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第五十三話 斧槍

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 ホクトの剣が出来たその翌週の休みの日、ガンツの工房にはホクトだけではなく、サクヤとカジムも来ていた。
 それはカジム用の大剣と、サクヤ用のロングソードの拵えが完成したからだ。

「凄えよこれ!」

 黒い大剣を振り回し、カジムが興奮した口調ではしゃいでいる。

 魔力を流した大剣は炎を纏い紅い軌跡を描く。

 獣人族の高い身体能力を活かした大剣の斬撃は、試し斬り用の金属鎧を叩き潰す。

 大剣の柄頭には魔石を加工して魔晶石にして嵌め込まれている。これは魔法剣を発動する時の補助として使われ、継戦能力の向上させる。
 魔力量の少ない獣人族である、カジムのために考えられた仕組みだ。

 カジムには、腕輪型の魔力補給アクセサリーを造ろうとホクトは思っている。 
 大剣の魔晶石と合わせれば、長時間の魔法剣が使えるようになるだろう。





 一方、サクヤも少し細身のロングソードを素振りしてバランスを確認している。
 右手にロングソード、左手にアブソリュートガーディアンの二刀流で使い勝手を確認する。

「うん、重さも丁度良いわね」

 サクヤのために造られた、オーソドックスな少し細身のロングソードは、四方詰めではないがホクトの剣と同じ造り方で作刀されている。

 サクヤのロングソードの拵えも、ホクトの剣とお揃いの地竜の骨にミスリルで装飾している。
 コジリもミスリルで補強され、鞘を使った打撃にも対応している。

 鍔や柄、柄頭、鞘の装飾は、サクヤが持つに相応しい優美な仕上がりになっている。

 ロングソードとショートソードの二刀流の剣舞は、鋭さを増しピタリと剣先が止まる。

「うん、おみごと」

 ホクトがパチパチと手を叩く。

「ありがとうホクト。

 ガンツさん、最高の出来です」

「なに、遣い手あっての剣じゃ」




 カジムは大剣を試すと、ギルドの討伐依頼を受けると出て行った。

「さて、ホクトの斧槍を仕上げるか」

 ガンツとホクトは斧槍の製作に取り掛かる。



 形としては、50センチの笹穂の大身槍に鎌刃が付いている。これだけならただの片鎌槍だが、鎌刃の反対側に、緩いS字を描く分厚い斧刃が付いていた。

 バルディッシュの巨大な斧刃、鎌刃の付いた大身槍。太刀打ちと石突きもオリハルコンで、柄はミスリル合金の総金属製の斧槍を造り上げた。

 全長2メートル70センチの斧槍は、その重量20キロを超える。
 元鬼の持つ武器としては相応しいその重量。


 斧刃と槍刃に、金剛夜叉明王を表す梵字が刻印され、魔力を流すと聖なる雷をその斧と槍に纏う。

 【御雷ミカヅチ】自身に加護を与えてくれた神の名を持つ斧槍。

 突き刺し薙ぎ払う大身槍。
 鎧ごとカチ割る巨大な斧刃。


 試し斬り用の鎧が、ホクトが振るう斧槍の一閃で砕け散る。

「…………人間相手にミカヅチを使うなよ」

「凶悪だね、この斧刃」

「その重い斧槍を、小枝を振るように使うお前がオカシイんだがな」

 この世界、魔物と対峙する事が多いため、それなりに重量武器を使う冒険者や騎士は居る。
 戦鎚や戦斧を振り回す者も、ホクトのように自由自在に得物を扱える者は少ない。

 刺突を繰り返し、薙ぎ払い、石突きで突く。
 斧槍を自分のモノとするために、ひたすら斧槍を振り続ける。足捌き、腰の使い方、捻りと円の動きを刺突の力に変換する。

 急速にホクトの中で、斧と槍の動きが融合していき、最適化されていく。

 ライキリが奏でる音が鋭さを増していく。

 やがて音が遅れ始めるかとも思えるほど、ホクトが振るう斬撃と刺突が鋭さを増す。

 最後に刺突で終えると、見ていたサクヤがタオルを持ってやって来た。

「はい、タオル。
 満足した?そろそろ帰らないと、フローラお義母様がスネるわよ」

 最近、屋敷に居る時間が少ないと、フローラがスネる事が多い。
 フローラとしては、ホクトはまだまだ子供で、親離れするには早いと思っているようだ。
 これも長い時間を掛けて歳を重ねるエルフの感覚なのかもしれない。フローラ自身もエルフとしては子供と認識される年齢だったりする。

「そうだな。最近、ガンツさんの工房に入り浸りだったからな」

「おう、お前達は実際にまだ子供じゃないか。お袋さんは大事にせんといかんぞ。
 今日はもう帰れ。革鎧はまだ時間がかかるからな」

「じゃあここまでの分を清算して置くね」

 ホクトが白金貨10枚をガンツに渡す。

「本当にこの値段で良いんですか?」

 サクヤが安すぎる値段に念を押すように聞く。
 白金貨10枚は大金だが、オリハルコン、ミスリル、アダマンタイトと、試作を含めれば、それどころではない金額が掛かっている。

「なに、ほとんどお前達と採掘した物だ。
 それに、ホクトからは金額以上のモノを儂が貰ったからの。コッチが払わんといかんくらいじゃ。

 革鎧用の地竜やワイバーン、オーガの素材が余るじゃろうから、鎧の代金は素材を売却すれば、逆に金は戻せると思うぞ」

 多少手元に素材を残しても、三人では使い切れないほどの素材はある。高額で取引される竜素材は、三人の鎧代を払ってもお釣りが来るくらい高く売れるのだ。

「分かったよガンツさん。
 じゃあ、知り合いの皮職人さんの都合がついたら連絡してよ」

「あゝ、もう少し時間がかかるが、その時は報せよう」

 ガンツに挨拶してホクトはサクヤと屋敷へ帰る。

 ホクトは、籠手に魔導具を組み込む積もりなので、どうせ時間は暫く先でも問題はなかった。

「嬉しそうだね」

 左腰のロングソードを時折見ながら、ニコニコするサクヤ。剣に特別こだわりはない筈だけどとホクトは珍しいモノを見た思いだった。

「そうね、こんなに綺麗なロングソードって初めて見たもの。白銀の刀身といい、美しい刃文といい、鞘の拵えも優美でしょう」

「確かに、サクヤにとても似合ってるよ」

 周りに人が居れば、砂糖を吐きそうな甘い雰囲気を醸し出しながら、王都を二人並んで歩いて帰った。



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