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第8部 分かたれる道
1-3持つべきものは親友だってつくづく思う
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時間は、夜の七時を少し回ったころ。私は〈西地区〉にある、ファミレス〈シーキャット〉に来ていた。ほとんどの人は、テラス席を使うので、店内は、さほど混んではいなかった。
陽気のいい時期は、テラス席が、とても気持ちいい。それに、この町では、外で食事をするのが、昔からの伝統だからだ。ちょうど、夕食時なので、外のテラス席は、ほぼ満席状態だった。
私は、アイスコーヒーを飲み、少しソワソワしながら、窓から通りを眺めていた。とても重要な話があり、ナギサちゃんに、相談に乗ってもらう予定だ。でも、正直、どう切り出していいのか、よく分からなかった。
きっと、滅茶苦茶、驚くだろうなぁ、ナギサちゃん。気分を害さなければ、いいんだけど。やっぱり、いい気持ちはしないよね……。
今日、ここに来たのは、後日、行われる、昇進の『二次審査』の面接についての相談だ。いくら『一次審査』を通ったと言っても、それは、二人のクイーンの力が、あったからに過ぎない。二次の面接は、私、個人の力だけが試される。
ただ、正直、私には、受かる自信がなかった。コミュ力は、結構、あるほうだと思うけど。偉い人と話すのは、物凄く苦手だからだ。
かしこまり過ぎて、なかなか言いたいことが、言えないし。かと言って、つい本音を言ったり、素を出してしまったら、心証を悪くしかねない。その、バランスのとり方が、凄く下手なのだ。
私の周りの上位階級の人たちは、みんな、気さくで優しい人が多い。だから、気兼ねなく、普通に話している。でも、理事会の人たちは、そうもいかない。とんでもなく、気難しい人たちであるのは、査問会の時に、身に染みて分かっていた。
あの時は、まだ、見習いだったし。自分自身も、常識や礼節が、足りない部分があったと思う。ただ、あの時のことが、いまだに、強いトラウマになっている。だから、上手く話せるか、全く自信が持てないでいた。
私は、友好的な人となら、すぐに、仲良くなれるんだけど。上から目線や、敵対的な人とのやり取りは、極端に下手なんだよね。つい、熱くなって、感情的に反論しちゃうので――。
「はぁー……。何か、滅茶苦茶、気分が重いなぁー」
せっかくの、昇進のチャンスだというのに。通知が来て以来、ため息をついてばかりだ。夜も、中々眠れないし。食欲もなくて、何を食べても、味がしない。
重責に対する、大きなプレッシャー。それに加えて、十五人の理事に対する、恐怖心。さらに言えば、自分の実力不足に対する、自信のなさ。全てが、重くのしかかって来ている。おかげで、頭が痛かったり、胃が重かったりで、体長は最悪だ。
いつもは、平気で無茶をするし。本番には、かなり強い性格だ。でも、偉い人だけは、学生時代から、とても苦手意識が強い。怒られた記憶しか、ないからかもしれない――。
私が、外をボーッと眺めながら、ため息をついていると、横から声を掛けられた。
「ずいぶんと、大きなため息ね。また、何か失敗でもしたの?」
「あっ、ナギサちゃん?! ゴメンね、わざわざ来てもらって」
悶々としていたので、入り口から入って来たのにも、気付かなかった。
「別に、いいわよ。それで、急に『大事な用事がある』って、何なの? また、査問会とかじゃ、ないわよね?」
ナギサちゃんは、私の前の席に、静かに座る。
「いや、流石に、それはないよ。でも、そういえば、査問会の前日も、ここで、ナギサちゃんに、相談に乗って貰ったんだったよね」
「えぇ。だから、また、呼び出しでも受けたんじゃないかと、ちょっと、不安になったわよ」
「あははっ……。なんか、いつも心配かけて、ゴメンね。でも、まぁ、シルフィード協会から呼び出されたのは、事実なんだけど」
「はぁ!? いったい、今度は何をやらかしたのよ?」
ナギサちゃんは、あからさまに、驚きの表情を浮かべた。
「いやいや、そうじゃなくて。呼び出されたのは、事実だけど。別に、何も悪いことはしてないから。てか、私って、そんなに悪いイメージしかないの?」
「風歌が、いつも、失敗ばかりしてるからでしょ」
「んがっ――。それは、否定はしないけど。でも、それは、見習い時代の話であって。『エア・マスター』になってからは、何も、失敗なんてしてないよ」
「だと、いいんだけど」
うーむ、信頼ないのね、私って。まぁ、見習い時代は、失敗だらけで、よくナギサちゃんに、突っ込まれてたもんね。
私は、ポーチから、そっと封筒を取り出した。例の、協会から送られて来た手紙だ。少し緊張しながら、そっと、彼女の前に差し出す。
「実は、これが、協会から送られてきて……」
「何よ、これ?」
「読んでみて」
「――なんか、他人の手紙を見るのは、気が引けるわね」
私が目で促すと、ナギサちゃんは、少しためらったあと、封筒から、そっと手紙を取り出した。
ナギサちゃんは、静かに手紙に目を通す。その間、私は、ずっと、ドキドキしっぱなしだった。なぜなら、どんなリアクションが来るのか、全然、想像がつかなかったからだ。私は、どう突っ込まれてもいいように、覚悟を決めた。
しばらくすると、ナギサちゃんは、静かに口を開く。
「なるほどね。事情は、だいたい分かったわ」
「えっ? それだけ……?」
あまりにも、冷静なので、拍子抜けしてしまった。もっと、激しい反応があると思ったのに。ナギサちゃんは、眉一つ動かさず、全く驚いた様子もなかった。
「なによ?」
「いや『何で、あんたみたいのが』みたく、突っ込まれるかと思って――」
能力的にも、知識も品格も、全てにおいて、ナギサちゃんのほうが、はるかに上だ。ナギサちゃんも、リリーシャさん同様に、シルフィード校を、首席卒業している秀才だし。自分より、劣った人間の昇進など、絶対に、納得できないと思ってた。
「別に、そんなこと言わないわよ。私だって、ここ最近の風歌の活躍は、ニュースや、雑誌などで、全て知っているのだから。MVにも、何度か出ていたし。『月刊シルフィード』にも、載っていたでしょ?」
「えっ……見てくれてたの?」
『月刊シルフィード』は、読むとしても。その他のニュースやMVも、全部チェックしてくれていたとは、意外だった。
「情報収集は、シルフィードの常識でしょ。別に、風歌だけを、見ていた訳じゃないわよ。でも、あれだけ話題になっていれば、可能性としては、十分にあり得ると思っていたわ」
「レースの優勝で、実績を得たのもあるけれど。近年の、上位階級への昇進は、話題性が、物凄く重視されているから。それに足る、十分な注目度だったじゃない。ここ最近で、風歌の話題が、一番の盛り上がりだったし」
ナギサちゃんは、淡々と語る。
「そう――なんだ?」
「それに、この二人が推薦者なら、当然ね。間違いなく、一次審査は、通るでしょ。そもそも、クイーン二名が、推薦すること自体、異例なんだから」
「やっぱり、二人の力のお蔭だよね……?」
あまりに身近すぎて、普段は、意識してないけど。こうしてみると、改めて、二人の力の凄さを思い知る。特に、ノーラさんは、別格に影響力が強いようだ。
「それも、あるけど。〈ホワイト・ウイング〉の、社名も大きいわね。『グランド・エンプレス』の作った、有名企業だし。何より、二人も、上位階級者が出ているのだから。業界内でも、名門中の名門よ」
「一度、上位階級が出た会社は、箔がついて、信頼性も高くなるから。そのあとも、続けて、上位階級者が、出る場合が多いわ。だから、みんな、上位階級のいる、大企業に入りたがるのよ」
「上位階級を目指す、志の高い人間が集まるから。結果的に、また、上位階級が、出やすくなる。これは、シルフィード業界の常識よ」
なるほど、言われてみれば、その通りだ。『有名ブランド』みたいな、感じなのかな? 社名を出すと、誰もが驚くのは、そういうことだったんだ。
「でも、それって、結局、会社や周りの人が、凄かっただけで。私は、単に、運がよかっただけだよね――?」
「運だけで、選ばれる訳ないでしょ。レースの優勝も、観光案内の評判も、全ては、風歌自身の、今までの努力の積み重ねじゃない。選ばれたのなら、もっと、自信を持ちなさいよ」
「う……うん」
なんか、物凄く意外だった。もっと、色々批判的なことを、言われると思ってたのに。何だかんだで、結構、認めてくれてたんだ――。
「それで、今日の相談はなに?」
「あー、それなんだけどね。以前、査問会で、理事の人たちには、結構、悪い印象を与えちゃってるから。さすがに、今回は『上手くやらないと』って、思って……」
「そもそも、あれは、風歌が、私のアドバイスを、守らなかったからでしょ? 時間を掛けて、徹底的にレクチャーしたのに」
「はい――。本当に、すいませんでした……」
そうだった。夜遅くまで、礼儀作法や言葉遣い。各種質問の対応法まで、懇切丁寧に教えてくれたのに。私が、査問会で、つい、カッとなってしまって。余計なことを言ってしまったのが、全ての原因だった。
あの時は、まだ、見習いで、精神的に子供だったし。今よりも、ずっと、血気盛んだったんだよね――。
「つまり、二次審査の面接の、対策をしたい訳ね?」
「はい……、その通りです」
「はぁーー。後輩でもなく、しかも、他社の人間を。何で私が、面倒、見なければならないのよ――?」
ナギサちゃんは、大きなため息をつきながら答える。
まぁ、普通は、そうなるよね。昔から、他社の人間は、全員、敵だって言ってたし。ナギサちゃんだって、上位階級を目指しているんだから、わざわざ、敵に塩を送るようなこと、したくないのは当然だと思う……。
「まったく、しょうがないわね。なら、面接の前日に、私の家に来なさい。今度は、絶対に、失敗が許されないから。徹底的に、指導するわよ」
「えっ――?! いいの?」
「一生に一度の、物凄いチャンスなんだから。もし、ここで落ちたりしたら、私だって、目覚めが悪くなるわよ。私に相談してきた以上、絶対に受からせるわ」
「本当に、ありがとう! やっぱり、持つべきものは親友だね。ナギサちゃん、超大好きっ!!」
私は、彼女の手を取って、心の底からお礼を述べる。昔から、いつだって、困った時に頼りになるのは、ナギサちゃんだ。
「ちょっ、何を大げさな? ってか、暑苦しいから、放しなさいよ」
ナギサちゃんは、頬をほんのり赤くして、私の手を、サッと振りほどく。照れ屋なのも、昔から変わらない。
「じゃあ、火曜日の、このぐらいの時間でいい?」
「何を言ってるの? 朝から、一日中やるに、決まってるでしょ」
「えっ? でも、仕事が……」
「休みを取りなさい、私も休むから。そもそも、火曜日は、元々休みなのだから。こんな緊急事態に、のんびり、仕事をしている場合じゃないでしょ?」
「う――うん」
ナギサちゃんの目は、物凄く真剣だった。最初は、嫌がっても、結局は、全力で協力してくれる。それが、ナギサちゃんだった。私は、つくづく、いい友達を持ったものだ。
ここまでして貰ったら、絶対に、落ちるわけには行かないよね。自分のためだけじゃなく、協力してくれた先輩方や、友人たちのためにも、全力で頑張らないと。
上位階級への昇進は、私だけじゃなく、応援してくれた、全ての人たちの、夢と希望なのだから……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『面接って悪い記憶しかないんですが……』
記録よりも記憶に残るって大事だよな
陽気のいい時期は、テラス席が、とても気持ちいい。それに、この町では、外で食事をするのが、昔からの伝統だからだ。ちょうど、夕食時なので、外のテラス席は、ほぼ満席状態だった。
私は、アイスコーヒーを飲み、少しソワソワしながら、窓から通りを眺めていた。とても重要な話があり、ナギサちゃんに、相談に乗ってもらう予定だ。でも、正直、どう切り出していいのか、よく分からなかった。
きっと、滅茶苦茶、驚くだろうなぁ、ナギサちゃん。気分を害さなければ、いいんだけど。やっぱり、いい気持ちはしないよね……。
今日、ここに来たのは、後日、行われる、昇進の『二次審査』の面接についての相談だ。いくら『一次審査』を通ったと言っても、それは、二人のクイーンの力が、あったからに過ぎない。二次の面接は、私、個人の力だけが試される。
ただ、正直、私には、受かる自信がなかった。コミュ力は、結構、あるほうだと思うけど。偉い人と話すのは、物凄く苦手だからだ。
かしこまり過ぎて、なかなか言いたいことが、言えないし。かと言って、つい本音を言ったり、素を出してしまったら、心証を悪くしかねない。その、バランスのとり方が、凄く下手なのだ。
私の周りの上位階級の人たちは、みんな、気さくで優しい人が多い。だから、気兼ねなく、普通に話している。でも、理事会の人たちは、そうもいかない。とんでもなく、気難しい人たちであるのは、査問会の時に、身に染みて分かっていた。
あの時は、まだ、見習いだったし。自分自身も、常識や礼節が、足りない部分があったと思う。ただ、あの時のことが、いまだに、強いトラウマになっている。だから、上手く話せるか、全く自信が持てないでいた。
私は、友好的な人となら、すぐに、仲良くなれるんだけど。上から目線や、敵対的な人とのやり取りは、極端に下手なんだよね。つい、熱くなって、感情的に反論しちゃうので――。
「はぁー……。何か、滅茶苦茶、気分が重いなぁー」
せっかくの、昇進のチャンスだというのに。通知が来て以来、ため息をついてばかりだ。夜も、中々眠れないし。食欲もなくて、何を食べても、味がしない。
重責に対する、大きなプレッシャー。それに加えて、十五人の理事に対する、恐怖心。さらに言えば、自分の実力不足に対する、自信のなさ。全てが、重くのしかかって来ている。おかげで、頭が痛かったり、胃が重かったりで、体長は最悪だ。
いつもは、平気で無茶をするし。本番には、かなり強い性格だ。でも、偉い人だけは、学生時代から、とても苦手意識が強い。怒られた記憶しか、ないからかもしれない――。
私が、外をボーッと眺めながら、ため息をついていると、横から声を掛けられた。
「ずいぶんと、大きなため息ね。また、何か失敗でもしたの?」
「あっ、ナギサちゃん?! ゴメンね、わざわざ来てもらって」
悶々としていたので、入り口から入って来たのにも、気付かなかった。
「別に、いいわよ。それで、急に『大事な用事がある』って、何なの? また、査問会とかじゃ、ないわよね?」
ナギサちゃんは、私の前の席に、静かに座る。
「いや、流石に、それはないよ。でも、そういえば、査問会の前日も、ここで、ナギサちゃんに、相談に乗って貰ったんだったよね」
「えぇ。だから、また、呼び出しでも受けたんじゃないかと、ちょっと、不安になったわよ」
「あははっ……。なんか、いつも心配かけて、ゴメンね。でも、まぁ、シルフィード協会から呼び出されたのは、事実なんだけど」
「はぁ!? いったい、今度は何をやらかしたのよ?」
ナギサちゃんは、あからさまに、驚きの表情を浮かべた。
「いやいや、そうじゃなくて。呼び出されたのは、事実だけど。別に、何も悪いことはしてないから。てか、私って、そんなに悪いイメージしかないの?」
「風歌が、いつも、失敗ばかりしてるからでしょ」
「んがっ――。それは、否定はしないけど。でも、それは、見習い時代の話であって。『エア・マスター』になってからは、何も、失敗なんてしてないよ」
「だと、いいんだけど」
うーむ、信頼ないのね、私って。まぁ、見習い時代は、失敗だらけで、よくナギサちゃんに、突っ込まれてたもんね。
私は、ポーチから、そっと封筒を取り出した。例の、協会から送られて来た手紙だ。少し緊張しながら、そっと、彼女の前に差し出す。
「実は、これが、協会から送られてきて……」
「何よ、これ?」
「読んでみて」
「――なんか、他人の手紙を見るのは、気が引けるわね」
私が目で促すと、ナギサちゃんは、少しためらったあと、封筒から、そっと手紙を取り出した。
ナギサちゃんは、静かに手紙に目を通す。その間、私は、ずっと、ドキドキしっぱなしだった。なぜなら、どんなリアクションが来るのか、全然、想像がつかなかったからだ。私は、どう突っ込まれてもいいように、覚悟を決めた。
しばらくすると、ナギサちゃんは、静かに口を開く。
「なるほどね。事情は、だいたい分かったわ」
「えっ? それだけ……?」
あまりにも、冷静なので、拍子抜けしてしまった。もっと、激しい反応があると思ったのに。ナギサちゃんは、眉一つ動かさず、全く驚いた様子もなかった。
「なによ?」
「いや『何で、あんたみたいのが』みたく、突っ込まれるかと思って――」
能力的にも、知識も品格も、全てにおいて、ナギサちゃんのほうが、はるかに上だ。ナギサちゃんも、リリーシャさん同様に、シルフィード校を、首席卒業している秀才だし。自分より、劣った人間の昇進など、絶対に、納得できないと思ってた。
「別に、そんなこと言わないわよ。私だって、ここ最近の風歌の活躍は、ニュースや、雑誌などで、全て知っているのだから。MVにも、何度か出ていたし。『月刊シルフィード』にも、載っていたでしょ?」
「えっ……見てくれてたの?」
『月刊シルフィード』は、読むとしても。その他のニュースやMVも、全部チェックしてくれていたとは、意外だった。
「情報収集は、シルフィードの常識でしょ。別に、風歌だけを、見ていた訳じゃないわよ。でも、あれだけ話題になっていれば、可能性としては、十分にあり得ると思っていたわ」
「レースの優勝で、実績を得たのもあるけれど。近年の、上位階級への昇進は、話題性が、物凄く重視されているから。それに足る、十分な注目度だったじゃない。ここ最近で、風歌の話題が、一番の盛り上がりだったし」
ナギサちゃんは、淡々と語る。
「そう――なんだ?」
「それに、この二人が推薦者なら、当然ね。間違いなく、一次審査は、通るでしょ。そもそも、クイーン二名が、推薦すること自体、異例なんだから」
「やっぱり、二人の力のお蔭だよね……?」
あまりに身近すぎて、普段は、意識してないけど。こうしてみると、改めて、二人の力の凄さを思い知る。特に、ノーラさんは、別格に影響力が強いようだ。
「それも、あるけど。〈ホワイト・ウイング〉の、社名も大きいわね。『グランド・エンプレス』の作った、有名企業だし。何より、二人も、上位階級者が出ているのだから。業界内でも、名門中の名門よ」
「一度、上位階級が出た会社は、箔がついて、信頼性も高くなるから。そのあとも、続けて、上位階級者が、出る場合が多いわ。だから、みんな、上位階級のいる、大企業に入りたがるのよ」
「上位階級を目指す、志の高い人間が集まるから。結果的に、また、上位階級が、出やすくなる。これは、シルフィード業界の常識よ」
なるほど、言われてみれば、その通りだ。『有名ブランド』みたいな、感じなのかな? 社名を出すと、誰もが驚くのは、そういうことだったんだ。
「でも、それって、結局、会社や周りの人が、凄かっただけで。私は、単に、運がよかっただけだよね――?」
「運だけで、選ばれる訳ないでしょ。レースの優勝も、観光案内の評判も、全ては、風歌自身の、今までの努力の積み重ねじゃない。選ばれたのなら、もっと、自信を持ちなさいよ」
「う……うん」
なんか、物凄く意外だった。もっと、色々批判的なことを、言われると思ってたのに。何だかんだで、結構、認めてくれてたんだ――。
「それで、今日の相談はなに?」
「あー、それなんだけどね。以前、査問会で、理事の人たちには、結構、悪い印象を与えちゃってるから。さすがに、今回は『上手くやらないと』って、思って……」
「そもそも、あれは、風歌が、私のアドバイスを、守らなかったからでしょ? 時間を掛けて、徹底的にレクチャーしたのに」
「はい――。本当に、すいませんでした……」
そうだった。夜遅くまで、礼儀作法や言葉遣い。各種質問の対応法まで、懇切丁寧に教えてくれたのに。私が、査問会で、つい、カッとなってしまって。余計なことを言ってしまったのが、全ての原因だった。
あの時は、まだ、見習いで、精神的に子供だったし。今よりも、ずっと、血気盛んだったんだよね――。
「つまり、二次審査の面接の、対策をしたい訳ね?」
「はい……、その通りです」
「はぁーー。後輩でもなく、しかも、他社の人間を。何で私が、面倒、見なければならないのよ――?」
ナギサちゃんは、大きなため息をつきながら答える。
まぁ、普通は、そうなるよね。昔から、他社の人間は、全員、敵だって言ってたし。ナギサちゃんだって、上位階級を目指しているんだから、わざわざ、敵に塩を送るようなこと、したくないのは当然だと思う……。
「まったく、しょうがないわね。なら、面接の前日に、私の家に来なさい。今度は、絶対に、失敗が許されないから。徹底的に、指導するわよ」
「えっ――?! いいの?」
「一生に一度の、物凄いチャンスなんだから。もし、ここで落ちたりしたら、私だって、目覚めが悪くなるわよ。私に相談してきた以上、絶対に受からせるわ」
「本当に、ありがとう! やっぱり、持つべきものは親友だね。ナギサちゃん、超大好きっ!!」
私は、彼女の手を取って、心の底からお礼を述べる。昔から、いつだって、困った時に頼りになるのは、ナギサちゃんだ。
「ちょっ、何を大げさな? ってか、暑苦しいから、放しなさいよ」
ナギサちゃんは、頬をほんのり赤くして、私の手を、サッと振りほどく。照れ屋なのも、昔から変わらない。
「じゃあ、火曜日の、このぐらいの時間でいい?」
「何を言ってるの? 朝から、一日中やるに、決まってるでしょ」
「えっ? でも、仕事が……」
「休みを取りなさい、私も休むから。そもそも、火曜日は、元々休みなのだから。こんな緊急事態に、のんびり、仕事をしている場合じゃないでしょ?」
「う――うん」
ナギサちゃんの目は、物凄く真剣だった。最初は、嫌がっても、結局は、全力で協力してくれる。それが、ナギサちゃんだった。私は、つくづく、いい友達を持ったものだ。
ここまでして貰ったら、絶対に、落ちるわけには行かないよね。自分のためだけじゃなく、協力してくれた先輩方や、友人たちのためにも、全力で頑張らないと。
上位階級への昇進は、私だけじゃなく、応援してくれた、全ての人たちの、夢と希望なのだから……。
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