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暖かな、花がたくさん咲いている穏やかな場所に、立っている。空気は澄み、蝶や鳥たちも飛んでいる、春を現した素敵な場所。
「ユーフェミア」
「おかあ、さま」
ふと、名前を呼ばれて声のする方へ顔を向けると、そこには母が立っていた。母だけじゃない、父も弟も立っていた。三人とも、穏やかな笑みを浮かべていて、元気そうだ。
「ユーフェミア」
「おじい、さん。それに、おばあ、さん、も」
今度は反対方向から名前を呼ばれて振り返る。そちらにはおじいさんとおばあさんが立っていた。二人とも、あの変わり果てた姿ではない、最後に見た綺麗な姿。
「ユーフェミア姉さま。もう、大丈夫だよ」
弟が、そう言った。迎えに来てくれたのだ、きっと途中まで私と黄泉路を歩いてくれる、そう思った私は彼らに近づく。けれど、彼らは離れてしまった。
「どう、して……」
「まだ、あなたはこちらに来るべきじゃないわ」
「おかあ、さま?」
「ユーフェミア、私たちはあなたと暮らせて幸せだったわ。だから、あなたも幸せにおなりなさい」
「まって、ねえ、まって!」
父と母、弟、おじいさんとおばあさんは私をぎゅっと抱きしめては、一人ずつ消えていく。一人にしないで、私も一緒に、と手を伸ばしても、その手は空を切るばかりで。
「連れて、逝ってくれるんじゃ、なかった、の……」
とても穏やかな空間なのに、そこにいるのは私だけ。いや、地獄に行くであろう私が、最期にみんなに会えたのはきっと奇跡だ。そう思うと、自然と前を向けた。これから私は地獄に行くけれど、みんなが天国に、神様の元へ逝けたのなら、それでいい。
「結局、言えなかった……なぁ……」
最期に会えたのに、私は誰にもお礼を言えなかった。それだけが心残りだ。でも、少し、これから先が怖くないと思える。それは本当に嬉しかった。会えないと思っていたから。
「ユーフェミア、そっちに逝ってはいけないよ」
「オリ、ヴァー……なの?」
暗い空の見える方へ向いて歩き出した時だった。グッと手を引かれて動けない。手を引かれた方を見ると、オリヴァーの面影のある青年、私が最後に見た青年が立っていた。
「君のことを、一日たりとも忘れたことはなかったよ、ユーフェミア」
「ほん、とうに……オリヴァー……なの……?」
「そうだよ、ずっとずっと、君のことを探していた。こんなにも時間がかかってしまって、君に苦しい思いをたくさんさせてしまった」
ごめんね、と謝る彼。なぜ謝るのかわからない、だってこれは仕方のないことなのに。
「ユーフェミア、前に君に言った言葉を覚えてる?」
「それって」
「うん、迎えに来たよ。一緒に帰ろう」
「わたし、は……」
「気づいているだろうけど、ここは狭間の世界。あちらへ逝けば、もう戻っては来られない。俺はね、君と一緒に生きていきたい」
まっすぐに向けられる視線、それはとても優しいものでありながらも、真剣だった。
「オリヴァー、私は……」
「大丈夫、君の心配をするようなことは何一つ起こらないから。これからは、ずっと俺が側にいるから。だから、信じて」
彼の言う通り、私はここが死後の世界の直前、いわゆる三途の川の直前であることは気づいていた。そしてそれと同時に、私に愛をくれた家族もおじいさんとおばあさんも亡くなってしまっていることにも。結局、私は守れなかったのだ。
「君を傷つけるようなことには、絶対にならない」
黙りこくっている私に、再度、彼は信じて、と言う。生きて、何になるのだろうか。その思いが私に絡みついている。
「いきて、なにになるの」
みんな、ころして、わたしだけが。わたしだけがいきのこって。
「ユーフェミア」
「おかあ、さま」
ふと、名前を呼ばれて声のする方へ顔を向けると、そこには母が立っていた。母だけじゃない、父も弟も立っていた。三人とも、穏やかな笑みを浮かべていて、元気そうだ。
「ユーフェミア」
「おじい、さん。それに、おばあ、さん、も」
今度は反対方向から名前を呼ばれて振り返る。そちらにはおじいさんとおばあさんが立っていた。二人とも、あの変わり果てた姿ではない、最後に見た綺麗な姿。
「ユーフェミア姉さま。もう、大丈夫だよ」
弟が、そう言った。迎えに来てくれたのだ、きっと途中まで私と黄泉路を歩いてくれる、そう思った私は彼らに近づく。けれど、彼らは離れてしまった。
「どう、して……」
「まだ、あなたはこちらに来るべきじゃないわ」
「おかあ、さま?」
「ユーフェミア、私たちはあなたと暮らせて幸せだったわ。だから、あなたも幸せにおなりなさい」
「まって、ねえ、まって!」
父と母、弟、おじいさんとおばあさんは私をぎゅっと抱きしめては、一人ずつ消えていく。一人にしないで、私も一緒に、と手を伸ばしても、その手は空を切るばかりで。
「連れて、逝ってくれるんじゃ、なかった、の……」
とても穏やかな空間なのに、そこにいるのは私だけ。いや、地獄に行くであろう私が、最期にみんなに会えたのはきっと奇跡だ。そう思うと、自然と前を向けた。これから私は地獄に行くけれど、みんなが天国に、神様の元へ逝けたのなら、それでいい。
「結局、言えなかった……なぁ……」
最期に会えたのに、私は誰にもお礼を言えなかった。それだけが心残りだ。でも、少し、これから先が怖くないと思える。それは本当に嬉しかった。会えないと思っていたから。
「ユーフェミア、そっちに逝ってはいけないよ」
「オリ、ヴァー……なの?」
暗い空の見える方へ向いて歩き出した時だった。グッと手を引かれて動けない。手を引かれた方を見ると、オリヴァーの面影のある青年、私が最後に見た青年が立っていた。
「君のことを、一日たりとも忘れたことはなかったよ、ユーフェミア」
「ほん、とうに……オリヴァー……なの……?」
「そうだよ、ずっとずっと、君のことを探していた。こんなにも時間がかかってしまって、君に苦しい思いをたくさんさせてしまった」
ごめんね、と謝る彼。なぜ謝るのかわからない、だってこれは仕方のないことなのに。
「ユーフェミア、前に君に言った言葉を覚えてる?」
「それって」
「うん、迎えに来たよ。一緒に帰ろう」
「わたし、は……」
「気づいているだろうけど、ここは狭間の世界。あちらへ逝けば、もう戻っては来られない。俺はね、君と一緒に生きていきたい」
まっすぐに向けられる視線、それはとても優しいものでありながらも、真剣だった。
「オリヴァー、私は……」
「大丈夫、君の心配をするようなことは何一つ起こらないから。これからは、ずっと俺が側にいるから。だから、信じて」
彼の言う通り、私はここが死後の世界の直前、いわゆる三途の川の直前であることは気づいていた。そしてそれと同時に、私に愛をくれた家族もおじいさんとおばあさんも亡くなってしまっていることにも。結局、私は守れなかったのだ。
「君を傷つけるようなことには、絶対にならない」
黙りこくっている私に、再度、彼は信じて、と言う。生きて、何になるのだろうか。その思いが私に絡みついている。
「いきて、なにになるの」
みんな、ころして、わたしだけが。わたしだけがいきのこって。
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