幻獣使いの英雄譚

小狐丸

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学院編…三年生

拠点防御用ゴーレム

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 砂丘にユキトが太刀【焔】を右手に立っている。

 砂の中を進む魔物が、ユキトを餌と認め襲い掛かる。ユキトは最小限の動作で、砂の中から跳び出し襲い掛かったのは、直径60cm 長さ6mはあるサンドワームだった。ユキトは襲いくるサンドワームを避けると、そのまま頭にあたる部分を斬り落とす。恐れる事を知らず次々襲い掛かる魔物を、避ける動作と斬り落とす動作を、流れる様に一呼吸で行なうユキト。ドンドン積み上がる死体の山。

 ユキトが動きを止めた時、辺りはサンドワームの死体が散乱していた。

『主、ちとやり過ぎなのでは?』

 少し離れた場所に居たジーブルが六角棒を担いでユキトに言う。

『お前はどのくちで主にそれを言うのか』

 ヴァイスがジーブルに呆れた様に言う。

『お前も言えんだろう!』
「まあ、全員がちょっとやり過ぎたって事で」
『『まぁ、そうですな』』

 それはそうだろう何故ならジーブルどころかヴァイスの周りにもサンドワームの死体が散乱している。

 ドサッ!

 その時、空から頭の潰れたサンドワームが落ちて来た。

 クルルルッ!

 ルドラが空から降りてきた。

「よしよし、お前も頑張ったな」

 ユキトがルドラを撫でてあげると自分も撫でてと催促するのは青い鱗が美しい青龍エリンだ。

 定位置となったヴァイスの背中でキューキューと鳴いて催促するので撫でてあげる。

「回収して帰ろうか」

 早く帰らないとサティスが心配するからな。今となっては僕をどうにか出来る存在も少ないと思うけど。でも僕も人のこと言えないかな、今もサティスにはバルクを護衛に付けてるし。

 さて、戻りますか。


 帰ってからが大変だった。調子に乗って皆んなで狩りまくったサンドワームを解体するのが僕独りだと言う事に気付いていなかった。ジーブルは手がゴツすぎて解体は無理だし、ヴァイスとルドラは言うに及ばず結局はコツコツひたすらサンドワームと格闘すること二日、新しいゴーレム用の素材集めだったけど、もう暫くサンドワームは見たくない。




「ただいまー!」

 サンドワームの解体で疲れたので休憩していると、玄関で女の子の声がした。

 金色の綺麗な髪をなびかせて、元気な声で家に入って来たのはフィリッポス先生の姪っ子の少女。
えっ?!ユスティアちゃん??ただいま???

「フィリッポス先生、どういうことですか?」

 フィリッポス先生がユスティアちゃんを連れて家に来た。色々突っ込みたい所があるけど先ずは、フィリッポス先生に事情を説明して貰おう。

「やぁ~、参ったねぇ。ユキト君そう言う事だからよろしく頼むよ」
「いゃ、何がそう言う事かまったくわからないんですけど」
「フィリッポス!あんたいい加減にオシ!ユキトが優しいのをいい事に甘え過ぎだよあんた!」

 婆ちゃんがフィリッポス先生にカミナリを落とす。フィリッポス先生が叱られる姿にユスティアちゃんがびっくりしている。

「まあまあ、婆ちゃんも話を聞いてみようよ」
「本当にユキトは、優しく育ったね。育て方が良かったのかねぇ」
「自画自賛は後で幾らでも聞きますから、先ず私の話を聞いて下さい。」
「とりあえず、お茶にしましょう。イリス、ティア、アメリアちゃんお願い」
「「はい、ユキト様」」
「ハァーイ!」

 皆んなでリビングに移動してお茶を飲んで落ち着いて貰う。

「お茶です、どうぞ!」

 アメリアちゃんが僕のお茶を持って来て、そのまま僕の膝の上にちょこんと座る。

「それで、ユスティアちゃんはお父さんとちゃんと話は出来たんですか?」
「いや~、大変だったよ。アウグストは閉鎖的な一般的なエルフよりは、多少マシな価値観を持ってるんですけどね。私の兄弟ですから私が外に出て暮しているのも少しは理解していたはずなんですが、やっぱり自分の娘の事となると違いましたね」
「お父さんたら、本当に嫌んなっちゃう!」

 ユスティアちゃんが頬を膨らませている。

「それで、説得するのに二日かかりました」
「それは良かったですね。でもどうして「ただいま。」なんですか?」
「いゃあ、この家はロンドバルで一番安全じゃないですか。門を護る二体のゴーレムに、護衛に獣人夫婦のダンさんとニケさんも居ますし何より英雄の住む家ですから誰も手を出そうとしませんよ」

 話を聞いていたダンさんとニケさんが得意げに「お任せ下さい」なんて言ってる。

「そもそもこの家は爺ちゃんが買った物ですよ。僕に判断出来ませんよ」
「心配入りませんよ。ノブツナやヴォルフなら一人位増えてても気にもしませんから」

 はぁ、爺ちゃんとヴォルフさんなら一人や二人増えてても暫く気づきもしなさそうで怖い。

「ネェネェユキトお兄ちゃん、あのお姉ちゃんもこの家に住むの?」

アメリアちゃんが目をキラキラさせて聞いてくる。

「そうよ、お姉ちゃんはユスティアっていうのよろしくネ」
「ユスティアお姉ちゃん、アメリアと遊んでくれる?」
「えぇ、アメリアちゃんお姉ちゃんといっぱい遊びましょう」

「アタシにも色々と言いたい事はあるけど、ユキト諦めな」

 結局、フィリッポス先生はユスティアちゃんを押しつけるとそそくさと帰っていった。仕方がないのでサティスにユスティアちゃんの着替えや必要な物を買い出しに行って貰うことにした。
 サティスとユスティアちゃんだけじゃ心配なので、ダンさんとニケさんにもついでに買い物をして貰おうと、お金を渡して護衛がてら付いて行って貰うことにした。


「お茶のおかわり淹れますね」

 イリスが気遣ってくれる。
 精神的にどっと疲れた。お茶を飲んで落ち着いてからドノバンさんの工房へ行き頼んでいた仕事の手伝いをする。



「ユキト様、ドノバン様、夕飯の時間です」

 ティアが呼びに来るまでに大体のパーツは、出来上がった。

「ユキト、飯にするか」

 キリのいいところでドノバンから声がかかる。

「そうですね今日はここまでにしましょう」

 「ユキトよ、しかし今回はぶっ飛んだ個体を造ったもんだな腕が10本のゴーレムなんて見た事ないぞ。あんなの本当に動くのか?」

 そう、ここ最近僕が取り組んでいたのはゴーレムの制御術式を作っていたんだ。ただゴーレムの姿が普通じゃないから凄い苦労した。

「やっとスムーズに動かせる仕組みが出来上がったんですよ」
「ユキトは器用だのう」
「ドノバンさん、盾と剣と長柄武器を頼んで良いですか?」
「あぁ、長柄武器は二本だったなメイスも一本用意しとくぞ」
「お願いします」



 次の朝から裏庭で組み立てを始めた。工房では個体が大きいのとドノバンさんに頼んでもう一体の組み立てが工房で行われているので裏庭での作業になった。

 順調に組み立てていき、大きいコントロールコアと補助用のコントロールコアを大きいコアに五つ連結していく。大型の魔力タンクとして大きい魔石を三つ連結してミスリルのケースに入れて、ケースに大気中の魔素を吸収し魔力に変換して魔石内に貯める為の術式を刻んである。コントロールコアからは 15本のミスリルで出来たケーブルが繋がっている。さらに骨格にそってケーブルを這わせ身体の制御をコアが補助するように繋いでいく。

 外装を取り付けて召喚魔法を使う。コアにゴーレムが召喚される。

「立ち上がれ、ヘカトンケイル!」

ガシッ!ガシャ!

体長3m の鋼鉄製の異形の巨人が立ち上がった。

「随分と可笑しな物を造ったんだね」

 婆ちゃんが家から出て来て立ち上がったヘカトンケイルを見て微妙な顔をしている。

「これは拠点防御用ゴーレムなんだ」

 確かに異形な姿のそのゴーレムは 6本の腕とさらに背中から4本の細長い腕が伸びている。顔は前後左右に4面ありその巨体もあって近寄り難い威圧感がある。

 「6本の腕にはそれぞれ盾と二本の長柄武器に剣とメイスを持たせる。背中から出ている腕からはアイスアローとファイヤーアローを撃てる様になってるんだ。ゴーレムは目で見てるわけじゃないから顔は飾りみたいな物だけど、一応それぞれの顔にセンサーを搭載して全方位をフォロー出来る様にしてあるんだ」

 コン!コン! 婆ちゃんが外装を叩く。

「外側はミスリルコーティングしてあるのかい?」
「うん、遠距離から魔法で攻撃されても、此れならある程度耐えられるでしょ。トールハンマーやフレアは流石に防げないけどね」
「あきれて物も言えないね、トールハンマーやフレアを使える術者なんて居ないよ。しかし拠点防御用ゴーレムかい、確かに強力そうだけど機動力が無さそうなゴーレムだね」
「でも苦労したんだよ、全部の腕をスムーズに連携して動かせる仕組みを作るのは、僕の腕は二本だから10本の腕を動かすイメージが中々出来なくて」
「それで機動力が無いから補う為に魔法も撃てる様にしたのかい」
「まあそれもあるけどヘカトンケイルは単体で運用するんじゃないからね」

「おーいユキト! 出来たぞ!」

 その時、ドノバンさんが工房から台車に騎士型ゴーレムを載せて出てきた。

「有難うございます。そこに置いて下さい」

 僕はドノバンさんにお礼言ったあと、召喚魔法を発動してゴーレムを起動する。

「立ち上がれ、ゴライアス!」

 鎧を軋ませ立ち上がる。全長3m の巨体はヘカトンケイルと同じだが、沢山の腕が付いてるわけじゃないので一回り小さく感じる。

「ヘカトンケイルが機動力が無い分、ゴライアスでフォローする様に二体で運用するんだ」

 ユキトがバーバラに説明する。

「もう一体造っていたのかい。このゴーレムもミスリルコーティングしてあるじゃないか」

「うん、この際だからタイタンとギガスを含め皆んなミスリルコーティングにしといたんだ。ヘカトンケイルとゴライアスは、パルミナ王国に近いペトラの防衛用に作ったんだ。この二体が、門を護ってるだけで抑止力にもなるでしょ」

 婆ちゃんが、難しい顔をしている。

「抑止力にはなるだろうが、ちょっと見た目の趣味が悪いね」
「え~!カッコイイでしょ!」
「うむ、儂も良いと思うがのう」

 サティスを見るとやっぱり微妙な表情をしている。
おかしいな、女の人にはウケが良くないみたいだ。でもこれで何かあった時でも、僕達が駆けつけるまでペトラの防衛は大丈夫だろう。

 さて、次は何を作ろうかな……。
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