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「もう遅いんで、送っていきます」

「あ、ううん、大丈夫。食器片付けるよ」

「そのまま置いといていいですよ」

「いやぁ、流石にこれくらいはやらせて」

泡泡のお皿を見つめながらチラッと彼に視線を送るとソファーでスマホゲームをしている。

…本当にこのまま帰らせるんだ。
いや、手を出されるかもなんて思ってなかったけど。

まだ2回しか会ったことない男の家に上がり込むなんて、普段なら絶対しない。

…って、男の子か。
高校生だもんな。

この子、イケメンの割に全然女っ気無いというかなんというか。
目の前にこんな露出した女がいるのにまるで興味なさそう。

今までに出会ったことのないタイプ。
ちょっと、不思議な感じ。

「あのさ、彼女とかいないの?」

「いないっすね」

「絶対モテるでしょ」

「さぁ、あまり興味ないです」

「…なるほど」

これは告白したくないタイプの男だ。

「そういえば、バイトってどこでしてるの?」

「花屋です」

めちゃくちゃ予想外なとこきたな。

「へぇ、お花好きなの?」

「幼馴染の店なので手伝ってます」

「幼馴染いるんだぁ~女の子?」

「はい」

「そっかぁ~。今度買いに行こうかな」

「あの」

「ん?」

「佐藤って人からずっと連絡きてますよ」

「え!」

慌てて手を洗ってバタバタと携帯を手に取った。

…良かった。
メッセージ内容は画面に出てない。
佐藤はさっきまでパパ活してたあのダンディ男だ。

「すみません、別に見るつもりはなかったけどずっと鳴ってたので」

「ううん。まぁ、全然見られてもいいんだけどね!」

「もしかして、彼氏ですか?」

「ううん、違うよ~。あたしモテないからさ!」

「同じですね」

「そ、そうだね…」

おい、なんかもっとお世辞でもそんなことないですよとか言えないのかよっ。

なんて心の中で呟いてると彼が時計を見てソファーから立ち上がった。

「じゃあそろそろ送ります」

「あ、いいよ。あたし1人で帰れるから」

「いや、こんな夜中に1人は危ないですよ。それならタクシー呼びます」

そう言って彼はすぐ携帯を手にして電話をかけてくれた。

…夜中って、まだ23時なんだけどな。
普段ならまだ飲み歩いてる時間だし。
全然、大丈夫なのになぁ。

なんて思いながらもタクシーが到着したのであたしは見送られるまま玄関で靴を履く。

「ちなみに、ここから家までどのくらいですか?」

「えーっと…多分15分くらいかなぁ」

「わかりました」

すると彼はあたしより先に外に出て何やらタクシーのおじさんに語りかけている。

「気をつけて」

そう言って、タクシーに乗り込むあたしに背を向けて歩き出す。

「…あの!」

「?」

「名前…聞いてもいい?」

「ユウです」

「ユ…ユウ」

って、もう会うことないかもしれないのに名前なんて聞いてどうするのっ。

どうしよう…名残惜しいというか。
また話したいと思っている自分がいる。

でも、ご飯ご馳走になったのはあたしが変に引き止めたからで、彼にとっては迷惑だったかもしれない。

あっちはまた会いたいとかそういうこと全く思ってなさそうだし…。


「…ーどうしました?」

「あのっ…あたしみたいなおばさんがこんなこと聞いていいかわかんないんだけど」

「はぁ」

「もしよかったら連絡先…おしえてほしいなって…」

「はい」

「…えっ、いいの?」

「電話番号でいいすかね」

「うん!」

なんだ無駄に緊張したぁ…。
断られると思ったのに、案外そこは緩いのか。

走り出す車の中で携帯を胸に当てる。

絶対あっちからは何も言ってこないだろうから勇気出して聞いて良かった…。
まぁ、相手は学生だけど何かの縁で出会ったことだし。
ご飯も一緒に食べた仲だもん、連絡先くらい聞いて当然よねっ。


「あっ、ここで降ろしてください」

「はい」

「えっと…お会計は」

「あ、前払いで承ってるんでお代結構です」

「…え?前払い?」

「さっきの彼からお代は頂いてるので」

「うそ。いつの間に…」

「ありがとうございました」

ポカンのあたしを降ろしてタクシーは走り出す。

しばらく突っ立って考えてみる。

だからあの子、タクシー来た時あたしより先に行って…。

ふと、自分の体を見回した。

こんなギラギラなブランドものぶら下げた女、明らかに自分よりお金持ってるのわかるじゃん。

あんたはただの学生でバイトで切り盛りしてる男なんだから、こんなカッコつけたことしないでよ、生姜焼き男が。


「…ほんと、調子狂うなぁ」


緩む口元にガムを入れた。

次は、あたしが何かしてあげたいなぁ。
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