12 / 67
一章(8)
しおりを挟む
その言葉に、アデライドは思わず周囲を見渡した。多くの人々が行き交い、笑っていて、賑やかな広場。ここもかつては戦場だったらしい。
(つまり、たくさん人が死んだってことよね?)
そう思うとどうしてか寒気を感じてぶるりと身を震わせた。
しかしエリクはどこか遠くを見つめており、アデライドの様子には気づかない。滔々と語りを続ける。
「当時革命軍は革命成功まであと一歩というところまで来ていて、ここで勝ったら革命は成功したも同然。だから多くの兵を出してきていて、対する王国軍もそれをわかっていたからかなりの勢力を投入してきた。……それで最終的に革命軍が勝った」
「ああ、だから〝革命広場〟なのね。革命軍が勝って、革命が成功したも同然だったから」
アデライドの言葉に、彼はくすりと笑う。
「それもあるし、王族が処刑された場所――つまり長い長い革命が終わった地だからっていうのもあるな」
「……そうなのね」
アデライドは少しもやもやしながら周囲を眺める。王族の処刑された地。それはつまり、アデライドの親族が殺された場所でもあるのだ。顔も声も、なにもかもを覚えていない親族ではあるが、それでも複雑な気分にはなる。
そんな内心を悟られまいと意識して笑顔を浮かべていると、エリクは「そうなんだよ!」とどこか興奮したように言う。
「だからこの場所はこんなふうにいつも人がすごいんだ。たとえばあそこの銅像。見える?」
「え、ええ、見えるわ」
突然テンションの高くなったエリクに、戸惑いながらもそう答える。いったいどうしたのだろうと思うが、止める暇もない。彼は若干早口になりながら説明をしてくる。
「ああいう銅像がこの広場のあちこちにあって、それは全部、革命の途中で命を落とした指導者のものなんだよ。志半ばで亡くなってしまったから、せめて銅像の彼らに今のこの国の様子を見せようと、みんなこの広場に集まるんだ」
そう言うエリクの瞳はキラキラと輝いていて、革命の指導者に憧れているということが見ているだけでも伝わってきた。
だけど。
アデライドはそっと首を傾げる。
「……随分と慕われているのね」
そのことが不思議だった。アデライドはずっと、革命の指導者は人々を騙し、欺き、利用した、残虐な人たちだと教えられてきた。そんな人たちが人々に慕われているなんて、疑問を抱かずにはいられない。
しかしエリクは革命の指導者をそう思っていないのだろうか、「それはそうだよ」と溌剌とした様子で言う。
「なにせ俺たちのヒーローだからな! 男なら誰もが彼らのようになりたいって思うもんだよ」
「そう……」
今まで教えられてきたこととエリクの言葉の違いに、アデライドは大混乱に陥っていた。
(つまり、たくさん人が死んだってことよね?)
そう思うとどうしてか寒気を感じてぶるりと身を震わせた。
しかしエリクはどこか遠くを見つめており、アデライドの様子には気づかない。滔々と語りを続ける。
「当時革命軍は革命成功まであと一歩というところまで来ていて、ここで勝ったら革命は成功したも同然。だから多くの兵を出してきていて、対する王国軍もそれをわかっていたからかなりの勢力を投入してきた。……それで最終的に革命軍が勝った」
「ああ、だから〝革命広場〟なのね。革命軍が勝って、革命が成功したも同然だったから」
アデライドの言葉に、彼はくすりと笑う。
「それもあるし、王族が処刑された場所――つまり長い長い革命が終わった地だからっていうのもあるな」
「……そうなのね」
アデライドは少しもやもやしながら周囲を眺める。王族の処刑された地。それはつまり、アデライドの親族が殺された場所でもあるのだ。顔も声も、なにもかもを覚えていない親族ではあるが、それでも複雑な気分にはなる。
そんな内心を悟られまいと意識して笑顔を浮かべていると、エリクは「そうなんだよ!」とどこか興奮したように言う。
「だからこの場所はこんなふうにいつも人がすごいんだ。たとえばあそこの銅像。見える?」
「え、ええ、見えるわ」
突然テンションの高くなったエリクに、戸惑いながらもそう答える。いったいどうしたのだろうと思うが、止める暇もない。彼は若干早口になりながら説明をしてくる。
「ああいう銅像がこの広場のあちこちにあって、それは全部、革命の途中で命を落とした指導者のものなんだよ。志半ばで亡くなってしまったから、せめて銅像の彼らに今のこの国の様子を見せようと、みんなこの広場に集まるんだ」
そう言うエリクの瞳はキラキラと輝いていて、革命の指導者に憧れているということが見ているだけでも伝わってきた。
だけど。
アデライドはそっと首を傾げる。
「……随分と慕われているのね」
そのことが不思議だった。アデライドはずっと、革命の指導者は人々を騙し、欺き、利用した、残虐な人たちだと教えられてきた。そんな人たちが人々に慕われているなんて、疑問を抱かずにはいられない。
しかしエリクは革命の指導者をそう思っていないのだろうか、「それはそうだよ」と溌剌とした様子で言う。
「なにせ俺たちのヒーローだからな! 男なら誰もが彼らのようになりたいって思うもんだよ」
「そう……」
今まで教えられてきたこととエリクの言葉の違いに、アデライドは大混乱に陥っていた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
あなたが望んだ、ただそれだけ
cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。
国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。
カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。
王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。
失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。
公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。
逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。
心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる