上 下
20 / 36

20

しおりを挟む
あとは若い二人で、とまるでお見合いのような言葉を残して一時退室したお父さまたちは、ニコニコしていて。私の本当の家族のように温かだった。

「ユーニス」

「本当は、こんな形で知らせるつもりではなかったんですが……その。ずっと待たせてしまってすみませんでした」

「いや、いいんだ。聞かせてくれるか?」

「はい……」

二人きりと言ってもアルは同じ場所にいるが、アルはアルでのんびり過ごしていた。そんな静かな空間で、私は自分の思いを溢す。こんな感情も全て隠さないといけないと思っていたけれど、彼だけは隠さなくていいと言ってくれた。彼だけが、私を見つけてくれた。

「嬉しいよ」

きつく抱きしめられて、息が止まりそうだ。でもその苦しさは、私にとって嫌なものじゃない。まるで何かを確認するかのようなそれに、ひどく安心を覚える。

「陛下たちもそろそろ、待ちくたびれているだろう」

「そうですね、きっと首を長くして待っています」

ふふ、と笑みをこぼすと彼も軽く噴き出していて。私たちの周囲を、アルも飛び回っていて、なんだか祝福されているように感じた。

「丸く収まったようで何より。ここからは私が、引き継ぐことになった。イーデンは騎士団に、シリルは研究所へ戻った。父上と母上も対策を考えるらしい。俺はここで出た案を持って二人の対策に追加する役目だな」

「イアン……」

「レイフからそう呼ばれるのは久しいな。学院ぶりか?」

「茶化すな……」

本当に仲のいい関係だったようで、互いの名前を呼び捨てにしあうイアン兄さまとレイフ様。同い年だと言う二人は、帝国内にある帝立学院でもずっと一緒だったと、懐かしそうに兄さまが言った。

「ユーニスは、今回の発表に何か思うこととかはないのか?」

いきなり兄が三人、というか皇帝一家が家族になって自分の皇女になることについて思うことがないわけではない。急に兄と呼ぶのに慣れなくても、無理にでも呼ばないとどこかでボロが出る。そう思って違和感なく呼びなれるように兄さま、お父さま、お母さまと意識をして呼んでいるわけであるが。

「私はまだ、この国の貴族のことをよく知らない。そんな私が言うのも可笑しいかとは思いますが……一般的に自身の利益を優先する者は多くいます。それは貴賤関係なく、あるはずです。だから、このまま私の立場のお披露目と同時に婚約発表をするのであれば、私の背景を利用すればいいと思います」

「利用?」

不思議そうに首をかしげる二人に、私は覚束ない説明ながらも伝えた。実話を脚色して伝えれば、そこまで反発は招かないはずだと。私はリリム王国の辺境伯爵領で育ったが、あまりいいとは言えない環境で育った。それを偶然そちらの方へ魔物の討伐の関係で出向いていた二人に出会う。そしてここに来るに至った経緯を言えば、まあ矛先は変えられるはず。

「なるほど、責任の所在を王国へ投げるわけか」

「はい、王国は十年以上前とはいえ、他国のそれも同盟国から皇女が嫁いできているのに、何もしていない。それは、大きな過失であると私は考えます。通常であれば、少しは気にかけるはずです。何せ、嫁いできているのは他国の皇女なのですから」

同盟国と言えど、アルムテア帝国とリリム王国の関係は仲良しというわけではない。それはリリム王国にいた時から……あの狭い世界にいた時からわかっていた。戦争を起こしたいわけじゃないけど、私の存在を忘れ去り、何もしなかったリリム王国は私がアルムテア帝国にその身を引き取られても文句は言えない。だって、何の支援もしなかったんだから。

「我が妹は、なかなかに賢いようだな」

「母に、たくさんのことを教わりました。その中には少ない情報でも、状況を把握する術が含まれていましたので……私は、教わったことを忘れたくない」

「……ユーニス」

母との記憶は、本当に数少ない。でもその一つひとつは、私の大切なものだ。忘れたくない、一つも取りこぼしたくない。その思い出は、私と母の大切な時間。

「ユーニスの言う通り、王国側へその責任を押し付けると言うのもいい案だ。しかし……国家間の諍いは免れない。それはどうするつもりなんだ」

「何か、国家間でいい材料となる取引があれば、それで代替するのがいいかと。私はリリム王国とアルムテア帝国の間で何か交易などがあるのかは、さすがにわかりません。なので、そのあたりを使うのも手ではあると。あとは……リリム王国内の情勢を考えると……」

伯爵家の屋敷の側からほとんど出たことがないが、遠き思い出の母との外出で、昔の事ではあるけれど一応は領地の景色が残っている。その時に感じた、悲しい気持ちも。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

婚約破棄されましたが、天使の祝福で幸せになります

 (笑)
恋愛
婚約破棄により孤独に落ち込む令嬢エクセルは、運命的に出会った謎めいた少女リリーを保護することに。しかし、リリーはただの少女ではなく、彼女と共に過ごす日々はエクセルに新たな力と希望をもたらす。失意を乗り越え、エクセルが祝福に満ちた未来へと歩む姿を描く心温まる物語。

裏切者には神罰を

夜桜
恋愛
 幸せな生活は途端に終わりを告げた。  辺境伯令嬢フィリス・クラインは毒殺、暗殺、撲殺、絞殺、刺殺――あらゆる方法で婚約者の伯爵ハンスから命を狙われた。  けれど、フィリスは全てをある能力で神回避していた。  あまりの殺意に復讐を決め、ハンスを逆に地獄へ送る。

夫に離縁が切り出せません

えんどう
恋愛
 初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。  妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。

生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。 物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。 週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。 当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。 家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。 でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。 家族の中心は姉だから。 決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。 ………… 処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。 本編完結。 番外編数話続きます。 続編(2章) 『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。 そちらもよろしくお願いします。

英雄王と鳥籠の中の姫君

坂合奏
恋愛
無慈悲で残酷なまでの英雄王と 今日私は結婚する グランドール王国の姫であるリーリエは、幼い頃に大量の奴隷を母親サーシャと共に逃がした罪から、王宮で虐待を受けていた。 とある日、アダブランカ王国を圧政から救った英雄王であるクノリス王からリーリエを嫁によこさなければ、戦争を仕掛けるという手紙がグランドール王国の王宮に届き、リーリエはアダブランカ王国に嫁入りすることになった。 しかし、クノリスはグランドール王国でリーリエ達が逃がした奴隷の一人で……

婚約破棄されたら兄のように慕っていた家庭教師に本気で口説かれはじめました

鳥花風星
恋愛
「他に一生涯かけて幸せにしたい人ができた。申し訳ないがローズ、君との婚約を取りやめさせてほしい」 十歳の頃に君のことが気に入ったからと一方的に婚約をせがまれたローズは、学園生活を送っていたとある日その婚約者であるケイロンに突然婚約解消を言い渡される。 悲しみに暮れるローズだったが、幼い頃から魔法の家庭教師をしてくれている兄のような存在のベルギアから猛烈アプローチが始まった!? 「ずっと諦めていたけれど、婚約解消になったならもう遠慮はしないよ。今は俺のことを兄のように思っているかもしれないしケイロンのことで頭がいっぱいかもしれないけれど、そんなこと忘れてしまうくらい君を大切にするし幸せにする」 ローズを一途に思い続けるベルギアの熱い思いが溢れたハッピーエンドな物語。

全てを諦めた令嬢の幸福

セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。 諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。 ※途中シリアスな話もあります。

処理中です...