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「おひいさん、下がれ!!」

「えっ?」

古書店から出てすぐの路地裏に入った時だった。鋭いセシルの声と同時に、私は腕を引っ張られてセシルの背に庇われた。鉢植えが落ちてきたときよりも、ずっと尖った雰囲気を感じる。

「久しぶりじゃねぇか、セシル」

「俺はお前に会いたくはなかった」

「そんなこと言うなよ、俺はお前に会えてうれしいぜ?」

「どの口がそんなことを」

 セシルの背に庇われてほとんどわからないけれど、男の人の声がする。セシルはその人に会いたくなかったようだ。会話には入れないので聞くだけになってしまうが、セシルの過去を知るきっかけにはなるかもしれないな、なんて、場違いにも思ってしまう。

「なぁ、セシル。戻って来いよ、俺たちのギルドに。お前の殺しの技術が必要なんだ。それに、所詮、黒い場所で生きてきた俺たちがいきなり普通に生きるなんざ無理な話だ」

「でも、俺は戻らない」

「ずいぶんと甘ったれちまったんだなァ? 人を殺して飯を食ってきたお前に、人を殺さずに生きていけるのか? 人殺しはなァ、人殺しでしかねぇんだよ」

「…………」

交わされるセシルと、昔の知り合いであろう男性の会話。セシルはずっと前を見据えて、おそらく前に立っているであろう男性をまっすぐに見つめているようだ。男性が放った、人殺しは人殺しでしかない、その言葉は私に深く突き刺さった。だって、それを言うってことは、セシルも過去に人を殺していることになる。

「お前は、いずれ、人殺しになる。俺たちのもとに帰ってくるんだ」

「俺は、絶対に帰らない」

 話は終わったのか、セシルは帰らない、と言ってから一言も話さない。男性は、もういないようなので、セシルの腕を引っ張る。

「セシル」

「帰ろうか、おひいさん」

名前を呼べば動き出したセシル、だけど私の顔なんて一切見なかった。迎えに来た馬車に乗り込んでも、お互いに一言も発することはなく、先ほどの会話にも触れられることはなかった。

 王宮へ帰りついても、セシルは一言もしゃべることはなく、伺い見た表情は無だった。なんだかそのままセシルが消えてしまいそうで怖い。私にとって、セシルは大きな存在。このままいなくなってしまうなんて絶対嫌だ。

「セシル、私の部屋に、来て」

「…………わかった」

最初に部屋に来て、と言っても無視して去ろうとするセシル。それでも腕をつかんで引き留めて言えば、渋々と言った感じで部屋に来ることを了承した。

「セシル、わたしは」

「おひいさんは、俺が人殺しだと知ってどうする?」

「なに、を」

「俺を、アンタは突き放したほうがいい。だって、所詮は人殺しだ。人の命を奪って自分の命を長らえさせてきたんだ。そんな汚い人間をおひいさん、いや、アイリーン王女殿下の側にはおいてはいけない」
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