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第九話 魔法を習う

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 午前中の剣の修行が終わると、昼食と少しの座学の後、ホクト待望の魔法の鍛錬の時間だ。

「午後からはお母さんとエヴァで魔法を教えていくわね」

 ホクトとサクヤの前で、フローラとエヴァが立っている。二人で属性魔法と精霊魔法を教えると言う。

「ホクトは魔力制御は出来てるわね。サクヤちゃんはどうかしら」

「サクヤにも物心ついた頃から魔力制御は教えてあるわ」

 どうやらサクヤもホクトの様に、溢れる自身の魔力を制御する訓練はエヴァによって教えられていたらしい。
 二人とも前世の記憶がある為に、通常幼子が我慢出来ない地道な訓練を積む事が出来ていた。

「それでもう二人は精霊を視れるかしら」

 フローラの問いにホクトとサクヤが頷く。

「うん、優秀優秀。じゃあ魔力の流れなんかも感じるかしら」

 二人とも頷く。
 エルフとしての特性、魔力感知と魔力視、それに加えて精霊を視る力を二人も受け継いでいた。
 この力がある為にエルフは魔法適性が高いと言われる。

「そうね、魔力の流れが感じられるのなら、魔法を使う事自体は難しくないの。あとは明確なイメージを魔力にのせるだけで良いのよ」

 フローラが言うには、魔力を高いレベルで制御出来ると、詠唱など無しに魔法が行使出来るという。

「そこで大事なのはイメージよ。明確なイメージが魔法の威力や効果を高めるの。これは精霊魔法でも同じなのよ」

 属性魔法と精霊魔法の違いは、自前で全て賄うのか、精霊の力を借りて魔法を行使するのかの違いだと言う。その為、精霊魔法は魔力量が少なくても効果や威力の高い魔法が行使出来る。こう言えばエルフなら精霊魔法だけで良いのではないかと考えてしまいがちだが、精霊魔法は精霊がその場に居てこその発動出来る魔法で、例えば水の精霊が居ない場所では水の精霊魔法を行使出来ないという事だ。

「精霊魔法の真髄は、精霊を召喚する事にあるの。召喚される精霊にはランクがあるんだけど、最上位の精霊を召喚出来るエルフは少ないわ」

 四大精霊と呼ばれるのは

 火の精霊 サラマンダー
 水の精霊 ウィンディーネ
 風の精霊 シルフィード
 土の精霊 ノーム


 属性魔法は、この火・水・風・土に加え、光・闇・無属性が存在する。
 治癒魔法は光属性に含まれ、氷属性は水属性に含まれる。ホクトが高い適性を持つ雷は風属性に含まれる。しかし水属性に適性がある者が氷属性の魔法が使える訳ではない。それ故、氷属性、雷属性を独立した属性とする学者もいるという。

 無属性魔法は多種多様な魔法が存在し、その数は膨大だという。

「例えば魔力を身体に纏って、身体能力を跳ね上げる魔法も無属性ね」

 他には代表的なもので、物理攻撃や魔法攻撃を防ぐ魔法障壁マナシールドや物を動かす念動、時空間に関する魔法も無属性魔法だ。

「この時空間魔法って使い手が希少なのよ。当然私は使えないわ」

 マジックバックと言う、大量の荷物を収納出来る鞄があるが、これは時空間魔法の空間拡張が付与された物だと言う。

「あと、物の重さを重くしたり軽くしたりする魔法もあるそうだけど、この辺りもお母さんは使えないから良く分からないの。そして数ある無属性魔法の中でも転移系の魔法は現在使い手がいないの」

 瞬間転移や長距離転移と呼ばれる転移系の魔法は、大昔に賢者が使用していたと文献にあるが、その呪文や原理は遺失している。

「無属性魔法で簡単な魔法ならこういうのがあるわ」

 フローラはそう言うと空に向けて片手を上げ、手のひらから魔力の塊を打ち出した。

「これは魔力の塊を打ち出しただけだけど、込める魔力量で威力が上がるのよ。無属性だから相性が悪い属性もないし使い勝手は良いわよ」

 その後、フローラとエヴァが二人で基本四属性の初歩的な魔法を教えて行く。フローラもエヴァも苦手な属性がある為、お互いに補完しながら四属性の魔法をホクトとサクヤに教えた。

 魔力操作がほぼ完璧なホクトとサクヤは、基本四属性の初歩的な魔法。各属性の球を撃ち出す魔法は直ぐにマスターした。

「凄いわね~、ホクトもサクヤちゃんも天才ね」

「本当ね~、うちのサクヤも魔力操作は物心ついた頃から訓練してるけど、ホクト君も本当に凄いわね~」

 フローラとエヴァが手放しで褒めちぎる。
 何故なら、ホクトとサクヤが無詠唱で魔法を行使しているのだから。普通はエルフでも最初は詠唱魔法で魔力の流れを感じる訓練をしてから無詠唱へと移行していく。最終的に無詠唱が使えない者の方が多いのだから。
 フローラとエヴァが二人を天才だと言って喜ぶのも仕方のない事かもしれない。


 この日からホクトとサクヤは、午前中はカインとバグスから剣や体術を習い、座学の勉強を挟んで午後から魔法の訓練をする日々が始まった。

 カインにしてもフローラにしても、何故ここまでホクトとサクヤを鍛えるのか。実は、二人の子供が成長するのを見るのが、ただただ楽しいからだとはホクトもサクヤも知らない。


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