233 / 363
第6部 飛び立つ勇気
4-2目指すは伝説のシルフィード!
しおりを挟む
夜、静まり返った屋根裏部屋。私は、小さな机の前に、座布団をしいて正座し、空中モニターを、ジッと凝視していた。お約束の『お勉強タイム』だ。これは、一人前になっても、毎晩、変わらず続けている。
というか、一人前になっても、仕事もライフスタイルも、何一つ変わってないんだよね。だから、あまり一人前になった実感が、湧いてこない。次の試験もあるから、勉強も続けなきゃだし。
『リトル・ウイッチ』以降は、半年の実務経験で、昇級試験が受けられる。なので、気を抜いていると、あっという間に、次の試験だ。
ちなみに『リトル・ウイッチ』と『ホワイト・ウイッチ』は、学科重視。『エア・マスター』になると、実技が重視される。なので、学科試験のための勉強は、まだまだ必要だ。
とはいえ、時間はあるので、焦らずじっくりと進めている。また、体調を崩したら、シャレにならないし。それに、以前と違って、かなり心に余裕ができたからね。
一人前になった安心感と、試験に受かった自信。これが、物凄く大きい。一度は落ちたものの、受かっちゃえば、こっちのもの。けっして、過信や油断は、しちゃいけないけど。初めて得た自信は、大事にするべきだと思う。
まぁ、私が勉強で自信を得たのって、これが、人生で初めてだんもんねぇ。学生時代は、ロクに勉強したこと無かったので……。
コツコツ勉強をしていると、マギコンから、メッセージの着信音が鳴った。確認すると、ユメちゃんからだ。私は喜んで、急ぎELを立ち上げる。
試験直前は、勉強に集中するため、しばらくの間、封印していた。その反動もあってか、最近、滅茶苦茶、ELが楽しい。
『風ちゃん、こんばんはー。頑張ってる?』
『こんばんは、ユメちゃん。ぼちぼち、頑張ってるよー』
『よかった。だいぶ、落ち着いたみたいだね』
『うん。無事、昇級できて、色々スッキリしたからねぇ』
会社への貢献、友人に追いつくこと、親との約束。それらが、まとめて解消できたため、一気に肩の荷が下りた。母親との約束は、まだ、はるかに先だけど、最低限の面目は立ったからね。
『そうだ、おめでとう風ちゃん! シルフィード名鑑も、更新されてたね』
『あぁー。一応、一人前だもんね』
『もう、チェックした?』
『まだ、だけど。ノア・マラソンの時、見て以来かなぁ』
シルフィード名鑑は、一人前以上の、全シルフィードの情報が載っている、有志で作られた、非公式サイトだ。ただ、私の場合は、ノア・マラソンの時、見習いにも関わらず、例外的に登録されていた。想像以上に、MV効果があったからだ。
『えぇー、絶対、見たほうがいいよ! 色々追加で書かれてるから』
ユメちゃんから、サイトのリンクが送られ来る。
リンクをタッチすると、新たな空中モニターが開く。それは、名鑑内の、私の情報が書かれたページだった。
『如月風歌 15歳 ホワイト・ウイング所属
リトル・ウイッチ(世界歴2061年2月昇級)
2060年10月に行なわれた、ノア・マラソンに出場し
途中で左足を怪我するトラブルに見舞われる。
だが、雨天の最悪のコンディションの中
50キロの距離を走り切り
「シルフィード史上初のノア・マラソン完走」の偉業を成し遂げた。
その際の死闘は、全世界にMV中継され
多くの人たちに、勇気や希望を与えた。
伝説のシルフィードと言われた
「白き翼」アリーシャ・シーリングを彷彿とさせる
彗星のごとくの登場であった。
しかも、彼女はマイアの出身であり
異世界人のシルフィードとしても、史上初である。
今まで誰も採用していなかった
名企業ホワイト・ウイングに入社した時点で
その才能の片鱗をうかがわせている。
なお、2060年11月に行われた
東地区での「ホワイトウイング・フェア」は
彼女による企画立案であり
たった、3日間の開催であったにも関わらず
5千人以上が集まる、大盛況となった。
シルフィードの能力だけでなく
企画・経営戦略でも、優れた能力を発揮している。
昨年の4月に入社しているが
繰り上げ申請により、今年の2月の試験で見事に昇級。
「天使の羽」リリーシャ・シーリングと共に
超エリート・シルフィードとして
非常に注目度の高い、期待の新星である。
※なお、異世界出身で情報が少ないため
現在、新しい情報を募集中』
そこには、私が『ノア・マラソン』で、走っている時の写真。さらに『ホワイトウイング・フェア』の時の写真も、しっかり載っていた。
私は、全文を読み終わったあと、あまりの恥ずかしさに、顔が熱くなった。
『なっ、なんじゃこりゃー……?!』
『ね、凄いでしょ! 風ちゃんの経歴が、ばっちり書いてあるし』
『いやいや。いくらなんでも、脚色され過ぎでしょ!』
『そんなことないよ。凄くかっこいいし、風ちゃん凄いじゃん』
毎度のことだけど、情報とは恐ろしい。いい点でも悪い点でも、色々と尾ひれ背びれが付いてしまう。確かに、アリーシャさんやリリーシャさんは、本当に凄い人だ。でも、私はまだ、何も結果を出していない。
単に、会社が凄というだけで。私自身は、何一つ、誇れるような結果は出していないのだ。『ノア・マラソン』は、シルフィードには、直接、関係ないし。そもそも、査問会や墜落事故なんかも、この間にあったんだから――。
『うー。何か、胃が痛くなってきた……』
『えーっ、何で何で?』
『みんな、真実を知らないだけだよ。ホワイト・ウイングに入ったのは、行き場がなくて、路頭に迷っていたところを、拾ってもらっただけだし。ノア・マラソンは、おまけの完走だし。フェアは、会社とリリーシャさんの知名度だし』
『昇級試験だって、一回、落ちてるんだから。エリートなんて、とんでもない。私には、最も遠い言葉だよ』
馬鹿だのダメだのなんてのは、今までの人生の中で、数え切れないほど、言われてきた。まぁ、実際にそうだから、しょうがないんだけど――。
『いいじゃない、別に。結果よければ、全てよしだよ』
『いやいや。メッキがはがれた時が、超怖いよぉー!』
『なら、実際に、超エリート・シルフィードに、なっちゃえばいいじゃん?』
『そんな、簡単に……』
エリートとは、リリーシャさんや、ナギサちゃんにこそ、相応しい言葉だ。何をやっても完璧だし。対して私は、何をやっても、失敗だらけで不完全だった。
『でも、案外そんなもんじゃない? 他の名鑑も、見てみれば分かるけど。どれも、結構、大げさに書かれてるし。大衆は、常に英雄を求めるものだから。噂が先行して、後に凄くなった人も、いると思うよ』
『そんなものなのかなぁ――?』
私には、今一つピンと来ない。でも、今までも、シルフィードだから、ホワイト・ウイングの社員だから。ただ、その理由だけで、過剰に評価されていることは、よくあった。
『歴史上の偉人だって、結構、美化や過大評価は、されてるからね。例えば「四魔女」なんかが、いい例だよ。でも、本人たちも、それを理解したうえで、努力したんじゃないかな?』
確かに、歴史上の人物は、美化されている場合が、多いと聞く。でも、四魔女の場合は、全員、物凄い実績を残してるからね。
『つまり、評価に合わせて頑張った、ってこと?』
『うん。過剰評価だって、追い付いちゃえば、正当な評価になるでしょ?』
『なるほど、言われてみれば……』
リリーシャさんも、物凄い高評価だから、その実現のために、頑張っているんだろうか?
『風ちゃんは、シルフィード・クイーンになるんでしょ?』
『うん。というか、グランド・エンプレスが、最終目標だけど』
『だったら、超エリートにならなきゃ』
『うーむ。どうしたら、エリートになれるんだろ? 学力? それとも、何事も完璧にこなす、器用さ?』
どちらも、今の私には、決定的に欠けている部分だ。そもそも、今までは、全力で頑張れば上に行けると、物凄く単純に考えてたし――。
『たぶん、そういうんじゃ、ないと思う。風ちゃんにしか出来ないことを、やる事じゃないかな? ノア・マラソンの時みたいに』
『でも、あんな事したら、また協会に怒られちゃうよ……』
『大丈夫だよ。もう、一人前なんだから。思い切って行動して、名鑑に、どんどん伝説を刻んで行けば、自然に、上に行くんじゃないかな?』
『伝説って――。やらかしちゃうのは、エリートとは、真逆な気がするけど』
昔から、考えなしに、無謀な挑戦をするから、度々トラブルを引き起こしている。挑戦とは、いつだって、トラブルや失敗が付き物だから。
『優等生=エリートじゃないよ。全てを完璧にこなすやり方もあれば、前人未到のことをやるのも、エリートじゃない? 風ちゃんは、後者だと思うけど』
『私って、そんなイメージなの……?』
『果敢にチャレンジするのが、風ちゃんじゃない。無理に、優等生を目指さないで、風ちゃんらしく、伸び伸びやったほうが、いいと思うよ。何か、最近の風ちゃん、ちょっと窮屈そうな感じがする』
確かに、そうかもしれない。こっちに来たばかりころは、とんでもない、チャレンジスピリッツの塊で、怖いもの知らずだった。でも、色々トラブルがあってから、大人しくすることばかり、考えるようになってきた。
周りの人に迷惑を掛けるのが、怖くなってきたからだ。もちろん、迷惑を掛けるのは、よくないけど、何でもやってみる精神は、無くしちゃいけないのかもしれない。
『そうだね。また、ドーンとやってみるよ』
『やっちゃえ、やっちゃえー! 名鑑を、伝説で埋め尽くしちゃえばいいよ』
『あははっ。別の意味で、伝説になりそうだね』
その後も、ユメちゃんと、色んな世間話で盛り上がる。お蔭で、すっかり元気が出てきた。それと同時に、久しぶりに心の奥から、沸々とした、熱い感情が沸き上がって来る。
多分これは、忘れかけていた、あくなき挑戦の炎だ。消えてしまったわけではなく、一時的に、くすぶっていただけだと思う。
たぶん私は、ノーラさんの言う通り、お馬鹿な子なんだろう。だから、どんなに頑張っても、リリーシャさんやナギサちゃんのような、完璧なエリートには、なれないと思う。でも、それならそれで、やりようがある。
誰もやらなかった、誰もやれなかった、前人未踏の領域を目指すだけだ。果敢に挑戦を続け、誰も真似できないシルフィードを目指すことで、頂点に進んで行けばいいのだから。
私は、不安定で不完全。でも、目指すは、伝説のシルフィード!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『一人前になってちょっぴり大人になったかも?』
人生のゴールは何ごとについても大人になることさ
というか、一人前になっても、仕事もライフスタイルも、何一つ変わってないんだよね。だから、あまり一人前になった実感が、湧いてこない。次の試験もあるから、勉強も続けなきゃだし。
『リトル・ウイッチ』以降は、半年の実務経験で、昇級試験が受けられる。なので、気を抜いていると、あっという間に、次の試験だ。
ちなみに『リトル・ウイッチ』と『ホワイト・ウイッチ』は、学科重視。『エア・マスター』になると、実技が重視される。なので、学科試験のための勉強は、まだまだ必要だ。
とはいえ、時間はあるので、焦らずじっくりと進めている。また、体調を崩したら、シャレにならないし。それに、以前と違って、かなり心に余裕ができたからね。
一人前になった安心感と、試験に受かった自信。これが、物凄く大きい。一度は落ちたものの、受かっちゃえば、こっちのもの。けっして、過信や油断は、しちゃいけないけど。初めて得た自信は、大事にするべきだと思う。
まぁ、私が勉強で自信を得たのって、これが、人生で初めてだんもんねぇ。学生時代は、ロクに勉強したこと無かったので……。
コツコツ勉強をしていると、マギコンから、メッセージの着信音が鳴った。確認すると、ユメちゃんからだ。私は喜んで、急ぎELを立ち上げる。
試験直前は、勉強に集中するため、しばらくの間、封印していた。その反動もあってか、最近、滅茶苦茶、ELが楽しい。
『風ちゃん、こんばんはー。頑張ってる?』
『こんばんは、ユメちゃん。ぼちぼち、頑張ってるよー』
『よかった。だいぶ、落ち着いたみたいだね』
『うん。無事、昇級できて、色々スッキリしたからねぇ』
会社への貢献、友人に追いつくこと、親との約束。それらが、まとめて解消できたため、一気に肩の荷が下りた。母親との約束は、まだ、はるかに先だけど、最低限の面目は立ったからね。
『そうだ、おめでとう風ちゃん! シルフィード名鑑も、更新されてたね』
『あぁー。一応、一人前だもんね』
『もう、チェックした?』
『まだ、だけど。ノア・マラソンの時、見て以来かなぁ』
シルフィード名鑑は、一人前以上の、全シルフィードの情報が載っている、有志で作られた、非公式サイトだ。ただ、私の場合は、ノア・マラソンの時、見習いにも関わらず、例外的に登録されていた。想像以上に、MV効果があったからだ。
『えぇー、絶対、見たほうがいいよ! 色々追加で書かれてるから』
ユメちゃんから、サイトのリンクが送られ来る。
リンクをタッチすると、新たな空中モニターが開く。それは、名鑑内の、私の情報が書かれたページだった。
『如月風歌 15歳 ホワイト・ウイング所属
リトル・ウイッチ(世界歴2061年2月昇級)
2060年10月に行なわれた、ノア・マラソンに出場し
途中で左足を怪我するトラブルに見舞われる。
だが、雨天の最悪のコンディションの中
50キロの距離を走り切り
「シルフィード史上初のノア・マラソン完走」の偉業を成し遂げた。
その際の死闘は、全世界にMV中継され
多くの人たちに、勇気や希望を与えた。
伝説のシルフィードと言われた
「白き翼」アリーシャ・シーリングを彷彿とさせる
彗星のごとくの登場であった。
しかも、彼女はマイアの出身であり
異世界人のシルフィードとしても、史上初である。
今まで誰も採用していなかった
名企業ホワイト・ウイングに入社した時点で
その才能の片鱗をうかがわせている。
なお、2060年11月に行われた
東地区での「ホワイトウイング・フェア」は
彼女による企画立案であり
たった、3日間の開催であったにも関わらず
5千人以上が集まる、大盛況となった。
シルフィードの能力だけでなく
企画・経営戦略でも、優れた能力を発揮している。
昨年の4月に入社しているが
繰り上げ申請により、今年の2月の試験で見事に昇級。
「天使の羽」リリーシャ・シーリングと共に
超エリート・シルフィードとして
非常に注目度の高い、期待の新星である。
※なお、異世界出身で情報が少ないため
現在、新しい情報を募集中』
そこには、私が『ノア・マラソン』で、走っている時の写真。さらに『ホワイトウイング・フェア』の時の写真も、しっかり載っていた。
私は、全文を読み終わったあと、あまりの恥ずかしさに、顔が熱くなった。
『なっ、なんじゃこりゃー……?!』
『ね、凄いでしょ! 風ちゃんの経歴が、ばっちり書いてあるし』
『いやいや。いくらなんでも、脚色され過ぎでしょ!』
『そんなことないよ。凄くかっこいいし、風ちゃん凄いじゃん』
毎度のことだけど、情報とは恐ろしい。いい点でも悪い点でも、色々と尾ひれ背びれが付いてしまう。確かに、アリーシャさんやリリーシャさんは、本当に凄い人だ。でも、私はまだ、何も結果を出していない。
単に、会社が凄というだけで。私自身は、何一つ、誇れるような結果は出していないのだ。『ノア・マラソン』は、シルフィードには、直接、関係ないし。そもそも、査問会や墜落事故なんかも、この間にあったんだから――。
『うー。何か、胃が痛くなってきた……』
『えーっ、何で何で?』
『みんな、真実を知らないだけだよ。ホワイト・ウイングに入ったのは、行き場がなくて、路頭に迷っていたところを、拾ってもらっただけだし。ノア・マラソンは、おまけの完走だし。フェアは、会社とリリーシャさんの知名度だし』
『昇級試験だって、一回、落ちてるんだから。エリートなんて、とんでもない。私には、最も遠い言葉だよ』
馬鹿だのダメだのなんてのは、今までの人生の中で、数え切れないほど、言われてきた。まぁ、実際にそうだから、しょうがないんだけど――。
『いいじゃない、別に。結果よければ、全てよしだよ』
『いやいや。メッキがはがれた時が、超怖いよぉー!』
『なら、実際に、超エリート・シルフィードに、なっちゃえばいいじゃん?』
『そんな、簡単に……』
エリートとは、リリーシャさんや、ナギサちゃんにこそ、相応しい言葉だ。何をやっても完璧だし。対して私は、何をやっても、失敗だらけで不完全だった。
『でも、案外そんなもんじゃない? 他の名鑑も、見てみれば分かるけど。どれも、結構、大げさに書かれてるし。大衆は、常に英雄を求めるものだから。噂が先行して、後に凄くなった人も、いると思うよ』
『そんなものなのかなぁ――?』
私には、今一つピンと来ない。でも、今までも、シルフィードだから、ホワイト・ウイングの社員だから。ただ、その理由だけで、過剰に評価されていることは、よくあった。
『歴史上の偉人だって、結構、美化や過大評価は、されてるからね。例えば「四魔女」なんかが、いい例だよ。でも、本人たちも、それを理解したうえで、努力したんじゃないかな?』
確かに、歴史上の人物は、美化されている場合が、多いと聞く。でも、四魔女の場合は、全員、物凄い実績を残してるからね。
『つまり、評価に合わせて頑張った、ってこと?』
『うん。過剰評価だって、追い付いちゃえば、正当な評価になるでしょ?』
『なるほど、言われてみれば……』
リリーシャさんも、物凄い高評価だから、その実現のために、頑張っているんだろうか?
『風ちゃんは、シルフィード・クイーンになるんでしょ?』
『うん。というか、グランド・エンプレスが、最終目標だけど』
『だったら、超エリートにならなきゃ』
『うーむ。どうしたら、エリートになれるんだろ? 学力? それとも、何事も完璧にこなす、器用さ?』
どちらも、今の私には、決定的に欠けている部分だ。そもそも、今までは、全力で頑張れば上に行けると、物凄く単純に考えてたし――。
『たぶん、そういうんじゃ、ないと思う。風ちゃんにしか出来ないことを、やる事じゃないかな? ノア・マラソンの時みたいに』
『でも、あんな事したら、また協会に怒られちゃうよ……』
『大丈夫だよ。もう、一人前なんだから。思い切って行動して、名鑑に、どんどん伝説を刻んで行けば、自然に、上に行くんじゃないかな?』
『伝説って――。やらかしちゃうのは、エリートとは、真逆な気がするけど』
昔から、考えなしに、無謀な挑戦をするから、度々トラブルを引き起こしている。挑戦とは、いつだって、トラブルや失敗が付き物だから。
『優等生=エリートじゃないよ。全てを完璧にこなすやり方もあれば、前人未到のことをやるのも、エリートじゃない? 風ちゃんは、後者だと思うけど』
『私って、そんなイメージなの……?』
『果敢にチャレンジするのが、風ちゃんじゃない。無理に、優等生を目指さないで、風ちゃんらしく、伸び伸びやったほうが、いいと思うよ。何か、最近の風ちゃん、ちょっと窮屈そうな感じがする』
確かに、そうかもしれない。こっちに来たばかりころは、とんでもない、チャレンジスピリッツの塊で、怖いもの知らずだった。でも、色々トラブルがあってから、大人しくすることばかり、考えるようになってきた。
周りの人に迷惑を掛けるのが、怖くなってきたからだ。もちろん、迷惑を掛けるのは、よくないけど、何でもやってみる精神は、無くしちゃいけないのかもしれない。
『そうだね。また、ドーンとやってみるよ』
『やっちゃえ、やっちゃえー! 名鑑を、伝説で埋め尽くしちゃえばいいよ』
『あははっ。別の意味で、伝説になりそうだね』
その後も、ユメちゃんと、色んな世間話で盛り上がる。お蔭で、すっかり元気が出てきた。それと同時に、久しぶりに心の奥から、沸々とした、熱い感情が沸き上がって来る。
多分これは、忘れかけていた、あくなき挑戦の炎だ。消えてしまったわけではなく、一時的に、くすぶっていただけだと思う。
たぶん私は、ノーラさんの言う通り、お馬鹿な子なんだろう。だから、どんなに頑張っても、リリーシャさんやナギサちゃんのような、完璧なエリートには、なれないと思う。でも、それならそれで、やりようがある。
誰もやらなかった、誰もやれなかった、前人未踏の領域を目指すだけだ。果敢に挑戦を続け、誰も真似できないシルフィードを目指すことで、頂点に進んで行けばいいのだから。
私は、不安定で不完全。でも、目指すは、伝説のシルフィード!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『一人前になってちょっぴり大人になったかも?』
人生のゴールは何ごとについても大人になることさ
0
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~
有雲相三
ファンタジー
前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。
主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。
器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜
白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。
光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。
目を開いてみればそこは異世界だった!
魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。
あれ?武器作りって楽しいんじゃない?
武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。
なろうでも掲載中です。
異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました
雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。
女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。
強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。
くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~
平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。
異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。
途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。
しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。
その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。
家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~
厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない!
☆第4回次世代ファンタジーカップ
142位でした。ありがとう御座いました。
★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。
異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜
KeyBow
ファンタジー
主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。
そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。
転生した先は侯爵家の子息。
妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。
女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。
ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。
理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。
メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。
しかしそう簡単な話ではない。
女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。
2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・
多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。
しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。
信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。
いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。
孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。
また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。
果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・
当然だったのかもしれない~問わず語り~
章槻雅希
ファンタジー
学院でダニエーレ第一王子は平民の下働きの少女アンジェリカと運命の出会いをし、恋に落ちた。真実の愛を主張し、二人は結ばれた。そして、数年後、二人は毒をあおり心中した。
そんな二人を見てきた第二王子妃ベアトリーチェの回想録というか、問わず語り。ほぼ地の文で細かなエピソード描写などはなし。ベアトリーチェはあくまで語り部で、かといってアンジェリカやダニエーレが主人公というほど描写されてるわけでもないので、群像劇?
『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる