上 下
18 / 24

18

しおりを挟む
 貧富の差が激しく、裕福な家庭でないと学校にも通えない。学校へ通うというステータスのために借金をしてでも通わせたい、そういうことが当たり前だった、私の住んでいた聖マリアン王国。

 同じ大陸にあって、隣国という近しい関係なのに、こんなにも差がある。聖マリアン王国の実情を知っていると、王国に対して苦々しく思うのも仕方がない。何せ、あの国は王侯貴族の腐り具合がすごかった。

 私も貴族の生まれだったけれど、首都へ行けば行くほど、富裕層が目立ち、地方は貧困層が多かった。私の家も貴族とは名ばかりで、首都にいる商人家よりも貧しかったのが現状だ。

「この国は、すごいですね……教育水準は高いし。何よりも、みんなが平等に教育を
受けられるだなんて」

「聖マリアン王国はそうではなかったのですね……」

「はい。あの国は王侯貴族が腐りきっていて、お金持ちが優遇され、貧しい民が苦しむような国でした。貧困層は地方へと追いやられて、一向に豊かになれない。それどころか厳しくなる国税で、生活が厳しくなる家庭も多くありました」

「ユーフェミア様……」

「私は、地方を治める、貴族と言って良いかもわからないほど貧しい、貴族の生まれでした。それでも、一般的な家庭よりは裕福でしたが……」

 修道院で、逃げ回る生活の中で、国の現状を見せつけられた。おじいさんとおばあさんが裕福な人たちであることも、もちろん気づいていた。

「私のいた修道院は、国の管理施設なのに、明日食べるものにも困るような、そんな場所。でも、首都に行けば、同じ修道院でも全然違いました。あの国の歪んだところがよくわかりますよね」

 そして、すべての元凶を私だと声高々に叫び、痛めつけてくる権力者たち。自分たちの生活が苦しいのは私のせいだという言葉に同意する人々。

 あの国に、私の居場所など初めからなかったんだ。どうしてもっと早くに気が付けなかったのか。

「オギさん。私は、この国に連れてきてもらえて幸せです。もう、誰にも嫌われなくて済むから」

 何もしていないのに、存在しているだけで石を投げつけられるような国じゃない。それだけでも嬉しくて。

「でも、私はいい子じゃないから、聖人みたいに何でもかんでも受け入れられるような人間じゃないから……思ってしまうんです。あんな国、無くなってしまえって」

 本当はずっと思っていた。私に優しくない国、私の周囲の人に危害を加えた、許しがたい国。国民が苦しんでいるのを私のせいにして、自分たちの罪を擦り付けてくるような、そんな最低な国なんて、滅びてしまえと。

「ユーフェミア様、誰しも憎い心を持つのは当然です。その感情自体、持つことを悪と決めてしまっては、聖人でも心が死んでしまいますよ」

 オリヴァーと同じようなことを言うオギさんに、少しではあるが心が軽くなる。

「これからは、ここで幸せを取り戻していきましょうね、ユーフェミア様」

「はい、オギさん」

優しく微笑んでくれる彼女の言葉に、私は今度は大きく頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました

市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。 ……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。 それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?! 上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる? このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!! ※小説家になろう様でも投稿しています

大好きだった人には振られましたが、なぜかヤンデレ王太子に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のアリアは、子供の頃からずっと同い年の侯爵令息、カーターの事が大好き。毎日の様に侯爵家に足を運び、カーターに会いに行っていた。その思いは貴族学院に入学してからも変わらない。 カーターが好きなお菓子も上手に作れる様になったし、カーターが刺繍が出来る女の子が好きと言えば、刺繍もマスターした。 でもカーターは中々アリアと婚約を結ぼうとはしない。そんな中、カーターが王女でもある、スカーレットと近々婚約を結ぶと言う話を耳にしたアリア。 大好きなカーターが別の女性と結婚してしまう現実に、大きなショックを受ける。友人や家族の支えもあり、何とか立ち直ろうとしていたアリアの元に、一通の手紙が… その手紙は、王宮で開かれる夜会への招待状だった。何でも今年16歳になる王太子、ワイアットの婚約者を決める為の夜会との事。伯爵以上の婚約者のいない女性は強制参加の様で、仕方なく夜会に参加するアリア。その夜会が、アリアの運命を大きく左右する事になる! 追記 話しが進むにつれ、ワイアットがかなり病んでいきます。ちょっと残酷なシーンも出て来そうなので、R15指定にしました。 よろしくお願いいたしますm(__)m

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

執事が〇〇だなんて聞いてない!

一花八華
恋愛
テンプレ悪役令嬢であるセリーナは、乙女ゲームの舞台から穏便に退場する為、処女を散らそうと決意する。そのお相手に選んだのは能面執事のクラウスで…… ちょっとお馬鹿なお嬢様が、色気だだ漏れな狼執事や、ヤンデレなお義兄様に迫られあわあわするお話。 ※ギャグとシリアスとホラーの混じったラブコメです。寸止め。生殺し。 完結感謝。後日続編投稿予定です。 ※ちょっとえっちな表現を含みますので、苦手な方はお気をつけ下さい。 表紙は、綾切なお先生にいただきました!

見知らぬ男に監禁されています

月鳴
恋愛
悪夢はある日突然訪れた。どこにでもいるような普通の女子大生だった私は、見知らぬ男に攫われ、その日から人生が一転する。 ――どうしてこんなことになったのだろう。その問いに答えるものは誰もいない。 メリバ風味のバッドエンドです。 2023.3.31 ifストーリー追加

処理中です...