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3話 ゆかりさんとわたしと、校舎裏にて
八回目
しおりを挟む「ごめんなさい、本当に……」
項垂れるわたしに、ゆかりさんは楽しそうに微笑みかけながら、
〝とっても可愛かったわよ〟
そんなことが書かれたスケッチブックを見せてきます。
数日ぶりに会ってテンションが上がってしまいました、なんて言い訳にならない……。
病室で毎日顔を見合わせていたんですから。
それに、あまりもろ手を挙げて喜ぶべきではないのです。
霊体のゆかりさんがここに居るということは、病室のゆかりさんはまた深い眠りに就いてしまったということで。
いつどうなるかわからない状態に舞い戻ってしまったということで。
明日会いに行ってもあの澄んだ声でわたしの名を呼んでくれることはなく、ゆかりさんのお母さんもさぞつらい思いをしていることでしょう。
わたしもまた、やるせない気持ちを抱えて、眠るゆかりさんの安らかな顔を見つめるしかなくなります。
それでも、今はただ胸を満たす喜びを抑えきれません。
ゆかりさんが居なくなってまた戻ってくるたび、複雑な思いを抱えながらも結局はとっても嬉しくて。
毎回こんな感じでした。
どうにかしないと、とは思っています。今日の夜中の反省会の議題は決まりました。
それより今は、久しぶりのゆかりさんの手料理です。
わたしために、と用意して待ってくれていました。
からりと揚がったから揚げをシャキシャキのレタスで巻いて、ご飯と一緒に頬張ります。
絶妙な歯ごたえのあとにじゅわっと肉汁が溢れます。
「美味しい……。とっても美味しいよ、ゆかりさん」
最近は味気ないコンビニのお弁当ばかりだったので、温かい料理がどれも美味しくて嬉しくて。
涙が溢れそうでした。
ゆかりさんはそんなわたしに苦笑をひとつ見せ、スケッチブックで気持ちを伝えてきます。
〝栄養偏っちゃうわよ? まったく。みぃちゃんは私がいないと駄目ねえ〟
そんないつものやり取りに嬉しさが込み上げ、ニコニコが止まりません。
「そうよ、ダメになってしまうの。だからずっと一緒に居てよね、ゆかりさん」
ちょっと図々しいかなと思いつつ横目でゆかりさんを覗くと、恥ずかしそうに、でも嬉しそうにはにかんでくれていました。
たまには図々しいのも悪くありません。
そうです、もうおかしな遠慮も気遣いも必要ないのです。
今のゆかりさんは、病室に居た間のことも含めてわたしの全部を覚えてくれているのです。
わたしの一番の友達であるゆかりさんです。
先々の不安なんて口に出して、嬉しい気持ちを引っ込めてしまうだなんてもったいなくてできません。
話もそぞろにわたしは食べました。
食べ続けました。
「ごちそうさま、ゆかりさん。とっても美味しかったよ」
洗い物の後、ゆかりさんに改めてお礼を言います。
ゆかりさんは、
〝八回目〟
と大きく書かれたスケッチブックを見せてきます。
「そんなに言ったかな?」
気づきませんでした。
それくらいテンションが上がっていたということでしょうか。
この家でゆかりさんと一緒に居られて嬉しいのだから、テンションくらい上げてもいいような気がしました。
今日くらいは、ね。
「あ、そうそう。例のラブレターのことなんだけど」
食後のお茶を啜りながら、わたしはゆかりさんに話す機会がなかった間のラブレター騒動のことを話しました。
相原さんや峰岸さんにも話したわたしの考えと一緒に。
ゆかりさんにわたしの抱いている疑問を、この騒動のごまかしがどこにあるのかを解いてもらおうとか、そんなことは全然考えていなくて。
そんなことをする理由もなくて。
ただ、わたしは久々に遠慮のないゆかりさんとの会話を楽しみたくて、その話をしました。
ゆかりさんは相槌を打ちながらわたしの話を聞いてくれて、スケッチブックを使って実直な感想を伝えてきます。
〝けっこうな騒ぎに発展したものね〟
「ね。ラブレターを送るタイミングさえずれていれば、こんなことにならなかったでしょうに」
わたしはしみじみ呟きます。
もっと言うのなら、ラブレターを送った相手が最初から峰岸さんの所へ来ていれば、事件が峰岸さんのせいになるようなことにはなかったでしょう。
〝つまり、そこにみぃちゃんの抱いている疑問の答えがある、ということよ〟
「え?」
ゆかりさんが、そんなことが書かれた紙面をこちらに向けたので、わたしはぽかんとしてしまいます。
「どういうこと? まさか、ゆかりさん分かったの? わたしの話を聞いただけで?」
まさかと思って聞くと、ゆかりさんはすんなりと頷いてみせました。
「ええっ!」
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