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第二十二話 王都散策
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遠目から見る王都に圧倒されるホクトとサクヤ。
「大きいな…………」
「……大きいわね」
現代の何百万人もの人口を誇る日本の都市を知っているホクトとサクヤにとって、人口で比べれば地方都市にも遥かに少ない人口の王都だが、アーレンベルク辺境伯の領都アールスタットに比べれば、その城壁は低いが、その規模は驚くばかりだった。
「ククッ、ホクトが驚いているのを見ると子供だと実感するね」
「いえ、僕はちゃんと子供ですよ」
少しふて腐れた様に言うホクトに皆んなが笑う。
ホクトやサクヤも自覚しているのだが、精神が肉体に引っ張られるのか、十二歳のホクト達は大人びた子供位の感じに落ち着いている。
王都の門を貴族用の列に並び王都ローマンブルクに入った。
ローマンブルクは北に第二十五代国王、ヘルムート・ロマリアの居城ローマンブルク城があり、その周りに貴族街がある。
ホクト達は王都の南門を抜け、商人街や職人街を通り過ぎ北の貴族街へと進む。
ヴァルハイム家の屋敷は、貴族街の端に近い場所にある。子爵となって少し王城に近い場所に引越したのだが、それでも成り上がりの貴族が大きな顔で高位貴族家の屋敷近くに居を構えるのは、色々な軋轢を生む為、ワザと貴族街の端の方に屋敷を求めた。
「さあ、着いたぞ」
「……立派過ぎないですか?」
屋敷に着くと馬車から降りたホクトは、領地の屋敷より遥かに大きな屋敷に驚く。
「おかえりなさい」
「「「「おかえりなさいませ」」」」
迎えに出て来た第一夫人のジェシカと使用人達がカイン達を出迎える。
「ただいま。何か問題はなかったか」
「ええ、少々ホクトの噂が社交界で流れている程度かしら」
ジェシカがホクトを見てウインクする。ホクトはやれやれと首を横に振る。
「ジェシカ義母上、お久しぶりです。
噂についてはあまり聞きたくないですが、まあ避けられないのでしょうね」
「こんな所で何時迄も立ち話もアレだから、屋敷にお入りなさいな」
げんなりとするホクトにジェシカがニコニコしながら屋敷へ誘う。
使用人が馬車から荷物を運び入れる中、やれやれと屋敷へと入って行くホクト。どんな噂が広がってるんだろうなと憂鬱になる。
翌日、ホクトとサクヤは何時もの様にローブのフードを目深に被り屋敷を出た。二人の少し後ろにはアマリエが同行している。
ホクト自身は男爵になり、サクヤもアーレンベルク辺境伯の義娘となった今、お付きも連れずに出歩くのは有り得ないとジェシカがアマリエを連れて行く様に言った。ホクト達はお忍びで出掛けるのだし、ヴァルハイム領では冒険者として自由に出歩いていたので、不自由で仕方がなかった。
貴族街を抜けて職人街の一画にその工房はあった。
「ホクト様、ガンツ殿の工房はこちらです」
カインからガンツの工房の場所を聞いていたアマリエが指し示したのは、神匠の工房とは思えないこじんまりとした建物だった。
「何だか雰囲気はあるね」
その工房は人を寄せ付けない威圧感が漂っていた。
「ごめんくださいー!」
「ごめんくださいーー!!」
「えーーい!聞こえとるわ!」
返事がないので何度か呼んでいると、工房の奥から低い低音の声が響く。中から出て来たのは、身長約160センチ、ビア樽の様な太い身体に太い筋肉質の腕と短い脚、立派な髭をたくわえたドワーフが現れた。
「なんじゃ子供か。ここは子供の来る所じゃねえぞ」
十二歳にしては高めの身長だが、ローブのフードを目深に被ったホクトとサクヤは、どこから見ても子供だと分かった。
「ガンツさんですね。紹介状預かっているのですが」
ホクトがカインから預かった紹介状をガンツに渡す。
「……ん?」
ガンツは紹介状を受け取り中を確認する。
「ん?お前カインの息子か?」
「はい、カインの三男ホクトといいます」
「私はバグスの娘、サクヤと申します」
ホクトとサクヤがフードを取りローブを脱いでアマリエに渡し自己紹介をする。ガンツにとってはカインが貴族になった事も関係ないだろうと思い、ホクトも名前だけの挨拶をした。
「おお、お嬢ちゃんはバグスの娘か。カインの息子にバグスの娘か……、奴等の子供が儂の工房へ来るか……感慨深いものがあるのぅ」
ガンツは二人がエルフだとわかっても驚かなかった。フローラやエヴァとも顔見知りなら当然かもしれない。ガンツはカイン達の事を懐かしむ様にしみじみと呟いた。
「それで、儂に何の用じゃ……、と言っても鍛冶屋に来る目的はひとつだわな」
「はい、僕と彼女の装備を造って貰いたいのですが」
「先ず、剣を振ってみろ」
いきなりガンツに言われて少し戸惑ったが、必要な事なのだろうと、先ずはサクヤが少し離れると二本のショートソードを抜き放ち、基本の型を繰り返す。
「……ふむ、次は坊主だ」
サクヤが剣を鞘に収めてホクトから離れる。
ガンツに指名されたホクトは、左足を引くと腰を少し落とし、抜き打ちからの袈裟懸け、逆袈裟からから竹割り、横薙ぎとユッタリと剣を振るう。
一通り剣を振るって鞘に剣を収める。
「…………うむ、それじゃあ奥へ来い」
そう言うとガンツは工房の奥へと入って行く。
ホクトとサクヤはお互い顔を見合わせ、頷くとガンツの後を追った。
「大きいな…………」
「……大きいわね」
現代の何百万人もの人口を誇る日本の都市を知っているホクトとサクヤにとって、人口で比べれば地方都市にも遥かに少ない人口の王都だが、アーレンベルク辺境伯の領都アールスタットに比べれば、その城壁は低いが、その規模は驚くばかりだった。
「ククッ、ホクトが驚いているのを見ると子供だと実感するね」
「いえ、僕はちゃんと子供ですよ」
少しふて腐れた様に言うホクトに皆んなが笑う。
ホクトやサクヤも自覚しているのだが、精神が肉体に引っ張られるのか、十二歳のホクト達は大人びた子供位の感じに落ち着いている。
王都の門を貴族用の列に並び王都ローマンブルクに入った。
ローマンブルクは北に第二十五代国王、ヘルムート・ロマリアの居城ローマンブルク城があり、その周りに貴族街がある。
ホクト達は王都の南門を抜け、商人街や職人街を通り過ぎ北の貴族街へと進む。
ヴァルハイム家の屋敷は、貴族街の端に近い場所にある。子爵となって少し王城に近い場所に引越したのだが、それでも成り上がりの貴族が大きな顔で高位貴族家の屋敷近くに居を構えるのは、色々な軋轢を生む為、ワザと貴族街の端の方に屋敷を求めた。
「さあ、着いたぞ」
「……立派過ぎないですか?」
屋敷に着くと馬車から降りたホクトは、領地の屋敷より遥かに大きな屋敷に驚く。
「おかえりなさい」
「「「「おかえりなさいませ」」」」
迎えに出て来た第一夫人のジェシカと使用人達がカイン達を出迎える。
「ただいま。何か問題はなかったか」
「ええ、少々ホクトの噂が社交界で流れている程度かしら」
ジェシカがホクトを見てウインクする。ホクトはやれやれと首を横に振る。
「ジェシカ義母上、お久しぶりです。
噂についてはあまり聞きたくないですが、まあ避けられないのでしょうね」
「こんな所で何時迄も立ち話もアレだから、屋敷にお入りなさいな」
げんなりとするホクトにジェシカがニコニコしながら屋敷へ誘う。
使用人が馬車から荷物を運び入れる中、やれやれと屋敷へと入って行くホクト。どんな噂が広がってるんだろうなと憂鬱になる。
翌日、ホクトとサクヤは何時もの様にローブのフードを目深に被り屋敷を出た。二人の少し後ろにはアマリエが同行している。
ホクト自身は男爵になり、サクヤもアーレンベルク辺境伯の義娘となった今、お付きも連れずに出歩くのは有り得ないとジェシカがアマリエを連れて行く様に言った。ホクト達はお忍びで出掛けるのだし、ヴァルハイム領では冒険者として自由に出歩いていたので、不自由で仕方がなかった。
貴族街を抜けて職人街の一画にその工房はあった。
「ホクト様、ガンツ殿の工房はこちらです」
カインからガンツの工房の場所を聞いていたアマリエが指し示したのは、神匠の工房とは思えないこじんまりとした建物だった。
「何だか雰囲気はあるね」
その工房は人を寄せ付けない威圧感が漂っていた。
「ごめんくださいー!」
「ごめんくださいーー!!」
「えーーい!聞こえとるわ!」
返事がないので何度か呼んでいると、工房の奥から低い低音の声が響く。中から出て来たのは、身長約160センチ、ビア樽の様な太い身体に太い筋肉質の腕と短い脚、立派な髭をたくわえたドワーフが現れた。
「なんじゃ子供か。ここは子供の来る所じゃねえぞ」
十二歳にしては高めの身長だが、ローブのフードを目深に被ったホクトとサクヤは、どこから見ても子供だと分かった。
「ガンツさんですね。紹介状預かっているのですが」
ホクトがカインから預かった紹介状をガンツに渡す。
「……ん?」
ガンツは紹介状を受け取り中を確認する。
「ん?お前カインの息子か?」
「はい、カインの三男ホクトといいます」
「私はバグスの娘、サクヤと申します」
ホクトとサクヤがフードを取りローブを脱いでアマリエに渡し自己紹介をする。ガンツにとってはカインが貴族になった事も関係ないだろうと思い、ホクトも名前だけの挨拶をした。
「おお、お嬢ちゃんはバグスの娘か。カインの息子にバグスの娘か……、奴等の子供が儂の工房へ来るか……感慨深いものがあるのぅ」
ガンツは二人がエルフだとわかっても驚かなかった。フローラやエヴァとも顔見知りなら当然かもしれない。ガンツはカイン達の事を懐かしむ様にしみじみと呟いた。
「それで、儂に何の用じゃ……、と言っても鍛冶屋に来る目的はひとつだわな」
「はい、僕と彼女の装備を造って貰いたいのですが」
「先ず、剣を振ってみろ」
いきなりガンツに言われて少し戸惑ったが、必要な事なのだろうと、先ずはサクヤが少し離れると二本のショートソードを抜き放ち、基本の型を繰り返す。
「……ふむ、次は坊主だ」
サクヤが剣を鞘に収めてホクトから離れる。
ガンツに指名されたホクトは、左足を引くと腰を少し落とし、抜き打ちからの袈裟懸け、逆袈裟からから竹割り、横薙ぎとユッタリと剣を振るう。
一通り剣を振るって鞘に剣を収める。
「…………うむ、それじゃあ奥へ来い」
そう言うとガンツは工房の奥へと入って行く。
ホクトとサクヤはお互い顔を見合わせ、頷くとガンツの後を追った。
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