45 / 82
第四十四話 ベルンへその二
しおりを挟む
まるで夢でも見ているようだった。
それは突然の事だった。
見通しの悪い曲がり道に差し掛かった時、突然左右から矢の雨が降り注いだのだ。
盗賊の襲撃だ。
こんな場所でと歯噛みする。何故ならこの場所は何処の街へも距離がある。助けを求める事は難しい。
我等護衛の騎士二十名はすぐさま盾を掲げ馬車を護る。
時間が経つにつれ、護衛の騎士が倒れていく。
個の力では負けはしないが、倍以上の人数差がある私達はジリ貧に陥りつつあった。
もうこれまでかと思ったその時、盗賊に魔法を降り注いだ。
「助太刀します!」
その場にそぐわない少年の声が響く。
次の瞬間、濃い灰色のローブのフードを被った二人と大剣を振り被る獣人族の少年が、馬車を囲む盗賊に襲いかかった。
「な?! オメェら迎え討て!!」
そこからは魔法が降り注ぎ盗賊達は大混乱に陥った。
「オラッ!」
獣人族の男が大剣を横薙ぎに振るい、盗賊を三人まとめて吹き飛ばした。
フードを被った二人はあきらかに大人の体格ではなかったが、少年の舞うような剣捌き、少女が使う不思議な魔導具による結界と法撃。
五十人以上居た盗賊は何時の間にか全て倒されていた。
少女らしき人物は戦いながら、倒れた騎士達へ治癒魔法を掛けていた。
やがて三人が近寄って来る。助けて貰った事は分かっているが、自然と私達は剣を持つ手に力が入る。
「あ~、見た事ある紋章だな~」
「そうね、多分ホクトの正解よ」
「??」
盗賊に襲われていた豪華な馬車には、ホクトとサクヤが見知った、いや、ロマリア王国の貴族なら知っていて当然の紋章が刻まれていた。
「助太刀感謝致す。私はロマリア王国第三騎士団ウルド・ドレクスタ、貴方達は?」
馬車を護る騎士の一人がホクト達を誰何して来た。
ホクトとサクヤが被っていたフードを外す。
騎士達が息を呑むのが分かった。
「カイン・フォン・ヴァルハイム子爵の三男、ホクト・フォン・ヴァルハイム男爵です」
「エルビス・フォン・アーレンベルク辺境伯の義娘、サクヤ・アーレンベルクです」
「俺はホクトアニキの弟子、バーキラ王国のバルガ氏族のカジムだ」
ホクトとサクヤが顔を見せた瞬間に驚いた騎士達の顔は、その後ホクト達が自己紹介した途端に愕然とした顔に変わる。
「ヴァルハイム男爵に、アーレンベルク辺境伯の義娘殿?!」
その時、馬車から一人の少女が降りて来た。
「ホクト様、サクヤ様、カジム様、この度は助けていただきありがとうございます」
馬車から降りて来たのは、王立ロマリア学園一学年Aクラスのクラスメートであり、ロマリア王国第四王女フランソワ・ロマリアだった。
「フランソワ様、ご無事でなによりです」
「お怪我はございませんか?」
ホクトとサクヤがフランソワの前で跪く。
「どうぞお立ち下さい。
私達はクラスメートなのですから。何時もの様に接して下さい。それにホクト様達は私の命の恩人なのですから」
盗賊に襲われて余程怖かったのだろう。青い顔をしていたフランソワだが、ホクト達を見て少し安心したのか、ホッとした様子をみせる。
「それで、ホクト様達はどうして此処に?」
「僕達はベルンへ行く途中です。そこで偶然盗賊に襲われている馬車を見つけたもので……」
「フランソワ様、この場は早く離れた方が良いと思われます。血の匂いで魔物が集まって来るかもしれません」
ホクトがフランソワに説明していると、護衛の騎士がこの場を早く離れるべきと進言して来た。
「私達もベルンへ行く途中なのですから、それならホクト様達もご一緒にいかがですか?」
そこでホクトが首を横に振る。
「フランソワ様、僕達は盗賊達の後始末をしますので、フランソワ様はお先にどうぞ」
「ヴァルハイム卿、かたじけない」
フランソワは残念な様子だったが、さすがに盗賊の死体が散乱するこの場を一刻も早く離れたい気持ちも大きかったのだろう。馬車に乗り込み離れて行った。
「さて、何人生き残ってる?」
「アニキ、五人息があるぞ。こいつらどうするんだ?」
カジムが息がある気絶した盗賊を集めて来る。
「アジトを聞き出して潰しておかないと、街道を利用する商人達が、また襲われるかもしれないからね」
ホクトは、カジムが縛りあげた盗賊に近付き尋問する。
「お前達のアジトは何処にある」
「クソッ!ガキどもが、離しやがれ!」
「俺達にこんな事してどうなるか分かってんのか!」
悪態を吐く縛られた盗賊達を苦笑するホクト。
「バカはお前達だろ。周りをよく見てみろ」
そこで漸く事態が飲み込めた盗賊達の顔が青くなる。
「尋問するのも面倒だな」
ホクトはそう言うと闇魔法のヒュプノスを使う。
騒いでいた盗賊達が眠りにおちる。
闇魔法ヒュプノス、それは眠りの中で自在に操る魔法。それを使いアジトの場所を聞き出すホクト。
「めぼしい物は回収したぜアニキ!」
盗賊の死体を集め、カジムがステータスプレートと金目の物を回収していた。生き残っていた五人も二度と目覚める事はない。ここが街から遠かった事が盗賊の運命を決めた。
「じゃあアジトへ行くか」
幸いにしてアジトに盗賊の被害者は居ない事は確認出来た。アジトに残るのは10人の留守番役だけだ。
サクヤが積み上げられた盗賊の死体を、骨が灰になるまで燃やし尽くす。
その後、アジトを急襲したホクト達は、盗賊がアジトに貯め込んだ金目の物を回収する。
「主要な街道沿いを縄張りにしていただけあって、なかなか稼いでいたみたいだな」
「現金と宝石に魔導具か、儲けたなアニキ」
「食料やお酒は焼いちゃうわね」
サクヤが盗賊のアジトで不必要な物を焼却する。
「さて、遅れた分ペースを上げるぞ」
「げっ!マジで!」
アジトを潰したあと、ホクトが爽やかに言い放った言葉にカジムの顔が凍りつく。
再び人外の速度で疾走し始めたホクト達は、馬車で十日かかるベルンへ四日でたどり着いた。
それは突然の事だった。
見通しの悪い曲がり道に差し掛かった時、突然左右から矢の雨が降り注いだのだ。
盗賊の襲撃だ。
こんな場所でと歯噛みする。何故ならこの場所は何処の街へも距離がある。助けを求める事は難しい。
我等護衛の騎士二十名はすぐさま盾を掲げ馬車を護る。
時間が経つにつれ、護衛の騎士が倒れていく。
個の力では負けはしないが、倍以上の人数差がある私達はジリ貧に陥りつつあった。
もうこれまでかと思ったその時、盗賊に魔法を降り注いだ。
「助太刀します!」
その場にそぐわない少年の声が響く。
次の瞬間、濃い灰色のローブのフードを被った二人と大剣を振り被る獣人族の少年が、馬車を囲む盗賊に襲いかかった。
「な?! オメェら迎え討て!!」
そこからは魔法が降り注ぎ盗賊達は大混乱に陥った。
「オラッ!」
獣人族の男が大剣を横薙ぎに振るい、盗賊を三人まとめて吹き飛ばした。
フードを被った二人はあきらかに大人の体格ではなかったが、少年の舞うような剣捌き、少女が使う不思議な魔導具による結界と法撃。
五十人以上居た盗賊は何時の間にか全て倒されていた。
少女らしき人物は戦いながら、倒れた騎士達へ治癒魔法を掛けていた。
やがて三人が近寄って来る。助けて貰った事は分かっているが、自然と私達は剣を持つ手に力が入る。
「あ~、見た事ある紋章だな~」
「そうね、多分ホクトの正解よ」
「??」
盗賊に襲われていた豪華な馬車には、ホクトとサクヤが見知った、いや、ロマリア王国の貴族なら知っていて当然の紋章が刻まれていた。
「助太刀感謝致す。私はロマリア王国第三騎士団ウルド・ドレクスタ、貴方達は?」
馬車を護る騎士の一人がホクト達を誰何して来た。
ホクトとサクヤが被っていたフードを外す。
騎士達が息を呑むのが分かった。
「カイン・フォン・ヴァルハイム子爵の三男、ホクト・フォン・ヴァルハイム男爵です」
「エルビス・フォン・アーレンベルク辺境伯の義娘、サクヤ・アーレンベルクです」
「俺はホクトアニキの弟子、バーキラ王国のバルガ氏族のカジムだ」
ホクトとサクヤが顔を見せた瞬間に驚いた騎士達の顔は、その後ホクト達が自己紹介した途端に愕然とした顔に変わる。
「ヴァルハイム男爵に、アーレンベルク辺境伯の義娘殿?!」
その時、馬車から一人の少女が降りて来た。
「ホクト様、サクヤ様、カジム様、この度は助けていただきありがとうございます」
馬車から降りて来たのは、王立ロマリア学園一学年Aクラスのクラスメートであり、ロマリア王国第四王女フランソワ・ロマリアだった。
「フランソワ様、ご無事でなによりです」
「お怪我はございませんか?」
ホクトとサクヤがフランソワの前で跪く。
「どうぞお立ち下さい。
私達はクラスメートなのですから。何時もの様に接して下さい。それにホクト様達は私の命の恩人なのですから」
盗賊に襲われて余程怖かったのだろう。青い顔をしていたフランソワだが、ホクト達を見て少し安心したのか、ホッとした様子をみせる。
「それで、ホクト様達はどうして此処に?」
「僕達はベルンへ行く途中です。そこで偶然盗賊に襲われている馬車を見つけたもので……」
「フランソワ様、この場は早く離れた方が良いと思われます。血の匂いで魔物が集まって来るかもしれません」
ホクトがフランソワに説明していると、護衛の騎士がこの場を早く離れるべきと進言して来た。
「私達もベルンへ行く途中なのですから、それならホクト様達もご一緒にいかがですか?」
そこでホクトが首を横に振る。
「フランソワ様、僕達は盗賊達の後始末をしますので、フランソワ様はお先にどうぞ」
「ヴァルハイム卿、かたじけない」
フランソワは残念な様子だったが、さすがに盗賊の死体が散乱するこの場を一刻も早く離れたい気持ちも大きかったのだろう。馬車に乗り込み離れて行った。
「さて、何人生き残ってる?」
「アニキ、五人息があるぞ。こいつらどうするんだ?」
カジムが息がある気絶した盗賊を集めて来る。
「アジトを聞き出して潰しておかないと、街道を利用する商人達が、また襲われるかもしれないからね」
ホクトは、カジムが縛りあげた盗賊に近付き尋問する。
「お前達のアジトは何処にある」
「クソッ!ガキどもが、離しやがれ!」
「俺達にこんな事してどうなるか分かってんのか!」
悪態を吐く縛られた盗賊達を苦笑するホクト。
「バカはお前達だろ。周りをよく見てみろ」
そこで漸く事態が飲み込めた盗賊達の顔が青くなる。
「尋問するのも面倒だな」
ホクトはそう言うと闇魔法のヒュプノスを使う。
騒いでいた盗賊達が眠りにおちる。
闇魔法ヒュプノス、それは眠りの中で自在に操る魔法。それを使いアジトの場所を聞き出すホクト。
「めぼしい物は回収したぜアニキ!」
盗賊の死体を集め、カジムがステータスプレートと金目の物を回収していた。生き残っていた五人も二度と目覚める事はない。ここが街から遠かった事が盗賊の運命を決めた。
「じゃあアジトへ行くか」
幸いにしてアジトに盗賊の被害者は居ない事は確認出来た。アジトに残るのは10人の留守番役だけだ。
サクヤが積み上げられた盗賊の死体を、骨が灰になるまで燃やし尽くす。
その後、アジトを急襲したホクト達は、盗賊がアジトに貯め込んだ金目の物を回収する。
「主要な街道沿いを縄張りにしていただけあって、なかなか稼いでいたみたいだな」
「現金と宝石に魔導具か、儲けたなアニキ」
「食料やお酒は焼いちゃうわね」
サクヤが盗賊のアジトで不必要な物を焼却する。
「さて、遅れた分ペースを上げるぞ」
「げっ!マジで!」
アジトを潰したあと、ホクトが爽やかに言い放った言葉にカジムの顔が凍りつく。
再び人外の速度で疾走し始めたホクト達は、馬車で十日かかるベルンへ四日でたどり着いた。
0
お気に入りに追加
1,454
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
【完結】すっぽんじゃなくて太陽の女神です
土広真丘
ファンタジー
三千年の歴史を誇る神千皇国の皇帝家に生まれた日香。
皇帝家は神の末裔であり、一部の者は先祖返りを起こして神の力に目覚める。
月の女神として覚醒した双子の姉・月香と比較され、未覚醒の日香は無能のすっぽんと揶揄されている。
しかし実は、日香は初代皇帝以来の三千年振りとなる太陽の女神だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる