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「アイリーン、近頃のお前の話を聞いた」

「はい、お父さま」

 ちくちくした胃の痛みを我慢し、緊張でガタガタと震えそうな身体を叱咤して父親を見つめる。夢で見た父親の顔が思いのほかトラウマになっているらしく、ちょっと怖い。

「お前をそこまで変えた理由、一体なんだ」

「……わたしは、夢を見ました。恐ろしい、夢でした」

「夢……?」

「おとなの、わたしです。おとなになったわたしは、たくさんのひとにひどいことをしました。その罰を受けたわたしの、恐ろしい最期……、を……、見たのです」

訝しげにこちらを見る父に、正直に夢で見たことを伝えた。さすがに詳しくは言えなかったけれど、最期、と言ったことから大体は察したらしい。

「そうか。アイリーンよ、私は今までのそなたに期待などしてはいなかった。だが、自身の行いを悔いて身を改めたお前には、期待をしている。もう下がってよい」

「は、はいっ」

 先生方やいろんな人の話を聞くであろう父は、私が年齢の割に難しいことを理解していると分かっているのだろう。あえて私に少し難しい言葉づかいで話を振った。そして、期待していると言ってくれた。胃はとても痛かったけど、期待しているという言葉は嬉しかった。


穏やかな表情の、執務室に一緒にいた宰相閣下に見送られながら私は父の執務室を退室し、迎えに来たレイラと護衛の近衛騎士と一緒に廊下を歩いた。もっと頑張ろうと思った私は、今まではしていなかった護身術を習うことにした。


 護身術を習う許可を父よりもらった私は、近衛騎士の中でも、次期近衛騎士団長との声が名高いロイドさんにコーチをしてもらうことになった。しかし運動など無縁だった生活に加えて、まだ身体も成長途中であることから、体力づくりを行うと彼は言った。

「アイリーン様、体力づくりをまずは行います。」

護身術を習う時間になればある程度の体力が付くまで、ひたすら身体に負荷をかけすぎない程度に走り、筋力トレーニングを行い……、としているうちに身体に変化があった。それは体形がスリムになったことだ。運動を嫌ってお菓子などの甘い物やお肉などを好んで食べていたころは、明らかにそれは食生活の問題で太っていると言わざるを得ない体形だった。


 ロイドさんに指導をしてもらいながら始めた体力づくり。もちろん最初は苦しいし、筋肉痛らしきものになったこともあった。そのあとに入っていた授業も眠たかった。それでも日々、少しずつ追加される体力強化メニューをこなし、眠たい授業も目をかっぴらいて頑張った。その結果は十分に出ていると思う。

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