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47 北畠の鉄砲隊
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永禄元年(1558年)十一月
安濃津城の広大な訓練所に、鉄砲隊が訓練する発砲音が響く。
ここ安濃津城では硝石生産は行なっていないが、安濃郡の一部では秘密裏に行われていた。
流石に臭いの問題があるので、広いとはいえ城の敷地では作りたくない。
火縄銃の数では、織田家と北畠家が突出しているだろう。ただ織田家では、うち程弾薬を使った訓練はしていないと思う。
明の密貿易船も南蛮船の商人も、日ノ本で硝石が取れないからといって、足元を見てぼったくっているからな。
何せたった二丁の旧式の火縄銃を馬鹿げた高値で買う国だ。日ノ本は舐められているんだ。
火縄銃の改良は続けている。何せ目指すのは、後装式パーカッションロック式銃なのだから。
まぁ、何処まで出来るかは分からない。技術的には二百年以上先のものだから。
ただ、ライフリングを刻むのとミニエー弾の製造までは早期に実現したい。
兎も角、火縄銃は有るだけでは意味を成さない。幾ら弓に比べ習熟に時間がかからないとはいえ、弾を込める時間の短縮や狙いの正確さは、訓練の量がものを言う。
鉄砲隊の訓練を指揮する二人に声を掛ける。
「十兵衛、左馬助、訓練は順調か?」
「あ、殿、まだ狙いが甘い者も居ますが、概ね順調です」
左馬助が張り切って答える。
十兵衛に黒影の孫を渡す時に、左馬助にも渡した事で、やけに張り切っている。
十兵衛は、明智城落城後、一族郎党を引き連れ安濃津へ来た。その後、禄が増え家臣を増やしているが、現状領地は与えず禄は銭なので、領民を徴兵する事が出来ない。
もともと、俺が職業軍人へと切り替えているので、十兵衛も自分達が率いる為に募集した新兵訓練に忙しい。
今、射撃訓練をしている鉄砲隊も、十兵衛の軍団に配備された新兵だ。
十兵衛が率いる部隊は、この時代の普通の備えに近い。
馬上衆、長槍衆、弓衆、鉄砲衆とそれぞれを指揮する小隊長である足軽大将と全体を指揮する侍大将、そこに旗持ちや荷駄、馬廻などが普通の備えだが、ここで一つだけ違うのは、北畠家の軍の中でも俺の率いる軍には足軽は居ない。
全員が禄の違いはあるものの、仕官扱いで傭兵や足軽雑兵は存在しない。
全員がプロの軍人なのだ。
俺達の軍では、戦さ場での抜け駆けや乱取りなど皆無である。
もともと寡兵で大軍を相手取る戦さを平気でしていたので、戦況が不利となって逃げる様な者も居ない。
「まだまだ人数が足りないな」
「仕方ありませんよ。八部衆や殿の部隊の様に、絶対的な忠誠心を持つ者達は貴重ですから」
「そうだな」
戦死した後、遺された家族に対する補償や継続的な援助、跡取りが居る場合は役目を継ぐ事を許すなど、待遇の改善で高い忠誠心を持つ兵士を集めているが、俺や六郎と子供の頃から一緒に育った者達は別格だからな。
それにしても十兵衛の鉄砲の腕前は感心する。
史実でも本当か分からないが、かなりの腕前だったと言われているらしいが、積極的に自ら訓練に参加すると、みるみる上達していった。
十兵衛曰く「北畠家の火縄銃の性能が良い所為です」らしい。
それも間違いではない。
自慢する訳じゃないが、北畠家の火縄銃はこの時代のどの火縄銃よりも高い性能を持っていると自負している。
それは鉄砲傭兵で知られる、雑賀衆や根来衆が使う火縄銃と比べても段違いだと言える。
それは目指す先の分かっている故とも言える。
これは俺の趣味の問題だけど、コルトM1851の様な、パーカッションロック式シングルアクションリボルバーが欲しいからな。
「御所様のところの鉄砲衆の訓練も此方でみる事になりましたから、やり甲斐があります」
「十兵衛には悪いけど頼むよ。兄上の軍も鉄砲の備えは必要だからな」
「はっ、お任せください」
弓の名手が多い北畠家の家臣団だが、鉄砲衆の備えは避けて通れない。
そこで兄上の軍で鉄砲衆を率いる侍大将ごと、まとめて安濃津で面倒みる事になった。
その教導を任されたのが久助で、十兵衛と左馬助がその補助につくことになった。
十兵衛や左馬助は、鉄砲の訓練を始めてそんなに経っていないのに、もう教える方にまわっているのは、流石明智光秀と明智秀満だ。
鉄砲衆の訓練では、止まった的を狙う以外にも、陣形を変化させながら射撃したり、弾込めする速度を上げる訓練をしたりと、今や北畠家の鉄砲衆は、日ノ本一の鉄砲衆だと思う。
北畠家で造っている火縄銃は、雑賀衆のものに比べ射程や命中精度も高く、あまりしたくはないが例え撃ち合いになっても負けはしない。
「弓衆との連携もだいぶ良くなってきたな」
「弓衆を育てるのは時間がかかりますから。殿や六郎殿の様に、強弓を速射できる者が多ければ心強いですからな」
火縄銃に頼りすぎるのも良くない。
今の火縄銃は雨の日は使えないし、密集陣形の集中運用もし辛い。この辺りはパーカッションロック式が待ち望まれるところだが、弓には弓の利点がある。
火縄銃に比べて遥かに連射が効き、火縄銃の弾込め作業中の隙を埋める事が出来る。
俺の父上も弓の名手で、幼い頃に手解きを受けたのは良い思い出だ。
仲間内では、史実でも名手と言われた大之丞も、今世では更に弓の腕を上げている。
それこそ源為朝が強弓でもって敵船を割った様な伝説の再現も俺たちなら出来そうだ。
桑名の三城と長島を見据え、鉄砲衆の編成は急がないとな。
安濃津城の広大な訓練所に、鉄砲隊が訓練する発砲音が響く。
ここ安濃津城では硝石生産は行なっていないが、安濃郡の一部では秘密裏に行われていた。
流石に臭いの問題があるので、広いとはいえ城の敷地では作りたくない。
火縄銃の数では、織田家と北畠家が突出しているだろう。ただ織田家では、うち程弾薬を使った訓練はしていないと思う。
明の密貿易船も南蛮船の商人も、日ノ本で硝石が取れないからといって、足元を見てぼったくっているからな。
何せたった二丁の旧式の火縄銃を馬鹿げた高値で買う国だ。日ノ本は舐められているんだ。
火縄銃の改良は続けている。何せ目指すのは、後装式パーカッションロック式銃なのだから。
まぁ、何処まで出来るかは分からない。技術的には二百年以上先のものだから。
ただ、ライフリングを刻むのとミニエー弾の製造までは早期に実現したい。
兎も角、火縄銃は有るだけでは意味を成さない。幾ら弓に比べ習熟に時間がかからないとはいえ、弾を込める時間の短縮や狙いの正確さは、訓練の量がものを言う。
鉄砲隊の訓練を指揮する二人に声を掛ける。
「十兵衛、左馬助、訓練は順調か?」
「あ、殿、まだ狙いが甘い者も居ますが、概ね順調です」
左馬助が張り切って答える。
十兵衛に黒影の孫を渡す時に、左馬助にも渡した事で、やけに張り切っている。
十兵衛は、明智城落城後、一族郎党を引き連れ安濃津へ来た。その後、禄が増え家臣を増やしているが、現状領地は与えず禄は銭なので、領民を徴兵する事が出来ない。
もともと、俺が職業軍人へと切り替えているので、十兵衛も自分達が率いる為に募集した新兵訓練に忙しい。
今、射撃訓練をしている鉄砲隊も、十兵衛の軍団に配備された新兵だ。
十兵衛が率いる部隊は、この時代の普通の備えに近い。
馬上衆、長槍衆、弓衆、鉄砲衆とそれぞれを指揮する小隊長である足軽大将と全体を指揮する侍大将、そこに旗持ちや荷駄、馬廻などが普通の備えだが、ここで一つだけ違うのは、北畠家の軍の中でも俺の率いる軍には足軽は居ない。
全員が禄の違いはあるものの、仕官扱いで傭兵や足軽雑兵は存在しない。
全員がプロの軍人なのだ。
俺達の軍では、戦さ場での抜け駆けや乱取りなど皆無である。
もともと寡兵で大軍を相手取る戦さを平気でしていたので、戦況が不利となって逃げる様な者も居ない。
「まだまだ人数が足りないな」
「仕方ありませんよ。八部衆や殿の部隊の様に、絶対的な忠誠心を持つ者達は貴重ですから」
「そうだな」
戦死した後、遺された家族に対する補償や継続的な援助、跡取りが居る場合は役目を継ぐ事を許すなど、待遇の改善で高い忠誠心を持つ兵士を集めているが、俺や六郎と子供の頃から一緒に育った者達は別格だからな。
それにしても十兵衛の鉄砲の腕前は感心する。
史実でも本当か分からないが、かなりの腕前だったと言われているらしいが、積極的に自ら訓練に参加すると、みるみる上達していった。
十兵衛曰く「北畠家の火縄銃の性能が良い所為です」らしい。
それも間違いではない。
自慢する訳じゃないが、北畠家の火縄銃はこの時代のどの火縄銃よりも高い性能を持っていると自負している。
それは鉄砲傭兵で知られる、雑賀衆や根来衆が使う火縄銃と比べても段違いだと言える。
それは目指す先の分かっている故とも言える。
これは俺の趣味の問題だけど、コルトM1851の様な、パーカッションロック式シングルアクションリボルバーが欲しいからな。
「御所様のところの鉄砲衆の訓練も此方でみる事になりましたから、やり甲斐があります」
「十兵衛には悪いけど頼むよ。兄上の軍も鉄砲の備えは必要だからな」
「はっ、お任せください」
弓の名手が多い北畠家の家臣団だが、鉄砲衆の備えは避けて通れない。
そこで兄上の軍で鉄砲衆を率いる侍大将ごと、まとめて安濃津で面倒みる事になった。
その教導を任されたのが久助で、十兵衛と左馬助がその補助につくことになった。
十兵衛や左馬助は、鉄砲の訓練を始めてそんなに経っていないのに、もう教える方にまわっているのは、流石明智光秀と明智秀満だ。
鉄砲衆の訓練では、止まった的を狙う以外にも、陣形を変化させながら射撃したり、弾込めする速度を上げる訓練をしたりと、今や北畠家の鉄砲衆は、日ノ本一の鉄砲衆だと思う。
北畠家で造っている火縄銃は、雑賀衆のものに比べ射程や命中精度も高く、あまりしたくはないが例え撃ち合いになっても負けはしない。
「弓衆との連携もだいぶ良くなってきたな」
「弓衆を育てるのは時間がかかりますから。殿や六郎殿の様に、強弓を速射できる者が多ければ心強いですからな」
火縄銃に頼りすぎるのも良くない。
今の火縄銃は雨の日は使えないし、密集陣形の集中運用もし辛い。この辺りはパーカッションロック式が待ち望まれるところだが、弓には弓の利点がある。
火縄銃に比べて遥かに連射が効き、火縄銃の弾込め作業中の隙を埋める事が出来る。
俺の父上も弓の名手で、幼い頃に手解きを受けたのは良い思い出だ。
仲間内では、史実でも名手と言われた大之丞も、今世では更に弓の腕を上げている。
それこそ源為朝が強弓でもって敵船を割った様な伝説の再現も俺たちなら出来そうだ。
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