ゆかりさんとわたし

謎の人

文字の大きさ
上 下
51 / 79
2話 ゆかりさんとわたしと、洋館にて

罰ゲーム

しおりを挟む
 
 
「あ、でもそうなると、三つ目の事件に双子はどう関係してくるの?」


 最後の質問を思い出してそのことを訊ねると、ゆかりさんは一瞬怪訝そうな顔をして、〝ああ、あれか〟と軽く手を叩きます。


〝三つ目の事件に対して質問することがなくなったから、適当に〟


 そんな文字が書かれた紙面をしばし見つめて、


「適当って……」


 わたしは呆れて言葉が出ませんでした。


〝強いて言うのなら、双子の居場所が洋館の中か外かを知りたかったからかな?〟


〝?〟マークまでつけているあたり、どうやら本当に大した質問ではなかったようです。わたしの考え過ぎでした。
 がっかりするわたしをよそに、ゆかりさんは最後の閉め括りとしてこう書きます。


〝これが私の答えよ。どう? 合っているかしら?〟


 確認するまでもありませんでした。


「さあ、どうかな。最後まで読んでみないと……。でも勝負はわたしの負け」


 ゆかりさんは驚いて首を傾げて見せます。


〝いいの?〟


 わたしは晴々しい気持ちで微笑みながら返します。


「うん、いいの。だってとっても楽しかったから」


 ゆかりさんを楽しませようとして。
 ゆかりさんの笑顔がたくさん見られて。
 わたしもとっても楽しくて。
 それで十分満足でした。

 勝ち負けなんて、最初からこだわるつもりもありませんでしたから。


「答え合わせだけしましょうか。ちょっと待ってね、簡単に読んじゃうから」


 すっかり満足した心持ちでわたしが本を開いていると、ゆかりさんは何やらスケッチブックに書いています。
 向けられたそれは三つの選択肢でした。


〝くすぐり。ほっぺたつねり。接吻。どれがいいかしら?〟
「どれがって……。え? これはなあに、ゆかりさん?」


 ゆかりさんからの回答は、たったひと言。


〝罰ゲーム〟
「罰ゲーム……? ―――はっ、しまった!」


 完全に忘れていました。


「ちょっと待ってゆかりさん! ほら、答え合わせするから!」
〝さっき負けを認めたでしょう?〟


 そんなことが書かれたスケッチブックを手に、ゆかりさんが迫ってきます。
 というか、書くのは早過ぎ!


「いや、でも、なんか選択肢おかしくなかった? 最後なんて書いてあった? 接吻って、キスのことじゃなかった?」
〝どれがいいかしら? 全部にしようかしら?〟


 迷い言を書いたスケッチブックと悪い微笑が、すぐ目の前に。

 ゆかりさんはわたしをよくからかいますが、殊更勝負に勝ったあとの罰ゲームの執行を楽しみにしています。
 思えば、罰ゲームを賭けた勝負に乗せられたあの時、既にわたしは間違いを犯していました。なんともはや……。
 毎回同じ調子であるだけに、後悔のしようもありません。


「ダメよ、全部なんてダメ! 特に最後がダメよ! ゆかりさん? ダメだからね!」


 必死で叫びますが、迫りくるゆかりさんに慈悲はなく。
 幽霊であるゆかりさんは意図的にわたしを通り抜けることもできるので、力に訴えかけての抵抗など通用しません。

 わたしはあっさりとゆかりさんの腕の中に掴まって、


「ふふふ……」


 堪え切れずに小さく漏れた、蕩けそうなゆかりさんの微笑みが耳をくすぐって――――……。
 そこから先はあんまり思い出したくありません……。


 翌日。
 早めに起きたわたしは、高校に行く前に例の本を読み返していました(昨夜は疲れ果てていて、それどころではありませんでした)。
 果たして、ゆかりさんの推理はどうか。ひとり答え合わせをして、


「ふふ、やっぱりゆかりさんはすごい」


 結果は全問正解。
 罰ゲームは避けられない運命でした。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。

千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。 風月学園女子寮。 私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…! R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。 おすすめする人 ・百合/GL/ガールズラブが好きな人 ・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人 ・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人 ※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。 ※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)

和菓子屋たぬきつね

ゆきかさね
キャラ文芸
1期 少女と白狐の悪魔が和菓子屋で働く話です。 2018年4月に完結しました。 2期 死んだ女と禿鷲の悪魔の話です。 2018年10月に完結しました。 3期 妻を亡くした男性と二匹の猫の話です。 2022年6月に完結しました。 4期 魔女と口の悪い悪魔の話です。 連載中です。

我慢できないっ

滴石雫
大衆娯楽
我慢できないショートなお話

処理中です...