ゆかりさんとわたし

謎の人

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プロローグ

ただいま?

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 学校からの帰り道。
 ”寄り道はせずに真っ直ぐお家に帰りましょう”なんて、小学生の時からよく耳にしている注意事項だけど、わたしは毎日のように寄り道をします。
 いつものコンクリートの道路を通り、見慣れた四つ角を右へ曲がり、左右を木の塀で挟まれた入り組んだ道のりを間違えないように進みます。
 先の注意喚起に真っ向から反しているけれど、わたしにとってはこれが日々の習慣だから。昔から繰り返されてきたことだから。それこそ小学校に通い始める前からずっと。
 
 とはいえ、物覚えの悪いわたしは、未だにそこへ至る道のりを空で言って誰かに伝えられるほど暗記できてはいません。そこまでの道のりは複雑です。
 誰か他の人に説明するとしたら、それはしどろもどろの滅茶苦茶なものになってしまい、ひどく相手を混乱させることになるでしょう。
 そうなる自信があります。目指す場所へは、いくつかの目印を経てようやくたどり着くのです。

 それはたとえば、電柱の陰の駄菓子屋さん。
 ぽつんとひとつだけ立っている寂れた自動販売機。
 四つ角の石塀の下の方に空いた穴。通称ネコの通り道。名付けたのはわたし。
 そういう目印を八つほど目にして、通り過ぎ、最後の角を曲がった突き当り。その建物はあります。
 石塀に囲まれた広い前庭を持つ、純和風建築の古めかしい日本家屋。ゆかりさんのお家です。


「こんにちは、ゆかりさん」


 玄関のガラスの引き戸を開きながら、わたしは薄暗い家屋の中へと挨拶を投げかけます。
 すると、奥の部屋から”コン、コン”と乾いた音がしました。中指の背で木製の板を叩いたようなその音は、いらっしゃいの合図です。


「おじゃまします」


 靴を脱いで揃え、わたしは家屋の奥の部屋へと向かいます。
 
 若草香る初夏だというのに、廊下はひんやりとした空気に満たされています。
 縁側に面した襖を薄く開けると、そこは十二畳ほどの部屋で中央に布団が敷かれていて、そこにいた儚げな少女と目が合います。
 半身を起こした彼女は、わたしににこりと笑顔を見せ、いつもの言葉を手話で伝えてきました。


〝おかえりなさい〟
「えと……」


 ゆかりさんがこう言うのはいつものことですが、ここはわたしの家ではないので、やはり少し戸惑いがちになってしまいます。
 ひとつ間を置き、


「ただいま?」


 曖昧な笑みを浮かべるわたしに、ゆかりさんはさらに目を細めて微笑みかけてくれるのでした。

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