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夜の忌み子の、彼女の人生、それは本当に可哀そうで。夜の忌み子を産んだ、そして隠した、たったそれだけで、彼女を最期まで愛した家族は目の前で惨殺された。まだ幼い彼女の弟もその対象。そして彼女は国に囚われ、何かが起こるたびにすべてが彼女の罪となり。その罪を償えと独房生活、最期は処刑された。死後、彼女の身体から災厄が生まれ、国を災厄まみれにして、国は滅亡に迫られた。しかしその災厄をゲームのヒロインであるアポカリプスの聖女が祓い、国は安寧を取り戻す。結局、災厄を振りまいたとして、死んだ後も悪女として責められ続けたのだ。
誰からも、死んでしまってもその存在を否定され続ける。それが、公式設定集で明かされた夜の忌み子の人生。あまりにも酷いと、その時は他人事で悲しんだ。だって、あくまでも物語の話だから。
「もしも、もしもお父さまもお母さまも弟も、私のことを守ろうとするなら、愛してくれるなら、私は絶対この家から出ないといけない……」
この身体には、前世を思い出す前の【わたし】の記憶もある。とても両親は愛してくれたし、弟もお姉ちゃんと、私を呼び慕ってくれていた。
「みんなが、私を捨ててくれるなら、きっとまだ……」
希望がある、捨てられる方が、私の家族が生きのびる希望がある。だけど、時間がない。あの神官が国に私の存在を報告すれば、すぐにでもここに兵士が派遣される。そうなれば、助けるどころではない、一家皆殺しだ。
「どう、すればいい? 考えろ、考えるのよ、ユーフェミア」
頭をフル回転させて、前世の記憶を頼りに考える。一つ、思いついたのはイチかバチかの賭けではあるものの、家族も私も生き延びられそうな方法。
「ユ、ユーフェミア……」
控えめなノックの後、部屋にやってきたのは酷く怯えた表情の両親。ナイスタイミングでやってきた二人に、私は言うことを決めた。何せ、時間がないので。
「お父さま、お母さま、ここまで私を愛して育ててくださったこと、本当に感謝しています。私は、ここを出ていくことにします。おそらく、明日にでも兵士が来るでしょう、その時に私を焼き殺したと伝えてください。そうすれば、きっと、少しは騙せます」
「ダメよっ! そんな、あなたを殺すだなんて!」
母が、涙を流した。父も痛ましい表情だ。
「私は、このリディクス家で生まれ育つことができて、本当に幸せです」
だから、生きていてください。
私が存在していたことを、忘れてください。
私は、遠くからずっと、お父さまたちの事、愛してるから。
言おうとした言葉は、口から出ていくことはなかった。言いたいことがたくさんある、でもこれ以上言えば、離れがたくなる。だから、もう振り返らない。
別れもそこそこに、私が向かったのは修道院だった。口減らしに子どもが連れてこられることも、子どもが自分で行かされることもあるから。私が一人で修道院に行っても怪しまれない。修道院は教会とは違って、一応は働き手になる子どもを受け入れてくれるから。
「ユーフェミア、ね。寒かったでしょう、お入りなさい」
町はずれの小高い丘にある、寂れた修道院。一日かけて歩き、辿り着いた私は予想通り、迎え入れてもらえた。すぐにボロボロになっていた服は質素だが強い生地の服に
着替えさせてもらい、修道院内を案内されることとなった。
「ここが食堂、あっちの扉が祈りをささげるお堂よ。それから、あなたの部屋はこっちね」
院長にほかの子どもたちを紹介され、そのままご飯も一緒に食べた。しかし、小さな修道院、新参者には厳しいらしく、子どもは誰も話しかけて来ない。
誰からも、死んでしまってもその存在を否定され続ける。それが、公式設定集で明かされた夜の忌み子の人生。あまりにも酷いと、その時は他人事で悲しんだ。だって、あくまでも物語の話だから。
「もしも、もしもお父さまもお母さまも弟も、私のことを守ろうとするなら、愛してくれるなら、私は絶対この家から出ないといけない……」
この身体には、前世を思い出す前の【わたし】の記憶もある。とても両親は愛してくれたし、弟もお姉ちゃんと、私を呼び慕ってくれていた。
「みんなが、私を捨ててくれるなら、きっとまだ……」
希望がある、捨てられる方が、私の家族が生きのびる希望がある。だけど、時間がない。あの神官が国に私の存在を報告すれば、すぐにでもここに兵士が派遣される。そうなれば、助けるどころではない、一家皆殺しだ。
「どう、すればいい? 考えろ、考えるのよ、ユーフェミア」
頭をフル回転させて、前世の記憶を頼りに考える。一つ、思いついたのはイチかバチかの賭けではあるものの、家族も私も生き延びられそうな方法。
「ユ、ユーフェミア……」
控えめなノックの後、部屋にやってきたのは酷く怯えた表情の両親。ナイスタイミングでやってきた二人に、私は言うことを決めた。何せ、時間がないので。
「お父さま、お母さま、ここまで私を愛して育ててくださったこと、本当に感謝しています。私は、ここを出ていくことにします。おそらく、明日にでも兵士が来るでしょう、その時に私を焼き殺したと伝えてください。そうすれば、きっと、少しは騙せます」
「ダメよっ! そんな、あなたを殺すだなんて!」
母が、涙を流した。父も痛ましい表情だ。
「私は、このリディクス家で生まれ育つことができて、本当に幸せです」
だから、生きていてください。
私が存在していたことを、忘れてください。
私は、遠くからずっと、お父さまたちの事、愛してるから。
言おうとした言葉は、口から出ていくことはなかった。言いたいことがたくさんある、でもこれ以上言えば、離れがたくなる。だから、もう振り返らない。
別れもそこそこに、私が向かったのは修道院だった。口減らしに子どもが連れてこられることも、子どもが自分で行かされることもあるから。私が一人で修道院に行っても怪しまれない。修道院は教会とは違って、一応は働き手になる子どもを受け入れてくれるから。
「ユーフェミア、ね。寒かったでしょう、お入りなさい」
町はずれの小高い丘にある、寂れた修道院。一日かけて歩き、辿り着いた私は予想通り、迎え入れてもらえた。すぐにボロボロになっていた服は質素だが強い生地の服に
着替えさせてもらい、修道院内を案内されることとなった。
「ここが食堂、あっちの扉が祈りをささげるお堂よ。それから、あなたの部屋はこっちね」
院長にほかの子どもたちを紹介され、そのままご飯も一緒に食べた。しかし、小さな修道院、新参者には厳しいらしく、子どもは誰も話しかけて来ない。
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