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 迎えに来た馬車内、セシルと私は無言だった。セシルは馬車に乗ってからも王宮内の私の部屋に入るまでずっと、終始怖い顔をして警戒を続けていて。

「アイリーン様、お加減は……?」

「うん、大丈夫よ」

「ですが……」

「大丈夫……」

「わかりました。何かありましたら、お呼びください」

鉢植えが落ちてきたことをレイラは誰かに教えられたようで、知っていた。それを慮って一人にしてくれた。それがひどく、今は嬉しかった。だって、そうじゃないと当たり散らしそうになるから。

「……なんにも……、できないのに!!」

 魔法は使えない。未来視だって持っているのか持っていないのかわからない。私なんて、いたっていなくたってどうでもいいような気がする。未来視が本当にあるのなら、さっきの鉢植えの件だって予知できるはずだ。

「なんで、肝心な時に……」

大事な時に使えないなんて、そんなの持っていたって何の意味もない。いつだって、使える状態でなければならないというのに。

「おひいさん、考えるなって言ったよな」

「セ、シル……」

一人、ベッドに腰かけて悔やんでいた時だった。セシルが、音もなく私の側にやってきた。ドアの開く音がしなかったから、どこか隠し通路のようなところから来たのだろう。

「おひいさんは、何も悪くない。どうせ、予知ができていたらとか考えているんだろうけど……。そんなの普通はできなくて当たり前だ。それにおひいさんが予知能力を持っていると周囲に知られたらどうなるかはわからない」

「それは……」

「主様はおひいさんを大切に思っている。おひいさんが、何かに狙われるのを、恐れているんだよ」

「そんなの、嘘よ……。私なんて、何の役にも立てない……。未来視だって、持っているのかさえも分からない……。ううん、嘘つきは、私のほうね……」

 私は、嘘つきだ。未来視を持っているかもしれない、なんて嘘をついている。持っている可能性なんて、ほぼゼロに等しいというのに。魔法が使えない王女として、父に恥をかかせているのに、何の役にも立てないなんて。

「おひいさん!!」

「だって、そうじゃない!! どれだけ自分を改善しても!! 魔法が使えないというだけで!! 父に恥をかかせているのに!! 役に立つ何かがなければ邪魔ものよ!!」

苛立ちのままに言葉をセシルにぶつけた。日々、聞こえる声。態度を改善しても魔法が使えなければ意味はないと言う。あれで魔法が使えたら役に立ったのに、なんて聞こえたこともある。特に、レイラがいなかった間は酷かった。

「そんなことないって言える? 頑張っているなんて思える? 頑張っていたら今頃魔法だって使えるようになってる!!」

セシルに言うべきではないと分かっていても、当たってしまう。苦しいと一度認めてしまえば、それはもう出ていくだけだ。

「おひいさん、ずっと一人で頑張ってたんだな」

「上辺だけの言葉なんて、かけられても今更よ」

「いや、上辺だけの言葉なんかじゃない。おひいさんの頑張りは、側で見てきた俺にはわかる。今まで正当な評価を得ていると思い込んでいた俺の落ち度だ。これからは、おひいさんに一番に伝えるよ。アンタが頑張っているって、すごいって」

 顔なんて見られなくて、俯いたままに拳を膝の上で握りしめる。すると、セシルは私の頬を両手で包み込んで無理やりあげさせ、目を合わせた。

「ほら、言っただろ。おひいさんのキャパは超えてるって」

ベッドに腰かけたままだった私を、セシルは優しく抱きしめてくれた。いけないと、わかっていながら私は彼に縋り付いてしまった。

「ごめん、なさい……」

「おひいさんは頑張りすぎてるくらい、頑張ってるんだ。ちょっとくらい、息を抜いたってかまわないんだ」

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