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2話 しぐれの友愛

しぐれは、私が守る!

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 屋上を囲むフェンスの上から颯爽と登場を決めたのは、かがみんだ。

 感情の乗らない蒼い瞳と目が合って、しぐれははっとする。


「あ、昨日の……?」
「む。出たな、魔獣め!」


 すぐ隣で威嚇の声を放ったまりあに驚き、顔を振り向かせる。


「えっ、まりあちゃんもかがみんのこと知っているの?」
「うえっ? それじゃあしぐれも?」


 困惑気味に訊ねれば、まったく同じ反応が返ってきた。

 次には、がっ、と勢いよく両肩を掴まれる。


「しぐれも魔法少女になっちゃったの?」
「魔法、少女……? ううん、昨日の帰り道に声を掛けられて、それで。……あれ、わたしもってことはまりあちゃんは……。えっと?」


 しぐれの混乱は深まる一方だ。

 一旦頭の整理をつけるため、昨日かがみんと遭遇した時のことをまりあに話した。

 魔法少女。
 夕暮れの中で遭遇したかがみんは、そう言った。

 その力を使って、しぐれのことを助けてくれると。

 結論から言えば、しぐれは魔法少女にならなかった。

 考えさせて欲しいと保留にして、足早にその場を立ち去った。
 実質逃げ遂せたのだ。

 少し話をしていて思った。
 かがみんは、何を考えているのかまったく読み取ることができない。
 表情一つとっても、本心を話しているとは到底思えなかった。

 まったくの能面顔というわけではないが、変化がある分余計に不気味だ。

 出会いはあんなにも愛らしかったのに、人の言葉を操った途端、得体の知れない何者かに変じた気がした。

 そんなものを簡単に受け入れることなどできない。

 臆病なほどの危機察知能力は、果たして正しかった。


「気を付けて、しぐれ。あれは人心を惑わし、騙して陥れる詐欺師なの。私も甘言に乗せられて酷い目に遭ったわ」
「そんなっ」


 油断なく構えを取り、しぐれを庇うように前に立つまりあ。

 その背中越しに、しぐれはかがみんを糾弾する。


「それじゃあ、わたしを助けてくれるっていうのは嘘だったの?」
「嘘はないさ。僕は君を助けるつもりだったよ、しぐれ」


 かがみんはしれっと答えると、若干うんざりしたように声調を落とした。


「まったく、適当なことを吹き込んでもらっては困るよ、まりあ。どうして君がここに居るんだ?」
「決まっているでしょう。邪悪な魔獣からしぐれを守るためよ!」


 人差し指を真っ直ぐ伸ばしかっこ良く決めポーズを取るまりあを、かがみんはふん、と鼻で笑う。


「正義の味方ごっこかい? 事はそう単純な話でもないんだ、正義や悪だなんておざなりな言葉で言い表して欲しくないな」
「単純にして明快よ。私の代わりにしぐれを隠れ蓑にしようって魂胆でしょう? まごうことなき絶対悪!」
「人聞きが悪いな……。今は魔女に追われていないから、囮にするつもりはないよ。実は最近、この辺りで魔女を見かけることがなくてね。おかげで魔法を発現できそうな少女を存分に探し回れる。魔法少女が増えることは僕らにとっての切望だ」


 言って、かがみんは「それにしても」と不服そうに眼差しを細めた。


「君がまだ生きているとは思わなかったよ、まりあ。とっくに魔女に餌にされたものかと」
「そうなったのは一体誰のせいだと思っているの?」


 まりあは低い声で唸りを上げ、憤りを秘めたぐっと拳を握り込む。


「言ったはずよ、もう私に関わらないでと。前は見逃してあげたけれど、こうなった以上容赦はしない。しぐれは私の友達なの。魔女の餌なんかにさせないから!」
「運良く魔女に見つからなかったといって、調子づかれても困るな。まりあ、君は失敗作なんだ、大人しくしていて欲しい」


 激しい怒気をぶつけられても、かがみんは余裕ある態度を崩さない。

 あくまでも上から目線で肩を竦ませ、含みを持たせた警告を発する。


「何にせよ、事あるごとに首を突っ込まれては面倒だ。この辺りでひとつ、痛い目に遭わせておこうか」


 不穏な空気を纏わせ、かがみんが一歩前に出る。

 その次にはもう既に、まりあに頭部を鷲掴みにされていた。
 小さな体が宙に浮く。


「やれるものなら……」
「うえ? ちょっと、待っ―――、」
「やってみなさーいっ」
「ああー……」


 かがみんは空高く放り投げられ、間の抜けた悲鳴とともに、屋上のフェンスを越えて落ちていく。

 見事な遠投だ。

 まりあは自身を鼓舞するように、渾身のガッツポーズを取る。


「見たか。これぞ日々のトレーニングの成果!」
 
 
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