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第一章

三十一話 婿養子、親子の再会に涙する

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 家に戻ったのは、日が昇り明るくなってからだった。

 フェルミアちゃん達のお母さんと、もう一人の女の子を空いている部屋に運び、ベッドに横たえる。

 起きて待っていたのか、皐月が直ぐに部屋にやって来た。

「お帰り、修ちゃん」
「ただいま、皐月。早速で悪いけど、二人の治療を頼めるかな」
「任せてちょうだい。絶対に元に戻してみせるわ」

 皐月が診断スキルをフェルミアちゃん達のお母さんに使用する。

「外傷とそれによる衰弱、栄養失調ね。先ずは外傷を治してしまいましょう。女性の顔に傷が残るなんて許せないわ」

 皐月はそう言うと、両手をかざして集中する。

「ハイヒール!」

 暖かな光がフェルミアちゃん達のお母さんを包み込み、全身の怪我が綺麗に消えた。
 呼吸も穏やかに規則正しく力強くなった。もう大丈夫だろう。

「おお! 凄いな。流石、専門職」
「フフッ、もっと褒めても良いのよ」

 治療が成功して皐月も笑顔だ。

「もう一人は少し待ってね」

 皐月はそう言って、小さな瓶に入った液体を飲み干した。

「ひょっとして、魔力を回復するドリンク?」
「そう、マナポーションって言うのよ」

 皐月はもう一人の女の子の方へと手をかざし、再び回復魔法を発動。

 回復魔法の優しい光が消えた瞬間、皐月がフラッと倒れそうになり、慌てて支える。

「オッと!」
「あ、ありがとう、修ちゃん」

 もう一人の女の子も酷い怪我を負っていたが、綺麗に傷は消え、落ち着いた呼吸になったのを確認した。

「修ちゃん、お父さん、朝ごはん食べるでしょ」
「うん、お腹空いた」
「ああ、流石に疲れたからな。朝食を食べたら休ませて貰おう」

 ダイニングに行くと、お義母さんが朝食の用意をしてくれていた。

「おはようございます」
「おはよう、修二君。ご苦労様でした」



 お義父さんはサッサと朝ごはんを食べ終えると、眠いと部屋に戻った。

 僕は皐月とお義母さんと三人で、食後のお茶を飲んでいた。

「おはようございます」
「おはようございます! お腹空いた!」
「もう! ヘティスったら!」

 フェルミアちゃんとヘティスちゃんが起きて来て、ヘティスちゃんが元気にお腹空いたと言い、それを恥ずかしそうにフェルミアちゃんが注意する。

 フェルミアちゃんは、まだ少し遠慮があるのかな。五歳のヘティスちゃんは元気だ。それでもこの姉妹が無理して元気にしているのは、僕達には分かっていた。

 父親が家族を逃す為に残って戦い、更に母親までが子供達を逃す為に戦い傷ついた。そしてフェルミアちゃんとヘティスちゃんが冒険者に売られて、魔物の囮にされて死にかけた。

 普通に考えればトラウマものだ。

 フェルミアちゃんとヘティスちゃんが朝ごはんを食べ終えた頃、皐月が僕に耳打ちした。

「(そろそろ起きると思うわよ)」

 それを聞いて僕は頷く。

「フェルミアちゃん、ヘティスちゃん、ちょっと来てくれるかな?」
「は、はい」
「なーに? サナちゃんのパパ」

 僕に呼ばれて不安そうにするフェルミアちゃんと、可愛く首を傾げるヘティスちゃん。

 二人を連れて客間の部屋の前に立ち扉を開けると、二つあるベッドの片方、多分顔がそっくりなので間違いって事はないだろうけど、フェルミアちゃんとヘティスちゃんのお母さんが、上半身を起こしていた。

 どうやら目が覚めて、自分の置かれた状況に戸惑って呆然としていたようだ。

「お母さん!」
「うそ! お母さん!」

 ヘティスちゃんがベッドに居るのが母親だと気付き、一目散に駆け寄る。フェルミアちゃんも信じられないと言うように両手で口を押さえ、駆け寄るヘティスちゃんを追い掛けるように、母親へと駆け寄った。

「ヘティス! フェルミア! 無事だったのね!」
「お母さ~ん!」
「お母さん!」

 お母さんに抱きつき涙するフェルミアちゃんとヘティスちゃん。

 泣く事なく笑顔を見せていたヘティスちゃんも、彼女なりに我慢していたんだろう。

 しっかり者の印象を受けたフェルミアちゃんも、お母さんに抱きつきワンワン泣いている。妹の手間、強がるしかなかったんだろうな。

 もう一人の女の子は、まだ意識が回復していないが、皐月によればまもなく意識は回復するらしい。

 僕達は、ここは親子水入らずにしてあげようと、部屋から出て扉を閉めた。




 その後、もう一人の女の子も意識を回復し、フェルミア達のお母さんと女の子が、フーガを見て床に土下座するくだりがあったりとしたが、流石にまだ体は万全じゃないが、兎に角話をしようとリビングに集まっていた。

 佐那は、いきなり増えた狼耳と尻尾を保つ女の人に、僕に隠れながらも目をキラキラさせて見ていた。




 三人がけのソファーにお母さんを挟んで、フェルミアちゃんとヘティスちゃんが座り、僕と皐月、佐那を抱いたお義母さんが向かい側のソファーへと座っている。お義父さんが一人がけのソファーに座り、色々と事情説明をする事になった。

 フェルミアちゃん達のお母さんの名前は、サミアティアさん。サミアと呼んで下さいと言われた。

 もう一人は、ミルティシアちゃん。十二歳の女の子で、ミルと呼んで欲しいと言われた。

 サミアさんの話では、サミアさんの旦那さんがみんなを逃す為に残って戦い、それでも逃げられないと、サミアさんも戦ったらしい。
 驚いた事に、十二歳のミルちゃんも一緒に戦ったんだそうだ。

 狼の獣人であれば、十二歳ならもう戦士に数えられるらしい。

「フェルミアとヘティスを救って頂き、それだけでなく私まで助けて頂いて、感謝の言葉もありません」
「フェルミアちゃんとヘティスちゃんを見付けたのは偶然です。見付けたのもフーガですしね」
「聖霊獣様と契約されるなんて……」

 サミアさんから熱い視線で見られている気がする。フェルミアちゃんやヘティスちゃんの尊敬するような表情とは違うような……

「それで、サミアさん達の村に送って行こうと思ってますが、詳しい場所は分かりますか?」

 僕がそう言うと、サミアさんは少し考え込む。

「修二様、私達をここに置いてもらえませんか? 玄関先でも倉庫でも構いません」
「様付けなんて辞めてください。村に戻らなくても大丈夫なんですか?」
「修二君、おそらく村は再建不能な程荒らされたんだろう」
「栄三郎様の仰る通りです。私達の村にはもう戻れないでしょう。村の男達は、戦いの中で命を散らしました。帰ってももう……」

 狼の獣人は、誇り高い種族なので、奴隷狩りに対して文字通り命懸けの抵抗をしたそうだ。

 お陰で少数の村人は逃げれたらしいが、サミアさんとしては、戻っても同じ事があるかもしれない土地で、フェルミアちゃんとヘティスちゃんを育てたくないと言う。

 そして一番大きな要因が……

『主人よ、どうだろう、私の眷属を保護しては貰えないか?』

 そう、狼の獣人にとって信仰対象である巨狼の聖霊獣フーガの存在だ。

「同じ村で暮らしていた同族を探したいと思わないのかな?」
「……探すのは難しいですから。もし、見付ける事が出来たなら、修二様のお慈悲を頂きたいと思いますが……」
「修二だからね。どうしますお義父さん」

 ジッと黙って話を聞いていたお義父さんに聞く。千葉家の当主はお義父さんなので、様々な方針を決める時には、当然の事ながら最終決定権はお義父さんにあるんだ。

「……人手も足りないと思ってたんだ。渡りに船だと思おう。幸子はどう思う?」
「お父さんが決めたなら良いと思いますよ。フェルミアちゃんやヘティスちゃんが居なくなると佐那も寂しいでしょうしね」

 お義父さんとお義母さんからは賛成を貰えた。田畑を耕したり手入れするには、確かに人手は有り難い。

「皐月はどうかな?」
「うん、私は賛成だよ。佐那もお姉ちゃん達が出来て嬉しいでしょうしねぇ~」
「うん! サナねー、フェルミアちゃんとヘティスちゃんとあそぶの!」

 皐月も反対じゃないのなら決まりだな。

 サミアさん達が、ここで暮らすとなると、僕とお義父さんが守るべきものが増えたという事になるんだが、フーガも居るし、狼の獣人は戦闘能力が高いらしいし問題ないか。

「分かりました。僕もみなさんを歓迎します」
「ではサミアさん達を千葉家は受け入れよう。これからは家族と思って、困った事があれば何でも相談して欲しい」
「有り難うございます」
「「「ありがとうございます」」」

 僕もサミアさん達を受け入れると言うと、お義父さんがの言葉で閉める。

 サミアさんが深々と頭を下げると、フェルミアちゃん達も一緒に頭を下げて礼を言う。


 まだここに来て一年も経っていないのに、新しい家族が増えた。

 サミアさん達の家を建てないといけないな。

 明日からまた暫く忙しそうだな。



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