33 / 70
2話 しぐれの友愛
しぐれは、私が守る!
しおりを挟む屋上を囲むフェンスの上から颯爽と登場を決めたのは、かがみんだ。
感情の乗らない蒼い瞳と目が合って、しぐれははっとする。
「あ、昨日の……?」
「む。出たな、魔獣め!」
すぐ隣で威嚇の声を放ったまりあに驚き、顔を振り向かせる。
「えっ、まりあちゃんもかがみんのこと知っているの?」
「うえっ? それじゃあしぐれも?」
困惑気味に訊ねれば、まったく同じ反応が返ってきた。
次には、がっ、と勢いよく両肩を掴まれる。
「しぐれも魔法少女になっちゃったの?」
「魔法、少女……? ううん、昨日の帰り道に声を掛けられて、それで。……あれ、わたしもってことはまりあちゃんは……。えっと?」
しぐれの混乱は深まる一方だ。
一旦頭の整理をつけるため、昨日かがみんと遭遇した時のことをまりあに話した。
魔法少女。
夕暮れの中で遭遇したかがみんは、そう言った。
その力を使って、しぐれのことを助けてくれると。
結論から言えば、しぐれは魔法少女にならなかった。
考えさせて欲しいと保留にして、足早にその場を立ち去った。
実質逃げ遂せたのだ。
少し話をしていて思った。
かがみんは、何を考えているのかまったく読み取ることができない。
表情一つとっても、本心を話しているとは到底思えなかった。
まったくの能面顔というわけではないが、変化がある分余計に不気味だ。
出会いはあんなにも愛らしかったのに、人の言葉を操った途端、得体の知れない何者かに変じた気がした。
そんなものを簡単に受け入れることなどできない。
臆病なほどの危機察知能力は、果たして正しかった。
「気を付けて、しぐれ。あれは人心を惑わし、騙して陥れる詐欺師なの。私も甘言に乗せられて酷い目に遭ったわ」
「そんなっ」
油断なく構えを取り、しぐれを庇うように前に立つまりあ。
その背中越しに、しぐれはかがみんを糾弾する。
「それじゃあ、わたしを助けてくれるっていうのは嘘だったの?」
「嘘はないさ。僕は君を助けるつもりだったよ、しぐれ」
かがみんはしれっと答えると、若干うんざりしたように声調を落とした。
「まったく、適当なことを吹き込んでもらっては困るよ、まりあ。どうして君がここに居るんだ?」
「決まっているでしょう。邪悪な魔獣からしぐれを守るためよ!」
人差し指を真っ直ぐ伸ばしかっこ良く決めポーズを取るまりあを、かがみんはふん、と鼻で笑う。
「正義の味方ごっこかい? 事はそう単純な話でもないんだ、正義や悪だなんておざなりな言葉で言い表して欲しくないな」
「単純にして明快よ。私の代わりにしぐれを隠れ蓑にしようって魂胆でしょう? まごうことなき絶対悪!」
「人聞きが悪いな……。今は魔女に追われていないから、囮にするつもりはないよ。実は最近、この辺りで魔女を見かけることがなくてね。おかげで魔法を発現できそうな少女を存分に探し回れる。魔法少女が増えることは僕らにとっての切望だ」
言って、かがみんは「それにしても」と不服そうに眼差しを細めた。
「君がまだ生きているとは思わなかったよ、まりあ。とっくに魔女に餌にされたものかと」
「そうなったのは一体誰のせいだと思っているの?」
まりあは低い声で唸りを上げ、憤りを秘めたぐっと拳を握り込む。
「言ったはずよ、もう私に関わらないでと。前は見逃してあげたけれど、こうなった以上容赦はしない。しぐれは私の友達なの。魔女の餌なんかにさせないから!」
「運良く魔女に見つからなかったといって、調子づかれても困るな。まりあ、君は失敗作なんだ、大人しくしていて欲しい」
激しい怒気をぶつけられても、かがみんは余裕ある態度を崩さない。
あくまでも上から目線で肩を竦ませ、含みを持たせた警告を発する。
「何にせよ、事あるごとに首を突っ込まれては面倒だ。この辺りでひとつ、痛い目に遭わせておこうか」
不穏な空気を纏わせ、かがみんが一歩前に出る。
その次にはもう既に、まりあに頭部を鷲掴みにされていた。
小さな体が宙に浮く。
「やれるものなら……」
「うえ? ちょっと、待っ―――、」
「やってみなさーいっ」
「ああー……」
かがみんは空高く放り投げられ、間の抜けた悲鳴とともに、屋上のフェンスを越えて落ちていく。
見事な遠投だ。
まりあは自身を鼓舞するように、渾身のガッツポーズを取る。
「見たか。これぞ日々のトレーニングの成果!」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
全ての悩みを解決した先に
夢破れる
SF
「もし59歳の自分が、30年前の自分に人生の答えを教えられるとしたら――」
成功者となった未来の自分が、悩める過去の自分を救うために時を超えて出会う、
新しい形の自分探しストーリー。
ハッチョーボリ・シュレディンガーズ
近畿ブロードウェイ
SF
なぜか就寝中、布団の中にさまざまな昆虫が潜り込んでくる友人の話を聞き、
悪ふざけ100%で、お酒を飲みながらふわふわと話を膨らませていった結果。
「布団の上のセミの死骸×シュレディンガー方程式×何か地獄みたいになってる国」
という作品が書きたくなったので、話が思いついたときに更新していきます。
小説家になろう で書いている話ですが、
せっかく アルファポリス のアカウントも作ったのでこっちでも更新します。
https://ncode.syosetu.com/n5143io/
・この物語はフィクションです。
作中の人物・団体などの名称は全て架空のものであり、
特定の事件・事象とも一切関係はありません
・特定の作品を馬鹿にするような意図もありません
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
人工子宮
木森木林(きもりきりん)
SF
この小説は、産婦人科専門医・生殖医療専門医でもある筆者が、人工知能マッチングや人工子宮という架空設定を持ち込んでいますが、現在の産婦人科医療や不妊治療をベースに書きました。
昨今、結婚されない人も増え、また男女とも結婚が遅くなり、挙児を希望しても妊娠しにくいカップルも5組に1組と増えています。
妊娠しにくい原因は色々と考えられますが、「女性加齢」も原因になり、35歳くらいから妊娠率は低下し、流産率が上昇します。これは卵子数の減少と質的低下によるものと考えられます。
体外受精など生殖補助医療による出生児は29216万9797人であり、国内総出生児に対する割合は8.6%(11.6人に1人)になっています。
もちろん「妊娠出産しなければならない」ことはないのですが、「妊娠出産しやすい」「子育てしやすい」環境に向け、私達はどうしたらよいのでしょう?まずは、妊娠出産、不妊治療のことを知っていただきたいと書きました。
挿し絵は医学生時代からの友人「kinZoさん」が描いてくれました。ありがとう!
戦艦大和、時空往復激闘戦記!(おーぷん2ちゃんねるSS出展)
俊也
SF
1945年4月、敗色濃厚の日本海軍戦艦、大和は残りわずかな艦隊と共に二度と還れぬ最後の決戦に赴く。
だが、その途上、謎の天変地異に巻き込まれ、大和一隻のみが遥かな未来、令和の日本へと転送されてしまい…。
また、おーぷん2ちゃんねるにいわゆるSS形式で投稿したものですので読みづらい面もあるかもですが、お付き合いいただけますと幸いです。
姉妹作「新訳零戦戦記」「信長2030」
共々宜しくお願い致しますm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる