幻獣使いの英雄譚

小狐丸

文字の大きさ
上 下
51 / 63
激動編

二国間同盟

しおりを挟む
 パルミナ王国のヘルムート王とブランデン帝国の皇帝マインバッハ三世が、秘密裏に会談を行った。

 二国間の会談は、トルースタイン共和国の首都カンパネラで行われた。
 パルミナ王国とブランデン帝国との間に、トルースタイン共和国が位置するということが、理由の一つである。潜在敵国の二国にとって、第三国での会談が望ましかった。

 お互いに、最低限の護衛を連れて、秘密裏に行われた会談であった。




 カンパネラに着いた、ヘルムート王は驚愕していた。

「……これが、つい最近出来たばかりの街だと?」

 もともとは都市同盟だったものが、最近建国を宣言した、新しい国トルースタイン共和国。
 その首都として造られたカンパネラ。僅かな期間で、ここまでの街が出来上がっているとは、想像だにしなかった。

「これは……、簡単には攻めれませんな」

 護衛の親衛隊長が呟く。

 ヘルムート王も、まったく同感だった。街の中には、巡回する警備兵は、一目見るだけで精鋭と分かる。街の防壁も分厚く高い。門を良く分からないゴーレムが護っている。

 途中に寄った、パルミナ王国国境に近い街、ペトラにも、巨大な異形のゴーレムが二体、門を護っていた。
 街も昔訪れた時と違い、防壁や堀が強化されていた。同時にどの兵士も、精鋭と言っていいレベルである。

「こんな短期間にどうして……」

 トルースタイン共和国は、農産物の輸入などの繋がりはあるが、大陸統一には避けて通れない国である。以前の商業都市同盟なら、一つ一つ潰して行くのも容易いと思っていた。しかし、現在のこの都市の防衛能力はどういう事だ。
 おまけに各都市が、広く整備された街道で結ばれている。都市間の移動もスムーズだろう。

「最近、トルースタインに放った、間諜が戻らず、報告も入らなかったのですが、間諜対策も万全なのでしょう」

「……あぁ、商人からの噂程度には、街の整備が進み、栄えていると知ってはいたが、予想の遥か上をいっていたな」






 ここにもヘルムート王と、同じ驚きを感じている人物がいた。

「この都市を堕とすのに、何万いる?」

 そう側近に聞いたのは、ブランデン帝国皇帝、マインバッハ三世その人だった。

「はっ、陛下。このカンパネラの前に、我が国の国境近くにある、ヘリオスを堕とさねばなりますまい」

 皇帝の親衛隊とも言える、金竜騎士団団長が指摘する。

「では、そのヘリオスを堕とすのに、何万の兵がいる?」

 そのマインバッハ三世の問いに、騎士団長は首を横に振る。

「陛下、事は単純では御座いません。ヘリオス自体は、強固な防壁と堀で護られていますが、大軍で囲み、時間と軍の損耗を気にしなければ、堕とす事も可能でしょう」

 騎士団長の、持ってまわった言いまわしを、訝しんだマインバッハ三世が眉根を寄せる。

「陛下、陛下もお気づきとは思われますが、このカンパネラまでの道程で、都市間を結ぶ街道を」

「ほとんど馬車が揺れなかったな」

「そうです。前に強固な防壁に囲まれた城塞都市、背後からは各都市からの援軍が、広く整備された街道を使い、駆けつけるのです。もう一つ、ヘリオスを護るのが、獣人部隊が主体だという事が最悪です」

「獣人部隊?我が国にあった様な、獣人奴隷部隊か?」

「陛下、お忘れですか?我が国には、もう獣人奴隷部隊は存在しません。今やヘリオス防衛の中核となっています。しかも以前とは比べ物にならない位の精鋭部隊として」

「どういう事だ。奴隷契約はどうした。そう言えば獣人奴隷部隊が壊滅したという報告があったな。我らの国の奴隷なら、トルースタインに返還を要求すれば良かろう」

 横で聞いていた宰相が首を横に振る。

「陛下、もとはと言えば、奴隷狩りで、獣人の違法奴隷を集めていたのですぞ。トルースタインに返還など要求すれば、いい笑い者です。むしろ奴隷狩りの事実を認めることになります。それに獣人供は既に奴隷では御座いません」

「我が国が、獣人奴隷部隊として、運用していた時ですら精強な部隊でしたが、現在の奴らは並の騎士団では、歯が立たぬほどの精鋭部隊になっています。
 我が国の騎士団の一部隊が、奴隷狩りに越境した際、奴等と戦闘になったらしいのですが、一瞬だったそうです。一人だけ生かされて帰って来た騎士は、いまだに使い物になりません。
 恐らく、我が国の奴隷狩りに対しての警告だったのでしょう」

 マインバッハ三世の頬がピクピクと震えている。

「現在の我が国には、獣人奴隷は存在しません。ひとり残らず消えました。それを成したのがトルースタインだとしても、文句のひとつも言えませんな」

 宰相からの駄目押しに、盛大に溜息を吐くマインバッハ三世。

「我が国の送り出した、間諜も一人も帰って来ません。諜報部が人が足りずに、瓦解しそうです」

「早急にパルミナ王国と同盟を結び、旧ケディミナス教国を呑み込んで、トルースタイン共和国に対抗しなければならないな」




 パルミナ王国とブランデン帝国の話し合いは、スムーズに進められた。
 その席で同盟も結ばれ、おおまかな取り決めも成された。

 ここまでスピーディに話が纏まった、その理由は、トルースタイン共和国の各都市を観て、両首脳が危機感を持ったためだった。

 両国は、トルースタイン滞在中に少しでも、ゴーレム技術を手に入れようと暗躍するが、ゴーレムの基幹技術は、ユキトが握っていて、万が一にもゴーレムの盗まれても、所定の方法で分解しなければ、ゴーレム制御術式が破壊される様に、仕組まれている。
 結局、両国はトルースタイン共和国に、目を付けられて帰国する事になる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

たいまぶ!

司条 圭
ファンタジー
「私たちが、全人類(みんな)のカルマを守るのよ」  「ハデスゲート」を通じ、異世界より現れる悪魔たち。  悪魔は、生物のあらゆる願いを叶えることが出来るが、  その代償に「カルマ」を汚していく。  それが、自身が望まないような呟くような願いであったとしても……  そうしてカルマを汚された者の末路は、悲惨なものとなってしまう。  数多の生物の「カルマ」を守るため、創設されたのが  「退魔部」だった。  普通の高校1年生だった、朝生一子。  入学式を迎えて間もなく、ひょんなことから退魔部の部員となることに。  人の役に立ちたい。  そう思っていた一子は、退魔部へ入部する。  そんな退魔部を通じ、将来の夢どころか、入部する部活にすら悩んでいた  朝生一子の成長を綴る物語。  学生の貴方はもちろん、社会人の貴方にも……  全ての方々へ送る、青春退魔ファンタジーです!

ボッチ英雄譚

3匹の子猫
ファンタジー
辺境の村で生まれ育ったロンは15才の成人の儀で「ボッチ」という聞いたこともないジョブを神様から授けられました。 ボッチのジョブはメリットも大きいですが、デメリットも大きかったのです。 彼には3人の幼馴染みと共に冒険者になるという約束がありましたが、ボッチの特性上、共にパーティーを組むことが難しそうです。彼は選択しました。 王都でソロ冒険者になることを!! この物語はトラブルに巻き込まれやすい体質の少年ロンが、それらを乗り越え、いつの日か英雄と呼ばれるようになるまでを描いた物語です。 ロンの活躍を応援していきましょう!!

北畠の鬼神

小狐丸
ファンタジー
 その昔、産まれ落ちた時から優秀過ぎる故、親からも鬼子と怖れられた美少年が居た。  故郷を追われ、京の都へと辿り着いた時には、その身は鬼と化していた。  大江山の鬼の王、酒呑童子と呼ばれ、退治されたその魂は、輪廻の輪を潜り抜け転生を果たす。  そして、その転生を果たした男が死した時、何の因果か神仏の戯れか、戦国時代は伊勢の国司家に、正史では存在しなかった四男として再び生を受ける。  二度の生の記憶を残しながら……  これは、鬼の力と現代人の知識を持って転生した男が、北畠氏の滅亡を阻止する為に奮闘する物語。 ーーーーーーーーーーーーーーーー この作品は、中の御所奮闘記~大賢者が異世界転生をリメイクしたものです。  かなり大幅に設定等を変更しているので、別物として読んで頂ければ嬉しいです。

特典付きの錬金術師は異世界で無双したい。

TEFt
ファンタジー
しがないボッチの高校生の元に届いた謎のメール。それは訳のわからないアンケートであった。内容は記載されている職業を選ぶこと。思いつきでついついクリックしてしまった彼に訪れたのは死。そこから、彼のSecond life が今始まる___。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...