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 医師の診察を待つ間、そうしてずっと話を聞いた。かなりストレスをため込んでいたようで、三人とも泣いていた。泣いているということは、この三人は双子の味方なのだろうと断定できる。うまくいけば、こちらに引き込んであの子たちの味方をもっと作ってあげられるかもしれない。

「アイリーン王女殿下、お話を少し」

「はい、今行きます」

頃合いを見計らってか、医師がこちらにやってきた。

「どうでしょうか」

「栄養状態があまり……」

傷跡は幸いにして残るようなものはないと、詳しく説明をしてくれた。そのことを父に説明するように要請もする。医師の診察があれば父もさすがに動くはずだ。

「失礼いたします。アイリーン王女殿下、陛下がお呼びです」

「わかりました、すぐに」

 そうして少し医師と話をしていると、父の側仕えをしている侍従が呼びに来た。どうやら、あの近衛騎士は私の命令通りに書類を渡したよう。もしかしたら渡してもらえないかも、と心配していたけどそれは杞憂だった。

 それからは、こちらが驚くほどスムーズに事を運ぶことができた。私だけがやきもきしていただけで、本当は父にちゃんとこの件は別口で伝わっていたらしく、私の出る幕はなかったようにも感じる。しかし父はそれでも私を褒めてくれた。今までなら絶対になかったことだ。

「アイリーンよ、もう一つお前には任せたい公務がある」

「はい、陛下」

 父に任された新たな公務、外交に関することが増やされた。外交と言っても他国からの輸入品などを管理することだけれど。それだけだとしても、国内の状況なども管理しないといけないので、意外と難しい公務だ。

「さがってよい」

「はい」

父とはしばらく話をしたが、相変わらず読めない方だ。私のことを信用はしているのだろう、娘として愛してくれているのだろう、それはわかっている。だけど、どこか不審に思ってしまうのだ。私は本当に父の期待通りに動けているのだろうかと。

「疑うなんて、しちゃいけないわね」

父が信用してくれているのだったら、私はその信用を裏切らないように動くだけだ。父の決定に異を唱えないのと同じことをすればいい。父が私の命を握っているようなもの。私が国の役に立てないと判断されたその瞬間に殺されたっておかしくはない。

「アイリーン王女殿下、また事後報告書類が届くかと思いますので、そちらに署名をよろしくお願いいたします」

「わかりました、確認をしておきます」

 父の部屋を退室し、私は双子たちの待っている部屋に帰った。正直、事後報告はありがたい。今後、この王宮内の派閥がどう動くか関係してくると思っているから、報告書類があるのは本当にありがたい限り。王妃様がどうなろうが、本心としては知ったこっちゃない。だけど、あの子たちにとっては大切な母親だ。いつか大人になった時に知りたいと思う日が来るかもしれない。


「あねうえさま!!」

「おねえさま!!」

 ここにいると案内された先で、侍女にお茶を用意してもらってのびのびと遊ぶ双子を見つけた。あちらも私を見つけたようで、嬉しそうに寄ってくる。駆け寄ってこないあたり、厳しいマナー教育を受けているのだと感じた。

 侍女と近衛騎士たちには今後の双子の扱いを軽く伝えて、そのまま側仕えとして側にいるようにとも伝える。詳しい聴取があることも忘れずに伝えておいた。三人は、双子に何もできなかったと、側仕えの資格はないと言うけれど、私からすればあの二人を守った立役者だ。彼女たちこそが側仕えにふさわしい。

「また、この子たちを頼みます」

「はい!!」

「必ずや、お守りします!!」

「この身に代えても、必ず!!」

侍女たちに双子のことを任せて私は授業に行くことにした。授業には間に合っているけれど、お昼ご飯を食べる余裕はない。今から支度をノソノソとされるくらいなら食べないほうがましだ。

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