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 わたしが、私だと認識したのは十の時だった。家格は底辺でも財力はあった、それなりに裕福な貴族の生まれ。そんな【わたし】は何不自由なく、両親にもたくさん愛されて育ったわけなのだが。十歳を迎えた日、いわゆる前世というものを思い出した。それも、とある一言によって。

「ユーフェミア様。私たちには、一人ひとりに神より与えられた天賦の才があります。私はあなた様の天賦の才を発現させるために、参りました。どうぞよろしくお願いいたします」

「天賦の才……」

「私の天賦の才は、他者の天賦の才を目覚めさせることのできる、神の頭脳と呼ばれるものです。この才を使用するにあたって、専用の言葉を言わなければなりません。では、始めます」

「は、はい……」

 ロクな説明もされぬままに、儀式のような何かが始まった。目の前にいる神官が口を開いた。

〝我は神より与えられし頭脳を持つ者なり、我に知らぬことも知れぬこともなし、かの者の才を我に映し出せ〟

 フワッと眩い光が目の前の神官から放たれ、【わたし】を覆った。その瞬間、思い出した。この世界が、乙女ゲーム「アポカリプスの聖女」で、一人ひとりに天賦の才が与えられた、いわゆる超能力社会であることを。

前世では立派な企業戦士だった私は、偶然にもそのゲームを発見。ちょっと痛いタイトルだったが、絵師さんも声優陣も豪華、さらに言えば制作会社も豪華、逆にこの痛いタイトルがよく見えて購入。結果、ドはまりしたのだ。

「ユ、ユーフェミア様……。あ、あなたの、あなた様の天賦の才、は……」
急に怯えだし、言葉を詰まらせた神官に、嫌な予感がする。

【夜の忌み子】

ふり絞られた声、やっとの思いで聞き取ったその言葉は、私の身体を縛るかのように絡みついてきた。私の知っている「アポカリプスの聖女」の設定では、ヒロインであるクリスティナ・アドコックという侯爵家に生まれた妾の少女と攻略対象者の恋愛ものだ。ちなみにお助けキャラ的立ち位置にいる、公爵家の末娘もいる。

 そもそも、アポカリプスの聖女というゲームタイトルはそのままヒロインの天賦の才であり、神に一番愛された子、という意味である。その才を持った子を家に迎え入れた場合、その家は末代まで繫栄すると言われ、国を挙げて捜索されるほどの、天賦の才。

 残念ながら、私はお助けキャラでもヒロインでもない。ゲームには出てくることのなかった、ただのモブ。

「夜の忌み子とは、いったいどういう、能力なのでしょうか……?」

「わ、私の口から詳しいことは言えません! 呪われる!」

神官は大きな音を立てて、部屋を出ていった。前世ではドはまりしたゲーム、もちろん設定資料集も、なんならファンディスクなど、ありとあらゆるものを集めた。鮮明に思い出せる、前世の記憶。その記憶を必死で思い出しても、夜の忌み子と呼ばれたキャラがどんな顔だったのかわからない。そもそも、どこにもそのキャラは出ていなかった。

 ただ一つ、今の段階で言えるのは、これから先の私の人生が凄惨なものになることだけ。夜の忌み子はどのメディアにも出ていなかったけど、その人生だけは公式から出ていた。

私は、その時に思ったことを今でも思い出せる。ただ、可哀そうと思ったこと、この子も幸せになればいいのに、そう思った。完全に他人事だった。

「たしか、公式設定集では……このまま家にいればお父さまもお母さまも、弟も……殺されてしまう。そうでなくても、私が国に捕まれば……間違いなく、死ぬ……」

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