好きなんて、ウソつき。

春茶

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第二章

初めて見る顔

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「……やっぱ帰る」

「いまさらなにいってんの」

着いたのは古びた倉庫。
その中からは男の人のなんとも言えない叫び声と鈍い音が響いている。

…うん、これ絶対、危ないところだ。
絶対あたしなんかが来ていいところじゃないじゃん…っ!

「ほら中、入って」

「え、あたしも!?」

「あいつに会いたいから着いてきたんでしょ」

「そ、そうだけど…」

この中にあたしが飛び込んで言ったら確実に仕留められるでしょ!
あたしは女の子なんだから一応!

でもっ、せっかく来たしっ、勇気を出せ!吉田未菜!
し、深呼吸!

「はぁ、ふぅ、はぁ…。よし!じゃ、入るね!って…あれ?」

リクさんどこ行った??

「もしかして…先に行っちゃった!?」

かすかに空いていたドアの隙間から
ひょっこり中を覗いて見た。

「……っ」


声にならなかった。


目の前では見たことの無い凄まじい殴り合いが行われていた。
所々に飛び散る血。
たくさんの人が倒れていて、その中には顔の原型すらわからないほどの人もいた。

その中心にいるのは…関村?
人を殴って、蹴り飛ばして。
その姿に 硬直した。

恐怖。

その言葉が真っ先に思い浮かんだ。

向かってくる人たちを片っ端から殴り飛ばして満足感に浸ってる彼はまるで血に狂う鬼のようだった。

かすかに口角が上がった唇。
返り血を浴びたワイシャツ。

ねぇ関村、どうして笑ってるの…?
人を傷つけてるのに
なんで。

「未菜?」

「っ!」

はっと我にかえり
恐る恐る中に入ると、もう立っているのは関村とリクさんだけでほかの人たちは倒れていた。

怖くて足が動かない。

「お前、なんでいるんだよ」

関村は眉間にしわを寄せてあたしを見た。
事後だからか、息が上がって目付きがいつも以上に鋭い。

それになんか…怒ってる?

「えっと…その…」

「慎の居場所が知りたいって。だから連れてきた」

「はぁ?バカじゃねーの。女連れてくんなよ危ねぇだろーが」

「ごめんごめん」

「…お前さ、ここまで来て何言いに来たわけ?」

「ごめん。あたしはただっ…一緒に帰りたかっただけで…」

すると関村はめんどくさそうに深いため息をついた。
え…なに?その態度。

「…お前、一人で帰れるよな?俺もう行くから」

「え、これからまたどっかいくの?」

「まぁな」

「まぁなって…。あたしせっかく来たのにっ」

「こっちは忙しいんだよ。お前ばっかり構ってられねぇんだわ」

「っ…」 

冷たい関村の言葉があたしの胸に突き刺さった。

悔しい、悲しい、辛い。
自分が惨めで泣きそうになる。

「リク、こいつのこと家まで送っていって。あとのことは頼んだぞ」

「ん」

「お前も気をつけて帰れよ」

目も合わせることなく、あたしの横を通り過ぎてそのままスタスタといってしまった。

なんで…?
あたしは関村を心配してここまで付いてきたんだよ?
それなのに…これじゃ、まるであたし邪魔物扱いじゃん。
かまってられない、なんて。
そんな言い方しなくてもいいじゃんか。
あたしは…関村の彼女なのに。

「どうする?」

「…帰る」

「なら送るよ」

「いい!一人で帰れるから!」

どうしてこんなに胸が痛いの。
どうして

どうしてこんなに涙が出るの。

家に帰って ベットに飛び込み
シーツに顔を押し付けて泣いた。

恋をすると人は泣き虫になるのかもしれない。
好きだから、こんなに深く傷つくんだ。

別にあたしだけに構ってほしいなんて、言ってるわけじゃないんだよ。
ずっと側にいたいとか言ってるわけじゃない。

ただ…あんたの特別になりたいだけじゃん。

それなのにあんなめんどくさそうにため息ついてさよならも言わず行っちゃうなんて。

あたしは関村の彼女なのに。
しかもまだ付き合ったばかりなのに。

…関村にとって、
あたしはどんな存在なの?

……そんな態度されたらあたし…わかんないよ。



「あれ…」

カーテンからの日差しが眩しい。
…あたし、あのまま寝ちゃったんだ。

「え、やばっ遅刻だ!」

慌てて飛び起きたけど、なんだか体が重くてまたベットに倒れ込んだ。

携帯を開いてメールがきていないか確認する。

…何を期待してるんだろう、あたし。
きてないのはいつものことなのに。

…学校、行きたくないなぁ。
関村に会いたくない。

「あら、おはよう」

「うん。…行ってくる」

「朝ごはんはいいの?」

「うんいらない」

あたしの態度にお母さんは少し心配そうな顔をした後、少し微笑みあたしの顔を両手で包んだ。

「可愛い顔が台無しよ?私はいつでも相談にのるからね」

「…うん、ありがとう」

お母さんに笑顔で見送られ、あたしはとぼとぼ家を出た。
どうせ今から走ったって間に合わない。
もう…ゆっくり歩こう。


人気のない通学路。
そして校門の前に着いたとき

「……あれ?」

壁に寄りかかっている人影。
…あれは、関村だ。

まだあたしの存在には気づいてないみたい。
なにしてるんだろう。
どうしよう…そのまま横通り過ぎたほうがいいのかな?
それとも声かけたほうがいいの?
でも…昨日あんな感じだったし。
もしかしたら待ってるの、あたしじゃない誰かかもしれない。

…通り過ぎよう。

そう思ってまた歩きだし、関村の横を通り過ぎようとした時

ガシ…ー。

え。

「待ってた」

「え?あ、おはよ…」

「今日遅くね?待ちくたびれたわ」

…あたしのこと、待っててくれてたの?

「相変わらずとろいよなぁ。亀並だな」

カッチーン。

「はぁ?だいたい待ってなんか頼んでないし!」

「お前なぁ、この俺が待ってやったんだから感謝ぐらいしろよ」

「なにそれ。どーせクラス違うんだから待っててくれてたって意味ないじゃん」

「会いたかったからに決まってんだろ」

「…でも…これじゃあ、あんたまで遅刻したってことになっちゃうよ?」

そっと顔を上げるとふっと優しく笑った関村。

「お前の顔見れたらそれでいい」

まるで昨日とは別人みたいだ。
ていうか…これがあたしの知ってる関村だ。
昨日の彼は、いったいなんだったんだろう。

なんだかこの関村を見ていたら昨日のことが夢のように思えてきた。

「…ふーん。じゃあ早く行こう!」

あたしが学校へと歩き出そうとしたけれど、関村に腕を掴まれたままで前に進めない。

「ちょっと」

「サボるぞ」

「…え!?学校は?」

「どーせ説教されんなら遊んで怒られた方がましだろ」

「でも…っ」

「ほら乗れよ!せっかくだし、この前できなかったデートしよーぜ」

ー…っ。

「……バカ」

こんな時に無邪気に笑ってあたしの手を引くんだから。
あたしが昨日、どれだけ不安だったと思ってるの。
今日遅刻したのだってあんたのせいで寝れなかったからなんだよ?

それなのに…こいつの笑顔を見たらさっきまでの不安も全て消し飛んでしまうなんて。

彼の自転車の後ろに乗って体を寄せた。

…あったかい。

「ちゃんと掴まれ。飛ばすぞ…っ」

「きやーーー!」

いつの間にかいつも通り笑っちゃってるあたしがいて。

やっぱり考えすぎだったんだよね!
きっと、喧嘩の後だったから疲れてたんだ。
あたし小さいことで気にしすぎかもしれないなぁ。

「…好き。」

「んぁ?なんか言ったかー?」

「なんでもなーーい!」





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