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第2部 母と娘の関係
5-11超高級ホテルのパーティー会場ではしゃぎまくる私たち
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扉の先は、とんでもなく大きな部屋だった。数十人、下手をしたら、百人は入れるぐらいの広さがある。本来、数人で使うような部屋ではないと思う。
私がイメージしてたのは、ちょっとした小部屋で、お茶会に毛の生えた程度のものだ。なので、扉を開けた瞬間、目の前に広がる大きな空間に、唖然としてしまった。
しかも、沢山のテーブルがあり、その上には、見るからに高級そうな料理が、所狭しと並べられていた。料理の量も、軽く数十人分はある。
「あ……あの。コレ凄く高そうなんだけど、本当にタダでいいの――?」
私は少し震える声で、アンジェリカに訊ねた。
どう考えても、一、二万ベルで済む額じゃないよ。食べ放題のビュッフェならまだしも、これ貸し切りだよね?
「もちろんですわ。心行くまで、料理を堪能してくださいませ。もし、足りないものが有れば、追加で出してもらいますわ」
「いやいや、足りないどころか、多すぎると思うけど。いったい、いくらするの? この料理と部屋代、全部こみで?」
高そうな料理はもちろん、シャンデリアと高級そうなじゅうたんの、超豪華な大広間。壁際の長いテーブルには、各種、調理器具が置かれ、待機するシェフが四名。給仕をする従業員の人たちが六名。
これって、間違いなく、数十万ベルはしそうなんですけど……。
「さぁ、どうなのかしら? でも、気になさらなくて、大丈夫ですのよ。このホテル、ヴァーズの系列ですから」
「それって――このホテル、あなたの物なの?!」
「いえ、所有しているのは、私のお爺様ですわ。エア・ドルフィンや機械関連の企業は、私のお父様が。ホテルやリゾート関連は、お爺様が経営していますの」
「ほへぇー……」
あまりにスケールが大きすぎて、さっぱり分かんない。ただ、とんでもなくお金持ちの家の、本物のお嬢様だということだけは、私にも理解できた。
先ほどの、支配人や従業員の態度の意味が、ようやく分かった。彼女から感じる強い存在感も、そのせいなのだろうか?
でも、自分の家で所有してるホテルなら、大丈夫だよね。安心、安心っと。
ふと視線を向けると、すでにフィニーちゃんとキラリスは、皿に料理をてんこ盛りにしていた。相変わらず、はやっ!
安心したとたん、私のおなかが、グーッと元気に音を立てた。そういえば、朝パンを一つ食べた切りで、凄くお腹が空いてたんだった。
「よーし、私も食べまくるぞー!」
急いでテーブルに向かい、取り皿を手に持つと、料理を盛り始めた。
どれも超美味しそうなうえに、種類が多い。肉・魚介類・サラダ・パン・ご飯もの・パスタ・スープ・フルーツ・スイーツと、何でもそろっていた。名前の分からない料理も、結構あるので、端から順に、適当に盛り付けていく。
皿が一杯になると、食事用のテーブルに移動しようとするが、
「風歌、風歌っ」
後ろから呼び止められた。
振り返ると、フィニーちゃんとキラリスの二人が、何かの前で偉く興奮している。近づいて行くと、そこには『黒い噴水』みたいのがあった。
「えと、何これ?」
「チョコレート・タワー!」
フィニーちゃんは、目をキラキラさせながら、嬉しそうに答える。
「超かっこいい!! まるで闇の塔みたいだ!」
キラリスは、別の意味で興奮していた。
「これって、食べられるのかな?」
近付いてみると、確かにチョコレートの甘い香りがする。
「たぶん、食べれる」
フィニーちゃんが、人差し指を突っ込もうとすると、ナギサちゃんに、ガシッと腕をつかまれた。
「待ちなさい。直接、指を突っ込むなんて、何を考えているの? そこに、チョコ・ファウンテン用の、フォークが用意してあるでしょ」
「このフォークを突っ込んで、チョコをなめるの?」
言われて見れば、すぐ横には、物凄く長いフォークが置いてあった。
「そんな訳ないでしょ! そこに置いてある、カットしたフルーツやパンを、フォークで刺して、チョコレートにつけて食べるのよ」
「あー、なるほどね。ただのカット・フルーツじゃなかったんだ。アハハッ」
ふむふむ、そういう作法だったんだね。それにしても、チョコレートに、こんな食べ方があるとは、全く知らなかったよ。
私たちはそれぞれに、好きな具材を突きさし用意すると、チョコの前で構えた。
「ちょっと、待ちなさい! ほら、左手にお皿を持って。チョコを付けたら、お皿にのせるのよ」
ナギサちゃんは説明しながら、テキパキとお皿を配る。
「え? 直接たべるんじゃないの?」
「直接、食べたら、お行儀が悪いし、自分のフォークを付けたら不衛生でしょ。それに、チョコがこぼれたら、周りが汚れてしまうじゃない」
「あー、そう言われて見れば……」
お母さんモードのナギサちゃんの監視の中、私たちはチョコに具材を投入する。
「何コレ、超面白い」
「お、おぉー」
「クフフッ、この闇の力が、ドロっと纏わりつく感じが、たまらないな」
本来なら、そのままパクッと食べたいところだ。でも、ナギサちゃんの厳しい視線があるので、とりあえず皿に置く。んでもって、追加で具材を突きさす。
「よーし、全種制覇するぞー!」
「わたしも、全部っ!」
「おいおい、ずるいぞ、私もっ!」
ブスッと刺しては、チョコを付ける作業を、ワイワイ言いながらやり続けた。
「ちょっと、あなたたち! もっと静かにできないの? まったく、はしたない。由緒あるホテルに来ているのだから、マナーを守りなさいよ」
案の定、ナギサちゃんから、お叱りを受ける。だが、
「まぁまぁ、いいでは有りませんの。私たちだけの、プライベートなパーティーですし」
アンジェリカが、割って入ってきた。
「いい訳ないでしょ。私たちは、仮にもシルフィードなのよ。いついかなる時も、気品とプライドを持って行動すべきだわ」
ナギサちゃんは、真顔で答える。
本当に真面目だよね。プライベートの時ですら、一切、気をゆるめないんだから……。
「もう、ナギサさんは、相変わらず頭が固いのですわね。楽しんでいただけているので有れば、私はとても嬉しいですわ」
「誰が頭が固いのよ? 私は常識を言っているだけで。そもそも、アンジェリカが、他人に対して甘すぎるのよ」
言い合っている姿は、物凄く自然で、普通の友達みたいに見える。和解したって言ってたのは、本当なのかも。
「二人とも、意外と仲がいいんだね」
私が声をかけると、
「そんなことないわ、普通よ普通」
「もちろん、とっても仲良しですわ」
二人同時に、違う答えが返ってきた。
あははっ――どっちよ?
「あの、ナギサちゃんは、同じ会社だからいいとして。関係のない、私たちまで呼んでもらって、本当によかったの? それに、こんなに料理があるんだから、もっと同じ会社の人を、呼べたと思うんだけど……」
私はアンジェリカに向かい、疑問に思っていたことを口にした。いくらお金持ちだからって、流石にこれは、やり過ぎだと思う。
「関係ないだなんて、水臭いですわ。私たちは、同じシルフィード。つまり、お友達ではありませんの。あと、少人数にしたのは、ナギサさんが大勢で集まるのは、お好きではないからですわ」
アンジェリカは、爽やかな笑顔を浮かべながら答えた。
「ちょっと、私のせい? 別に呼びたければ、好きなだけ呼べばいいじゃないの。いずれにしても、ただの打ち上げで、これはやり過ぎよ」
ナギサちゃんは反論するが、実際に、集団行動は、あまり好きじゃないみたいだ。基本、単独行動が、多いみたいだし。ただ、一人が好きというより、自分のペースで動くのが、好きなんだと思う。
「別に、ナギサさんは、何も悪くありませんのよ。でも、私は親友の嫌がることは、絶対にいたしませんわ」
「あと『数人で打ち上げパーティーをやるから、一室かして欲しい』と、お爺様にお願いしたのですけれど。お爺様はいつも、私の期待を、はるかに上回ることをして下さいますの。とても、ユーモアがありますのね」
アンジェリカは、とても嬉しそうに語った。
いや、それってユーモアじゃなくて、単に孫娘に甘いだけだと思う――。
んー、何かこの人って、意外と悪い人じゃないかも知れない。天然というか、悪意が感じられないというか。子供のように、無邪気に楽しそうに話している。
同じお嬢様タイプでも、ナギサちゃんとは全く違う。ナギサちゃんは、厳格で几帳面で、物凄く細かい。けど、彼女は物凄く大らかな性格。気品がある点は共通だけど、性格的には正反対だ。
「風歌、風歌っ」
呼ばれたほうに目を向けると、フィニーちゃんが手招きしている。
近くまで行ってみると、
「うわデカっ!! しかも、超美味しそう!」
物凄く大きなエビが、活き作りになっていた。身が透明で、ツヤツヤしてて、とても新鮮そうだ。
「おい、お前ら。すっげー、巨大魚がいるぞ!」
今度はキラリスに呼ばれる。テーブルに近付くと、
「何コレ、何コレっ? 超でっかいお魚!」
「お、おぉー!」
「魔界生物みたいで、カッコイイよな!」
軽く五十センチ以上はある、魚料理が置いてあった。
「これ、どうやって食べるの」
「ガブっと、かぶりつきたい」
「このナイフとフォークを、使うんじゃないか?」
私たちが、興奮してワーワーやっていると、
「ちょっと、あなたたち。静かにしなさいと言ってるでしょ!」
また、ナギサちゃんに怒られる。それを、楽しそうに、なだめるアンジェリカ。
結局、移動しては、騒いで怒られを繰り返す。一通りテーブルを回って、思いっ切り料理を食べまくった。しかし、いくら食べても料理がなくならない。よく見ると、次から次へと、新しい料理が運ばれて来ていたからだ。
いったい、どんだけ料理があるの? これ、絶対に食べきれないよね? それが分かって、持ってきているんだろうか――?
打ち上げが始まってから、一時間半後……。
いやー、食べた食べた。一年分ぐらい食べた感じ。滅茶苦茶、食べためたよー。
私は椅子に座り、食べ過ぎてパンパンになったお腹を、ゆっくりさすっていた。キラリスも、隣の椅子で伸びている。フィニーちゃんは一人だけ、いまだに料理に張り付き、黙々と食べ続けていた。
ナギサちゃんとアンジェリカは、優雅にお茶を飲みながら、小難しい話をしている。
まさか、こんなに食べるとは、思わなかったなぁ。最初は遠慮してたけど、いつの間にか、本気モードになってたよー。高級ホテルなのを忘れて、完全にバイキング状態だよね、コレ。
私の予算じゃ、とうてい無理だし、生まれて初めて食べた料理も多い。お祭りの最後に、とても貴重な体験ができた。レースは負けちゃったけど、大満足。結構いい人そうだし、アンジェリカにも感謝しないとね。
たっぷり英気も養ったし、明日からまた、お仕事、頑張りまっしょい!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回 第2部・最終話――
『私リリーシャさんの事もっと深く知りたい……』
かりそめの笑顔はもう見たくないから――
私がイメージしてたのは、ちょっとした小部屋で、お茶会に毛の生えた程度のものだ。なので、扉を開けた瞬間、目の前に広がる大きな空間に、唖然としてしまった。
しかも、沢山のテーブルがあり、その上には、見るからに高級そうな料理が、所狭しと並べられていた。料理の量も、軽く数十人分はある。
「あ……あの。コレ凄く高そうなんだけど、本当にタダでいいの――?」
私は少し震える声で、アンジェリカに訊ねた。
どう考えても、一、二万ベルで済む額じゃないよ。食べ放題のビュッフェならまだしも、これ貸し切りだよね?
「もちろんですわ。心行くまで、料理を堪能してくださいませ。もし、足りないものが有れば、追加で出してもらいますわ」
「いやいや、足りないどころか、多すぎると思うけど。いったい、いくらするの? この料理と部屋代、全部こみで?」
高そうな料理はもちろん、シャンデリアと高級そうなじゅうたんの、超豪華な大広間。壁際の長いテーブルには、各種、調理器具が置かれ、待機するシェフが四名。給仕をする従業員の人たちが六名。
これって、間違いなく、数十万ベルはしそうなんですけど……。
「さぁ、どうなのかしら? でも、気になさらなくて、大丈夫ですのよ。このホテル、ヴァーズの系列ですから」
「それって――このホテル、あなたの物なの?!」
「いえ、所有しているのは、私のお爺様ですわ。エア・ドルフィンや機械関連の企業は、私のお父様が。ホテルやリゾート関連は、お爺様が経営していますの」
「ほへぇー……」
あまりにスケールが大きすぎて、さっぱり分かんない。ただ、とんでもなくお金持ちの家の、本物のお嬢様だということだけは、私にも理解できた。
先ほどの、支配人や従業員の態度の意味が、ようやく分かった。彼女から感じる強い存在感も、そのせいなのだろうか?
でも、自分の家で所有してるホテルなら、大丈夫だよね。安心、安心っと。
ふと視線を向けると、すでにフィニーちゃんとキラリスは、皿に料理をてんこ盛りにしていた。相変わらず、はやっ!
安心したとたん、私のおなかが、グーッと元気に音を立てた。そういえば、朝パンを一つ食べた切りで、凄くお腹が空いてたんだった。
「よーし、私も食べまくるぞー!」
急いでテーブルに向かい、取り皿を手に持つと、料理を盛り始めた。
どれも超美味しそうなうえに、種類が多い。肉・魚介類・サラダ・パン・ご飯もの・パスタ・スープ・フルーツ・スイーツと、何でもそろっていた。名前の分からない料理も、結構あるので、端から順に、適当に盛り付けていく。
皿が一杯になると、食事用のテーブルに移動しようとするが、
「風歌、風歌っ」
後ろから呼び止められた。
振り返ると、フィニーちゃんとキラリスの二人が、何かの前で偉く興奮している。近づいて行くと、そこには『黒い噴水』みたいのがあった。
「えと、何これ?」
「チョコレート・タワー!」
フィニーちゃんは、目をキラキラさせながら、嬉しそうに答える。
「超かっこいい!! まるで闇の塔みたいだ!」
キラリスは、別の意味で興奮していた。
「これって、食べられるのかな?」
近付いてみると、確かにチョコレートの甘い香りがする。
「たぶん、食べれる」
フィニーちゃんが、人差し指を突っ込もうとすると、ナギサちゃんに、ガシッと腕をつかまれた。
「待ちなさい。直接、指を突っ込むなんて、何を考えているの? そこに、チョコ・ファウンテン用の、フォークが用意してあるでしょ」
「このフォークを突っ込んで、チョコをなめるの?」
言われて見れば、すぐ横には、物凄く長いフォークが置いてあった。
「そんな訳ないでしょ! そこに置いてある、カットしたフルーツやパンを、フォークで刺して、チョコレートにつけて食べるのよ」
「あー、なるほどね。ただのカット・フルーツじゃなかったんだ。アハハッ」
ふむふむ、そういう作法だったんだね。それにしても、チョコレートに、こんな食べ方があるとは、全く知らなかったよ。
私たちはそれぞれに、好きな具材を突きさし用意すると、チョコの前で構えた。
「ちょっと、待ちなさい! ほら、左手にお皿を持って。チョコを付けたら、お皿にのせるのよ」
ナギサちゃんは説明しながら、テキパキとお皿を配る。
「え? 直接たべるんじゃないの?」
「直接、食べたら、お行儀が悪いし、自分のフォークを付けたら不衛生でしょ。それに、チョコがこぼれたら、周りが汚れてしまうじゃない」
「あー、そう言われて見れば……」
お母さんモードのナギサちゃんの監視の中、私たちはチョコに具材を投入する。
「何コレ、超面白い」
「お、おぉー」
「クフフッ、この闇の力が、ドロっと纏わりつく感じが、たまらないな」
本来なら、そのままパクッと食べたいところだ。でも、ナギサちゃんの厳しい視線があるので、とりあえず皿に置く。んでもって、追加で具材を突きさす。
「よーし、全種制覇するぞー!」
「わたしも、全部っ!」
「おいおい、ずるいぞ、私もっ!」
ブスッと刺しては、チョコを付ける作業を、ワイワイ言いながらやり続けた。
「ちょっと、あなたたち! もっと静かにできないの? まったく、はしたない。由緒あるホテルに来ているのだから、マナーを守りなさいよ」
案の定、ナギサちゃんから、お叱りを受ける。だが、
「まぁまぁ、いいでは有りませんの。私たちだけの、プライベートなパーティーですし」
アンジェリカが、割って入ってきた。
「いい訳ないでしょ。私たちは、仮にもシルフィードなのよ。いついかなる時も、気品とプライドを持って行動すべきだわ」
ナギサちゃんは、真顔で答える。
本当に真面目だよね。プライベートの時ですら、一切、気をゆるめないんだから……。
「もう、ナギサさんは、相変わらず頭が固いのですわね。楽しんでいただけているので有れば、私はとても嬉しいですわ」
「誰が頭が固いのよ? 私は常識を言っているだけで。そもそも、アンジェリカが、他人に対して甘すぎるのよ」
言い合っている姿は、物凄く自然で、普通の友達みたいに見える。和解したって言ってたのは、本当なのかも。
「二人とも、意外と仲がいいんだね」
私が声をかけると、
「そんなことないわ、普通よ普通」
「もちろん、とっても仲良しですわ」
二人同時に、違う答えが返ってきた。
あははっ――どっちよ?
「あの、ナギサちゃんは、同じ会社だからいいとして。関係のない、私たちまで呼んでもらって、本当によかったの? それに、こんなに料理があるんだから、もっと同じ会社の人を、呼べたと思うんだけど……」
私はアンジェリカに向かい、疑問に思っていたことを口にした。いくらお金持ちだからって、流石にこれは、やり過ぎだと思う。
「関係ないだなんて、水臭いですわ。私たちは、同じシルフィード。つまり、お友達ではありませんの。あと、少人数にしたのは、ナギサさんが大勢で集まるのは、お好きではないからですわ」
アンジェリカは、爽やかな笑顔を浮かべながら答えた。
「ちょっと、私のせい? 別に呼びたければ、好きなだけ呼べばいいじゃないの。いずれにしても、ただの打ち上げで、これはやり過ぎよ」
ナギサちゃんは反論するが、実際に、集団行動は、あまり好きじゃないみたいだ。基本、単独行動が、多いみたいだし。ただ、一人が好きというより、自分のペースで動くのが、好きなんだと思う。
「別に、ナギサさんは、何も悪くありませんのよ。でも、私は親友の嫌がることは、絶対にいたしませんわ」
「あと『数人で打ち上げパーティーをやるから、一室かして欲しい』と、お爺様にお願いしたのですけれど。お爺様はいつも、私の期待を、はるかに上回ることをして下さいますの。とても、ユーモアがありますのね」
アンジェリカは、とても嬉しそうに語った。
いや、それってユーモアじゃなくて、単に孫娘に甘いだけだと思う――。
んー、何かこの人って、意外と悪い人じゃないかも知れない。天然というか、悪意が感じられないというか。子供のように、無邪気に楽しそうに話している。
同じお嬢様タイプでも、ナギサちゃんとは全く違う。ナギサちゃんは、厳格で几帳面で、物凄く細かい。けど、彼女は物凄く大らかな性格。気品がある点は共通だけど、性格的には正反対だ。
「風歌、風歌っ」
呼ばれたほうに目を向けると、フィニーちゃんが手招きしている。
近くまで行ってみると、
「うわデカっ!! しかも、超美味しそう!」
物凄く大きなエビが、活き作りになっていた。身が透明で、ツヤツヤしてて、とても新鮮そうだ。
「おい、お前ら。すっげー、巨大魚がいるぞ!」
今度はキラリスに呼ばれる。テーブルに近付くと、
「何コレ、何コレっ? 超でっかいお魚!」
「お、おぉー!」
「魔界生物みたいで、カッコイイよな!」
軽く五十センチ以上はある、魚料理が置いてあった。
「これ、どうやって食べるの」
「ガブっと、かぶりつきたい」
「このナイフとフォークを、使うんじゃないか?」
私たちが、興奮してワーワーやっていると、
「ちょっと、あなたたち。静かにしなさいと言ってるでしょ!」
また、ナギサちゃんに怒られる。それを、楽しそうに、なだめるアンジェリカ。
結局、移動しては、騒いで怒られを繰り返す。一通りテーブルを回って、思いっ切り料理を食べまくった。しかし、いくら食べても料理がなくならない。よく見ると、次から次へと、新しい料理が運ばれて来ていたからだ。
いったい、どんだけ料理があるの? これ、絶対に食べきれないよね? それが分かって、持ってきているんだろうか――?
打ち上げが始まってから、一時間半後……。
いやー、食べた食べた。一年分ぐらい食べた感じ。滅茶苦茶、食べためたよー。
私は椅子に座り、食べ過ぎてパンパンになったお腹を、ゆっくりさすっていた。キラリスも、隣の椅子で伸びている。フィニーちゃんは一人だけ、いまだに料理に張り付き、黙々と食べ続けていた。
ナギサちゃんとアンジェリカは、優雅にお茶を飲みながら、小難しい話をしている。
まさか、こんなに食べるとは、思わなかったなぁ。最初は遠慮してたけど、いつの間にか、本気モードになってたよー。高級ホテルなのを忘れて、完全にバイキング状態だよね、コレ。
私の予算じゃ、とうてい無理だし、生まれて初めて食べた料理も多い。お祭りの最後に、とても貴重な体験ができた。レースは負けちゃったけど、大満足。結構いい人そうだし、アンジェリカにも感謝しないとね。
たっぷり英気も養ったし、明日からまた、お仕事、頑張りまっしょい!
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次回 第2部・最終話――
『私リリーシャさんの事もっと深く知りたい……』
かりそめの笑顔はもう見たくないから――
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