上 下
2 / 24

02

しおりを挟む
 夜の忌み子の、彼女の人生、それは本当に可哀そうで。夜の忌み子を産んだ、そして隠した、たったそれだけで、彼女を最期まで愛した家族は目の前で惨殺された。まだ幼い彼女の弟もその対象。そして彼女は国に囚われ、何かが起こるたびにすべてが彼女の罪となり。その罪を償えと独房生活、最期は処刑された。死後、彼女の身体から災厄が生まれ、国を災厄まみれにして、国は滅亡に迫られた。しかしその災厄をゲームのヒロインであるアポカリプスの聖女が祓い、国は安寧を取り戻す。結局、災厄を振りまいたとして、死んだ後も悪女として責められ続けたのだ。

 誰からも、死んでしまってもその存在を否定され続ける。それが、公式設定集で明かされた夜の忌み子の人生。あまりにも酷いと、その時は他人事で悲しんだ。だって、あくまでも物語の話だから。

「もしも、もしもお父さまもお母さまも弟も、私のことを守ろうとするなら、愛してくれるなら、私は絶対この家から出ないといけない……」

この身体には、前世を思い出す前の【わたし】の記憶もある。とても両親は愛してくれたし、弟もお姉ちゃんと、私を呼び慕ってくれていた。

「みんなが、私を捨ててくれるなら、きっとまだ……」

希望がある、捨てられる方が、私の家族が生きのびる希望がある。だけど、時間がない。あの神官が国に私の存在を報告すれば、すぐにでもここに兵士が派遣される。そうなれば、助けるどころではない、一家皆殺しだ。

「どう、すればいい? 考えろ、考えるのよ、ユーフェミア」

頭をフル回転させて、前世の記憶を頼りに考える。一つ、思いついたのはイチかバチかの賭けではあるものの、家族も私も生き延びられそうな方法。

「ユ、ユーフェミア……」

控えめなノックの後、部屋にやってきたのは酷く怯えた表情の両親。ナイスタイミングでやってきた二人に、私は言うことを決めた。何せ、時間がないので。

「お父さま、お母さま、ここまで私を愛して育ててくださったこと、本当に感謝しています。私は、ここを出ていくことにします。おそらく、明日にでも兵士が来るでしょう、その時に私を焼き殺したと伝えてください。そうすれば、きっと、少しは騙せます」

「ダメよっ! そんな、あなたを殺すだなんて!」

 母が、涙を流した。父も痛ましい表情だ。

「私は、このリディクス家で生まれ育つことができて、本当に幸せです」

だから、生きていてください。
私が存在していたことを、忘れてください。
私は、遠くからずっと、お父さまたちの事、愛してるから。

言おうとした言葉は、口から出ていくことはなかった。言いたいことがたくさんある、でもこれ以上言えば、離れがたくなる。だから、もう振り返らない。




 別れもそこそこに、私が向かったのは修道院だった。口減らしに子どもが連れてこられることも、子どもが自分で行かされることもあるから。私が一人で修道院に行っても怪しまれない。修道院は教会とは違って、一応は働き手になる子どもを受け入れてくれるから。

「ユーフェミア、ね。寒かったでしょう、お入りなさい」

町はずれの小高い丘にある、寂れた修道院。一日かけて歩き、辿り着いた私は予想通り、迎え入れてもらえた。すぐにボロボロになっていた服は質素だが強い生地の服に
着替えさせてもらい、修道院内を案内されることとなった。

「ここが食堂、あっちの扉が祈りをささげるお堂よ。それから、あなたの部屋はこっちね」

 院長にほかの子どもたちを紹介され、そのままご飯も一緒に食べた。しかし、小さな修道院、新参者には厳しいらしく、子どもは誰も話しかけて来ない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

宇宙航海士育成学校日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 第四次世界大戦集結から40年、月周回軌道から出発し一年間の実習航海に出発した一隻の宇宙船があった。  その宇宙船は宇宙航海士を育成するもので、生徒たちは自主的に計画するものであった。  しかも、生徒の中に監視と採点を行うロボットが潜入していた。その事は知らされていたが生徒たちは気づく事は出来なかった。なぜなら生徒全員も宇宙服いやロボットの姿であったためだ。  誰が人間で誰がロボットなのか分からなくなったコミュニティーに起きる珍道中物語である。

【短編集】人間がロボットになるのも悪くないかも?

ジャン・幸田
大衆娯楽
 人間を改造すればサイボーグになる作品とは違い、人間が機械服を着たり機械の中に閉じ込められることで、人間扱いされなくなる物語の作品集です。

俺が王子でお前の嫁とは認めない!

竜鳴躍
BL
正体不明、世界最強の仮面の冒険者 アイビー。彼は孤児で、男性しかいないこの世界では子を産む側の個体である。少年の頃から大人の振りをしてモンスターを狩りまくり、名の知れた冒険者になった。彼は孤児院で暮らし、院長の手伝いをしながら狩で生計を立てるため、正体を隠して今日も血に塗れる。冒険者の仮面の下は、見目美しく、年齢より幼く見える可憐な容姿。誰もが『仮面の冒険者の正体』だとは夢にも思わない…。ある日、お城から王子様が慰問に訪れ、アイビーを連れて行ってしまう。お世話になった孤児院のために従うアイビー。その日から王子によるアイビーの軟禁が始まった。アイビーは前王の遺児で、王子クリストファの婚約者だったのだ。

全てを諦めた男爵令嬢は星に願う

As-me.com
恋愛
『あぁ、もう。見てらんねぇな』 学園では理不尽なイジメを受け、さらには婚約者の裏切りを目の当たりにしたショックのあまり、眩い流星群が夜空を駆け巡るその夜に私は全てを諦めて毒を飲んだ。 だが、意識が遠のく私に……誰かがそう呟いたのだ。 そして流星群は、私の願いを叶えてくれたのだった。

【恋愛】目覚めたら何故か騎士団長の腕の中でした。まさかの異世界トリップのようです?

梅花
恋愛
日下美南(くさかみなみ)はある日、ひょんなことから異世界へとトリップしてしまう。 そして降り立ったのは異世界だったが、まさかの騎士団長ベルゴッドの腕の中。 何で!? しかも、何を思ったのか盛大な勘違いをされてしまって、ベルゴッドに囲われ花嫁に? 堅物騎士団長と恋愛経験皆無の喪女のラブロマンス?

平凡なる側室は陛下の愛は求めていない

かぐや
恋愛
小国の王女と帝国の主上との結婚式は恙なく終わり、王女は側室として後宮に住まうことになった。 そこで帝は言う。「俺に愛を求めるな」と。 だが側室は自他共に認める平凡で、はなからそんなものは求めていない。 側室が求めているのは、自由と安然のみであった。 そんな側室が周囲を巻き込んで自分の自由を求め、その過程でうっかり陛下にも溺愛されるお話。

聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思うので、第二の人生を始めたい! P.S.逆ハーがついてきました。

三月べに
恋愛
 聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思う。だって、高校時代まで若返っているのだもの。  帰れないだって? じゃあ、このまま第二の人生スタートしよう!  衣食住を確保してもらっている城で、魔法の勉強をしていたら、あらら?  何故、逆ハーが出来上がったの?

処理中です...