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第壱蟲 『抑蟲』

After SchooL dayS

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-東京、某高等学校-

「でさー」

「キャハハなにそれありえなくない?」

「マジマジ、マジなんだってー」

 放課後、夕暮れの差し込む教室の隅の席にて3人の女生徒が談笑している。教室には彼女たち以外の生徒はおらず、三人の声だけが教室内に反響する。内容は主に日々の学校生活や、彼女達やクラスメイト達の色恋沙汰についてである。

「ねぇねぇ2人は『蟲姫』の噂って知ってる?」

 女生徒の一人『ユキ』は椅子を逆向きに座り、何気なくそう前方の2人に問う。

 一人は強気な雰囲気な長髪の少女『アメ』。

 もう一人は眼鏡をかけた大人しい少女『ミゾレ』である。

「ムシヒメ?」

 2人の友人は『噂』を知らぬようで、互いに顔を見合わせて首を傾ける。

 そして2人の反応を見ると、ユキはニヤニヤと笑みを浮かべて得意げな表情となり『蟲姫』の噂を語り始めるのであった。

「『蟲姫』というのは下水道の奥深くに住んでいるお姫様で、自分のとこに来たヒトの『願い』をなんでも叶えてくれるらしいよ。しかも超~美人で、真っ白なドレスを着てるんだってぇ。」

 ユキは目を輝かせ、嬉々としてその『噂』を語っていた。

 彼女はこういったオカルト的な話が好きで、一時は『オカルト研究会』なる部を新設しようとした程である。

「ふーん……私だったらその『蟲姫』様に超絶格好良い彼氏つくってもらおうかな?」

「アメちゃん、この前彼氏に振られちゃったもんねぇ。」

「うっせ。」

 アメは恥ずかしげに顔を赤らめ、ミゾレから顔を逸らすように頬杖をつき窓の外を眺める。

「おいおい~そこは突いてあげるなよ~本人だって気にしてるんだから。」

 ユキはニヤニヤと微笑み、そっぽ向くアメの顔を覗き込む。

 ミゾレもまた、そんな2人の様子を微笑ましく眺めていた。

「ま、この手の話にありがちだけど『蟲姫』は『願い』を叶える代わりに、その人の『大事なモノ』を奪ってしまうんだってぇ。」

「『大事なモノ』?」

 ミゾレはキョトンとした様子で首を傾げ、ユキを見る。

「例えば『目玉』とか!!」

 こちらを見つめるミゾレに対し、ユキは指でブイサインを作り、自らの両目を指す。

「えぇ~怖ぁい。」

 ナダレは口を押さえ、ユキのアクションに同調するように声をあげる。

「おいおいナダレェ~信じてないなぁ?」

 ユキはそれを感じ取り、肘でナダレを小突く。

「あははゴメンゴメン~。」

 ユキからのスキンシップにそう反応するナダレ。

 しかしその最中、ふてくされたアメの様子を視界に捉えようと横を見たナダレは、窓の外の様子に気づく。

 そして笑顔が消え、彼女は表情を曇らせる。

「あれ?」

 そしてミゾレは何かを思い出した様子でそう呟く。

「ん?どうした?」

 ユキはミゾレの様子の変化に気づいたようで、肘での動作を止め、彼女にそう問いかける。

「今って……何時?」

 そう尋ねるミゾレの表情は、先程までの明るいものではなかった。

「えっと……。」

 ユキはそんなミゾレの雰囲気を察してか、携帯電話を取り出し画面に写る時刻を読み取る。

「6時かな。」

「ごめん、もう私帰らなきゃ。」

 ミゾレはそう言い残すと、そそくさと落ち着かない様子で帰りの準備を済ませ席を立った。

「どうした?」

ミゾレの変化にアメも気づいたようで、帰路へつこうとするミゾレに問いかける。

「……ちょっとね。」

 しかし彼女はアメの質問には答えることなく、ぎこちない微笑みを向け、駆け足で教室を出て行った。

「……最近ミゾレ、付き合い悪くなったね。」

 ミゾレのいなくなった教室で、アメは彼女の出て行ったドアを眺め呟く。

「あー……確かアルバイト始めたっぽいね。」

 ユキもまた同様の方向を眺め、アメにそう言う。

「でも仕方無いよ」

「あの子のお父さん会社クビになって……ミゾレ、学校に通うための交通費とか自分で稼いでるらしいし。」
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