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お披露目と婚約発表が無事に終了し、リリム王国レジスタンスメンバーとのやり取りも大きな問題にならず、日常が戻ってきた。さすがに前と同じ、というわけではないが、比較的落ち着いた日々と言える。

「レイフ様、これは?」

「結婚式を挙げるだろう? 来年とはいえ、今からドレスを注文しなければ間に合わせないからな」

アルと一緒に部屋でのんびりと過ごしていると、レイフ様が部屋にやってきた。いくつかのイメージを用意しているようで、デザインの描かれた紙を持っている。

「オーダーメイドだから、早めに言うと余裕がある。社交界シーズンになるとそちらの方で忙しくなるのもあるしな」

「帝都にあるブティックは、シーズンになると大忙しだと、先日聞きました」

「ああ、あの侯爵家のご婦人か」

「はい、彼女です」

皇女の身分が公になって以降、初めてできた友人がいるのだが、その友人がブティックに行くときは覚悟したほうが良い、と言いていたのだ。彼女は帝国内の侯爵家の一つ、ガードナー侯爵家のご婦人で、名前はリル。

「良き友人に恵まれたと思います」

リルは社交界に変に染まっていないので、柔軟な考えを持っているし、非常に常識的。私が皇女として参加したお茶会などのサロンではリル以外に常識的なご令嬢は見つからなかった。みんな良くも悪くも、特権階級の思考が凝り固まっていた。お嬢様と呼ばれることに慣れている人たちばかりだったのだ。

リル自身も元は伯爵家のご令嬢だったそうだが、彼女の家の方針が貴族の家の常識とは違っていたのもあったのだろう。どこに出ても一人で生きていける女性になれるように、と厳しく育てられたと聞いた。

「リルのガードナー侯爵との出会いは、未だにすごいと思います」

「あぁ、彼もなかなか頑張ったと思うよ」

「ご存じなのですか?」

「侯爵とは、アカデミー時代の友人だ」

一人立ちする予定だったリルは、皇宮の女官になろうと試験を受け、無事に合格。しばらく女官をしていたが、ある日出会ったガードナー侯爵に見初められ、求婚されるようになったらしい。でも、リルが言うには仕事にしか興味がなかったから、その求婚は当時は迷惑でしかなったのだとか。

「リルも、最後は熱意に負けたって言ってました」

「俺も、彼には押して押して、押し切った、と清々しい笑顔で報告されたよ」

結局、侯爵の熱意についに折れたリルは、求婚を受け入れて女官を辞職。今では侯爵とともにガードナー家を守っている。これぞ強い女性、という感じがして私は好きだ。性格が男前で、容姿とのギャップがまたいい、と侯爵に会った時に惚気られたのも覚えている。そのあとは延々とリルの良さを一人で語っていたのを、彼女にドン引きされていたのが面白かった。

「ガードナー侯爵は、面白い方です。リルもなんだかんだ言って、彼のことを愛していますし」

「まあ、貴族社会で一番のおしどり夫婦だと言われているからな」

「素敵ですね」

二人で支え合っている姿は、まさしく理想の夫婦だ。侯爵の愛情表現がかなり行き過ぎているようにも感じるけど、リルはそれに対して普通に「気持ち悪いからやめて」と返すなど、彼の理性の維持に貢献している。彼女も行き過ぎていない愛情表現には素直に受け入れて返しているので、二人の関係性はとてもいい。

「あの二人、別名は面白夫婦だって知っていたか?」

「面白……夫婦ですか? 一体なぜそんな……?」

「仲がいいけど、二人のやり取りは周囲を笑わせに来てるからな。夫婦漫才を社交界でも遠慮なく繰り広げているのもあって、面白夫婦だと言われていることもある」

自分たちは隠すものがない、と素の自分で立つのが二人。それゆえに、彼らには仲のいい貴族もいれば、そうでもない貴族もいる。それでも自信を貫き通すところを見ると、強い人たちだ。

「さて、そんな侯爵夫人からもアドバイスをもらったんだ。見てくれるか?」

「はい」

センスもいいリルにデザインを見てもらったと言うレイフ様から、デザイン画を手渡される。一枚一枚、しっかりと見つめていき、細かな装飾やそれに合わせたアクセサリーなども備考欄にあるので、そちらも確認する。

「これ……」

「それは一番、このデザインの中でシンプルな品だ。その代わり、一つひとつを一級品で作られるようにすることで、派手ではなくとも上品なイメージが持てると思う」

欄外に仔細に記された、ドレスの生地や宝飾品などの指定。皇族の勉強を始めた時、女性に必要なドレスの知識で習ったものが含まれている。皇女たるもの、常に目利きが問われる。その目利きのために覚えたのだが、こんなところでそれらの名前を見るとは思わなかった。

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