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第四話 ホクト一歳

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 ホクトがこの世界に産まれて一歳になった。

 この一年でホクトもある程度喋れるようになっている。実はこれもエルフとしては成長が早過ぎるのだが、カインとフローラは我が子の成長を天才が生まれたと喜んでいた。

 この一年で新たに判明したのは、ヴァルハイム家が男爵家だという事。
 このヴァルハイム家は、貧乏騎士爵の五男で平民として冒険者として活動していたカインが、己の武勲のみで叙勲され起こした家だという事。
 十五年前、ホクトの暮らす、大陸の中央に位置するロマリア王国へ隣接するバーキラ王国とトリアリア王国が同時に攻め込むという戦争があった。
 大きな犠牲を出しながらもロマリア王国は大戦を乗り切った。
 カインはその大戦の英雄と呼ばれている。

 このパンゲア大陸と呼ばれる大陸には、大小多くの国があり、決して平和な世界ではないと知った。
 ヴァルハイム家は、パンゲア大陸中央付近にあるロマリア王国の南の国境付近、アーレンベルク辺境伯領の西に位置する。
 南西にトリアリア王国、南東にシドニア神皇国があり、東にドワーフのノムストル王国、遥か南の海沿いにサマンドール王国がある。
 ロマリア王国の北と東には、死の森と呼ばれる魔物が跳梁跋扈する国土の三倍にも及ぶ広大な森がある。
 ロマリア王国から北東には、獣人族の国で獣王が治めるバーキラ王国、その先に、母フローラの祖国でエルフの治めるユグル王国がある。



 ただホクトは三男なので、将来的に家に残る事は出来ない。自分で自分の将来を切り拓かねばならない。

 一歳になったホクトは、自分の足で歩けるようになり、行動範囲が一気に広くなった。それでも屋敷の外へ出掛ける事は出来なかったが。

 侍女のアマリエに本を読んでもらい、文字の読み書きも出来るようになり、最近では父の書斎にある本を読みあさっている。
 文字はエルフが使用する古代語と、それ以外の種族が使用する大陸共通言語があり、ホクトは既に両方の読み書きをマスターしている。

「ホクトーー!どこに居るのー!」

 カインの書斎に入り浸り、本を読む事に集中していたホクトの耳にフローラの呼ぶ声が聞こえる。

「はーーい!ははうえー!」

 ホクトが大きな声で返事すると、その声を聞いたフローラが書斎に入って来た。

「あらあら、また本を読んでたの?
 お母さん、ホクトにはまだ早いと思うんだけど」

 分厚い本を抱えているホクトを見て、フローラはなかば呆れたように言う。

「さあホクト、ご飯にしましょう」

 フローラは本をもとの場所に戻すと、ホクトを抱き上げ一階のダイニングへと向かう。



 この世界は一年が三百六十日、一月が三十日の十二ヶ月と地球とほぼ同じだった。
 大陸中央付近にあるロマリア王国は、夏は暑いが冬は雪は少なく寒さはあまり厳しくない。

 この世界の文明は、十五世紀~十六世紀頃の中世のヨーロッパに近い。ただ魔法や魔導具の発達により進んでいる部分もある。灯りの魔導具やコンロの魔導具など、生活に役立つ魔導具が売られている。
 ただ、衛生環境は中世ヨーロッパのレベルで、非常に劣悪な状態だった。乳幼児の死亡率が高いの理由もそこに原因があるのかもしれない。



 夕食の席にホクトは自分用の椅子にフローラが座らせる。

「では、日々の恵みを神に感謝して……、さあ食べよう」

 カインの号令で神に感謝を捧げた後、全員で夕食を食べ始める。

 カインの横に第一夫人のジェシカ、二人の息子のアルバンとジョシュア。反対側にフローラとホクトが座っている。

 テーブルの上に並ぶのは肉が中心のメニューだが、ホクトだけはまだ一歳なので別メニューだ。

 ホクトは自分用のスープとパンを黙々と食べている。パンも固い黒パンではなく、一歳のホクトでもそのまま食べれる美味しいパンだ。小説なんかだと固い黒パンを天然酵母を使って美味しいパンに、なんて事はなかった。

「ホクト、また書斎に篭っていたのか」

 食事の席で父のカインが息子に聞いて来た。

「はい、ちちうえ」

「ホクトは変な奴だな。本なんて何が面白いのかわからないよ」

「だよね」

 アルバンとジョシュアは自分達の小さな弟が、自分達でも読めない分厚い本を読んでいるのが不思議で仕方がなかった。

「あなた達も少しは本を読みなさい。アルバンはあと来年には王都の学園に通うのよ」

 アルバンとジョシュアに向かって、彼達の母であるジェシカが小言を言う。
 ジェシカにしても、僅か一歳でしかないホクトの成長速度を見て自分の息子達と比べてしまう。

「ねえフローラ、エルフって成長し早いとかってないわよね」

「ええジェシカ、むしろ人族や獣人族に比べれば遅い筈なんだけど……」

 言葉を濁すフローラだが、彼女はまだ家族に秘密にしている事がある。それは魔力を視る事が出来るエルフだから気付いたのだが、我が子であるホクトの魔力量が、一歳にして既に成人のエルフを超えているという事実。それは親として誇らしい事だが、それと同時に危険な事でもあった。それに気付いてからフローラは、ホクトに対して魔力操作の訓練を始めた。
 身体から漏れる魔力を抑える技術を教え込もうとしていた。このままホクトが規格外の魔力量を持つ事が他のエルフに知られると、色々と不味い事になるのが目に見えていると思っていたから。

 ただ魔力量を抜きにしても、エルフがホクトを視ればその才能は直ぐにバレるだろう。何故ならホクトの周りには、全ての属性の精霊が嬉しそうに纏わりついている。精霊を視る事が出来るエルフならその希少性に気がつくだろう。
 魔法に高い適正を持つエルフでも、全属性に適正があるエルフはいないのだから。

(さすが私の可愛いホクトね)

 カインもフローラも、出来るだけホクトを隠す事を決めた。


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