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異世界で新たな一歩目を!

第五十六話 『二心同体』

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 俺の右手にナギサの左手がめり込んでいるという事実に、俺は一瞬何も考えられなくなる。

「簡単なことだ。僕の左手とあんたの右手の皮を剥いで、くっつけた状態で魔力を流して細胞の自己再生能力を活性化させたんだよ。」

 つまり、傷を負った俺たちの手をくっつけて治療したから、治療が不完全な形で行われたってことか。
 今の状況はとにかくヤバい。
 早く「次元転移」で距離を取らないと。

「あっ、」
「気が付いたようだね。そうだよ、今俺とあんたは二心同体な状況だ。あんたが例えこの星の裏側に転移したって、俺は一緒について行けるぞ!」

 これも、「次元転移」の欠点か。
 「次元転移」は、視界に収まっているものなら自由自在に転移させられるが、転移させるものと転移させないものの境界がしっかりと区別されていなければ発動出来ない。
 発動出来たとしても、俺が境界をしっかり認識できていなければどこまでが一緒に転移するのかは分からない。
 きっと俺が今リトライラたちのところへ転移しても、ナギサは俺の体の一部としてついてくるだろう。

「仕方ない、切るか。」

 俺は、自分の右手を切断して一旦距離を取った。

《次元転移を発動します》

 右手からは大量の血が溢れ出している。
 見ているだけでも痛い。
 そして、当然俺が感じている痛みはそれどころではない。

「うぅぅぐぐがががぁぁぁぁああああー--!!」

 声を出して必死に痛みから逃れようとしても、全然効果を実感出来ない。
 戦闘中だというのに、今は相手を警戒している余裕は無い。
 だが不幸中の幸いと言うべきか、ナギサはナギサで激痛に悶えている。
 当然だ。
 二心同体の状態だったのだから、その時に受けた痛みはナギサだって受けているはずだ。
 さらに、俺は今右手を無くしてしまったが、ナギサは逆に左手と俺の右手が完全にくっついていて、左手を開いたり閉じたり出来ない状態になっている。
 まあ、痛み分けか。
 冥皇戦前からこんな負傷を負うのは本当にきついが、きっとあのままナギサと二心同体の状態で殴り合っていたら俺の負けだっただろう。
 なにせ、俺は武術なんてからっきしだからな。
 痛みはだある。
 でも、何となく麻痺してきた。

「行くぞ、ナギサ!」
「ああ、こいよキヨハラァァ!」

 ナギサって俺の名前知ってたんだな、みたいなことを考えるのは後回しだ。
 今は、どうやってナギサを攻略するかだ。

「まあ、もう攻略法は思い付いたんだけどな。」
「それはこっちのセリフだよ!」

 俺は、ポケットの中にある野球ボールくらいの玉を握りしめる。
 そして、その中に入っているとある固有スキルを使用した。

「いいか、あんたの「次元転移」のもう一つの欠点を教えt.....は?」

 猛スピードで俺のところまで飛んで来ようとしていたナギサだが、突然あたりが暗くなったことを不信に思ったのか、咄嗟に上空を振り向いた。

「こ、これは!?」

 ナギサは何が起こっているのかが分からないといった風に挙動不審に周りを見だした。
 まあ、俺だってナギサの立場だったらあんな風になっていただろう。
 だって、突然空に土の壁が現れたのだから。

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