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3話 すずの鬱屈
暴走する魔法
しおりを挟む戦いの場へと急ぎ走る、しぐれとかがみん。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
公園へ足を踏み入れた瞬間、耳を劈く大音声が二人の身体を硬直させた。
「これは……っ、まりあちゃん?」
怪訝そうにするしぐれは、確信を得られなかった。
いつもの咆哮とは違う、より凄絶に激しさを増した、獣の慟哭じみた雄叫び。
酷く心を不安にさせる響きだ。
「やっぱりこうなったか。しぐれ、ひとまず手はず通りに」
「えっ。う、うん……っ」
しぐれは身体を縮込ませながら、かがみんの声に反応して頷きを返す。
「えいっ」
用意しておいた手鏡を空高く放り投げる。
放物線の頂点に達した時、かがみんが魔法をかけた。
「〝開け、異界の門、鏡の扉〟!」
瞬きの間に、周囲の景色が全く別のものへ置き換わる。
混沌とした空と赤黒い大地がどこまでも続く広大な空間。
現世とは切り離された異質な場所、鏡の世界。
かがみんの魔法によって公園にいた全員が、鏡面の中へと取り込まれていた。
「今回はさすがに野放しにしておけない。これなら周辺へ被害は出ないだろう」
かがみんは、「これでよし」と自らの仕事ぶりを褒め、直後に「やれやれ」と肩を落とす。
「魔法の存在が明るみに出るのは避けなければいけないというのに、派手な騒ぎを巻き起こすのは控えてもらいたいね」
「十文字さんを連れてきたかがみんが言うことなの? 目立ちたくないなら、今すぐ二人を止めて!」
突っ込むのもそこそこに、しぐれはすごい剣幕で訴えかける。
指差す先では、途切れることなく破砕音が響き渡っていた。
「ヴゥオオオ――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!」
「……ぐっ、この!」
爆炎の如き勢いを宿し、赤熱したまりあの拳が鈴の障壁を打ち砕く。
ただ振るわれるだけの力任せの一撃が、何重にも重なる障壁を粉々に吹き飛ばした。
破壊された端から鈴が新たな障壁を作り、また粉砕される。
目まぐるしく立ち位置を入れ替え、絡み合うように激突する二人。
互いの魔力を燃焼し、白熱の一途を辿るまりあと鈴の一騎打ちは、初手から最高潮に達していた。
「あんなものを止めろだなんて、それこそ無茶だ。近づくのも危険だよ」
かがみんの言う通り、生み出される衝突の余波は周囲の大気を鳴動させ、動く者の足を怯ませる。
耳を聾する打撃音。
目を覆いたくなるほど差し迫る暴力。
吹き荒れる大破壊の中心で暴力の化身と成り果てたまりあの様は、遠目に見ていても背筋をぞっとさせる。
「まりあちゃん……。一体、何をしたの……」
まるで別人だ。
はち切れんばかりに膨れ上がった筋肉は、灼熱の炎を纏って爆発的な炎上を繰り返し、怒髪天を衝く勢いで白く色の抜けた長髪が伸び上がる。
とっておきの魔法を常に放出し続けるなど、明らかに普通の状態ではない。
しぐれは、いつかの鈴に見た光景を思い出す。
視界が焼け切れるほどの膨大な力。
今のまりあもあの時の鈴と同じく、魔力の箍が力任せに外されていた。
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