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3話 ゆかりさんとわたしと、校舎裏にて
わたしのことを、何も……
しおりを挟むただ、そんな嬉しいニュースに喜ぶのも束の間。
わたしはどうしても聞かなければいけない質問があって、それを口にします。
「あの、それで……。ゆかりさんの様子はどう、でしょうか」
重苦しくならないよう努めたつもりでしたが、どうしても言葉が喉につっかかってしまいます。
そんなわたしの様子から察したのか、ゆかりさんのお母さんはわたしの欲しかった答えを教えてくれました。
「みぃちゃん、深刻に落ち込まないで欲しいんだけど」
その前置きだけで、何となく察しました。
「今回は駄目みたいね……」
「そう、ですか……」
ゆかりさんの様子はどうでしょうか。
それは既に聞いていた病状についてのことではなく。ゆかりさん自身の様子、という意味。
これまで何度か目が覚めたゆかりさんは、その度に多少の記憶障害を併発していました。
長く眠り続けているのです。身体のどこかに影響が出てしまっていて当然のこと。
記憶障害はその都度度合いが違っていて、自分のことまで含めて全てを忘れてしまっていたり、逆に全てを覚えていたり、ところどころ曖昧だったり。
全てというのはつまり、幽霊として過ごしたこの三年間も含めてです。
そういう時が確かにありました。
だから、わたしも少し期待していた部分がありました。
何も変わらず目を覚ましたゆかりさんと、いつものおしゃべりができるのだと。
しかし、今回は……。
「それとなく聞いてみたんだけど……。ゆかりったらみぃちゃんのことも家族のことも、何も覚えていないみたい」
「…………」
ゆかりさんが、わたしを覚えていない。
あんなに一緒に遊んだ日々を。
たくさん話したお話を。
昨日交わした秘密の約束を。
何かもを覚えていない……。
毎回のことながら、この言葉を聞くとわたしは胸が強く締め付けられてしまって。
さっきとは別の意味で泣くのを我慢するのに必死で、もう何も言えなくなってしまうのでした。
「あとは本人に直接聞くといいわ。せっかく来たんだもの、少しくらいお話しして行ってあげて。けれど検査で疲れているだろうから、今日の所は短めでお願い」
そう背中を押されて、わたしはおずおずとゆかりさんの病室に足を踏み入れます。
「娘をいつも気にかけてくれてありがとう。ゆかりのことよろしくね、みぃちゃん」
ゆかりさんのお母さんのそんな声が聞こえた後、後ろでパタンと引き戸が閉まりました。
清潔な空気の中に病院特有の薬の匂いが充満しています。
床も天井も壁も、全てが白一色の部屋。
普通の病室の半分くらいの大きさで、しかしベッドはひとつしかないので広々としています。
そのベッドに、ゆかりさんが静かに横になっていました。
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