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第四十話 指名依頼
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ヴィルハイム領へ帰省し、実家に戻って来たホクトを待っていたのは、兄のアルバンからの頼みごとだった。
「でもホクトがこのタイミングで帰って来てくれて助かったよ」
領主代理を務める兄のアルバンから執務室へ呼び出されたホクトが、ホッとした顔の兄から言われた言葉に首をかしげるホクト。
「どう言うことですか兄上?」
「せっかくの夏季休暇に帰省したホクトには悪いと思うんだけど、頼まれて欲しい事があるんだ」
アルバンの様子から厄介ごとの匂いがする。
「頼みたいことですか?」
余り聞きたくないが、アルバンに内容を聞いてみる。
「あゝ、実はここからそう遠くない場所で、オーガの群れが見つかったんだ」
「オーガが群れを…………」
アルバンのその言葉だけで、ホクトの顔が険しくなる。
オーガは本来、群れで行動する習性を持たない。そのオーガが群れを作っていると言う事は、考えられる理由は一つだった。
「……上位種ですか」
そう、オーガの群れが見つかったと言う事は、通常のオーガ達を支配する上位種が生まれているという事だった。
オーガとは、3メートルを超える体長に、非常に硬い皮膚と強靭な肉体を持つ狂暴な魔物である。
冒険者ギルドでは、単体での討伐依頼ランクはDランクだが、群れとなると支配種が必ず存在する事もありBランク推奨の依頼となる。
「ホクトも知ってる様に、ヴィルハイム領にはそれ程強い冒険者が居ないよね。最悪、僕やジョシュアが兵士達を率いてでも討伐しないといけないんだけど、被害を考えるとね……。そう悩んでいた時にホクトが帰って来てくれたんだよ。
僕は、思わず僕は神に感謝したよ」
ヴィルハイム領周辺には強力な魔物が出没する事は少ない。腕の立つ冒険者は、ロマリア王国の北にある【死の森】に近いベルバッハ伯爵領の街ボルトアに集まる。ヴィルハイム領に居る冒険者はせいぜいCランクだった。
(オーガか…………、この世界に来ても鬼とは縁が切れないんだな)
転生を繰り返して宿業から解き放たれても、鬼との縁がついて回る因縁の強さを感じていた。
「……そうですね、領軍でも大きな被害が出るでしょうね」
「あゝ、確かホクトとサクヤは冒険者ランクはDランクだったよね。本来ならホクト達に指名依頼出来ないんだけど、ギルドに要請して特例で指名依頼としてホクト達が受理出来る様に手配するよ」
ホクト達は現在Dランク、2ランク上のBランクの討伐依頼は受けられない。
アルバンとしては、ホクトとサクヤは、実力で言えばAランクを超える力を持っているが、DランクからCランクへのランクアップには、ギルドの昇格試験を受けなければならない。
冒険者ランクは、一般的にDランクで一人前と認められる。その上でCランクから試験が行われる理由は、Cランクの依頼から、盗賊などの人間相手の討伐依頼があるからだ。
護衛依頼はDランクからあるが、身を守るために人間を相手に戦う事と、積極的に人間を討伐対象と出来るかがCランクへの壁となっている。
「わかりましたアルバン兄上。
その依頼、僕達で受けましょう」
ホクトがそう言うと、アルバンはホッとして椅子の背に体を預ける。
「そうか、正直助かるよ。
唯のオーガなら僕達でも対処出来ただろうけど、上位種が率いる群れとなると、ヴィルハイム領が壊滅していたかもしれないからね」
ヴィルハイム領軍は決して弱くない。むしろ辺境で他国と接している事もあり、練度も高く、実際戦争でも活躍して来た。
だがゴブリンやオークならまだしも、オーガの群れとなると話は変わって来る。
他国と接するヴィルハイム領軍が大きな被害を受ける事は許されないのだ。
その後、オーガの目撃情報があった場所を聞き出し、思いのほか近い場所だったことで、早速、明日冒険者ギルドで指名依頼の手続きをして、討伐に出る事に決まった。
「いや~、アニキについて来たらオーガ退治なんて、ついてるぜ~!」
冒険者ギルドへの道すがら、ウキウキしているカジムが背中に背負った大剣の柄を握る。
「街中で抜くなよ」
「勿論だぜアニキ。
でもアニキと姐さんがフードで顔を隠さずに歩いてるなんて珍しいな」
「それはそうよ、私達はこの街の冒険者ギルドで10歳から活動してるのよ」
薄っすらとピンクがかった銀髪を揺らし、最近グッと女らしい身体つきに成長しているサクヤが言う。
街のあちこちで、ホクトとサクヤに声が掛かる。
この街限定だが、万人の目を引く容姿を持つエルフの二人に対して、嫉妬や妬みの視線は少ない。
街の領民と挨拶を交わしながら冒険者ギルドの前まで歩いてたどり着く。
貴族としては、馬車を使うべきなのだが、ホクトとサクヤは、冒険者として活動する時は、一冒険者として振る舞う事に決めている。
「ホクト君!サクヤちゃん!帰ってたの!」
ギルドに入ると、受付嬢が直ぐにホクトとサクヤを見つけて声をかけて来た。
時間帯を外していたので、ギルドの中は閑散としていたが、依頼書を見ていた冒険者や、酒場で昼から酒を飲んでいた冒険者の中には、ホクト達と顔見知りも居て軽く挨拶を交わす。
中にはホクトとサクヤを初めて見る冒険者も居て、ちょっかいをかけそうになったが、背後にカジムが居たせいで事なきを得た。
「ご無沙汰しています。今日は兄上からの指名依頼の話で寄らせて貰いました」
ホクトがアルバンから預かった書類を取り出し渡す。
「…………はぁ、仕方ないですよね。
確かに今のヴィルハイム領内に、この依頼を受けれる冒険者は居ませんし、騎士団ではどれだけ被害が出るか分かりませんものね。
今わかっている情報をお知らせしますね。
オーガの総数は、約10体。
単独行動が基本のオーガが群れていると言う事で、上位種が存在していると推測されます。
ホクト君とサクヤちゃんなら大丈夫だと思いますが、くれぐれも気をつけて下さいね。
後はギルドのほうで書類を処理して置きます」
「分かりました。
明日の朝一から出発します。オーガ目撃情報のある周辺には立ち入らない様に注意喚起をお願いします」
ホクト達は冒険者ギルドで指名依頼の書類処理を終えて、一旦屋敷へと帰った。
「でもホクトがこのタイミングで帰って来てくれて助かったよ」
領主代理を務める兄のアルバンから執務室へ呼び出されたホクトが、ホッとした顔の兄から言われた言葉に首をかしげるホクト。
「どう言うことですか兄上?」
「せっかくの夏季休暇に帰省したホクトには悪いと思うんだけど、頼まれて欲しい事があるんだ」
アルバンの様子から厄介ごとの匂いがする。
「頼みたいことですか?」
余り聞きたくないが、アルバンに内容を聞いてみる。
「あゝ、実はここからそう遠くない場所で、オーガの群れが見つかったんだ」
「オーガが群れを…………」
アルバンのその言葉だけで、ホクトの顔が険しくなる。
オーガは本来、群れで行動する習性を持たない。そのオーガが群れを作っていると言う事は、考えられる理由は一つだった。
「……上位種ですか」
そう、オーガの群れが見つかったと言う事は、通常のオーガ達を支配する上位種が生まれているという事だった。
オーガとは、3メートルを超える体長に、非常に硬い皮膚と強靭な肉体を持つ狂暴な魔物である。
冒険者ギルドでは、単体での討伐依頼ランクはDランクだが、群れとなると支配種が必ず存在する事もありBランク推奨の依頼となる。
「ホクトも知ってる様に、ヴィルハイム領にはそれ程強い冒険者が居ないよね。最悪、僕やジョシュアが兵士達を率いてでも討伐しないといけないんだけど、被害を考えるとね……。そう悩んでいた時にホクトが帰って来てくれたんだよ。
僕は、思わず僕は神に感謝したよ」
ヴィルハイム領周辺には強力な魔物が出没する事は少ない。腕の立つ冒険者は、ロマリア王国の北にある【死の森】に近いベルバッハ伯爵領の街ボルトアに集まる。ヴィルハイム領に居る冒険者はせいぜいCランクだった。
(オーガか…………、この世界に来ても鬼とは縁が切れないんだな)
転生を繰り返して宿業から解き放たれても、鬼との縁がついて回る因縁の強さを感じていた。
「……そうですね、領軍でも大きな被害が出るでしょうね」
「あゝ、確かホクトとサクヤは冒険者ランクはDランクだったよね。本来ならホクト達に指名依頼出来ないんだけど、ギルドに要請して特例で指名依頼としてホクト達が受理出来る様に手配するよ」
ホクト達は現在Dランク、2ランク上のBランクの討伐依頼は受けられない。
アルバンとしては、ホクトとサクヤは、実力で言えばAランクを超える力を持っているが、DランクからCランクへのランクアップには、ギルドの昇格試験を受けなければならない。
冒険者ランクは、一般的にDランクで一人前と認められる。その上でCランクから試験が行われる理由は、Cランクの依頼から、盗賊などの人間相手の討伐依頼があるからだ。
護衛依頼はDランクからあるが、身を守るために人間を相手に戦う事と、積極的に人間を討伐対象と出来るかがCランクへの壁となっている。
「わかりましたアルバン兄上。
その依頼、僕達で受けましょう」
ホクトがそう言うと、アルバンはホッとして椅子の背に体を預ける。
「そうか、正直助かるよ。
唯のオーガなら僕達でも対処出来ただろうけど、上位種が率いる群れとなると、ヴィルハイム領が壊滅していたかもしれないからね」
ヴィルハイム領軍は決して弱くない。むしろ辺境で他国と接している事もあり、練度も高く、実際戦争でも活躍して来た。
だがゴブリンやオークならまだしも、オーガの群れとなると話は変わって来る。
他国と接するヴィルハイム領軍が大きな被害を受ける事は許されないのだ。
その後、オーガの目撃情報があった場所を聞き出し、思いのほか近い場所だったことで、早速、明日冒険者ギルドで指名依頼の手続きをして、討伐に出る事に決まった。
「いや~、アニキについて来たらオーガ退治なんて、ついてるぜ~!」
冒険者ギルドへの道すがら、ウキウキしているカジムが背中に背負った大剣の柄を握る。
「街中で抜くなよ」
「勿論だぜアニキ。
でもアニキと姐さんがフードで顔を隠さずに歩いてるなんて珍しいな」
「それはそうよ、私達はこの街の冒険者ギルドで10歳から活動してるのよ」
薄っすらとピンクがかった銀髪を揺らし、最近グッと女らしい身体つきに成長しているサクヤが言う。
街のあちこちで、ホクトとサクヤに声が掛かる。
この街限定だが、万人の目を引く容姿を持つエルフの二人に対して、嫉妬や妬みの視線は少ない。
街の領民と挨拶を交わしながら冒険者ギルドの前まで歩いてたどり着く。
貴族としては、馬車を使うべきなのだが、ホクトとサクヤは、冒険者として活動する時は、一冒険者として振る舞う事に決めている。
「ホクト君!サクヤちゃん!帰ってたの!」
ギルドに入ると、受付嬢が直ぐにホクトとサクヤを見つけて声をかけて来た。
時間帯を外していたので、ギルドの中は閑散としていたが、依頼書を見ていた冒険者や、酒場で昼から酒を飲んでいた冒険者の中には、ホクト達と顔見知りも居て軽く挨拶を交わす。
中にはホクトとサクヤを初めて見る冒険者も居て、ちょっかいをかけそうになったが、背後にカジムが居たせいで事なきを得た。
「ご無沙汰しています。今日は兄上からの指名依頼の話で寄らせて貰いました」
ホクトがアルバンから預かった書類を取り出し渡す。
「…………はぁ、仕方ないですよね。
確かに今のヴィルハイム領内に、この依頼を受けれる冒険者は居ませんし、騎士団ではどれだけ被害が出るか分かりませんものね。
今わかっている情報をお知らせしますね。
オーガの総数は、約10体。
単独行動が基本のオーガが群れていると言う事で、上位種が存在していると推測されます。
ホクト君とサクヤちゃんなら大丈夫だと思いますが、くれぐれも気をつけて下さいね。
後はギルドのほうで書類を処理して置きます」
「分かりました。
明日の朝一から出発します。オーガ目撃情報のある周辺には立ち入らない様に注意喚起をお願いします」
ホクト達は冒険者ギルドで指名依頼の書類処理を終えて、一旦屋敷へと帰った。
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