好きなんて、ウソつき。

第五章

嫉妬

次の日、いつものように学校の前で立っている関村。

「おはよ」

……おはよ、じゃないよ。
いつもと変わらない関村がなんだか憎たらしくて無言で横を通り過ぎる。

「おいこらっ」

関村があたしの腕を掴んだとき

「しーんーやー！おはよっ！」

昨日のキノコ頭が関村に突進してきた。

…またあのこ。

すこし緩んだ隙に関村の手を振り払い歩き始める。

「あ、おいっ！」

「慎也寝癖たってるよー？」

「バカ触んな」

うしろから二人の会話が聞こえてくる。

……追いかけてこないんだ。

教室についてぐだぁーっと机にふせる。
…あたし、意地になっちゃってる。
嫉妬して勝手に腹立ってあいつに冷たくするなんて、これってわがままなのかな。
でもね、気付いて欲しいんだよ。
なにをしたらあたしが嫌なのかってことを、もっとあいつには知ってほしい。

あー、思い返したら朝から泣きそうだよ。
…しばらく口聞いてやんない。

「…関村なんてもう知らない」

「へー。そんなこと言うんだ」

ー…え？

「関村！？」

思いっきり顔を上げると関村が前のイスに座り、背もたれに頬杖をついてあたしを見ていた。

周りの女子が関村をみてざわざわ騒ぎ出す。

「ばかじゃないのっ。ここあたしのクラスだよ？」

「なんで無視したんだよ」

「まって…とりあえずどっかいこ」

関村の腕を引っ張って教室をでる。
ここじゃ女子の目が痛すぎる。

屋上へと繋がる階段まで関村を引っ張って、人がいないことを確認する。

「俺、なんかした？」

「…わかんないんだ」

「あ？」

じゃああれは関村にとって、ふつうのことなの？
彼女の前であんなイチャイチャして、あたしのことほったらかしにして…二人きりで遊びに行ってさ。
それなのにあたしがなんで怒ってるのかわかんないんだ。
じゃあ逆にそれをあたしがしたら、関村はどう思うの？

……ほんと無神経。

「いいよ。理由がわかんないなら関村はなにも悪くないんじゃない？」

「…なんだよその言い方」

「だってわかんないんでしょ！」

「わかんねぇからこうやって聞いてんだろ？」

「…あたし、教室もどる」

「待てよ、まだ話終わってないだろーが」

だめだ…これ以上話してたら泣きそう。
関村に背を向けて歩き出す。

「未菜っ」

ガシッとあたしの腕を掴んだ関村はそのまま力任せに自分の方へ引っ張った。
じわじわとまぶたが熱くなる。

「離してっ」

関村は何も言わずあたしを抱きしめた。

「離してよ…」

小さな抵抗があたしの精一杯の強がり。
力強いのにあたしの頭を撫でる彼の手が優しくて暖かくて。
涙が溢れてくる。

「俺が悪いならちゃんと謝る。わからないことは聞かせてくんなきゃ俺だってどうしていいかわかんない」


……そうか。
あたし、なんでこんなに意地張ってたんだろう。

「…簡単に離れていくな。お前のいうことは全部受け止めるから」

…そっか。
あたし嫉妬してた。
関村のことが好きすぎて、小さいことなのにイライラして腹立ててバカみたい。

「…ごめんね」

「なんでお前が謝るんだよ」

「あたし…あの子にヤキモチやいてた。関村は悪くないよ」

「…キノコのことか？」

「そうだよ」

「…顔あげろ」

「やだ」

「いいから」

ゆっくり顔を上げて見つめ合う。
は…恥ずかしい。
思わず顔をそらすと関村の手で固定されまた戻された。

「な、なんなの？」

「あのキノコはもう2年付き合ってる年上の彼氏がいるから俺と何かあるわけないよ」

「…え？そうなの？」

「だからそうゆーやましいことは一切ない。たしかにあいつは誰にでも距離が近いのかもしれない。お前に嫌な思いさせたくないからそこは次から気をつける」

な…これは勘違いだったってこと！？

「は…恥ずかしい」

「ぷはっ」

きっと真っ赤であろうあたしの顔を見て吹き出した関村。

「なによ！あたしがどれだけ気にしてたかと…」

チュ…。
言葉を遮るようなキス。

「可愛い。好きだよ」

優しい声があたしに響いて
これは…やばいっ。

「お前…口への字だぞ」

「ふー。ふー」

「鼻の穴全開だし」

だって
好きって言葉が
こんなに嬉しいなんて思ってなかったんだもん。

気持ちを知っただけで、好きって聞いただけで泣きたくなるなんておかしいかな？

「絶対泣かないよー！ばーか！」

「泣いた顔はブサイクだからな」

「はぁ！？彼女にブサイクって何事だ！」

「だから泣くのは俺の前だけにしろよ」

そう言って優しく笑う関村が愛おしくてあたしも自然と笑顔になれた。