上 下
21 / 46
第一章

二十一話 婿養子、娘と雪遊び

しおりを挟む
 本格的な冬が訪れた。

「うわぁ、修ちゃん、雪が降って来たよ」
「えっ、どれどれ、うわぁ、結構降ってるね」

 それは寒い冬の夜の事。

 家の中の灯りが窓の外に漏れ、ヒラヒラと舞い落ちる雪を白く照らす。

「積もるかな?」
「気温も低いから積もるかもね」

 家の敷地の中で、家庭菜園の延長のような畑からは、何種類かの野菜の収穫は終わっている。

 お義母さんの縫ってくれた、冬用の服も皆んなに行き渡り、家の中は皐月の作った暖房の魔導具が暖めている。

 今も気温差で曇るガラスを手で拭い、外の幻想的な光景を眺めていた。

「雪が積もったら、佐那と雪だるま作って遊びたいわね。写真も一杯撮らないとね」
「皐月、早くカメラを開発しないと、スマホのバッテリーが劣化してダメになるよ」
「修ちゃんも錬金術勉強して身に付けてよ。元々写真好きだったでしょ」
「まぁ、頑張ってみるけど、僕は忙しいからな」

 この世界にスマホは持ち込めた。バッテリーの充電も、ソーラー充電器があるし、車載の充電器もある。
 だけど、バッテリーはいずれ劣化してダメになる。その前に、この世界で写真機を開発して欲しい。勿論、魔導具としてだ。

 今の可愛い佐那の姿を残しておきたいからな。




 翌朝、綺麗に晴れた窓の外には、白銀の世界が広がっていた。

「ほぉわぁぁぁぁーー!! パパ! ママ! おそとが、まっしろだよぉー!」

 当然、雪を初めて見た佐那は興奮してぴょんぴょん飛び跳ねている。

 興奮する佐那を宥めて朝食を食べさせ、マフラーや手袋でしっかり防寒対策をした後、外へと走り出す佐那を皐月と追い掛ける。

「ちゅめたーい! パパ! ママ! ちゅめたいよ!」
「佐那、これが雪って言うのよ」
「ゆき! パパ、ゆきだって!」

 初めての雪にはしゃぐ佐那に、もしかすると積もるかもと用意していたモノを取り出す。

「佐那、ソリで遊ぶか?」
「そり! そりってなに?」
「これに乗って滑って遊ぶんだよ」
「する! サナ、そりであそぶ!」

 そう、家を建てて余った端材で、ソリを作っていたんだ。

「そぉーれ!」
「キャハハハハッーー!!」

 佐那を抱いてソリで滑る。

 なだらかな丘なので、それ程スピードが出ないので丁度いい。
 佐那も楽しかったみたいで大喜びしている。

「パパ! もういっかい! もういっかい!」

 ただ、小さな子供に共通しているのが、一度気に入ると、飽きるまで付き合わされる。



 一頻りソリで遊んで満足した佐那と、今度は雪だるま作りだ。

「まりゅめるの?」
「そうだよ。転がしていくと雪の玉が大きくなっていくよ」
「はい! 佐那、こっち見てぇー! チーズ!」

 僕と佐那が雪だるまを作っている様子を、皐月がスマフォでパシャパシャと撮っている。

「うんしょ! うんしょ!」
「よし! 体はこのくらいの大きさで良いかな」
「ちゅぎはどうするの?」
「次は雪だるまの頭を作ろうか」
「うん!」

 直径60センチ程に大きくなった雪玉を家の側に移動させると、次は雪だるまの頭の部分に取り掛かる。

「ころころぉー! うんしょ! うんしょ!」

 小さな体で雪玉を楽しそうに転がす佐那を、いつの間にかお義父さんとお義母さんも近くで見て目尻を下げている。

 お義父さんもお義母さんも、佐那を目の中に入れても痛くない程に可愛がってくれている。

 娘の皐月も少しあきれ気味な程だ。

 やっぱり孫は別格に可愛いらしい。

 自分の子供も可愛いのは変わらないだろうが、自分の子供には責任が付き纏う。その点、孫は純粋に可愛がる事が出来るみたいだ。

 もう、会えなくなってしまったけど、僕の両親も佐那の事は溺愛していたから、どうしているか心配だ。
 兄貴の所にも一男一女の孫が居るけど、だからといって佐那を喪失した悲しみが減る訳じゃないだろうからな。

 ただ、アマテラス様が父さんと母さんに報せてくれていると分かっているのが、せめてもの救いだな。

 でなけりゃ、突然の失踪で心労で大変だっただろう。

 まぁ、大変なのは変わらないか。



「パパ! このくらい?」
「う、うん、こんなものでOKかな」

 お父さんとお母さんの事を考えてボォッとしていたら、佐那から雪玉の大きさはこれでいいのか聞いてきて現実に引き戻される。

「じゃあ体と繋げるからね」
「うん!」

 最初に作った雪玉に、頭部になる雪玉を乗せる。

 このサイズの雪玉なんて、日本に居た頃ならとてもじゃないけど持ち上がらない。でも今なら一抱えもある雪玉を楽に持ち上げられた。

「よし、佐那、雪だるまさんのお顔作ってあげようね」
「うん! サナ、オメメつくる!」
「何を目にしようかな。……これ、丁度良さげだな。佐那、雪だるまのオメメはこれでいいかな?」

 僕は無限収納の中に大量にストックしてある、魔物から取り出した魔石と呼ばれる石を佐那に二つ渡す。

 この冬までの間、僕も家の建築と雑用ばかりしていた訳じゃない。稽古と日々の作業の合間の時間を魔物狩りに充てていた。その時に手に入れた魔石が僕の無限収納に山ほど入っていた。
 その中でも色味の綺麗な魔石を二つ、目に使えそうな大きさの物を選んでみた。

「ほわぁ~、キレイないしだねパパ」
「だろう? 佐那の好きな場所に付けてごらん」
「んーとね、んーとねぇ……パパ、とどかないの。パパ、抱っこ」

 何処に付けようか、可愛く悩んでいて佐那が、いざ雪だるまの目を付けようとしたんだけど、背伸びしても手が届かなかった。

「ごめんよ。パパが抱っこするからね」
「んっ」

 抱っこと両手を上げる佐那を持ち上げ、雪だるまの顔の部分に近付けてあげる。

「えっとねぇ、こことぉ、ここにつけるの!」
「おお、流石、佐那上手だね」
「エヘヘヘッ、サナじょうず?」
「上手、上手、凄いよ佐那」
「サナ、すごい?」
「ああ、佐那凄いよ~」
「もう、親バカもいい加減にしてよね、修ちゃん」

 僕が佐那を褒めまくっていると、いつの間にか後ろに皐月が呆れた顔して立っていた。

「ママ! みて、みて! サナがつくったの!」
「うわぁー上手だねー、佐那。次はお口付けようか。コレなんかどう?」

 皐月がお義父さんが焼いている炭を一本佐那に渡す。

「うん! おくちつくる!」
「じゃあ、パパは、おテテとかに使えそうな物を探すかな」

 雪だるまには、木の枝の手に、バケツの帽子だよな。

 僕のイメージにある雪だるまはソレだったので、無限収納の中を探す。

 バケツ帽子はいいけど、丁度いいバケツがないな。……なら、作るか。実際に使う訳じゃないからちゃちゃっと作ってしまおう。

 佐那と皐月が雪だるまを飾り付けている直ぐ側で、無限収納から錬金術の練習で作ってあった鉄のインゴットを少量取り出し、同じく極少量のクロムをその場で合成する。

 錬金術の発動は凄く簡単だ。その錬金術が成功するかどうかは、術を行使する者の知識に依存しているので、現代日本で大学まで卒業した僕や皐月にとって、強くイメージして魔力を流して発動するだけで済む。

 完成したステンレス鋼の塊に、魔力を流し込み形を変えていく。

 これは土魔法の範疇に入るらしい。土や石を成形する事が可能な土魔法だけど、鉱物も土や石と同様に扱える。

 僕の鍛治には、土魔法がなければ成り立たないくらいだ。

 僕の手に小さめの金属のバケツが出来上がる。

 うん、軽く出来たから、雪だるまの帽子にしても大丈夫だ。

「もう、修ちゃん。何してるのよ」
「わぁ! パパ、なーにそれ」
「雪だるまさんの帽子にどうかと思って作っちゃった」
「ぼうし! 雪だるまさんに、おぼうし!」

 僕が即興で作ったバケツ帽子を見て、佐那はピョンピョンと跳ねて喜んでくれた。

 皐月は呆れた顔をしてるけどね。




 雪だるまが完成して、佐那が雪だるまの周りを駆け回っていると、家からお義父さんとお義母さんが出て来た。

「まぁまぁ、上手に雪だるまが出来たわね」
「うむ、流石儂の孫じゃな」
「ジィジ! バァバ! みて、みて! 雪だるまさんだよ!」

 佐那がお義父さんとお義母さんの所に駆けて行く。

「佐那ちゃん、修二君、皐月、中で熱いお茶でも飲みなさい。体が冷えているでしょう」
「そうですね」
「うん、皆んなでお茶しようか」
「サナ、ミルクがいいの!」
「佐那ちゃんは、あったかいミルクにしましょうね」
「わーい!」

 佐那がお義母さんに抱っこされ、皐月とお義父さんも家に戻る。

 僕は、完成した雪だるまを見て首を傾げる。

 何かが足りない?

 ポンッと手を叩き、自分の首に巻かれたマフラーを外し、雪だるまの首に巻くと一歩退がる。

「うん、完璧」

 さあ、僕も熱いお茶をいただこう。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちっちゃい仲間とのんびりスケッチライフ!

ミドリノミコト
ファンタジー
魔獣のスケッチは楽しい。小さい頃から魔獣をスケッチすることが好きだったリッカは、生まれた頃から見守ってくれていた神獣、黄龍から4体の小さな赤ちゃん神獣を任せられることになった。数多くの有能なテイマーを輩出しているリッカの家は8歳で最初の契約を結ぶのだが、そこでまた一波乱。神獣と共に成長したリッカはアカデミーへ入学することになり、その非凡性を発揮していくことになる。そして、小さな仲間たちと共に、さまざまな魔獣との出会いの旅が始まるのだった。 ☆第12回ファンタジー小説大賞に参加してます!

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)

土岡太郎
ファンタジー
 自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。 死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。 *10/17  第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。 *R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。  あと少しパロディもあります。  小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。 YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。 良ければ、視聴してみてください。 【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮) https://youtu.be/cWCv2HSzbgU それに伴って、プロローグから修正をはじめました。 ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね?ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー

ジミー凌我
ファンタジー
 日夜仕事に追われ続ける日常を毎日毎日繰り返していた。  仕事仕事の毎日、明日も明後日も仕事を積みたくないと生き急いでいた。  そんな俺はいつしか過労で倒れてしまった。  そのまま死んだ俺は、異世界に転生していた。  忙しすぎてうわさでしか聞いたことがないが、これが異世界転生というものなのだろう。  生き急いで死んでしまったんだ。俺はこの世界ではゆっくりと生きていきたいと思った。  ただ、この世界にはモンスターも魔王もいるみたい。 この世界で最初に出会ったクレハという女の子は、細かいことは気にしない自由奔放な可愛らしい子で、俺を助けてくれた。 冒険者としてゆったり生計を立てていこうと思ったら、以外と儲かる仕事だったからこれは楽な人生が始まると思った矢先。 なぜか2日目にして魔王軍の侵略に遭遇し…。

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

一般人に生まれ変わったはずなのに・・・!

モンド
ファンタジー
第一章「学園編」が終了し第二章「成人貴族編」に突入しました。 突然の事故で命を落とした主人公。 すると異世界の神から転生のチャンスをもらえることに。  それならばとチートな能力をもらって無双・・・いやいや程々の生活がしたいので。 「チートはいりません健康な体と少しばかりの幸運を頂きたい」と、希望し転生した。  転生して成長するほどに人と何か違うことに不信を抱くが気にすることなく異世界に馴染んでいく。 しかしちょっと不便を改善、危険は排除としているうちに何故かえらいことに。 そんな平々凡々を求める男の勘違い英雄譚。 ※誤字脱字に乱丁など読みづらいと思いますが、申し訳ありませんがこう言うスタイルなので。

処理中です...