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第6部 飛び立つ勇気
1-4ぎりぎり赤点回避で満足しちゃいけないよね
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一月二日。午前、十時過ぎ。私は、リビングでおせち料理をつつきながら、家族そろって、テレビを見ていた。どこもかしこも、お正月の特番ばかりで、特に面白い番組は、やっていなかった。
とはいえ、昨日は丸一日、友達と遊んで来たし。さすがに、二日続けて、遊び歩くわけにもいかない。せっかく、戻って来たんだし。次は、いつ戻って来れるか、分からない。だから、家でゆっくり、家族と過ごしたほうがいいと思う。
それにしても、三十日に帰って来てから、何から何まで、至れり尽くせりだった。毎食、かなり豪華な料理が出てくるし。年越しそばとか、おせち料理や、お雑煮なんかも、いっぱい食べた。
ダンボールに入った大量のミカンとか、大きな袋に入った切り餅とか、いっぱい買い置きしてあったお菓子とか。あらゆる物が揃っており、向こうにいた時とは、比べ物にならないぐらい、贅沢な生活だった。
なので、食事のたびに、涙が出そうなほど感動していた。もっとも、昔は、これが当り前だと思って、何一つ、有難みを感じていなかったんだよね。今なら、どれほど恵まれた環境にいたのか、身に染みてよく分かった。
ただ、さすがに、やって貰ってばかりでは、申しわけなさ過ぎる。なので、食事を運んだり、後片付けをしたり、皿を洗ったりとかは、自主的にやっていた。
最初は、お母さんも、驚いていたようだけど。今は普通に、一緒に台所に立ったり、食事の準備をしている。
あと、朝は早く起きて、庭や家の前の、掃き掃除をやっていた。早起きが、すっかり身についてしまって、お正月でも、早朝に目が覚めてしまうからだ。
本当は、家の中の掃除もしたいんだけど。いくらなんでも、年明け早々、バタバタ掃除をする訳には、いかないからね。
私は、リビングのソファーに座って、お煎餅をパリパリ食べながら、お正月番組を見ていた。お父さんとお母さんも、すぐそばで、くつろぎながらテレビを見ている。絵に描いたような、平和な家族団らんは、本当に久しぶりだった。
そもそも、テレビを見ること自体が、凄く久しぶりだ。向こうにいた時は、仕事に行って、帰ってきたら、すぐに勉強の、繰り返しだったから。プライベートな時間は、ほとんど無かった。
本当は、今も勉強をしたいんだけど、こちらの世界では、マギコンが使えない。スピに繋がらないと、魔力認証ができないんだよね。だから、スピを見たり、学習ファイルを開くこともできない。
セキュリティの強さは、こういう時には、凄く不便だ。ファイルを、こっちの世界のスマホに、移して来ればよかったんだけど。あまりに突然だったので、そんな時間はなかったし。
結局、お菓子を食べながら、ボーッとテレビ見るぐらいしか、やることがなかった。昔は、これが当り前だったのに、今は、物足りなさと、ちょっとした罪悪感がある。謝りに来たのに、こんなにダラダラしてしまって、いいのだろうか……?
何となく、テレビを眺めていると、お父さんが話し掛けてきた。
「こっちの世界での休暇は、ちゃんと、楽しめているのか?」
「うん、楽しいよ。こんなに、ゆっくりしたの、久しぶりだから」
本当に、ここまで、のんびりしたのは久々だ。向こうでは、仕事が休みの日も、気を張りっぱなしだった。買い出しなんかも有るし、勉強もしてたし。休日でも、仕事のことを考える時間が、多かった。
「そういえば、週六勤務だっけ? そんなに、仕事、忙しいのか?」
「そうでもないよ。残業とか全然ないし。本当は、週休二日なんだけど、私が自主的に出社してるだけだから。でも、他の会社も、新人の子は、週六が多いみたいだよ」
「そうなのか。大変な仕事だな」
「そんなことないよ。私は、この仕事が大好きだし。むしろ、休日よりも、仕事のある日のほうが、楽しいぐらい」
休日は、嬉しいと言えば嬉しいけど。意外と、やること無いんだよねぇ。買い出し、洗濯、掃除などの家事。それが終わったら勉強。空いた時間は、ブラブラ空を散歩するぐらい。結局、普段とそう変わらない。
「そうか。仕事が楽しいのは、いいことだな。だが、生活は、大丈夫なのか? 食事は、ちゃんとしてるのか?」
「まぁ、何とかね。一日三食、パンだけど」
「自炊とかは、してないのか?」
「私の屋根裏部屋には、キッチンないし。そもそも、料理、全くできないから――」
お母さんの食事準備の手伝いをしていて、つくづく思った。もっと早くから、手伝っておくべきだったと。そうすれば、多少なりとも、料理のスキルが、付いていたはずだから。
「それで、大丈夫なのか? いくら若くても、健康によくないだろ?」
「食事にお呼ばれしたり、差し入れもらったりしてるから、大丈夫だよ」
ノーラさんやリリーシャさん、ナギサちゃんには、本当に、お世話になっている。いくら生きて行けるとはいえ、一年中パンだけじゃ、さすがに栄養が足りないもんね。まだ、成長期だし。
「お給料、安いんだろ? やっぱり、仕送りしたほうが、いいんじゃないのか? もし、体調を崩したりしたら、元も子もないだろ? しかも、異世界なんだから」
「ありがとう、お父さん。でも、大丈夫。もう直ぐ、一人前になるから。そうしたら、お給料も増えるし」
詳しくは知らないけど、一人前になれば、十万ベル以上、一気にお給料が増えるらしい。お給料が数倍になる訳だから、確実に生活は楽になるよね。
「相変わらず、皆さんに、食事のお世話になっているの?」
黙ってテレビを見ていたお母さんが、そっと口を開く。
「せっかくのお誘いを、断るわけにもいかないし。それに、いつも心から感謝して、ちゃんと、お礼は言っているから」
人の優しさには、いつも、心の底から感謝している。思えば、素直にお礼が言えるようになったのも、向こうの世界に、行ってからだよね。
「お礼を、口にするのは大事だけど、形も必要よ。ちゃんと帰る時に、お土産を持って行きなさいよ」
「うん。たっぷり買っていくつもり。お世話になっている人が、多いから」
向こうの世界に行ってから、あらゆる人に、お世話になりっぱなしだ。
「やっぱり、仕送りをしたほうが、いいんじゃないの? いくら、してくれるからと言っても、社会人として、甘えっぱなしで、いい訳ないのだから。意地をはってる場合じゃないでしょ?」
「父さんもそう思うぞ、風歌。皆さん、とてもいい人みたいだが、あまり、お世話にになり過ぎるのもなぁ。せめて、食費ぐらい、賄える仕送りがあったほうが、いいんじゃないか?」
お母さんの言葉に、お父さんも同意した。二人の意見にも一理ある。というか、物凄く正論だ。でも、自覚していない訳でも、意地を張ってる訳でもない。
「お世話に、なりっぱなしなのも。自分一人の力だけで、出来てないのも分かってる。でも、意地を張ってる訳じゃないんだ。仕送りして貰ったら、今度は、お父さんやお母さんに、甘えてしまうことになるから」
「仕送りして貰ったほうが合理的だけど、楽はしたくないんだ。ここで楽をしちゃったら、これ以上先には、進めない気がするから。私は、今までずっと、実家で楽をし過ぎてたから。もっと、苦労をするべきだと思う」
「向こうに行ってから、数え切れないぐらい、沢山の苦労があったけど。そのお蔭で、学んだことも、一杯あったから」
最初のうちは、苦労の連続で、生きて行くだけで、精一杯だった。日々のパンを手に入れるだけで、やっとだったし。でも、その苦労があったからこそ、色んなことを学んで、強くなったと思う。
「確かに。以前の風歌は、毎日ダラダラ無為に生きていたから、楽をし過ぎていたのは、事実よね。いくら注意しても、全く聴く耳を持たなかったし」
「んがっ……。まったくもって、その通りです。はい――」
以前の私は、色んな意味で酷すぎた。いくら注意されても、完全に無視してたし。あれは、どう考えたって、私が悪かったのに。
「まぁまぁ、母さん。そこまで、言わなくても。風歌も、成長したみたいだし」
お父さんがフォローしてくれるが、お母さんに睨まれ、黙り込む。うちも〈グリュンノア〉のご家庭に多いように、母親が、一番、強い存在だ。
「完全に自活できるまでは、成長したとは言えないわよ。でも、人への感謝を覚えただけでも、多少の進歩はあったようね」
お母さんは、湯飲みを手に静かに答える。
「実際に、私は一人じゃ、何もできないけど。でも、色んな人に助けられたり、救われたりしてるのは、凄く自覚してる。だから、いつも感謝の気持ちで、一杯なんだ。感謝の気持ちを、どう形にすればいいかは、まだ、分からないけど……」
「お父さんにも、お母さんにも、物凄く感謝してる。今まで、散々お世話になったのに。家を出てから気付くなんて、私、とんでもなくバカだよね。今まで気づかなくて、ごめんなさい。そして、本当にありがとう」
私は頭を下げて、心からのお礼を口にする。そういえば、二人に直接、お礼を言うなんて、初めてだよね。あまりに身近過ぎて、実家にいる時は、二人の優しさに、全く気付かなかったのだ。
「うっ、風歌――大人になったな」
「お父さん、何を甘いこと言ってるの? 風歌なんて、まだまだ子供よ。口で言うだけなら、小学生だってできるわよ」
涙目で感動しているお父さんに、お母さんの鋭いツッコミが入る。
「んがっ……。私って小学生レベルなの?」
相変わらず、お母さんは厳しい。でも、ナギサちゃんに、いつも厳しく言われてるせいか、昔のように、イラッとしたり、落ち込んだりはしない。怒られ耐性が、ついたんだろうか――?
その後も、三人で色んな話をする。お父さんは、素直に認めてくれたみたいだけど。やっぱり、お母さんは、完全に認めてくれた訳ではないようだ。ぎりぎり『赤点回避』といった感じだろうか。
実家に帰ってくることと、仕事を続けることは、一応、認めてもらえた。でも、本当の意味で認めてもらうには、まだまだ、時間が掛かりそうだ。
まずは、何でも自分で出来るようになって、完全に自活しないと。お母さんには、永遠に、認めてもらえそうにない。
これからも、ますます努力して行こう。シルフィードとしても、人としても、早く一人前だと、認められるようになるために。上位階級を目指すのは、そのあとの話だよね……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『とても幸せなのに心が満たされない理由とは……?』
人は満たされないからこそ苦しみ、満たされるためだけに生きている
とはいえ、昨日は丸一日、友達と遊んで来たし。さすがに、二日続けて、遊び歩くわけにもいかない。せっかく、戻って来たんだし。次は、いつ戻って来れるか、分からない。だから、家でゆっくり、家族と過ごしたほうがいいと思う。
それにしても、三十日に帰って来てから、何から何まで、至れり尽くせりだった。毎食、かなり豪華な料理が出てくるし。年越しそばとか、おせち料理や、お雑煮なんかも、いっぱい食べた。
ダンボールに入った大量のミカンとか、大きな袋に入った切り餅とか、いっぱい買い置きしてあったお菓子とか。あらゆる物が揃っており、向こうにいた時とは、比べ物にならないぐらい、贅沢な生活だった。
なので、食事のたびに、涙が出そうなほど感動していた。もっとも、昔は、これが当り前だと思って、何一つ、有難みを感じていなかったんだよね。今なら、どれほど恵まれた環境にいたのか、身に染みてよく分かった。
ただ、さすがに、やって貰ってばかりでは、申しわけなさ過ぎる。なので、食事を運んだり、後片付けをしたり、皿を洗ったりとかは、自主的にやっていた。
最初は、お母さんも、驚いていたようだけど。今は普通に、一緒に台所に立ったり、食事の準備をしている。
あと、朝は早く起きて、庭や家の前の、掃き掃除をやっていた。早起きが、すっかり身についてしまって、お正月でも、早朝に目が覚めてしまうからだ。
本当は、家の中の掃除もしたいんだけど。いくらなんでも、年明け早々、バタバタ掃除をする訳には、いかないからね。
私は、リビングのソファーに座って、お煎餅をパリパリ食べながら、お正月番組を見ていた。お父さんとお母さんも、すぐそばで、くつろぎながらテレビを見ている。絵に描いたような、平和な家族団らんは、本当に久しぶりだった。
そもそも、テレビを見ること自体が、凄く久しぶりだ。向こうにいた時は、仕事に行って、帰ってきたら、すぐに勉強の、繰り返しだったから。プライベートな時間は、ほとんど無かった。
本当は、今も勉強をしたいんだけど、こちらの世界では、マギコンが使えない。スピに繋がらないと、魔力認証ができないんだよね。だから、スピを見たり、学習ファイルを開くこともできない。
セキュリティの強さは、こういう時には、凄く不便だ。ファイルを、こっちの世界のスマホに、移して来ればよかったんだけど。あまりに突然だったので、そんな時間はなかったし。
結局、お菓子を食べながら、ボーッとテレビ見るぐらいしか、やることがなかった。昔は、これが当り前だったのに、今は、物足りなさと、ちょっとした罪悪感がある。謝りに来たのに、こんなにダラダラしてしまって、いいのだろうか……?
何となく、テレビを眺めていると、お父さんが話し掛けてきた。
「こっちの世界での休暇は、ちゃんと、楽しめているのか?」
「うん、楽しいよ。こんなに、ゆっくりしたの、久しぶりだから」
本当に、ここまで、のんびりしたのは久々だ。向こうでは、仕事が休みの日も、気を張りっぱなしだった。買い出しなんかも有るし、勉強もしてたし。休日でも、仕事のことを考える時間が、多かった。
「そういえば、週六勤務だっけ? そんなに、仕事、忙しいのか?」
「そうでもないよ。残業とか全然ないし。本当は、週休二日なんだけど、私が自主的に出社してるだけだから。でも、他の会社も、新人の子は、週六が多いみたいだよ」
「そうなのか。大変な仕事だな」
「そんなことないよ。私は、この仕事が大好きだし。むしろ、休日よりも、仕事のある日のほうが、楽しいぐらい」
休日は、嬉しいと言えば嬉しいけど。意外と、やること無いんだよねぇ。買い出し、洗濯、掃除などの家事。それが終わったら勉強。空いた時間は、ブラブラ空を散歩するぐらい。結局、普段とそう変わらない。
「そうか。仕事が楽しいのは、いいことだな。だが、生活は、大丈夫なのか? 食事は、ちゃんとしてるのか?」
「まぁ、何とかね。一日三食、パンだけど」
「自炊とかは、してないのか?」
「私の屋根裏部屋には、キッチンないし。そもそも、料理、全くできないから――」
お母さんの食事準備の手伝いをしていて、つくづく思った。もっと早くから、手伝っておくべきだったと。そうすれば、多少なりとも、料理のスキルが、付いていたはずだから。
「それで、大丈夫なのか? いくら若くても、健康によくないだろ?」
「食事にお呼ばれしたり、差し入れもらったりしてるから、大丈夫だよ」
ノーラさんやリリーシャさん、ナギサちゃんには、本当に、お世話になっている。いくら生きて行けるとはいえ、一年中パンだけじゃ、さすがに栄養が足りないもんね。まだ、成長期だし。
「お給料、安いんだろ? やっぱり、仕送りしたほうが、いいんじゃないのか? もし、体調を崩したりしたら、元も子もないだろ? しかも、異世界なんだから」
「ありがとう、お父さん。でも、大丈夫。もう直ぐ、一人前になるから。そうしたら、お給料も増えるし」
詳しくは知らないけど、一人前になれば、十万ベル以上、一気にお給料が増えるらしい。お給料が数倍になる訳だから、確実に生活は楽になるよね。
「相変わらず、皆さんに、食事のお世話になっているの?」
黙ってテレビを見ていたお母さんが、そっと口を開く。
「せっかくのお誘いを、断るわけにもいかないし。それに、いつも心から感謝して、ちゃんと、お礼は言っているから」
人の優しさには、いつも、心の底から感謝している。思えば、素直にお礼が言えるようになったのも、向こうの世界に、行ってからだよね。
「お礼を、口にするのは大事だけど、形も必要よ。ちゃんと帰る時に、お土産を持って行きなさいよ」
「うん。たっぷり買っていくつもり。お世話になっている人が、多いから」
向こうの世界に行ってから、あらゆる人に、お世話になりっぱなしだ。
「やっぱり、仕送りをしたほうが、いいんじゃないの? いくら、してくれるからと言っても、社会人として、甘えっぱなしで、いい訳ないのだから。意地をはってる場合じゃないでしょ?」
「父さんもそう思うぞ、風歌。皆さん、とてもいい人みたいだが、あまり、お世話にになり過ぎるのもなぁ。せめて、食費ぐらい、賄える仕送りがあったほうが、いいんじゃないか?」
お母さんの言葉に、お父さんも同意した。二人の意見にも一理ある。というか、物凄く正論だ。でも、自覚していない訳でも、意地を張ってる訳でもない。
「お世話に、なりっぱなしなのも。自分一人の力だけで、出来てないのも分かってる。でも、意地を張ってる訳じゃないんだ。仕送りして貰ったら、今度は、お父さんやお母さんに、甘えてしまうことになるから」
「仕送りして貰ったほうが合理的だけど、楽はしたくないんだ。ここで楽をしちゃったら、これ以上先には、進めない気がするから。私は、今までずっと、実家で楽をし過ぎてたから。もっと、苦労をするべきだと思う」
「向こうに行ってから、数え切れないぐらい、沢山の苦労があったけど。そのお蔭で、学んだことも、一杯あったから」
最初のうちは、苦労の連続で、生きて行くだけで、精一杯だった。日々のパンを手に入れるだけで、やっとだったし。でも、その苦労があったからこそ、色んなことを学んで、強くなったと思う。
「確かに。以前の風歌は、毎日ダラダラ無為に生きていたから、楽をし過ぎていたのは、事実よね。いくら注意しても、全く聴く耳を持たなかったし」
「んがっ……。まったくもって、その通りです。はい――」
以前の私は、色んな意味で酷すぎた。いくら注意されても、完全に無視してたし。あれは、どう考えたって、私が悪かったのに。
「まぁまぁ、母さん。そこまで、言わなくても。風歌も、成長したみたいだし」
お父さんがフォローしてくれるが、お母さんに睨まれ、黙り込む。うちも〈グリュンノア〉のご家庭に多いように、母親が、一番、強い存在だ。
「完全に自活できるまでは、成長したとは言えないわよ。でも、人への感謝を覚えただけでも、多少の進歩はあったようね」
お母さんは、湯飲みを手に静かに答える。
「実際に、私は一人じゃ、何もできないけど。でも、色んな人に助けられたり、救われたりしてるのは、凄く自覚してる。だから、いつも感謝の気持ちで、一杯なんだ。感謝の気持ちを、どう形にすればいいかは、まだ、分からないけど……」
「お父さんにも、お母さんにも、物凄く感謝してる。今まで、散々お世話になったのに。家を出てから気付くなんて、私、とんでもなくバカだよね。今まで気づかなくて、ごめんなさい。そして、本当にありがとう」
私は頭を下げて、心からのお礼を口にする。そういえば、二人に直接、お礼を言うなんて、初めてだよね。あまりに身近過ぎて、実家にいる時は、二人の優しさに、全く気付かなかったのだ。
「うっ、風歌――大人になったな」
「お父さん、何を甘いこと言ってるの? 風歌なんて、まだまだ子供よ。口で言うだけなら、小学生だってできるわよ」
涙目で感動しているお父さんに、お母さんの鋭いツッコミが入る。
「んがっ……。私って小学生レベルなの?」
相変わらず、お母さんは厳しい。でも、ナギサちゃんに、いつも厳しく言われてるせいか、昔のように、イラッとしたり、落ち込んだりはしない。怒られ耐性が、ついたんだろうか――?
その後も、三人で色んな話をする。お父さんは、素直に認めてくれたみたいだけど。やっぱり、お母さんは、完全に認めてくれた訳ではないようだ。ぎりぎり『赤点回避』といった感じだろうか。
実家に帰ってくることと、仕事を続けることは、一応、認めてもらえた。でも、本当の意味で認めてもらうには、まだまだ、時間が掛かりそうだ。
まずは、何でも自分で出来るようになって、完全に自活しないと。お母さんには、永遠に、認めてもらえそうにない。
これからも、ますます努力して行こう。シルフィードとしても、人としても、早く一人前だと、認められるようになるために。上位階級を目指すのは、そのあとの話だよね……。
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『とても幸せなのに心が満たされない理由とは……?』
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