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エピローグ ~旅の終わり。そして~
まったく、ため息ものでした
しおりを挟む「ああああああああああああああああああああああっ!」
「うわっ、何事?」
突然の大声に驚き振り向くと、ギルドの受付嬢があんぐりと大口を開き、私を凝視しているではありませんか。
良く見知った顔でした。
「ああ、リオンさん。お久しぶりです」
「久しぶりじゃないよ! 何で生きているの!」
「随分なご挨拶で……」
長い旅路の果て。
比較的大きな街に辿り着いた私とリンネさん。
一度別れて、リンネさんは街の神殿へ、私は冒険者ギルドへ。
それぞれ足を運び、生活の拠点を築こうとしていました。
で、ギルドの建物に入るなり、リオンさんに捕まったわけで。
少しの間、世間話を交わします。
「やー、王都が襲撃されて、街を放棄するってなった時、ずっと気にはなっていたんだけど、さすがに地下水道中を探している余裕はなくて。スライムイーターさんも一緒だから大丈夫だろうって」
そう自分に言い聞かせたわけですね……。
「それにしても偶然とはいえ、再会できるとは思いませんでした」
「ここはアクアマリンから一番近い街だからね。いざという時の避難場所に指定されているの」
「それじゃあ、水の街にいた人たちは皆さんここへ?」
「うん、ほとんどがそうだと思うよ。まあ、一番近いっていうだけで、実際は広大な平野を超えて来ないといけないから。人によっては故郷の村に引き上げていってしまったけれど」
王都の陥落により、人類側は戦線を引き下げ、王都に一番近い水の街を戦いの最前線と位置付けたのです。
当然そこで暮らしていた人々の多くは逃げ出します。
いつ街が戦場になるか分からないのですから。
明け渡されたアクアマリンには今続々と腕利きの冒険者が集められ、王都奪還に向けて動いているのだとか。
「そういうことでしたか」
通りすがりに一度立ち寄った際、街がもぬけの殻だったのはそういう理由からでした。
治療院に居た怪我人たちも全員避難しているとのことで。
地下水道で回収してきた魔導書をお返しする目途がようやく立ちそうです。
「それはそれとして。あのぅ、また安く部屋借りることってできますか?」
「んー、そうしてあげたいんだけど……」
「やっぱり駄目ですか」
まあそうでしょうね。
いきなり増えた避難民の寝床を全員分用意できるような街なんて、普通ありません。
「部屋は用意できるんだけど、お金がね。アクアマリンの時より三倍くらい高騰してるかな」
持ち合わせなんてあるはずなく。
「また仕事するしかないかあ……」
ため息もつきたくなります。
長旅の疲れを癒すこともできないとは。
お金って大切……。
「あ、そうだ。換金所ってあります?」
「え? うん、もちろんここにもあるけど」
ギルドの換金所では、遺跡探索で手に入れた古代のお宝や怪物討伐時に手に入れたドロップアイテムを換金してくれます。
売れそうなものが手元にあれば、ひとまず今夜の宿を確保できるということです。
「これって換金できますか?」
左手の指輪を外して、鑑定をお願いします。
「あら、指輪? 古代の魔法道具とかだと結構な値段がするけれど。アルルさん、これをどこで?」
「ええと。道中で仲良くなったとある娘さんから、お礼の代わりに貰い受けました」
嘘は言ってない、はずです。
「……あの。これをどこで?」
「え? ですから」
繰り返される問いかけに、ふと顔を上げます。
リオンさん、鬼のような形相をしていました。
「王族の家紋が入った指輪を、一体どこでどうやって手に入れたっていうの?」
「……あ、」
気づいた時にはすでに遅し。
逃げられないよう、がっしりと腕を掴まれていました。
「や、違います! 王都で火事場泥棒していたとかではなくて!」
「詳しく話を聞かせてもらいましょうか?」
見たことあります、このパターン。
だからこの先の展開も何となく予想できました。
「誤解です! 私は無実です! むしろ盗みを働いていたのは悪食な神官様の方で!」
「いいから来なさい! 姿を見せなかった間一体何をやらかしたのか、洗いざらい吐いてもらうから!」
「勘弁してください!」
やっぱり人の運命なんて、そう簡単に変えられるものではないのでしょうね。
まったく、ため息ものでした。
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感想ありがとうございます。キャラを褒めてもらえてうれしいです。
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ごきげんよう。
アルルの敬語に「~で?」というのが多い感じがした。あと、受付の人の口調は統一した方がよかった。
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まだ文字数は少ないですが、これからも応援しています。頑張って下さい。
感想ありがとうございます。口調についてのアドバイス、参考にさせていただきます。
もしよろしければ、また読みに来ていただけると嬉しいです。