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第一章
優しさ
しおりを挟む「もっとボールみろー」
「「はーい」」
体育とか大っ嫌い~。
しかもソフトボール。
せっかく徹夜で逆立ちの練習したのに無駄になったじゃん。
外でやる体育なんて紫外線浴びまくりだし全女子の敵だよ。
だいたい始業式に通常の授業があること自体がもう気に食わない。
しかも、今日に限って太陽テリテリで、砂漠並みのグラウンドでさぁ。
…今日はなんだかついてないや。
って、いつまで引きづってるねん!
「関村~!ナイス!」
…しかも二クラス合同体育だから例のあいつもいるわけで。
男子はグランドの半分使って野球をしている。
特別耳がいいわけではないのに
遠くで聞こえてくるあいつの名前だけ拾っちゃうあたしもあたしだよね。
…ふーん。運動もできちゃうのね。
っておい!
…今朝たまたま会っただけなのになんでこんなに意識しちゃってるんだろう。
でもこう、なんだか他の人とはズバ抜けてカッコよく見えるというか、目立って見えるんだよね。
いや、シンプルに顔面が優勝してるのか。
認めたくないけど。
「ちょっ未菜!」
「えっ?」
気づいたときにはすでに遅し。
「んぐっ…!」
どこからか飛んできたソフトボールはあたしの鼻にクリーンヒット。
ある意味、ホームラン!だ。
て…かなり痛いぞこれ。
「ごめん!大丈夫?」
「あたしの鼻ついてる…?」
なんて冗談いいながらも視界が涙で霞んできた。
ミユが三重くらいに見える。
鼻が痛いよぉ…。
「え、ちょっとあんた鼻血出てる!」
「んぇ?」
違和感を感じ鼻の下を拭うと
あー、鼻血だ。
「先生ーー!未菜鼻血!鼻から血!」
あのー、ミユさん。
確かに今緊急事態ですよ。
だけどね
そんなデカイ声で鼻血って言われるあたしの身にもなってくださいよ。
一応私も女の子で、男子もいるんだしさ。
ミユの声に、周りの人たちが一斉にあたしを見た。
み、見るなっ!
ポケットからティッシュを取り出して鼻を抑える。
やっぱり今日はついてない。
絶対占い12位の日だ。
痛くて涙目になる視界はぼんやりとしてよく見えない。
だからこの時、あたしのことを見つめるあの人の視線には気づかなかった。
「そこ座ってなさい」
「ふぁーい」
結局、体育は端の方で座って見学になった。
保健室でゴロゴロしたい気分だけど、さすがに鼻血だけで寝るなんて許されないみたい。
なんて酷い学校だっ!
「ほんとかっこいいよねー」
「ねー。全てが完璧だよね!」
ん?
誰かを見て楽しそうに話してる女の子2人組みの視線の先には……。
「…うわ」
例のあいつ、関村だ。
太陽の光がただ光ってるだけなのに
汗で濡れたあいつの顔をスポットライトみたいに照らしてる。
太陽をも味方にしやがって。
…やっぱりモテるんだなぁ。
よくみると半分くらいの女子は男子の方を見てキャーキャー騒いでいる。
たしかにカッコイイのはわかるけど、そんなに騒ぐほどではないと思うんだけどなぁ…。
なーんて思いながらあたしも目で追っているんだが。
こんなに目立つ存在によく1年間気づかなかったなぁと今更ながら思う。
たしかにあたしって、ミユの言う通り
彼氏ほしいってほざいてる割にはそこまで男子に興味がないのかもしれない。
『全てが完璧だよね』
完璧ね。完璧……、え。
完璧!?
いやいやいや
たしかに黙ってればかっこいいよ?
だけど
あの笑顔のうらには悪魔が潜んでいて
ちょー性格悪い男なんですよ!
あたしのこと自転車でひいて逆ギレしてくるような男なんです!
ここでギャーギャー騒いでる女子全員に教えてやりたい…っ!
コロコロコロ。
…トンっ。
ん?
何かが転がってきてあたしの足にあたった。
これ、野球ボールだ。
誰のだろう?
「俺の」
「!?」
聞き覚えのある声におそるおそる顔を上げる。
…噂をすれば
というか噂を聞けば、か。
きゃーっと女子の黄色い悲鳴が飛び交う。
あーもう、いやだなこういうの。
女子からの視線が痛い。
とっとと渡して戻ってもらおっと。
「…はい!どーぞ」
ボールを差し出すと関村は無言で受け取ってじーっとあたしの顔を見つめている。
「…な、なんでしょうか」
「鼻にティッシュ詰めてアホ丸出しだな。鼻でかくなるぞ」
「なっ!…どーせあたしは女子力のかけらもないですよ!」
「ふっ。運動音痴のくせによそ見してるからそーなるんだよ」
「はぁ?」
「お前ってやっぱり鈍臭いよな」
なっ…!
こいつのイラつかせる喋り方どうにかならないわけ!?
「うるさいなぁ!どーだっていいでしょ!はやく戻りなよっ」
やっぱり性格最悪!
シッシッと追い払う手振りをして
ちょー迷惑そうな顔をしてやった。
こんなやつに一回でもドキッとしたなんてありえない。
ありえない…のに
「え…?」
彼の手が不意にあたしの頬に触れた。
大きいゴツゴツした男の人の手だ。
小顔な訳でもない私の顔でも、きっと両手ならすっぽり包まれるに違いない。
「え。な、なに!?」
「なーにつけてんの」
周りの女子がまた一段と騒ぎ出す。
ちょっとちょっとちょっと
みんな見てるから!
そう思って彼の手を掴んだ。
あ…。
あたしの手より全然おおきい。
あたしが掴んでるのをお構いなしに優しく頬を撫でる関村。
やばい恥ずかしい…っ。
ぎゅっと目を瞑ると
「なに赤くなってんの?かーわいっ」
ふっと鼻で笑われて
軽くほっぺを引っ張られた。
「なっ、赤くなんてなってないし!」
「あっそ」
すると一度置いていたボールをヒョイっと持って元の場所へ歩き出した。
去るときはずいぶんあっさりなのね。
なんというか…猫みたい?
だけど一度だけ振り返ってあたしをみた。
「な…今度は何!」
また嫌味でも言うんだろうと睨んでいると。
「鼻血」
「ん?」
「止まんなかったらちゃんと保健室で見てもらえよ。ヒヨコちゃん」
「え…」
あたしの言葉を聞く前に彼は元の場所へ走り去っていった。
…もしかして心配してくれた?
「おい関村~!わざと女子の方に飛ばすなよ!」
「わりわり~」
遠くからはそんな声が聞こえてきた。
ん?わざと?
ま、まさかだけど
あたしのこと心配になって…わざとボール飛ばして見に来たとか?
いやー、まさかまさか。
ドンくせぇとか言われたし、バカってまた言われた。
…でもなんか嫌じゃないこの感じはなんだろう。
飴と鞭上手すぎない!?
最後の最後にサラッと心配してくれちゃうなんて
…そういうところも、モテる理由なのかな。
憎めないじゃん、ね?
って、
なぜあたしがヒヨコ?
よくよく考えてみると、ふと今朝の記憶が蘇った。
『ヒヨコパンツ』
……あいつ、やっぱムカつく!!
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