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53 -イザベル・ダンフォード‐

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「イザベル、べインズ嬢が消えた」

「……地下牢獄で、消えたのですか……?」

「ああ、といっても消えたというのはそういう意味ではない。言葉の通り、身体が透けて消えた。わかりやすい例えで言うと……泡となって消えた、という感じか」

ノアと一緒に誘拐されたあの事件、首謀者が簡単にわかったのでそのことを断罪しに行った、というランドルフ様。この世界に転生して初めてあんな怖い目に遭った。転生したと気づいたのは幼いころ、それも悪役令嬢だと気づいたのも同じくらい。

「そう、ですか……」

「ああ、だが嘘ではないからな」

「それはわかっております。それだけ目撃証言があるとなると、信じざるを得ないですから……」

そして、いつヒロインが現れるのかとビクビクし、悪役令嬢にはならないと必死で頑張り……と自分の行動を振り返る。ランドルフ様のべインズさんが消えた、というその話も、何とはなしに想像がついてしまう。

逃げたという意味ではなく、存在が消滅してしまったという意味で。

「だが、立場上、危険が付きまとうのも事実だ。気を付けるようにしよう」

「はい、ランドルフ様」

だいたい、転生した悪役令嬢もしくはヒロイン、どちらかが消えてしまうのは断罪された時だった。こんな設定の漫画とか小説、大好きだったもの。自分がそうなったら話は別だけど。

「レール、じゃないのね、やっぱり」

「どうした、イザベル?」

「い、いえ! なにも……」

私たちは敷かれたレールの上を歩いているわけじゃない、この世界は私の知っている世界に似ているだけの現実なのだと、そう確信が持てた。

べインズさんが消滅してしまったことの答えにはならないけど、それだけは言える。ここが私たちにとっての現実であるということは。

「とにかく、お前が無事でよかった。イザベル」

「ご心配を、おかけしました」

「いや、いいんだ。危険が全くないわけじゃないんだ、これから先も同じようなことが起こるかもしれない。それを防ぐのは俺たちの役目だからな」

「ランドルフ様……」

彼だって。本来であればヒロインであるべインズさんとくっつく一人だった。でも今を生きている私たちの関係性はとても良好だ。

自分で言うのも恥ずかしいけれど、愛されていると感じられる。これが、もしもレールでも敷かれていて、その上を歩いていたのだとすれば、私たちの関係性は破滅していただろうから。

「さあ、着いたよ。また、明日」

「はい、今日もありがとうございました」

毎日、送り迎えをしてくれるランドルフ様。彼にエスコートされながら屋敷へ入り、彼にお礼を伝える。これから先も、ずっと、この幸せが続けばいいと思う。

私たちは現実を生きる人間だから、そう思っても仕方がないと思うの。

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