7 / 7
07
しおりを挟む
「なあ、ソフィー」
「どうかしましたか?」
私と仲良くしてくれている騎士様が、珍しく顔を不安そうに歪めて声をかけてきた。彼の頭上には変わらず『ナイスバディな雄っぱい』がこれでもかというほどに主張している。いつも明るく、ムードメーカー的な存在でもある彼が、こんな表情をするなんて本当に珍しい。
「行くのか、帝都に」
「……僕には村を守るという目的があります。あの村には、僕よりも幼い子どもたちだって、少ないけれどいるんです。僕は、そんな子たちのためにも未来を切り開きたい。そのためなら、僕は何だってします」
この世界に転生した時に現実を嫌というほど見せつけられた。ここがボタン一つで切り抜けられる世界でないことも、知っている。村にいる家族たちが、現実で存在する人たちであることも、もちろんわかっている。
だからこそ、私は、私ができる最大限のことをしなければならない。私には何の力もない、あるのは精霊師としての力だけ。この力があっても大きな武力の前には歯が立たない。
「心配だよ。お前みたいな可愛い顔をしたやつはすぐ狙われるから……」
「ん?」
「いいか、ソフィー。知らねぇ奴に声をかけられてもついて行くなよ? 身なりがいい男に声をかけられたら、騎士団所属だって言えよ? それでもうるさいなら、金的だ」
私は、彼の中でどんなイメージなんだ?
「僕、そんなに可愛い顔はしていませんよ。それに田舎者なんて、都会では相手にされませんって」
「いいや、帝都にはヤバい連中がウヨウヨしてる。ソフィーが狙われる!」
うわあああ、と嘆きだした騎士様に、私はどうしようかと思っていると、さっきまで違う場所にいたはずのユーイン様が戻ってきた。ちなみに彼のことは閣下ではなく、ユーイン様と呼ぶことになった。
「どうした、ヨハン」
「閣下!」
ヨハン、と呼ばれた騎士様。そこで私は、そういえばこの人の名前はヨハンだった、なんて思い出した。人の名前って覚えるの大変だね。
「閣下、ソフィーが帝都に行くのは心配であります!」
先ほど私に語った内容をユーイン様に語りだしたヨハンさんに、私は二人の方を見ることができない。絶対、ユーイン様は呆れているだろうし。
「たしかに、ヨハンの言うことは一理あるな。なら、ヨハン。お前も来い」
「へっ?」
「はい?」
どうせ笑うと思っていたら、真面目な顔で頷きだしたユーイン様。雲行きが怪しくなってきたのは気のせいだろうか。絶対笑って流してくれると信じていたのに。
「ヨハンの言う通り、お前の顔は帝都でも目立つ。それなら護衛としてヨハンを連れていけばいい。絡まれて面倒ごとになるよりもいいだろう。いいな、ヨハン」
「はっ! 拝命いたします」
ユーイン様が騎士のトップなのだろう、彼はヨハンさんの行き先を決められる立場。そんな彼が私とともに帝都へ行けと言ったら、ヨハンさんは異動するしかない。私のせいで帝都へ行かされると言っても過言ではないのが、少々心苦しい。
「……ヨハンさん。僕と一緒に行くことになりましたけど、いいんですか、本当に……」
「なぁに、構わないさ。ソフィーの行く先が、俺の行く先だ。なんたって、ソフィーは俺の命の恩人だからな」
「ヨハンさん……僕は、僕にできることをしたんです。それにあれは僕だけの力じゃない、ヨハンさんの生きたいという強い気持ちが、今に繋がったんですから」
ヨハンさんは、私が魔法治療を施した時、瀕死の状況だった。初めて会った時から仲良くしてくれていたけれど、騎士として働いている以上、傷を負うこともある。親しくしてくれた人が死ぬかもしれない、なんて状況になったあの日のことを私はよく覚えている。
ヨハンさんはあの日、必死で生きることを諦めないでいた。どれほどの傷の深さだろうと、諦めてはいなかった。少しでも私の到着が遅れたら手遅れだったのに、彼は私が必ず来る、間に合うと信じてくれた。
だから、私も諦めないで頑張れたのだ。何より、ヨハンさんを死なせたくなかった。ずっと仲良くしてくれた彼を助けられずに死なせるなんて、私にはできなかったから。
「どうかしましたか?」
私と仲良くしてくれている騎士様が、珍しく顔を不安そうに歪めて声をかけてきた。彼の頭上には変わらず『ナイスバディな雄っぱい』がこれでもかというほどに主張している。いつも明るく、ムードメーカー的な存在でもある彼が、こんな表情をするなんて本当に珍しい。
「行くのか、帝都に」
「……僕には村を守るという目的があります。あの村には、僕よりも幼い子どもたちだって、少ないけれどいるんです。僕は、そんな子たちのためにも未来を切り開きたい。そのためなら、僕は何だってします」
この世界に転生した時に現実を嫌というほど見せつけられた。ここがボタン一つで切り抜けられる世界でないことも、知っている。村にいる家族たちが、現実で存在する人たちであることも、もちろんわかっている。
だからこそ、私は、私ができる最大限のことをしなければならない。私には何の力もない、あるのは精霊師としての力だけ。この力があっても大きな武力の前には歯が立たない。
「心配だよ。お前みたいな可愛い顔をしたやつはすぐ狙われるから……」
「ん?」
「いいか、ソフィー。知らねぇ奴に声をかけられてもついて行くなよ? 身なりがいい男に声をかけられたら、騎士団所属だって言えよ? それでもうるさいなら、金的だ」
私は、彼の中でどんなイメージなんだ?
「僕、そんなに可愛い顔はしていませんよ。それに田舎者なんて、都会では相手にされませんって」
「いいや、帝都にはヤバい連中がウヨウヨしてる。ソフィーが狙われる!」
うわあああ、と嘆きだした騎士様に、私はどうしようかと思っていると、さっきまで違う場所にいたはずのユーイン様が戻ってきた。ちなみに彼のことは閣下ではなく、ユーイン様と呼ぶことになった。
「どうした、ヨハン」
「閣下!」
ヨハン、と呼ばれた騎士様。そこで私は、そういえばこの人の名前はヨハンだった、なんて思い出した。人の名前って覚えるの大変だね。
「閣下、ソフィーが帝都に行くのは心配であります!」
先ほど私に語った内容をユーイン様に語りだしたヨハンさんに、私は二人の方を見ることができない。絶対、ユーイン様は呆れているだろうし。
「たしかに、ヨハンの言うことは一理あるな。なら、ヨハン。お前も来い」
「へっ?」
「はい?」
どうせ笑うと思っていたら、真面目な顔で頷きだしたユーイン様。雲行きが怪しくなってきたのは気のせいだろうか。絶対笑って流してくれると信じていたのに。
「ヨハンの言う通り、お前の顔は帝都でも目立つ。それなら護衛としてヨハンを連れていけばいい。絡まれて面倒ごとになるよりもいいだろう。いいな、ヨハン」
「はっ! 拝命いたします」
ユーイン様が騎士のトップなのだろう、彼はヨハンさんの行き先を決められる立場。そんな彼が私とともに帝都へ行けと言ったら、ヨハンさんは異動するしかない。私のせいで帝都へ行かされると言っても過言ではないのが、少々心苦しい。
「……ヨハンさん。僕と一緒に行くことになりましたけど、いいんですか、本当に……」
「なぁに、構わないさ。ソフィーの行く先が、俺の行く先だ。なんたって、ソフィーは俺の命の恩人だからな」
「ヨハンさん……僕は、僕にできることをしたんです。それにあれは僕だけの力じゃない、ヨハンさんの生きたいという強い気持ちが、今に繋がったんですから」
ヨハンさんは、私が魔法治療を施した時、瀕死の状況だった。初めて会った時から仲良くしてくれていたけれど、騎士として働いている以上、傷を負うこともある。親しくしてくれた人が死ぬかもしれない、なんて状況になったあの日のことを私はよく覚えている。
ヨハンさんはあの日、必死で生きることを諦めないでいた。どれほどの傷の深さだろうと、諦めてはいなかった。少しでも私の到着が遅れたら手遅れだったのに、彼は私が必ず来る、間に合うと信じてくれた。
だから、私も諦めないで頑張れたのだ。何より、ヨハンさんを死なせたくなかった。ずっと仲良くしてくれた彼を助けられずに死なせるなんて、私にはできなかったから。
0
お気に入りに追加
93
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した
Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
すごく面白いです!!
ソフィアちゃんが隣国でどうなるのか気になります、頑張ってソフィアちゃん!!続き待ってます!