57 / 82
第五十五話 秋のキャンプその一
しおりを挟む
学園生にとって、一年で最大のイベントが行われる季節がやって来た。
それは王都近郊で一泊の野営を含む行軍訓練。
学園には、将来的に騎士や冒険者を目指す者も一定数存在する。貴族の子息にしても、領地持ちの貴族家では軍事行動とは無縁ではいられない。
そこで行われるのが、学年ごとに難易度と場所を変え、魔物相手の実戦訓練を行う秋のキャンプだ。
随分殺伐としたキャンプだが、魔物が身近に跳梁跋扈するこの世界において、必要な訓練には違いない。
実戦と言っても、相手はゴブリンかフォレストウルフ程度の魔物になるが、それでも毎年怪我人が出る。幸い死者がでた事はないが、それでも重傷者を出す事は珍しくない。
ホクト達一年生は、王都の西門で集合していた。
西門には、学園の生徒が各々行軍訓練の準備をして集合していた。
そこに、巨大な大剣を背負ったカジム、反りを持つ片刃の剣【ライキリ】を左腰に佩て、白銀の斧槍【ミカヅチ】を担いだホクト、その傍にサクヤの姿があった。
「楽しみだなアニキ」
「いや、実戦訓練と言っても、せいぜいゴブリンかコボルトだぞ」
大剣が完成してからのカジムは、新しいオモチャを与えられた子供のように、はしゃいでいた。
ホクトやサクヤは、アイテムボックスをごまかすためにダミーの背嚢を背負っている。
護衛の騎士と学園の教師が生徒にパーティーを組ませて行く。
カジムはクラスが違うのだが、当たり前のようにホクトとサクヤの側に居る。
そこに耳障りな声が聞こえた。
「おい!そこの耳長!」
そこには、幾度となくホクトとサクヤにからむ、肥った贅肉を揺らしているバカ貴族の典型、マグス・フォン・ペドロハイムが、取り巻きを連れて立っていた。
「お前には勿体無い槍を持ってるじゃないか!俺が金貨5枚で買ってやろう。直ぐによこせ!」
「…………クスッ」
ホクトだけでなく、サクヤとカジムが鼻で笑う。
「なっ!何を笑ってやがる!サッサとよこせ!」
教師や騎士が周りにいるなか、この男は脳みそが有るのか?と頭を割って確かめたくなるホクト達だったが、剣もまともに振れなさそうなマグスに、ミカヅチが振るえる訳がない。
「また貴方ですか、いい加減にしないとお父様に報告しなけれなりませんよ」
そこに可憐な少女の声が聞こえた。
「あんっ、何だ!」
マグスが振り返ると、そこには白銀の胸当てとガントレットにグリーブ、見事な細工が施された細剣を佩た第四王女フランソワが護衛の騎士とともに立っていた。
「あ、ふ、フランソワ陛下」
「本当に貴方は懲りるという事がありませんね」
見る見るうちに、マグスの顔が青くなる。
「い、いや、そこのエルフが分不相応な槍を持っているので、私の方が相応しいかと思い……」
「「「プッ!」」」
ホクト達三人が思わず吹き出す。
「お、お前達!何がおかしい!」
「マグス殿がこの斧槍を振るえるなら、譲っても構いませんが、クスッ、とてもじゃないが無理なようですから、クスッ」
ホクトが笑いを堪えながら言うと、青かったマグスの顔が真っ赤になる。
「使えるものなら使ってみればわかりますよ」
ホクトがミカヅチをマグスに投げ渡した。
「グヘッ!」
ミカヅチを受け取ろうとしたマグスが、ミカヅチの重さにそのまま倒れる。
ホクトはミカヅチに押し潰されたカエルのようなマグスからミカヅチを片手で軽く持ち上げ取り戻す。
「だから言ったでしょう。使えるものならって」
「た、タダで済むと思うなよ!」
マグスは顔を真っ赤にして捨てゼリフを放つと逃げるように走り去った。
「フランソワ陛下、度々申し訳ありません」
「いえ、私は命を助けて頂いたのですから、ご恩の十分の一も返せていません。
それと、学園ではフランソワで構いません。同じ生徒なのですから」
「それではフランソワ様、ありがとうございます」
まだ様付けなのが微妙に不満そうだが、これ以上はさすがに無理だとお互い分かっている。
「失礼、ヴァルハイム卿、もし宜しければ、その斧槍を見せて頂けませんか」
ベルンへ向かう途中で出会った、フランソワの護衛の騎士、第三騎士団ウルド・ドレクスタが話し掛けてきた。
「ウルド殿でしたね。
どうぞ、少々重いかもしれませんが」
ホクトがミカヅチを手渡す。
「っ!?」
片手で手渡されたウルドは、ミカヅチの重さに驚き、慌てて両手で持ち直す。
両手で槍を構えて何とか振るう。
「……こ、これは魔槍、……私ではとてもじゃないが、この槍は振るえませんな。
ありがとうございます」
ミカヅチを受け取り、軽く片手で扱うのを見て、ウルドが尊敬の眼差しでホクトを見る。
「あ、あの、ホクト様、お願いがあるのですが」
側で見ていたフランソワがホクトにおずおずと話し掛ける。
「はい、何でしょうフランソワ様」
「出来れば私と臨時パーティーを組んで頂けませんか」
「おお、それは良い。是非、フランソワ陛下と臨時パーティーを組んで頂けませんか」
ウルドもそれは良いと後押しする。
フランソワからの申し出は、想像出来た事だった。行軍訓練中は、騎士団がフランソワにベッタリと護衛に付く訳ではない。ホクト達が護衛を兼ねてパーティーを組めば安心だろう。
「分かりました。よろしくお願いします」
「フランソワ様、よろしくお願いします」
「おう、よろしく」
「ありがとうございます」
行軍訓練は、四人パーティーで活動する事が決まり、お互いの役割を決める話し合いをした。
秋の行軍訓練は、パーティー単位で出発するのだった。
それは王都近郊で一泊の野営を含む行軍訓練。
学園には、将来的に騎士や冒険者を目指す者も一定数存在する。貴族の子息にしても、領地持ちの貴族家では軍事行動とは無縁ではいられない。
そこで行われるのが、学年ごとに難易度と場所を変え、魔物相手の実戦訓練を行う秋のキャンプだ。
随分殺伐としたキャンプだが、魔物が身近に跳梁跋扈するこの世界において、必要な訓練には違いない。
実戦と言っても、相手はゴブリンかフォレストウルフ程度の魔物になるが、それでも毎年怪我人が出る。幸い死者がでた事はないが、それでも重傷者を出す事は珍しくない。
ホクト達一年生は、王都の西門で集合していた。
西門には、学園の生徒が各々行軍訓練の準備をして集合していた。
そこに、巨大な大剣を背負ったカジム、反りを持つ片刃の剣【ライキリ】を左腰に佩て、白銀の斧槍【ミカヅチ】を担いだホクト、その傍にサクヤの姿があった。
「楽しみだなアニキ」
「いや、実戦訓練と言っても、せいぜいゴブリンかコボルトだぞ」
大剣が完成してからのカジムは、新しいオモチャを与えられた子供のように、はしゃいでいた。
ホクトやサクヤは、アイテムボックスをごまかすためにダミーの背嚢を背負っている。
護衛の騎士と学園の教師が生徒にパーティーを組ませて行く。
カジムはクラスが違うのだが、当たり前のようにホクトとサクヤの側に居る。
そこに耳障りな声が聞こえた。
「おい!そこの耳長!」
そこには、幾度となくホクトとサクヤにからむ、肥った贅肉を揺らしているバカ貴族の典型、マグス・フォン・ペドロハイムが、取り巻きを連れて立っていた。
「お前には勿体無い槍を持ってるじゃないか!俺が金貨5枚で買ってやろう。直ぐによこせ!」
「…………クスッ」
ホクトだけでなく、サクヤとカジムが鼻で笑う。
「なっ!何を笑ってやがる!サッサとよこせ!」
教師や騎士が周りにいるなか、この男は脳みそが有るのか?と頭を割って確かめたくなるホクト達だったが、剣もまともに振れなさそうなマグスに、ミカヅチが振るえる訳がない。
「また貴方ですか、いい加減にしないとお父様に報告しなけれなりませんよ」
そこに可憐な少女の声が聞こえた。
「あんっ、何だ!」
マグスが振り返ると、そこには白銀の胸当てとガントレットにグリーブ、見事な細工が施された細剣を佩た第四王女フランソワが護衛の騎士とともに立っていた。
「あ、ふ、フランソワ陛下」
「本当に貴方は懲りるという事がありませんね」
見る見るうちに、マグスの顔が青くなる。
「い、いや、そこのエルフが分不相応な槍を持っているので、私の方が相応しいかと思い……」
「「「プッ!」」」
ホクト達三人が思わず吹き出す。
「お、お前達!何がおかしい!」
「マグス殿がこの斧槍を振るえるなら、譲っても構いませんが、クスッ、とてもじゃないが無理なようですから、クスッ」
ホクトが笑いを堪えながら言うと、青かったマグスの顔が真っ赤になる。
「使えるものなら使ってみればわかりますよ」
ホクトがミカヅチをマグスに投げ渡した。
「グヘッ!」
ミカヅチを受け取ろうとしたマグスが、ミカヅチの重さにそのまま倒れる。
ホクトはミカヅチに押し潰されたカエルのようなマグスからミカヅチを片手で軽く持ち上げ取り戻す。
「だから言ったでしょう。使えるものならって」
「た、タダで済むと思うなよ!」
マグスは顔を真っ赤にして捨てゼリフを放つと逃げるように走り去った。
「フランソワ陛下、度々申し訳ありません」
「いえ、私は命を助けて頂いたのですから、ご恩の十分の一も返せていません。
それと、学園ではフランソワで構いません。同じ生徒なのですから」
「それではフランソワ様、ありがとうございます」
まだ様付けなのが微妙に不満そうだが、これ以上はさすがに無理だとお互い分かっている。
「失礼、ヴァルハイム卿、もし宜しければ、その斧槍を見せて頂けませんか」
ベルンへ向かう途中で出会った、フランソワの護衛の騎士、第三騎士団ウルド・ドレクスタが話し掛けてきた。
「ウルド殿でしたね。
どうぞ、少々重いかもしれませんが」
ホクトがミカヅチを手渡す。
「っ!?」
片手で手渡されたウルドは、ミカヅチの重さに驚き、慌てて両手で持ち直す。
両手で槍を構えて何とか振るう。
「……こ、これは魔槍、……私ではとてもじゃないが、この槍は振るえませんな。
ありがとうございます」
ミカヅチを受け取り、軽く片手で扱うのを見て、ウルドが尊敬の眼差しでホクトを見る。
「あ、あの、ホクト様、お願いがあるのですが」
側で見ていたフランソワがホクトにおずおずと話し掛ける。
「はい、何でしょうフランソワ様」
「出来れば私と臨時パーティーを組んで頂けませんか」
「おお、それは良い。是非、フランソワ陛下と臨時パーティーを組んで頂けませんか」
ウルドもそれは良いと後押しする。
フランソワからの申し出は、想像出来た事だった。行軍訓練中は、騎士団がフランソワにベッタリと護衛に付く訳ではない。ホクト達が護衛を兼ねてパーティーを組めば安心だろう。
「分かりました。よろしくお願いします」
「フランソワ様、よろしくお願いします」
「おう、よろしく」
「ありがとうございます」
行軍訓練は、四人パーティーで活動する事が決まり、お互いの役割を決める話し合いをした。
秋の行軍訓練は、パーティー単位で出発するのだった。
0
お気に入りに追加
1,454
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
おっさん鍛冶屋の異世界探検記
モッチー
ファンタジー
削除予定でしたがそのまま修正もせずに残してリターンズという事でまた少し書かせてもらってます。
2部まで見なかった事にしていただいても…
30超えてもファンタジーの世界に憧れるおっさんが、早速新作のオンラインに登録しようとしていたら事故にあってしまった。
そこで気づいたときにはゲーム世界の鍛冶屋さんに…
もともと好きだった物作りに打ち込もうとするおっさんの探検記です
ありきたりの英雄譚より裏方のようなお話を目指してます
賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)
鳴海 酒
ファンタジー
【書籍化したい!】賢者イングウェイが転生した先は、女性しか魔法を使えない世界。魔術師の身分を隠しつつ、出会った少女たちとまったり冒険者生活。過去の魔法技術と現代知識を使って無双するインギーは、命の水(酒)をめぐって次元を行き来する。
(作中に飲酒シーンが含まれますが、飲酒キャラは全員、飲酒可能な年齢に達しています。ご了承ください)
鍛冶師ですが何か!
泣き虫黒鬼
ファンタジー
刀鍛冶を目指してた俺が、刀鍛冶になるって日に事故って死亡…仕方なく冥府に赴くと閻魔様と龍神様が出迎えて・・・。
えっ?! 俺間違って死んだの! なんだよそれ・・・。
仕方なく勧められるままに転生した先は魔法使いの人間とその他の種族達が生活している世界で、刀鍛冶をしたい俺はいったいどうすりゃいいのよ?
人間は皆魔法使いで武器を必要としない、そんな世界で鍛冶仕事をしながら獣人やら竜人やらエルフやら色んな人種と交流し、冒険し、戦闘しそんな気ままな話しです。
作者の手癖が悪いのか、誤字脱字が多く申し訳なく思っております。
誤字脱字報告に感謝しつつ、真摯に対応させていただいています。
読者の方からの感想は全て感謝しつつ見させていただき、修正も行っていますが申し訳ありません、一つ一つの感想に返信出来ません。
どうかご了承下さい。
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
製造業 vs ファンタジー
新人
ファンタジー
ジュゼ・ワークスミスは国一番と評される鍛冶屋の息子である。
15歳を迎えた彼は、ついに工房に入ることを許される。
しかし、初めての仕事は失敗に終わり、そのせいで父は詐欺の容疑をかけられてしまう。
没落したワークスミス家は、鍛冶屋を廃業するかどうかの岐路に立たされてしまった。
最後の機会として与えられた仕事は無理難題でどうすることもできない。すがる思いで天に祈るジュゼの前に現れたのは・・・。
[注意]
予告なく、ストーリーを書き換えたり削除する可能性があります。ご承知おきください。
ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~
ぬこまる
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界の食堂と道具屋で働くおじさん・ヤマザキは、武装したお姫様ハニィとともに、腐敗する王国の統治をすることとなる。
ゆったり魔導具作り! 悪者をざまぁ!! 可愛い女の子たちとのラブコメ♡ でおくる痛快感動ファンタジー爆誕!!
※表紙・挿絵の画像はAI生成ツールを使用して作成したものです。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる