好きなんて、ウソつき。

春茶

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第二章

年下の男の子

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「ていうか、お姉さんなんで敬語なの?」

お、お姉さん?

「え?なんでって…」

「おれ、今日入学してきた一年だよ?」

「あぁ一年。…一年!?」

「うん!今日来たばっか」

確かにこんな可愛い犬系男子、この学校内で見かけたことないもんなぁ。
笑い方とか、しゃべり方とか。
たしかに年下っぽくてかわいらしい。

「え…もしかして俺老けて見えた?」

「いやいや全然!むしろガキみたい」

「おーい、ガキってゆーな!」

「ははっ!あ、キミなんでここにいるの?ここ立ち入り禁止って書いてあったでしょ」

「んー。そうなの?みえなかった!」

「ウソつくな!この~」

ふざけて彼の頭めがけて下ろした手

だけど。

「お姉さんだってここにいるじゃん?」

すっぽりとあたしの拳は彼の大きな掌で受け止められてしまった。

…年下なのに、この子も手おっきいなぁ。

関村よりは、小さいかな?
って、なんで関村がでてきた。
あーやだやだ。
呪われてるわあたし。

「あー…まぁ、たしかに?」

「だから俺のことも言えないよね」

「ん…」

なにも言えないあたしを見て
彼は吹き出した。

「なによ!」

「うわっ!いってぇ叩くなよー!」

なんだろう。
この子といると心が暖かくなる。
子供みたいな屈託のない笑顔につられて
話しているこっちまで笑顔になる。

「じゃ、同罪ってことでかんぱーい!」

そう言って片手に持ったオレンジジュースをあたしに傾けた。

「はいはい乾杯」

「お姉さん、名前は?」

「未菜」

「未菜ねー!おっけ!おぼえた!」

「そっちは?」

「太陽!」

「太陽?…えっ太陽!?」

「うん!なにその反応、ウケる」

太陽くん、かぁ。
名前どおりに育ったんだねぇ。
お母さんのネーミングセンスすごい!

「すいませんねー。あたしはどーせバカですから」

「えー?俺好きだよ」

「……へ?」

「元気な子、かわいいじゃん!」

「あたしは可愛いくないしっ。先輩をからかうな!」

「え?未菜は可愛いよ?」

「いやいや、そんなわけないでしょ!」

恥ずかしくて手をブンブンと振り回すと

「ウソじゃねーって」

ガシッと掴まれ、引っ張られた。

「キャ…。」

縮まった距離。
急に真剣になった瞳。

「なっ、なに…」

「俺、本当のことしか言わないから」

そう言ってニコっと笑う。

「あぁ、そう…」

わかった、わかったからっ。
とにかく顔近いっ…!
そしてあなたも顔整ってますね!

「…ぷっ!」

え。

「顔真っ赤!かわいー!」

「う、うるさい!あたしもう行く!」

「おっ、じゃまたなー!」

とっさに振り返ると笑顔でずっと手を振ってる太陽。

「じゃあなー!未菜」

「…うん、ばいばい!」

重たいドアを閉めてホッとしゃがみこんだ。

はぁ。

今時の子はあんなにフレンドリーなの?
慎也って人も太陽も
今日初めて会って話してんだよ?

急に顔の整った男に掴まれたらそりゃビックリするわ…。

なんか今日はいろんなことがありすぎてすごい疲れた…。
早く帰りたい。

まだ心臓バクバクいってるし。
大きく深呼吸をして教室に戻った。

「ちょっと、あんたどこ行ってたの?遅かったじゃん」

「あ、ミユごめんね?結局食べたいものがなくて買わなかったんだぁ」

「え、大丈夫?おにぎりでいいなら一個あるけど。あまったから」

「ほんと!?もらうもらう」

さっそくもらったおにぎりを頬張りながら窓の外を眺める。

「はぁ」

初日からこれじゃ先が思いやられるよ…。


ーー……。


キーンコーンカーンコーン
やっと6時限目のチャイムがなった。

「はぁあああああ。」

やっと終わった。
長かった。
これでやっとお家に帰れる…っ!
たしかに刺激を求めてたよ?
高校2年だし?華のセブンティーンだし?

だけどこんなにハードなのは求めてないっす。

「ちょっと…そんな深いため息つかないでよ」

誰もいなくなった教室にあたしとミユ二人で残っていた。

「それがさぁ、今日ね?お昼に屋上行ったら太陽て人に会ったの。それがなかなかイケメンでさ」

「へー、もしかして新入生?なんか、朝から騒がれてたじゃん?茶髪の男の子」

「そーそ!茶髪!多分その子だと思うんだよね~。やっぱり騒がれてたかぁ」

関村ってやつも、太陽くんも
性格は正反対だけど二人ともカッコよくてモテモテなんだろうなぁ。
うちの学校の女子たちはイケメンを見つける察知能力半端ないな…。
だけどある意味こんな平凡な私が
そんな二人と話せたことって奇跡かも?

イケメンだし、性格いいし?
……いや、性格いいのは太陽くんだけだったわ。

「あんた初日からイケメン達と話せて運がいいね」

「んー…いいんだか悪いんだか」

「たまたま話せたのも奇跡だしさ、狙っちゃえば?彼氏もいないんだし。あんた黙ってれば可愛いんだから」

「えー?ないない!私とあんなイケメンなんて釣り合わん!」

「あ、噂をすれば」

「え?」

みゆに続いて窓から顔を出してみるとそこには太陽くんプラス男子何人かと女の子たちの群れ。

「あー!あの子だ!」

「ふーん…たしかに、かっこいいね」

「うん…でも敵が多そうだなぁ。まっ、付き合いたいなんて思わないけどさっ」

「えー?年下いいじゃん。狙っちゃいなよ」

「あたしなんて相手にされないよ~」

あんなにモテモテの人が、ありえないけど彼氏になってくれてりしたら…。
毎日目の保養になるし、心も体も癒されるんだろうけど、それ以上に心配なことも増えるだろうし?
女子からの妬みとかも面倒だしね!

「あっ、」

ふいに太陽とパチっと目があった。

「…え、なにあたし今目合ってる?」

太陽から視線をそらさずミユに尋ねるとミユは笑って首を傾げた。

「な、なんだろう」

「みーーーなーーさーん!!」

なっ…!?

太陽くんの周りにいた女の子たちも一斉にこちらに振り向く。

ちょっと!
女の子たち怖い顔してるよ!?
い、いくらなんでも大声で叫ばなくても…。

「また2人ではなそーね!ばいばい!」

周りの人達の目を気にせず、めちゃくちゃあどけない笑顔で手を振ってくる青年。

周りの女子からの視線が痛いけど…

か、かわいい…!

とりあえず私も笑顔で手を振って、すぐ窓を閉めた。

「ずいぶんガキくさい男ね」

「ちょっと、そんなこと言わないの!なんか弟みたいで可愛いじゃん」

「そーかなぁ。昼休みに何があったか知らないけど好かれてるみたいじゃん、あの子に」

「んー、そういう性格なんじゃない?」

「なーんか、今年はめんどくさいことに巻き込まれそう。あんた」

「え?」

「よーし帰ろっか」

「え?ちょっと!」

ふいに立ち上がったミユの後を走って追いかけた。

まさかミユの何気ない発言が
本当に起こるなんてこの時は思いもしなかった。





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