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婚約者が正式に発表されたとはいえ、私の立場は非常に魅力的だ。お父さまがあれだけ説明しても、ただの作り話だからとレイフ様の立ち位置に自分たちの家が収まりたい、と考える貴族もいるはず。それは他国にも言えることである。

今日は招待されていないがリリム王国よりも発展しているし、帝国全体の治安もいい。それに加えて、国力も強いので、友好国も多い。そんな付加価値がたくさんつけられた皇女を、自国の妃にと考える他国の王族たちだっている。

それを牽制するのに、わざと人を寄せ付けないように私と踊ってくれたのだ。そうすれば踊る人数は減るし、その壁を乗り越える勇気がある男性しか寄ってこなくなる。たとえ、他国の王族と言えど、兄さまたちの建築した巨大な壁を乗り越えるのは至難の業でもある。何せ、兄さまたちにも気に入られなければならないから。

「ユーニス、こちらへ」

「はい、お父さま」

結局、イアン兄さまとダンスを終えてすぐに、お父さまに呼ばれて皇族の席へ移動することになった。主要な友好国に私たちを紹介する目的があるようだ。レイフ様も一緒に呼ばれている。

「この度は新たな皇女殿下の誕生、誠におめでとうございます」

「本当に、エルシー様に似ておいでですね」

ソランタール王国の女王陛下と王配殿下がご挨拶に来ていた。事前に政治関係の先生から習っていた通り、ソランタールは代々、女王が治める国。その配偶者となる男性は王配と呼ばれ、女王の補佐となるようだ。

「わたくしも、エルシー様とは同じアカデミーで学ばせていただきました。その時に仲良くしていただいたのですが……ユーニス皇女は、本当によく似ていますね」

私の母は、ソランタール王国にあるアカデミーへ留学していたとは聞いていた。しかし当代ソランタール王国女王陛下は、母と友人関係にあったのを初めて知った。母は、留学中もアルムテア帝国の皇女としての立場を考えて行動する人だったとも、留学の話をしてくれた先生からは聞いている。

「母に似ていると言っていただけて、とても嬉しいです」

当たり障りのない会話を進め、その場をやり過ごす。ソランタール王国はアルムテア帝国とは友好関係にあるので、あまり気を張る必要がない。純粋に懐かしんでいる女王陛下の姿を見ると、容姿がそっくりなのだろう。

もう母の顔は肖像画でしか見ることはできない。私の記憶に残っている母は、すでに痩せ細っていて頬もこけている姿だ。だから、私と母が似ているのは髪や瞳だけだと思っていた。

「それに、レイフ公爵との婚約もおめでとうございます。お二人の婚約に至るまでのお話、わたくしはとても感動しましたわ。そんな恋愛小説のようなことが、現実でも起こるだなんて……夢があって素敵で……ねえ、あなた」

「ええ、本当に」

仲睦まじい姿の女王陛下と王配殿下に、自然とこちらも笑みがこぼれる。私もレイフ様とこんな関係性になれたらいいな、なんて思ってしまう。

「ユーニス皇女。ぜひ、ソランタールへも遊びにいらしてください。わたくしたちは歓迎いたしますわ」

「とても嬉しいです、女王陛下。私はまだ外に詳しくありませんので、行かせていただきたく存じます」

「うふふ、待ってるわね」

「はい!」

優しい笑顔の女王陛下に、ソランタール王国が素敵な国だろう、というのは察することができる。いつか、行ける日が来るなら、一番に行ってみたい。授業ではソランタール王国は水の都だと習った。美しい水上都市で、発展している王国。多くは水路で移動になるらしく、船での移動が主らしい。

「ユーニス、疲れてないか」

「はい、大丈夫です。レイフ様は、大丈夫ですか?」

「ああ、なかなかに視線がすごいけどな」

「視線……?」

「嫉妬の視線、ね」

「レ、レイフ様!」

こういう場には馴れているレイフ様に気遣われて、今は皇族席のある後ろのバルコニーの方へ移動しているのだが。その都度、しんどくないかと確認してくれる彼は、苦笑いで視線について話をする。

皇女という身分は国内の貴族にとってはそれだけで価値がある。でも、そこへそれ以外の価値も付随してしまえば、その価値は国内にとどまらない。レイフ様の立場を羨む者の視線が多いようだ。

「ああ、俺の立場という意味でも嫉妬の視線はあるが……どちらかというと、そっちよりもユーニスが美人だからという意味の方が強い」

「ひあっ!」

可愛いとか美人とか、兄さまやお父さま、お母さまも言ってくれるけれど、そのあたりに関しては他者の評価を受け入れるのが難しい。今までそんなことを言われる環境ではなかったのもあるので、自分の顔立ちの評価がいいのは理解できない。

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