影の子供たちだけだ。

 六郎も虎慶も黒影の子供である黒い巨馬に跨っていた。


 翡翠の先導で駆ける俺と黒影は、直ぐに野盗の集団を発見する。

「ちっ、六郎、虎、急ぐぞ!」
「「はっ!」」

 更に加速する黒影に、流石の黒影の子供たちも付いてこれない。



 村に入り込んだ野盗たちが、猛スピードで近付く俺に気付くも、次の瞬間、黒影の体当たりで撥ね飛ばされる。

 この時代の日ノ本の馬とは、その馬体の大きさが違う。しかも黒影は、元饕餮だ。いまだにその強靭な肉体は健在で、野盗など纏めて撥ね飛ばすのも難しくなかった。

 俺も腰の九字兼定を抜き打ち、一人を斬り捨てると、黒影から飛び降り次の野盗へと向かう。

 丁度その時、六郎と虎慶が野盗へと突撃し、数人の野盗が飛ばされた。

「ひぃぃぃぃーー!! 鬼じゃあ! 鬼が出たぞぉ!」

 奪い殺す立場から一転、狩られる立場へとなった野盗たちが、悲鳴をあげて逃げようとするが、黒影たちを駆る俺たちから逃げれる訳もなく、あっという間に狩り尽くされていく。

 戦さで敵対した武者なら兎も角、野盗共に情けをかける必要は感じない。

 俺の兼定に斬られて死ねる野盗は幸運な方だろう。虎慶の金砕棒で、頭を潰された野盗は悲惨な屍を晒している。



 そう刻も経たず野盗を、文字通り殲滅した俺たちは、村人の被害を調べる。

「その方がこの村の長か?」
「へへぇ! 助けて頂き有難うごぜえます。鬼神様ぁ!」

 村の責任者に話を聞こうと責任者を呼ぶと、俺の前に土下座して拝み込んできた。

 まぁ、平伏される経験はあるが、最近では鬼神と崇められる事が多くなってきた。

 やがて兵達が追い付き、荒らされた村の復興と被害の詳細を調べる。


 その人外の膂力で、復興の手伝いをしていた虎慶が苦い顔で戻って来た。

「殿、少し食い物を分けてやらんと、飢え死ぬ者が大勢でるくらい酷い有様ですぞ」
「虎、それは野盗に荒らされなくともって事だな」

 俺の問いに虎慶が頷く。

「動ける者は、食べ物と銭を対価に田畑の整備の賦役をさせろ。女子供や年寄りには力仕事以外で手伝いをさせて、兎に角飯を食わせろ」
「はっ、承知しました」

 ドッカドッカと虎慶が村の男達が集まる場所へと歩いて行く。

 上から下まで戦さ馬鹿の三河者も、俺達を前に逆らう者は居なかった。

 まぁ、助けた相手に噛み付く者は少ないだろうが。



 視察から戻り、彦右衛門(滝川一益)と安濃津から船で物資と人員を運んで来た、十兵衛(明智光秀)と三河の現状と今後について話し合っていた。

「三河は思った以上に貧しいな。このまま冬になれば、多くの領民が飢え死ぬだろう」
「それなのに、血の気の多い者が、国人から土豪、農民に至るまで多いのが頭が痛くなりますな」
「積極的に賦役を行うほかありませんな。野盗の類は、今回連れて来た新兵達の実戦訓練代わりに討伐を進めましょう」

 俺が三河の現状が、想像以上に酷い事を言うと、彦右衛門は三河の人間の気質に頭を痛めていると言い、野盗対策に十兵衛が新兵を使う事を進言してきた。

「それはいいな」
「では、早速手配しておきます」

 現在、伊勢は一向宗対策や反抗的な土豪への対策は上手くいっている。野盗も伊勢には進んで入っては来ない。

 商人や職人に紛れた間者は、怪しい行動をとったり、北畠家の重要施設に近づかない限りは放置だが、それ以外には八部衆が厳しく対処しているので、争い事が少な過ぎて新兵が経験を積む機会がない。

 どうせ三河は暫く荒れるだろう。なら、北畠家としても、色々と利用させて貰おう。



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