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第3部 笑顔の裏に隠された真実
1-4知らないほうが幸せでも知らないと前には進めない
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夜、静まり返った屋根裏の自室。灯をつけず、部屋を真っ暗にしたまま、ベッドに寝そべっている。
昼間、ツバサさんから聴いた話が、あまりにもショックが大きすぎた。そのため、部屋に戻ってから、夕飯も食べずに、ずっとベッドの上で伸びていたのだ。
ぐったりしていて、何もやる気力が湧いてこない。毎晩やっている勉強も、今日は、とてもじゃないけど、出来そうになかった。昼間よりは落ち着いたけど、まだ心の中で、色んな想いが渦巻いていた。
一旦、忘れて、気持ちを落ち着けようとする。でも、忘れようとするほどに、昼間きいた話が、鮮明によみがえって来た。
とても、悲しい事故のこと。それに、アリーシャさんが、すでにこの世にいないこと。どちらも、言葉では言い表せないほどの、大きな衝撃を受けた。けれど、知らなかったことが、一番、辛かった。
何も知らなかったから、私はリリーシャさんと、普通に接していた。私はずっと、自分のことしか、考えていなかったのだ。もっとも、知っていたとしても、何か出来ていたとは、思えないけど……。
私って、本当にダメダメだ。何が、最高のパートナーシップよ。リリーシャさんの気持ち、何一つ分かっていなかったくせに――。
私がツバサさんの話を聴いて、涙を流したのは、悔し涙だったと思う。何も分かっていなかった自分が、あまりにも、情けなさ過ぎて……。
それに、この事故は、知ろうと思えば、知ることが可能だった。リリーシャさんに、直接、聴かなくても、スピを見れば、いくらでも分かるからだ。これほど、大きな事故であれば、スピで情報が出ていないはずがない。
でも、私は昔から、調べ物が苦手だ。向こうの世界にいた時も、ネットは、チャットやSNSなどの、コミュニケーションツールしか、使っていなかった。
それは、こちらに来てからも、全く同じだ。スピは『EL』がメインで、あとは、勉強でたまに調べるぐらい。自主的に調べ物をすることは、まず無かった。
そもそも、アリーシャさんの存在を知ったのも、ナギサちゃんに聴いてからだ。基本、何事も、自分の目で見て体験して、体で覚える。まさに、体育会系思考だった。文字を読んでもよく分からないし、眠くなってくるので――。
ただ、今日の話を聴いて、さすがに『知らないまま』では、いられなかった。どんなに、悲惨で辛い過去でも、知らないほうが幸せだったとしても、正面から向き合わなければならない。
私のとても大事な人に、関わることなのだから。リリーシャさんを、本当の意味で理解するには、避けては通れない道だ。
私は、ゆっくり上体を起こすと、しばらく深呼吸して、気持ちを整える。平静になると、ベッドから静かに降り、机の前に向かう。座布団に正座すると、マギコンを起動した。
怖い……怖い……怖い……。
正直、調べるのが、物凄く怖かった。事実を詳細に知れば、より大きな衝撃を受けるのは、間違いないからだ。でも、同じ痛みを背負わなければ、リリーシャさんの気持ちを、理解することはできない――。
私は、少し震える指で、ゆっくり文字を打ち込む。『西地区 ゴンドラ事故』のキーワードを入れると、検索ボタンを押した。すると、事故に関する情報が、ずらりと表示される。
『シルフィード史上、最悪の事故』『ウインド・ストリートの悪夢』『伝説のシルフィードの悲劇』『アリーシャ・シーリングの短い生涯』など、様々なタイトルが目に付いた。
痛々しいタイトルを見た瞬間、息が止まり、嫌な汗が噴き出してくる。すぐにでも、閉じてしまいたい気持ちに駆られた。でも、ここで逃げちゃダメだ。向き合うと、決めたのだから。
私は、上から順に開き、詳細な情報に、ゆっくり目を通していく。読むのがとても辛く、胸のあたりが、ズキズキ痛む。左手で胸をおさえ、あふれ出す様々な感情をこらえながら、読み進めた。
私は、ある部分で目がとまった。
「そんな……まさか――」
事故が起こったのは、一年前の『三月二十一日』だ。そのため『三・二一事件』とも言われている。この日は、私にとっても『特別な日』だったため、しっかり覚えていた。
私が家出した日が、三月二十一日。〈グリュンノア〉に到着したのが、三月二十二日。『追悼式』の翌日に、この町に来たのだ。ツバサさんの反応の意味が、ようやく分かった。
つまり、私は、アリーシャさんの命日に家出して、この世界に到着した数日後に、その娘のリリーシャさんと出会ったのだ。しかも、再開したばかりの会社に、入ることになった。何という、奇跡的な偶然だろうか……?。
もし、一日でもズレていたら、私はリリーシャさんに出会うことも〈ホワイト・ウイング〉に入社することも、無かったのかもしれない。
そう考えると、単なる偶然ではなく、全てが運命に思えて来る。全く知らなかったとはいえ、アリーシャさんの命日に、私はシルフィードになることを決意した。これには、何か意味があるような気がしてならない。
スピに出ている情報を、少しずつ読み進めて行くうちに、事故の詳細が分かって来た。ただ、驚くべきことに、巻き込まれたのではなく、むしろ、自ら飛び込んで行ったらしいのだ。
一年前の『三月二十一日、金曜日』午後、二時過ぎ。アリーシャさんは、協会での会議を終え、会社に帰る途中〈ウインド・ストリート〉に立ち寄った。
アリーシャさんが通りを歩いている最中、事故は発生した。ゴンドラが墜落して来るのには、かなり早くに、気付いていたらしい。
そもそも、我々シルフィードは、常日ごろから鍛えているため、皆、視力や聴力が優れている。
上空から、人や建物を見分ける視力。加えて、音で風の向きや強さを判断したり、他の機体との距離を測る。人によっては、風の匂いや肌の感触で、天候の変化まで分かるらしい。
ようするに、常人よりも、五感が遥かに優れているのだ。私も視力や聴力には、かなり自信がある。
元々視力は、2.0あったけど、こっちに来て、さらに良くなった気がする。毎日、空を飛び回り、常に遠くや地上の、細かい物を見分けているからだと思う。
当然『伝説のシルフィード』と言われた人なら、相当な五感の持ち主だったはずだ。アリーシャさんは、すぐに異変に気付いたものの、その場からは離れなかった。なぜなら、ゴンドラの落下地点に、一人の少女がいたからだ。
ゴンドラは、少女への直撃コースだった。それを瞬時に判断し、彼女は落下地点に飛び込んだ。結果、少女は、脚に全治六ヵ月の大怪我を負いながらも、一命を取りとめ、アリーシャさんは、帰らぬ人となった。
つまり、逃げてさえいれば、アリーシャさんは、確実に助かっていた。でも、彼女は少女を見捨てなかった。私が同じ場面にいたら、はたして助けに行けただろうか? おそらく、動揺して立ち尽くしていたと思う――。
この行動に関しては、賛否両論になっていた。『自らの命を顧みない、英雄的な行為』と称賛する声。この意見が、最も多かった。
逆に『立場をわきまえない、無謀な行為』と言う人たちもいる。人としては立派だが『グランド・エンプレス』の立場としては、軽率だったのではないか、という意見だ。
元々シルフィードは、この世界では特別な存在だった。さらに『グランド・エンプレス』は、その頂点に立つ、全シルフィードの象徴的な立場だ。
その影響力は、シルフィード業界にとどまらない。権力者すら『グランド・エンプレス』には、最大限の敬意を払う。誰もが認め、逆らうことの出来ない、神聖不可侵な存在なのだ。
だからこそ『自分の命を、最優先すべきだった』という意見も、一理ある。ただ、アリーシャさんは、立場に関係なく、そういう行動をする人だったのだと思う。目撃者によると、何の迷いもなく、一目散に飛び込んで行ったらしい。
この事故の情報は、一瞬にして町中に広まった。毎日がお祭りのように、とても賑やかこの町が、その日は火が消えたように、静寂に包まれた。そのため『沈黙の金曜日』とも言われている。
町中の人が、アリーシャさんの死を悲しみ、涙を流した。全シルフィード会社は、喪に服すため、急きょ、三日間の休業。町中の多くの店も、シャッターを下ろした。
後日、行政府による国葬が行われ、町中の人が、彼女との別れを惜しんだ。この葬儀には、世界中の国家元首などの、名だたる要人も参列したらしい。
元々アリーシャさんは、史上最高のシルフィードと言われていた。だが、この事故をきっかけに『伝説のシルフィード』の呼び方が、定着することになった。
シルフィードとしての技量はもちろん、人としても最高の人格者。にもかかわらず、あまりにも、短すぎる人生だった。彗星のように現れ、一瞬で消えた。まさに『伝説のシルフィード』だった。
今現在、グランド・エンプレスが不在なのは、この偉大なシルフィードに対し、喪に服しているからだ。
事故のあと〈ホワイト・ウイング〉は休業。リリーシャさんも、この事故以来、ずっと休んでいた。そのため、閉業や引退のうわさが、流れていたらしい。ただ、今年の三月一日に、営業を再開した。私が来る、ほんの少し前だ。
アリーシャさんについては、とても明るく、笑顔が素敵なシルフィードと書かれていた。ある雑誌のインタビューでは『人を笑顔にするのが大好きだから、世界中の人を笑顔にしたい』と答えたそうだ。
そんなアリーシャさんだからこそ、目の前の少女を、放っておけなかったんだと思う。知れば知るほど、アリーシャさんの凄さが分かって来た。
私って、こんな凄い人が作った会社で、働いていたんだ……。シルフィードとしても、人としても、本当に凄いと思う。
『世界中の人を笑顔にする』なんて、言えちゃうところが凄い。それに、赤の他人を守るために、命まで懸けられるなんて――。
マリアさんの時にも感じたけど、私とは全然、人としての格が違う。気楽に『グランド・エンプレスになる』なんて言ってたことが、本当に恥ずかしい。
私はマギコンを閉じると、ベッドに倒れ込んだ。今日は物凄く疲れた。入って来た情報が多すぎたし、どれも衝撃的なものばかりだった。でも、一番の気掛かりは、リリーシャさんのことだ。
私は今まで、全くリリーシャさんの支えに、なれていなかった。『知らなかったから』なんて、関係ない。だって、リリーシャさんは、いつも悲しみを抱えながら、笑顔を浮かべていたのだから。
私、明日から一体、どんな顔をして会えばいいんだろう……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『笑いたくない時の笑顔がこんなに辛いとは思わなかった』
ごめんなさい。こういうときどんな顔すればいいかわからないの
昼間、ツバサさんから聴いた話が、あまりにもショックが大きすぎた。そのため、部屋に戻ってから、夕飯も食べずに、ずっとベッドの上で伸びていたのだ。
ぐったりしていて、何もやる気力が湧いてこない。毎晩やっている勉強も、今日は、とてもじゃないけど、出来そうになかった。昼間よりは落ち着いたけど、まだ心の中で、色んな想いが渦巻いていた。
一旦、忘れて、気持ちを落ち着けようとする。でも、忘れようとするほどに、昼間きいた話が、鮮明によみがえって来た。
とても、悲しい事故のこと。それに、アリーシャさんが、すでにこの世にいないこと。どちらも、言葉では言い表せないほどの、大きな衝撃を受けた。けれど、知らなかったことが、一番、辛かった。
何も知らなかったから、私はリリーシャさんと、普通に接していた。私はずっと、自分のことしか、考えていなかったのだ。もっとも、知っていたとしても、何か出来ていたとは、思えないけど……。
私って、本当にダメダメだ。何が、最高のパートナーシップよ。リリーシャさんの気持ち、何一つ分かっていなかったくせに――。
私がツバサさんの話を聴いて、涙を流したのは、悔し涙だったと思う。何も分かっていなかった自分が、あまりにも、情けなさ過ぎて……。
それに、この事故は、知ろうと思えば、知ることが可能だった。リリーシャさんに、直接、聴かなくても、スピを見れば、いくらでも分かるからだ。これほど、大きな事故であれば、スピで情報が出ていないはずがない。
でも、私は昔から、調べ物が苦手だ。向こうの世界にいた時も、ネットは、チャットやSNSなどの、コミュニケーションツールしか、使っていなかった。
それは、こちらに来てからも、全く同じだ。スピは『EL』がメインで、あとは、勉強でたまに調べるぐらい。自主的に調べ物をすることは、まず無かった。
そもそも、アリーシャさんの存在を知ったのも、ナギサちゃんに聴いてからだ。基本、何事も、自分の目で見て体験して、体で覚える。まさに、体育会系思考だった。文字を読んでもよく分からないし、眠くなってくるので――。
ただ、今日の話を聴いて、さすがに『知らないまま』では、いられなかった。どんなに、悲惨で辛い過去でも、知らないほうが幸せだったとしても、正面から向き合わなければならない。
私のとても大事な人に、関わることなのだから。リリーシャさんを、本当の意味で理解するには、避けては通れない道だ。
私は、ゆっくり上体を起こすと、しばらく深呼吸して、気持ちを整える。平静になると、ベッドから静かに降り、机の前に向かう。座布団に正座すると、マギコンを起動した。
怖い……怖い……怖い……。
正直、調べるのが、物凄く怖かった。事実を詳細に知れば、より大きな衝撃を受けるのは、間違いないからだ。でも、同じ痛みを背負わなければ、リリーシャさんの気持ちを、理解することはできない――。
私は、少し震える指で、ゆっくり文字を打ち込む。『西地区 ゴンドラ事故』のキーワードを入れると、検索ボタンを押した。すると、事故に関する情報が、ずらりと表示される。
『シルフィード史上、最悪の事故』『ウインド・ストリートの悪夢』『伝説のシルフィードの悲劇』『アリーシャ・シーリングの短い生涯』など、様々なタイトルが目に付いた。
痛々しいタイトルを見た瞬間、息が止まり、嫌な汗が噴き出してくる。すぐにでも、閉じてしまいたい気持ちに駆られた。でも、ここで逃げちゃダメだ。向き合うと、決めたのだから。
私は、上から順に開き、詳細な情報に、ゆっくり目を通していく。読むのがとても辛く、胸のあたりが、ズキズキ痛む。左手で胸をおさえ、あふれ出す様々な感情をこらえながら、読み進めた。
私は、ある部分で目がとまった。
「そんな……まさか――」
事故が起こったのは、一年前の『三月二十一日』だ。そのため『三・二一事件』とも言われている。この日は、私にとっても『特別な日』だったため、しっかり覚えていた。
私が家出した日が、三月二十一日。〈グリュンノア〉に到着したのが、三月二十二日。『追悼式』の翌日に、この町に来たのだ。ツバサさんの反応の意味が、ようやく分かった。
つまり、私は、アリーシャさんの命日に家出して、この世界に到着した数日後に、その娘のリリーシャさんと出会ったのだ。しかも、再開したばかりの会社に、入ることになった。何という、奇跡的な偶然だろうか……?。
もし、一日でもズレていたら、私はリリーシャさんに出会うことも〈ホワイト・ウイング〉に入社することも、無かったのかもしれない。
そう考えると、単なる偶然ではなく、全てが運命に思えて来る。全く知らなかったとはいえ、アリーシャさんの命日に、私はシルフィードになることを決意した。これには、何か意味があるような気がしてならない。
スピに出ている情報を、少しずつ読み進めて行くうちに、事故の詳細が分かって来た。ただ、驚くべきことに、巻き込まれたのではなく、むしろ、自ら飛び込んで行ったらしいのだ。
一年前の『三月二十一日、金曜日』午後、二時過ぎ。アリーシャさんは、協会での会議を終え、会社に帰る途中〈ウインド・ストリート〉に立ち寄った。
アリーシャさんが通りを歩いている最中、事故は発生した。ゴンドラが墜落して来るのには、かなり早くに、気付いていたらしい。
そもそも、我々シルフィードは、常日ごろから鍛えているため、皆、視力や聴力が優れている。
上空から、人や建物を見分ける視力。加えて、音で風の向きや強さを判断したり、他の機体との距離を測る。人によっては、風の匂いや肌の感触で、天候の変化まで分かるらしい。
ようするに、常人よりも、五感が遥かに優れているのだ。私も視力や聴力には、かなり自信がある。
元々視力は、2.0あったけど、こっちに来て、さらに良くなった気がする。毎日、空を飛び回り、常に遠くや地上の、細かい物を見分けているからだと思う。
当然『伝説のシルフィード』と言われた人なら、相当な五感の持ち主だったはずだ。アリーシャさんは、すぐに異変に気付いたものの、その場からは離れなかった。なぜなら、ゴンドラの落下地点に、一人の少女がいたからだ。
ゴンドラは、少女への直撃コースだった。それを瞬時に判断し、彼女は落下地点に飛び込んだ。結果、少女は、脚に全治六ヵ月の大怪我を負いながらも、一命を取りとめ、アリーシャさんは、帰らぬ人となった。
つまり、逃げてさえいれば、アリーシャさんは、確実に助かっていた。でも、彼女は少女を見捨てなかった。私が同じ場面にいたら、はたして助けに行けただろうか? おそらく、動揺して立ち尽くしていたと思う――。
この行動に関しては、賛否両論になっていた。『自らの命を顧みない、英雄的な行為』と称賛する声。この意見が、最も多かった。
逆に『立場をわきまえない、無謀な行為』と言う人たちもいる。人としては立派だが『グランド・エンプレス』の立場としては、軽率だったのではないか、という意見だ。
元々シルフィードは、この世界では特別な存在だった。さらに『グランド・エンプレス』は、その頂点に立つ、全シルフィードの象徴的な立場だ。
その影響力は、シルフィード業界にとどまらない。権力者すら『グランド・エンプレス』には、最大限の敬意を払う。誰もが認め、逆らうことの出来ない、神聖不可侵な存在なのだ。
だからこそ『自分の命を、最優先すべきだった』という意見も、一理ある。ただ、アリーシャさんは、立場に関係なく、そういう行動をする人だったのだと思う。目撃者によると、何の迷いもなく、一目散に飛び込んで行ったらしい。
この事故の情報は、一瞬にして町中に広まった。毎日がお祭りのように、とても賑やかこの町が、その日は火が消えたように、静寂に包まれた。そのため『沈黙の金曜日』とも言われている。
町中の人が、アリーシャさんの死を悲しみ、涙を流した。全シルフィード会社は、喪に服すため、急きょ、三日間の休業。町中の多くの店も、シャッターを下ろした。
後日、行政府による国葬が行われ、町中の人が、彼女との別れを惜しんだ。この葬儀には、世界中の国家元首などの、名だたる要人も参列したらしい。
元々アリーシャさんは、史上最高のシルフィードと言われていた。だが、この事故をきっかけに『伝説のシルフィード』の呼び方が、定着することになった。
シルフィードとしての技量はもちろん、人としても最高の人格者。にもかかわらず、あまりにも、短すぎる人生だった。彗星のように現れ、一瞬で消えた。まさに『伝説のシルフィード』だった。
今現在、グランド・エンプレスが不在なのは、この偉大なシルフィードに対し、喪に服しているからだ。
事故のあと〈ホワイト・ウイング〉は休業。リリーシャさんも、この事故以来、ずっと休んでいた。そのため、閉業や引退のうわさが、流れていたらしい。ただ、今年の三月一日に、営業を再開した。私が来る、ほんの少し前だ。
アリーシャさんについては、とても明るく、笑顔が素敵なシルフィードと書かれていた。ある雑誌のインタビューでは『人を笑顔にするのが大好きだから、世界中の人を笑顔にしたい』と答えたそうだ。
そんなアリーシャさんだからこそ、目の前の少女を、放っておけなかったんだと思う。知れば知るほど、アリーシャさんの凄さが分かって来た。
私って、こんな凄い人が作った会社で、働いていたんだ……。シルフィードとしても、人としても、本当に凄いと思う。
『世界中の人を笑顔にする』なんて、言えちゃうところが凄い。それに、赤の他人を守るために、命まで懸けられるなんて――。
マリアさんの時にも感じたけど、私とは全然、人としての格が違う。気楽に『グランド・エンプレスになる』なんて言ってたことが、本当に恥ずかしい。
私はマギコンを閉じると、ベッドに倒れ込んだ。今日は物凄く疲れた。入って来た情報が多すぎたし、どれも衝撃的なものばかりだった。でも、一番の気掛かりは、リリーシャさんのことだ。
私は今まで、全くリリーシャさんの支えに、なれていなかった。『知らなかったから』なんて、関係ない。だって、リリーシャさんは、いつも悲しみを抱えながら、笑顔を浮かべていたのだから。
私、明日から一体、どんな顔をして会えばいいんだろう……。
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次回――
『笑いたくない時の笑顔がこんなに辛いとは思わなかった』
ごめんなさい。こういうときどんな顔すればいいかわからないの
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