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2話 ゆかりさんとわたしと、洋館にて
罰ゲーム
しおりを挟む「あ、でもそうなると、三つ目の事件に双子はどう関係してくるの?」
最後の質問を思い出してそのことを訊ねると、ゆかりさんは一瞬怪訝そうな顔をして、〝ああ、あれか〟と軽く手を叩きます。
〝三つ目の事件に対して質問することがなくなったから、適当に〟
そんな文字が書かれた紙面をしばし見つめて、
「適当って……」
わたしは呆れて言葉が出ませんでした。
〝強いて言うのなら、双子の居場所が洋館の中か外かを知りたかったからかな?〟
〝?〟マークまでつけているあたり、どうやら本当に大した質問ではなかったようです。わたしの考え過ぎでした。
がっかりするわたしをよそに、ゆかりさんは最後の閉め括りとしてこう書きます。
〝これが私の答えよ。どう? 合っているかしら?〟
確認するまでもありませんでした。
「さあ、どうかな。最後まで読んでみないと……。でも勝負はわたしの負け」
ゆかりさんは驚いて首を傾げて見せます。
〝いいの?〟
わたしは晴々しい気持ちで微笑みながら返します。
「うん、いいの。だってとっても楽しかったから」
ゆかりさんを楽しませようとして。
ゆかりさんの笑顔がたくさん見られて。
わたしもとっても楽しくて。
それで十分満足でした。
勝ち負けなんて、最初からこだわるつもりもありませんでしたから。
「答え合わせだけしましょうか。ちょっと待ってね、簡単に読んじゃうから」
すっかり満足した心持ちでわたしが本を開いていると、ゆかりさんは何やらスケッチブックに書いています。
向けられたそれは三つの選択肢でした。
〝くすぐり。ほっぺたつねり。接吻。どれがいいかしら?〟
「どれがって……。え? これはなあに、ゆかりさん?」
ゆかりさんからの回答は、たったひと言。
〝罰ゲーム〟
「罰ゲーム……? ―――はっ、しまった!」
完全に忘れていました。
「ちょっと待ってゆかりさん! ほら、答え合わせするから!」
〝さっき負けを認めたでしょう?〟
そんなことが書かれたスケッチブックを手に、ゆかりさんが迫ってきます。
というか、書くのは早過ぎ!
「いや、でも、なんか選択肢おかしくなかった? 最後なんて書いてあった? 接吻って、キスのことじゃなかった?」
〝どれがいいかしら? 全部にしようかしら?〟
迷い言を書いたスケッチブックと悪い微笑が、すぐ目の前に。
ゆかりさんはわたしをよくからかいますが、殊更勝負に勝ったあとの罰ゲームの執行を楽しみにしています。
思えば、罰ゲームを賭けた勝負に乗せられたあの時、既にわたしは間違いを犯していました。なんともはや……。
毎回同じ調子であるだけに、後悔のしようもありません。
「ダメよ、全部なんてダメ! 特に最後がダメよ! ゆかりさん? ダメだからね!」
必死で叫びますが、迫りくるゆかりさんに慈悲はなく。
幽霊であるゆかりさんは意図的にわたしを通り抜けることもできるので、力に訴えかけての抵抗など通用しません。
わたしはあっさりとゆかりさんの腕の中に掴まって、
「ふふふ……」
堪え切れずに小さく漏れた、蕩けそうなゆかりさんの微笑みが耳をくすぐって――――……。
そこから先はあんまり思い出したくありません……。
翌日。
早めに起きたわたしは、高校に行く前に例の本を読み返していました(昨夜は疲れ果てていて、それどころではありませんでした)。
果たして、ゆかりさんの推理はどうか。ひとり答え合わせをして、
「ふふ、やっぱりゆかりさんはすごい」
結果は全問正解。
罰ゲームは避けられない運命でした。
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