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第二章

四十二話 婿養子、団体を拾う

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 何時もの森の中の探索なので気を抜いてたって訳じゃないと思う。

 何の事かって?

 僕の目の前に厄介ごとが転がり込んで来たんだ。


 この世界の人が近づかない森の奥深く、そこに地面に膝をつき殆ど土下座に近い状態で並ぶ男たち。よく見ると、まだ年若い少年も混ざっている。

「なぁ、これって、どういう状況?」
主人あるじ、私に聞かないでください。私にも分かりませんよ』

 本当なら危険な森の深い場所だけど、今に限って言えば、ここはそれ程危険はない。何故ならフーガと僕が、気配を隠すのをやめているからだ。

 ほぼ大多数の魔物は、基本的に自分よりも強い相手に戦いを挑む事はないからだ。

 それは兎も角、森の中で五人の男達に頭を下げられている状況は、どう考えても普通じゃない。

『そこの人間ども、我が主人が話を聞いて下さる。詳しく話せ』
「はっ、はいぃ!」
「こらフーガ、脅さない」

 フーガがリーダー格の男に威圧感タップリで命令するものだから、五人の男達は頭を地面に擦り付ける勢いで頭を下げている。

 あっ、一番若そうな少年が気絶してるじゃないか。

 フーガの威圧の所為で、周辺の魔物も逃げて行っているのが分かる。

「兎に角、この場では危険ですから、場所を変えますか」

 僕はそう言って同田貫正国を抜き打ち、再び鞘に収める。

 ボトリッ!

 何もない場所からバスケットボール大の蟷螂の頭が落ちると、人間の大人と変わらぬ大きさの首の無い蟷螂の胴体が現れた。

 カメレオンマンティス、ランクはDだけど、その隠密性から冒険者殺しの異名を持つ蟲タイプの魔物。

「ひっ!」

 地べたに跪く男達から悲鳴があがる。

 フーガの威圧で逃げるのは、ある程度知能の高い魔物だ。本能が強い蟲タイプの魔物は、実力差がある相手にも平気で襲いかかってくる。

 とはいえ、フーガが全力で威圧すると、蟲タイプの魔物も逃げ出すんだけどね。

 流石にそれをすると、この人達がもたない。

 何時迄も土下座させておく訳にはいかないので、少し東側へと移動する。

 魔物に対しては、僕とフーガが居るから滅多な事はないだろうけど、土下座される僕の精神がもたない。


 移動しながら色々とリーダー格の男、ジェスタさんというらしい人に話を聴くと、何と彼等はこの森の中に隠れ住んでいるらしい。

 彼等の種族は人族じゃないそうだ。

 ハイド族という特殊な能力を保つ種族なのだとか。

 その特殊能力を聞いて、こんな森の中に暮らせている事に納得する。
 何と彼等は、気配を隠匿する能力を生まれながらに保っているらしい。

 そう言われると、彼等の気配が薄い様に感じる。

 僕は魔力の感知だけじゃなく、武術由来の気配を察知する技術を習得していたので、捉える事が出来るが、普通の人や魔物なら難しいかもしれないな。



 森の中心部から東側に移動し、少し樹々の間が疎らな場所で、僕とフーガは彼等から詳しい話を聞く事にした。

 話を聞いて僕もフーガも驚いた。

 何と、彼等は森の中で暮らしているそうだ。

 勿論、もう少し東側の浅い場所らしいが、それでも滅多に人の入らぬ場所で、どうやって暮らしているのか。

 ハイド族という種族特性で、何とか人や魔物から隠れて暮らしているそうだが、それも限界だったらしい。

「我等は長年、国の暗部や諜報部でいいように使われてきました。しかし、それももう限界だったのです」

 それもそうだろう、ハイド族の種族特性である影に隠れたり、気配を隠匿したりする能力は、権力者にとって非常に便利に使われる。だけど、諜報や暗殺を生業とするハイド族の多くは、便利に使うだけ使って、都合が悪くなると切り捨てられてきたらしい。

「どうか聖霊獣様とその契約者様、我等をお助けください」

 大の大人五人が再び土下座し頭を地面に擦り付ける。

「取り敢えず頭を上げてください」
『主人が頭を上げよと言ってるだろ』
「はっ、はい!」

 ジェスタさん達は、四家族で隠れ住むでいるそうだ。

 それぞれ子供が一人から二人居るそうだが、ジェスタさんの息子でジュドー君以外は、まだ年齢的に狩りは無理なので、母親と住処で待っているらしい。

「しかし助けるってもなぁ~」
『主人、面倒なら始末しましょうか?』
「「「「「ヒッィ!」」」」」

 この森の中を平気な顔をして歩く僕とフーガを見つけ、助けを求めるのにも勇気はいったんだろう。だけど、はい、そうですか、とはいかない。僕にも守るべき家族があるからな。
 そう思って、腕組みして悩んでいると、フーガが面倒なら始末しようか、なんて言ったものだから、ジェスタさん達が真っ青になって怯えてしまった。

「イヤイヤ、流石に始末なんてしないから」

 フーガは僕を何だと思ってるんだ。

 でも、どちらにしても直ぐに信頼するなんて有り得ないが、このまま助けないのも僕の精神衛生上よろしくない。

「どうしようか」
『……私が、主人の家族やサミア親子、ミルに仇なすと判断すれば、責任もって対処しましょう』

 フーガは監視付きでなら助けるのも賛成みたいだ。

 確かに、彼等には此処には居ないが、家族も居るそうだし、小さな子供が息を潜めて、森の中で隠れ住むのは可哀想ではある。

 先ずは彼等の希望を聞いてみる。

 助けて欲しいと言っても、具体的にどうして欲しいのか聞かないと分からない。

「ジェスタさんでしたっけ、取り敢えずあなた達の家族を助ける方向で考えてみますが、ジェスタさんとしては、どうして欲しいですか?」
「は、はい。出来れば、魔物に見つからぬよう息を潜めて暮らすのではなく、平穏な暮らしを望みます」
「子供達は、木の上の家から出る事も出来ません。もう限界なんです」

 ジェスタさんに希望を聞くと、ジェスタさんともう一人の男の人が、森の中から脱出したいと訴えた。

「聖霊獣の契約者様、我等、契約者様の手足となり、何でも致します。どうか、我等ハイド族をお助け下さい」
「「「「「お助け下さい」」」」

 ジェスタさんと他の四人に、地面に頭を付けて頼み込まれた。
 今日は、土下座のバーゲンセールだな。

 取り敢えず、ジェスタさん達の家族を保護するか。
 ただ、此処は森の中間地点よりも東側に入った辺り、僕達の家までは歩きでは時間がかかる。

「フーガ、歩きでどのくらいかかる?」
『そうですね。普通の人間を連れてなら、二日はかかるでしょうか。私か主人が居れば魔物との戦闘も最低限で済みますし』
「二日って、かかり過ぎだな」

 何時もならフーガの背に乗りあっという間に帰るんだけど、大勢の人間を連れて森の中を二日も歩くのは大変そうだな。

 どうしようか考えていると、ジェスタさんが大丈夫だと言ってくれた。

「ご安心ください。我等腐ってもハイド族。魔物との戦闘が無ければ、森の中を駆け抜けるのも難しくありません」
「小さなお子さんや女性も居るんでしょう?」
「子供達は、我等が抱えて走ります」
『主人、子供の人数にもよりますが、私が乗せる事が出来れば、もっと早く森を抜けれるのでは?』
「そうするか」

 その後、ジェスタさん達の後に着いて行き、彼等の家へと向かった。



 ハンザ王国に近い森の比較的浅い場所に、ハイド族の家? があった。

「バラック?」
「は、ははっ、お恥ずかしい」
「あ、や、すみません」

 正直な感想を言ってしまった僕に、ジェスタさんが顔を引きつらせた。

 木の上に建てられた家と言うより、バラックと言った方がいい小屋があった。

 ジェスタさんの奥さんや娘さん、他の三つの家族を紹介されるが、フーガが聖霊獣と知らされ、森の中で土下座リターンズだ。

 何とか頭を上げて貰い、ハイド族全員の意思を統一して貰う。

 話し合いは一瞬で終わった。

 それはそうだ。皆んなこんな場所で隠れるように暮らしたくはない。

「じゃあフーガ、一度先に戻って、お義父さん達に報せてくれるかな」
『承知しました。直ぐに戻って来ます』

 このまま歩きなら日帰りは無理なので、フーガに皐月やお義父さんに事情を報せて貰う事にした。
 フーガなら今日中に行って帰って来れるだろう。

 無断外泊なんて、有り得ないからね。

 それは婿養子がどうのではなく、普通に皐月に絞められる。

「ジェスタさん、小さな子供達は抱っこするなり、おぶるなりして出発しましょう」
「はっ、承知しました」

 ジェスタさんの丁寧過ぎる態度は、今は突っ込まないでおこう。

 魔物を寄せ付けない様に、僕が魔物を威圧しながら東へと向かう。

 氣と魔力を使って、全力で索敵する事も忘れない。

 相手の強さを感じないバカな魔物が襲って来る事もゼロじゃないから。

 ジェスタさんの奥さんや娘さん、他の奥様方が、僕を怖がっているのが分かる。

 初対面だもんなぁ。

 森の中での不安しかない生活が限界だったとはいえ、こんな森の中で初めて会った男に着いて行くって、よく考えたら度胸あるよな。


 僕は、ジェスタさん達を先導して森の中を歩く。

 フーガ、早く帰って来ないかな。

 子供達をフーガに乗せたら、移動速度もグッと上がるんだけどな。



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