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25 出会い、再び

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英語の部分や電話での会話部分は『』これで表記しています。

薫乃の英語部分での会話は通常通り「」この表記です。





 『あなたは天才よ、どんな楽器もあなたの手にかかればすばらしい音楽となるわ』

初めて会った時に、そう言ってくれた先生と出会って数か月がたった。すなわち、私が日本を離れて数か月たったということ、そんなある日のことだった。

『今日は会わせたい子がいるのよ』

先生が連れて来た人は、良く知っている人だった。

「渡里湊です、よろしく」

そう、お色気担当で攻略が一番難しい一つ年上の攻略対象者。瑠香からも高校に入っても会わないと聞いていたけれど、まさか海外にいるなんて思わなかった。しかも原作のゲームでは音楽をしていたということも海外留学していたということも一切なかったはずだ。

「三宮薫乃です、よろしくお願いします」

同じ先生に習っているということもあって、それなりに私たちは会話をするようになった。







 『そうよ、そこは大きくそれでいて壮大に!!』

今日も先生とマンツーマンレッスンだ。先生はピアノが専門で、他の楽器は先生のお知り合いのまた違う先生に習うようになった。選びきれなかったこともあったが、藤堂夫人が三つできるとバラしてしまったこともあり、贅沢にも三つも習うようになってしまったのだ。本当に贅沢の極みだ。

『そこ、甘いわ。もっとガツンといかなきゃ』

先生はフィーリングで教えてくれるからなのか、擬音語が多い。その感覚はなんとなくではあるが私にもわかっていたので、わからないなんてことにならなくてよかったと思った。

『今日はもうおしまいよ、ゆっくり休みなさい』

「ありがとうございました」

寮としても、練習場としてもピアノの先生は家の空き部屋を提供してくれた。本当に何もかもが贅沢すぎるくらいだ。





「あ、瑠香?そっちは朝かな?」

『おはよう、薫乃。朝だよ、そっちは?』

他愛無い話をして、最近の華乃の様子を聞く。家族との連絡はほとんど取れていなかったから瑠香の情報だけが頼りだ。

「その、華乃とかの様子はどう?」

『トラップは依然として藤堂さんに仕掛けられてるけど、不発ばかりね。色仕掛けを中心にしてるみたいだけど会わないから不発、それ以外にも家の用事とかで会う機会もあるみたいなんだけど、藤堂さん本人が不在だから不発』

どうやら避けまくっているらしい藤堂さん。他の人には目もくれず一直線らしい華乃。

『なんというかね、ゲームでは色仕掛けなんてなかったじゃない?華乃って手段を択ばないのね、現実では』

「そうだね、なんていうか、一直線だよね」

良くも悪くも藤堂さんしか目に入っていない。周りがどうなろうとも構わない、そんなところがある。

『気をつけなさい、薫乃の家の事情に関しては私は知ることができないから。薫乃、あなたが連絡してそれとなく情報収集しなさい』

「うん、わかってる。ありがとう」

名残惜しいけれど電話を切って、すぐに練習に戻る。何度か家に電話を掛けたことがあったけれど、適当に切られてしまって掛ける勇気が持てない。お母さんにもお父さんにも掛けたのにどちらも忙しいと言って切られた。その奥で楽しげな華乃の声が聞こえていたけれどね。いつだって私だけがそこにいない。







 『今日はコンクール用に曲を練習しましょう』

先生にそう言われて、何にするのかを話し合う。結局音大にも行かずに直接先生の下で指導を受けている。バイオリンやフルートも同じくだ。

「はい、先生。私これが…」

もう手は小さめだけれど小学生の時よりは大きくなって、届かなかったところも無理なく弾けるようになった。だから私はリストの「ラ・カンパネラ」を選んだ。昔から好きだった曲だ。いつか完全に弾けるようになるのを楽しみしていた。ショパンの幻想即興曲とも迷ったけれど、昔から弾いてきていたから今回は少し変えようと思って変えた。

『あら、あなたには簡単かと思っていたけれど…。そうね気持ちを込めて弾いていきましょう』





私はピアノへと向かい合った。寂しい気持ちを消すように。


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